弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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「遺産額も少なく、相続人同士の仲も良好だけど、相続トラブルなんて起こるのだろうか。」
「相続が始まって不安。相続トラブルは回避したい。」
「相続をスムーズに進めたい。どんなトラブルが想定されるのか知っておきたい。」
相続に対してこのような思いを抱えていませんか。
遺産相続トラブルは事前に傾向と対策を知っておくことで、トラブルを回避できたり、深刻化を防げる可能性が高まります。
本記事ではトラブルが起きやすい10のケースについて、その予防策と解決方法を紹介していきます。
遺産相続トラブルが起こるのはいくつか共通の特徴があるため、自分がそのケースに該当する場合はしっかりと事例と対処法を理解しておきましょう。
トラブルを防ぐ最も効果的な方法は多くの場合、被相続人が生前に適切な遺言書を残すことです。まだそのタイミングに間に合うならベストですが、既に相続が始まっている場合でも対策が間に合うケースもあります。
そこで本記事では次のように内容をまとめました。
本記事のポイント |
なぜ遺産相続トラブルは起きるのか 遺産相続トラブルが起きやすい10のケース|事例と予防策&解決方法 遺産相続トラブルが起きたら弁護士に相談 |
この記事を読めばトラブルの傾向と対策を知ることができ、適切な対応をとることでよりスムーズな遺産相続を行えるようになります。
是非最後まで読んでいってくださいね。
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相続のトラブルは誰にでも起きる可能性があります。
相続のトラブルは年々増加傾向にあり、司法統計情報によると2020年度では遺産分割事件だけでも11,303件もの案件が裁判所に申し立てられています。
さらに、調停が成立した5,807件のうち約35%は遺産価額が1,000万円という集計が出ています。
出典:司法統計情報 | 裁判所 – Courts in Japan
この2つのデータから、遺産相続のトラブルは遺産額にかかわらず、誰にでも起こる可能性があるということが読み取れますね。
なぜ誰も望んでいないのに遺産相続トラブルは起きるのでしょうか。
それは、相続はいざ始まってみると様々な複雑な要素が絡んでおり、多くのケースで単純に等分に分けて終わり、という訳にはいかないからです。
また、進めていくうちに予測できなかった事態が起きることも少なくありません。
そのようなトラブルを未然に防いだり、被害を最小限に留めるためには、トラブルの傾向を知って対策を講じることが大切です。
遺産相続トラブルは起きやすいケースがいくつかあります。そのケースに当てはまる場合はトラブルに巻き込まれる可能性が高くなるので注意しましょう。
そこでこの章では遺産相続トラブルが起きやすい10のケースについて、具体的事例と予防策・解決方法を紹介していきます。
遺産相続トラブルが起こりやすい10のケース |
相続人同士の仲が悪い 他の相続人と疎遠である 遺産に不動産が含まれている 遺産が自宅のみで住んでいる相続人がいる 不公平な遺言書が残されていた 介護していた相続人がいる 生前贈与を受けていた相続人がいる 被相続人の財産管理をしている相続人がいる 相続放棄をする 相続税が発生する |
相続人同士が原因のケースと準備・知識不足が原因のケースで分けて紹介していくので、しっかりと事例と対処法を学んでいってくださいね。
あてはまる項目がある場合はリンクから移動することができます。
まずは相続人同士でトラブルが起こる可能性のあるケースを8つ紹介していきます。
【相続人同士でトラブルが起きやすい8つのケース】
相続人同士の仲が悪い 他の相続人と疎遠である 遺産に不動産が含まれている 遺産が自宅のみで住んでいる相続人がいる 不公平な遺言書が残されていた 介護していた相続人がいる 生前贈与を受けていた相続人がいる 被相続人の財産管理をしている相続人がいる |
遺産相続で起こるトラブルの大半はこの相続人同士の揉め事が占めています。複数の相続人で遺産相続する人は必ずチェックするようにしてくださいね。
相続人同士が原因でトラブルが起きると、結果的に遺産分割が進みません。遺産分割が進まないと次のような事態を招いてしまいます。
【最悪の場合どうなるか?】
名義変更や預貯金の解約ができない 相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わない 遺産分割を放置しているうちに、相続人の誰かが亡くなってしまうと、新たな相続人が現れるのでさらに遺産分割の成立が難しくなる |
上記のようにならないよう、トラブルの防止・解決に向けて取り組んでいきましょう。
相続人同士の仲が悪いと、遺産分割協議が円滑に進まないといった事態を引き起こします。
遺産分割協議は全員が同意する必要があり、一人でも反対する人や呼びかけに一切応じない人がいると協議を終わらせることができません。
具体的には次のようなトラブルがよく見られます。
【相続人の仲が悪いことにより起こるトラブル事例】
連絡をしても無視されてしまう 絶縁していて顔を合わせたくない 相続人同士の主張が折り合わず遺産分割協議がまとまらない 相続人の一人が「長男だから自分が遺産を全て相続する」など理不尽な要求をしてくる |
■トラブル予防策:【生前】遺言書を残してもらう
被相続人となる人がまだ生きている場合は遺言書を残してもらうことが有効な方法です。遺産分割がスムーズに進むように、誰に何を渡すかを明記してもらうようにしましょう。
■(万が一起きてしまった場合の)解決方法①:手紙でのやりとりを試みる
遺産分割協議は全員で行わなければいけませんが、必ずしも直接集まる必要はありません。遺産分割の内容に不服がないようであれば、遺産分割協議書を郵送して押印してもらいましょう。
遺産の分け方が既に決まっており、書面の手続きのみの場合に効果的です。
■解決方法②:窓口となる人を立てる
他の相続人と顔を合わせたくない場合は、弁護士や司法書士を遺産分割協議の窓口に立てることも検討しましょう。
一般的に分け方で揉めている場合は代理人として弁護士に、分け方が決まっている場合は司法書士に依頼します。
■解決方法③:遺産分割調停を起こす
遺産分割協議の呼びかけに全く応じない人がいる場合は、遺産分割調停を申し立てる方法もあります。
遺産分割調停を起こすと裁判所から相手に呼び出し状が届くので、相手が話し合いに参加する可能性が高まります。
他の相続人と疎遠である場合、遺産分割を始めようと思っても連絡がつかないことがあります。
遺産分割協議は全員で行う必要があり、遺産分割協議書には全員分の押印がないと無効になってしまいます。連絡がとれないという理由で遺産分割から除外することはできません。
【疎遠であることにより起こるトラブル事例】
他の相続人の連絡先を知らず、生きているかどうかも分からないので遺産分割協議を始められない |
相続人の連絡がとれないということは意外に少なくありません。具体的には次のような関係性で起こります。
【連絡がつきにくいケース】
◎絶縁中の身内 ◎被相続人の配偶者 × 兄弟または甥姪 ◎被相続人の現在の家族 × 前妻の子ども |
■トラブル予防策:【生前】被相続人に連絡先を聞き出す
被相続人になる人がまだ生きている場合は、誰が相続人になるかを確認して被相続人になる人から連絡先を聞き出しておきましょう。
その前にまずは誰が相続人になるか把握する必要があります。下記相続人の範囲と順位を参考にして、該当者をピックアップしてみてください。
【法定相続人の範囲】
① 配偶者は常に相続人 ② 子どもがいる場合は子ども、すでに他界している場合は孫 ③ ②の該当者がいない場合は親。すでに他界している場合は祖父母 ④ ③の該当者もいない場合は兄弟。すでに他界している場合は甥姪 |
■解決方法:【死後】戸籍の附票をたどる
いざ相続が始まってから連絡先の分からない相続人がいた場合は、次の手順で相手に連絡をとりましょう。
【相手に連絡をとる手順】
①被相続人の戸籍から知りたい相手の本籍地を確認 ②相手の本籍地の役所から戸籍の附票を入手(郵送可) ③戸籍の附票に載っている住所に手紙を送付 |
「戸籍の附票」とはその人の住所移転履歴が記載されたものなので、取り寄せれば現住所を知ることができます。
どうしても連絡がとれない場合… 戸籍の附票を取り寄せても現住所に住んでいなかったり、海外に住んでいたりする場合は、不在者財産管理人を立てて遺産分割協議を進めましょう。不在者財産管理人の利用申し込み手続きは相手の住所を管轄する家庭裁判所で行えます。 |
遺産に不動産が含まれていると遺産分割で揉めやすい傾向があります。
不動産は金銭のように等分に割って分けることができません。公平に分けるのが難しいため次のようなトラブルを引き起こしてしまいます。
【遺産に不動産があることにより起こるトラブル事例】
価値のある不動産なら取り合いになる 売って現金化したい人とそのまま残して活用したい人とで意見が割れる 代償金の金額を出すための不動産の評価方法で揉める 分割方法を先延ばしにした結果、相続人が増えてしまい収拾がつかなくなる 共有状態にしたものの、活用方法で揉める |
このように不動産の相続は多種多様なトラブルの種になります。全相続件数のうち不動産を含む相続は半数近くにのぼるため、多くの人が直面する問題です。
■トラブル予防策:【生前】遺言を残してもらう
被相続人が生前のうちに不動産をどうするか話し合うか遺言を残してもらうようにしましょう。売却してほしいのか残してほしいのかの意思表示や、特定の誰かに渡したい場合はその旨を記載してもらってください。
■解決方法:不動産の分割方法の選択肢を知る
不動産を複数の相続人で分けるにはいくつか方法があります。相続人全員がその選択肢を知り話し合うことで円満な解決を目指しましょう。
相続の不動産分割で代表的な方法が次の4つです。
■相続でおすすめの土地分割方法
現物分割 | 換価分割 |
代償分割 | 共有分割 |
現物分割 | 長男は自宅、次男は現金、三男は車をそれぞれ相続する、一つの土地を複数の土地に分けて取得する(100㎡の土地を長男と次男で50㎡ずつに分けて取得する等)というように、相続財産を現物のまま各相続人に分配する 相続財産が複数ある場合におすすめ |
換価分割 | 「実家を3000万円で売却し、長男と次男で1500万円ずつ受け取る」というように、相続財産を売却し、売却代金を各相続人で分ける 不動産を活用していない場合におすすめ |
代償分割 | 「長男が自宅(評価額3000万円)を取得し、次男に1500万円支払う」といように、相続人の一人が不動産を取得して、代わりに他の相続人に金銭等を支払う 相続人の一人が不動産を引き継ぎたい場合におすすめ |
共有分割 | 土地を長男と次男で持分1/2ずつとして共有するというように、相続人が数人で一つの不動産を共有する 不動産を現状のままにしておきたい場合 |
遺産が被相続人が住んでいた家しか残されておらず、そこにまだ相続人の誰かが住んでいるケースではトラブルが起こりやすくなります。
不動産を複数の相続人で分ける場合は売却して現金で分ける方法がありますが、まだ住んでいる人がいる場合はそうもいきません。
この場合代償分割(※)で遺産分割を行うのが一般的ですが、それには次のようなトラブルが懸念されます。
※代償分割…相続人の一人が不動産を取得する代わりに、他の相続人に対して相応の金銭等を支払う
【遺産が実家のみ&相続人が住んでいることにより起こるトラブル事例】
被相続人が亡くなり遺産は自宅のみだが、自宅には配偶者が引き続き住み続けたいと思っている。 自宅を相続する代わりに同じく相続人である被相続人の兄弟に代償金を支払わなければいけないが、現金を用意できない |
■トラブル予防策:【生前】遺言を残してもらう
残された人が住む家を奪われないようにするためには、被相続人が生前のうちに遺言書で「自宅(※)を〇〇に譲り渡す」と残しておくことが最善です。(※正式には登記簿謄本通りに正確に記入しなければならない)
その場合でも遺留分を請求される可能性がありますが、それでも法定相続の半分程度の金額で済みます。被相続人の兄弟にはそもそも遺留分の権利はありません。
※遺留分…配偶者・直系尊属(親など)・直系卑属(子など)に法律上保障されている最低限度の財産。
■解決方法①:分割払いを相談する
どうしても自宅を離れたくなくて代償金もすぐに用意できない場合、代償金の分割払いを他の相続人に相談してみましょう。ただし支払いの滞納には注意が必要です。
■解決方法②:現金以外の資産を交付する
代償金の現金が用意できないなら株式や車など他の資産での交付でもいいか相談してみましょう。
■解決方法③:(一定の場合)配偶者居住権を主張する
配偶者居住権とは被相続人の配偶者がそれまで住んでいた建物に引き続き無償で居住できる権利です。これは、令和2年4月1日以降に開始した相続の場合に、配偶者が主張できる権利です。
被相続人名義の建物に住んでいた人が被相続人の配偶者であり、配偶者が相続開始後もその建物に居住することを希望する場合、配偶者が遺産分割協議の中で配偶者居住権を主張することで、引き続き建物に住み続けることができます。
この場合、配偶者が所有権とは異なる居住権を取得し、他の相続人が配偶者居住権付きの建物の所有権を取得するので、配偶者が建物の代償金として他の相続人に金銭を支払う必要がなくなります。配偶者居住権は、どんな場合でも主張できるわけではないので、気になった場合は弁護士に相談してみましょう。
内容の偏った遺言書が残されていた場合もトラブルが起きる恐れがあります。
遺言書の内容は法定相続より優先されます。仮に遺言で「3人の息子のうち長男に遺産の半分を渡す」と書かれていればその通りに執行しなければいけません。
それゆえ不公平な遺言書は残された相続人の関係性に亀裂を生みやすいのです。具体的には次のような事例が挙げられるでしょう。
【不公平な遺言書が残されていたことにより起こるトラブル事例】
法定相続分より少ない額になった人と多くもらえる相続人との仲が険悪になる 遺言書を偽造した疑いで揉める 遺言書は様式に従っていないため無効だと主張してくる相続人がいる |
本来トラブルを予防するために作成する遺言書がトラブルの火種になっては元も子もありませんね。
■トラブル予防策①:【生前】トラブルを起こさない遺言書を作ってもらう
重要なのは被相続人となる人にトラブルを起こさない遺言書を残してもらうことです。
相続人になる立場から被相続人の遺言書作成には口を挟みにくいですが、資料を渡したり、無効となってしまった事例などを伝えたりして、正しく作成できるようサポートしてみてください。
具体的には以下のポイントを守って作成してもらうようにしましょう。
【揉めない遺言書の作り方】
①判断能力があるうちに作成する ②自筆証書遺言ではなく公正証書遺言にする <以下自筆証書遺言の場合> ③遺言書の様式を守る(参考:03 遺言書の様式等についての注意事項) ④遺留分に配慮する ⑤あいまいな表現は避ける(「自宅」ではなく登記簿謄本通りに正確に記入する) ⑥信頼できる遺言執行者を指定する ⑦法務局で保管してもらう |
■トラブル予防策②:【死後】なるべく早く遺言書を探して検認に出す
被相続人が亡くなったらできるだけ早く遺言書を探し出して検認に出しましょう。そうすることで遺言書隠しや偽造を防ぎます。
遺言書の検認とは… 家庭裁判所にて遺言書の内容を明らかにすること。 相続人に遺言の存在と内容を知らせることと、偽造・変造を防止することを目的とした手続き。遺言書を発見した人または保管している人は、被相続人が亡くなった後すぐに裁判所に提出しなければならない。 |
■解決方法①:遺言書の有効性が疑われるなら→遺言無効確認の訴訟を起こす
遺言書に不備があると思われるときは「遺言無効確認」という訴訟を起こすことができます。
次の項目にあてはまる遺言書は効力がないと判断され、その場合法定相続通りの遺産分割をすることになります。
【遺言書が無効になるケース】
<自筆証書遺言の場合> 自筆ではない 作成日の記載がない、または特定できない 署名・押印がない 内容があいまい 共同で作成されている 訂正方法が間違っている <公正証書遺言の場合> 証人になれない人が立ち会っていた <共通> 認知症などで遺言能力のない人が作成している |
■解決方法②:遺言の内容が遺留分に満たないとき→遺留分損害額請求をする
遺言の内容が偏っており、受け取る遺産の額が少ないまたは全く受け取れない場合は、遺留分損害額請求で侵害された額の支払いを請求することができます。
※遺留分…配偶者・直系尊属(親など)・直系卑属(子など)に法律上保障されている最低限度の財産
遺留分が受け取れる人とその割合は下表のとおりです。
法定相続人の 組み合わせ |
遺産額に対する遺留分の割合 |
||
配偶者 |
子ども(直系卑属) |
親(直系尊属) |
|
配偶者のみ |
1/2 |
ー |
ー |
配偶者と子ども |
1/4 |
1/4 |
ー |
配偶者と親 |
2/6 |
ー |
1/6 |
子どものみ |
ー |
1/2 |
ー |
親のみ |
ー |
ー |
1/3 |
被相続人を生前介護していた相続人がいると遺産分割でトラブルが起こる傾向が見られます。
介護をしていた相続人は法定相続分よりも多めに遺産を受け取るべきという制度がありますが(寄与分)、その金額について言い分が異なってしまいなかなか決めることができません。
身内の介護というのは対価を算出しづらい面があるため、次のようなトラブルにつながります。
【介護をしていた相続人がいることにより起こるトラブル事例】
介護をしていた相続人と他の相続人の間で寄与分の額で揉める 介護をしていた相続人は同居をしていたため、他の相続人が「寄与分から家賃や生活費を差し引くべきだ」と主張する 被相続人の長男の妻が介護をしていたが、他の相続人が「長男の妻は法定相続人ではないため遺産を渡さない」と主張する |
■トラブル予防策①:【生前】遺言を残す
他のトラブル同様、被相続人が生前に遺言で「介護をしていた者に〇〇を譲り渡す」と残しておくことがベストです。
さらに言うなら、介護が始まる前にその対価についてあらかじめ他の相続人と話し合っておくとスムーズです。
■トラブル予防策②:【死後】しっかり話し合いをする
生前の対策ができなかった場合、相続開始後まずはしっかり話し合うことが大切です。
介護をしていた人は具体的にどんな介護をしていたか他の相続人に説明して理解を求めましょう。介護を経験したことのない人はその壮絶さがいまひとつイメージできていません。「介護のために3年間休職した」「1日〇〇時間拘束された」など、具体的なスケジュールやかかった費用などを分かってもらう必要があります。
その上で介護日数×日当また時給換算で妥当な寄与額を算出してみてください。
■解決方法:「寄与分を定める調停」を申し立てる
話し合いでもまとまらずトラブルに発展してしまった場合は、「寄与分を定める調停」を起こして法的解決に頼る方法も検討しましょう。
尚、相続人ではない人が介護をしていたケースでは「特別の寄与」が認められ、特別寄与料を請求できるケースもあります。
被相続人から生前に贈与を受けていた相続人がいる場合、遺産分割協議でトラブルの原因となりやすいでしょう。
生前に高額な贈与があった場合は「特別受益」を受けたとしてその分を差し引いて遺産分割すべきです。しかし実際はどれが特別受益に該当するか線引きが難しいため、その判断を巡って争いを引き起こしかねません。
例えば次のようなケースで揉めることが想定されます。
【生前贈与を受けていたことにより起こるトラブル事例】
相続人である息子たちの中で、一人だけ学費が高かった人がいる 贈与が疑われるのに、「贈与ではなく買い取った」と贈与を認めない人がいる 相続人の一人が特別受益を受けたが、相続財産に持ち戻す資産を保有していないため戻せない |
■トラブル予防策:【生前】遺言を残してもらう
他のトラブル同様、生前に被相続人を交えて話し合う・遺言書を残してもらう他予防策はありません。
特別受益に該当するものは、被相続人が遺言書の中で持ち戻しの免除を行う意思表示を行えば相続財産に戻す必要はないです。つまり遺言で意思表示することで特別受益を発生させないようにすることが可能です。
■解決方法:遺産分割調停・審判で法的解決を試みる
どうしても言い争いが解決できない場合は、最終的に遺産分割調停を申し立ててその中で解決を目指します。
特別受益が成立するかどうかは一般人では判断が難しいので、法的見解で結論を出してもらうと双方納得ができるでしょう。
相続人の一人が被相続人の財産を管理しているのもトラブルの元です。
管理をしている相続人が財産を使い込んでいたという事例が少なからず起こっており、他の相続人も疑念を持ちやすくなってしまうのです。
他の相続人は被相続人の財産状況を知らされていないため、管理をしている相続人が示す相続財産が本当に合っているのかどうか分かりません。そこで次のようなトラブルが起こるのです。
【相続人の一人が被相続人の財産管理をしていたことにより起こるトラブル事例】
勝手に被相続人の預貯金を使い込んでいた 無断で被相続人の資産を売却していた 被相続人が他の相続人にかけていた生命保険を勝手に解約して解約返戻金を使い込んだ 被相続人の預貯金を勝手に引き出した形跡があるが、被相続人のために使ったと言い張る |
■トラブル予防策①:【生前】日頃より被相続人の財産状況を共有しておく
定期的に被相続人や財産を管理している相続人に会って、通帳等を見せてもらいましょう。なかなか言い出しにくいとは思いますが、老後資金・介護費用の援助や葬儀代の見通しを立てたいためと他の理由をつけると角が立ちません。
まとまった額の引き出しがあれば可能なら何に使ったか用途を尋ねてください。通帳の欄にメモ書きしておくとよいでしょう。
■トラブル予防策②:【生前】後見制度を活用する
被相続人が認知症などで判断能力が不十分な場合は、後見制度の利用を検討しましょう。
後見人に指定された人は財産の管理状況を裁判所に報告する義務があるので、使い込みを防止できます。
【後見制度の種類】
成年後見制度 | 認知症などで判断能力が欠けている人(被後見人)を保護・支援するための制度。 家庭裁判所が選任。 成年後見等申立て | 裁判所 |
任意後見制度 | 本人が判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になったときのために後見人を選任する。公正証書で契約を交わす。 制度の概要・手続の流れ(任意後見) | 裁判所 |
■トラブル予防策③:【死後】すぐに預貯金口座を凍結する
被相続人が亡くなったらなるべく早く金融機関にその事実を伝えましょう。
金融機関は口座の名義人が亡くなったらその口座を凍結して預貯金を引き出せないようにしますが、亡くなったら自動的に凍結されるわけではなりません。家族等から死亡の連絡が入って初めて凍結するのです。
つまり、いつまでも連絡を入れないと、キャッシュカードを持っている人が預貯金を自由に引き出せてしまうので、なるべく早く連絡して凍結してもらわなければいけません。
■解決方法:使い込みの証拠を見つけて提示する
使い込みが疑われる場合は証拠を相手に示して認めさせましょう。
【使い込みの証明に必要なもの】
預貯金 取引履歴 カルテまたは診断書 介護認定資料など |
使い込みの証拠はケースによって異なり、立証が難しい場合もあります。また、一般の人が集めるのは非常に手間がかかるので、弁護士等に依頼することも検討しましょう。
ここからは準備・知識により起こる可能性のあるトラブルを紹介していきます。
相続を進める中で知らないがゆえに起こるトラブルは、相続放棄と相続税のシーンで起こることが多いです。
相続放棄と相続税の納付をそれぞれ予定している人は是非目を通して役に立ててくださいね。
相続放棄にはいくつか決まり事が存在します。それを知らないでいると予期せぬトラブルが発生することがあります。
ここでは代表的な3つのトラブル事例の対策を見ていきましょう。
次のケースに該当する場合は相続放棄が認められない可能性があります。
【相続放棄が認められないケース】
相続財産を処分した、売った、使い込んだ、壊してしまった 相続財産の名義変更をした 被相続人の預貯金を解約・払い戻しした 遺産分割協議に参加した |
上記に当てはまる場合は、相続する意思があるとみなされ相続放棄が認められません。
■トラブル予防策:【死後】遺産には手をつけない
対策としては、とにかく相続放棄を検討している場合は相続財産には一切手をつけないようにしましょう。
■解決方法:相続放棄の申述が却下されたら、即時抗告の申し立てをする
家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしたものの、相続放棄が認められなかった場合、その通知を受け取った翌日から2週間以内に「即時抗告」の申し立てをすることができます。
ただし即時抗告で相続放棄を認めてもらうには相当な理由が必要なので、結果が覆る望みは薄いと思っておきましょう。
相続放棄できる期間が過ぎてしまうと原則相続放棄は認められません。
相続放棄は、「相続の開始を知ったときから3ヶ月」が期限です。被相続人が亡くなってからではないことは覚えておきましょう。
■トラブル予防策①:【死後】なるべく早く手続きをする
3ヶ月はあっという間に過ぎてしまうので、なるべく早く手続きに取り掛かるようにしましょう。
特に必要書類である戸籍謄本を取り寄せるには日数を要する場合があるので注意が必要です。
■トラブル予防策②:【死後】期限の延長を申請する
相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に相続放棄申し立ての延長を申請すれば認められる可能性があります。
例えば、相続財産の把握に時間がかかっている等の場合は、申述期間の延長が認められる場合があります。延長するのにもっともな理由である必要があるので、単に「時間がないから」などでは認められません。
■解決方法:期限が過ぎても放棄できる場合もある
相続放棄できる期限が過ぎていても、下記条件にあてはまる場合は一般的に相続放棄が認められます
◎財産調査では借金の存在が分からず、
◎借金の存在を分からないことについて相当の理由がある
◎借金の存在を知ってから3ヶ月以内である
◎相続した財産を処分していない
期限を過ぎてしまった正当な理由がある場合は、家庭裁判所に相続放棄の申し立てをしてみましょう。
これは相続放棄をすると相続権が移ることを知らなかったゆえに起こってしまう失敗です。
例えば法定相続人が妻と子どもである場合、子どもが遺産を全て妻(子どもから見た母)に譲るために相続放棄をします。
ところが子どもが相続放棄をすると、全相続財産が妻に渡るのではなく、第二順位である被相続人の父母に相続権が渡ってしまうのです。
結果、妻には全財産を受け取ってもらうことができないということになります。
■トラブル予防策:相続人の範囲と順位について知る
相続人について、配偶者は常に相続人であり、配偶者以外は次の順位で相続権が渡ります。
第1順位:子ども(子どもが他界していたら孫、以下直系卑属)
第2順位:父母(父母が他界していたら祖父母、以上直系尊属)
第3順位:兄弟姉妹
つまり、子どもが相続放棄をすると次の順位である父母に、父母が他界している場合は兄弟姉妹に相続の権利が移ってしまうのです。
相続手続きを始める前にこの基本知識を頭に入れておきましょう。
■解決方法:なし
一度相続放棄をしてしまうとそれを取り消すことはできません。相続放棄は慎重に行いましょう。
相続税は難しい手続きなのでトラブルや失敗を引き起こしてしまうことが少なくありません。
ここでは代表的な2つのトラブル事例の対策を見ていきましょう。
相続税を適切に節税しようと思えばかなりの専門知識が必要です。
例えば遺産分割の方法によっても税額は大きく異なり、円満に遺産分割することばかり考えていると相続税の面で損することにもなりかねません。
■トラブル予防策:税理士・相続税に詳しい弁護士に依頼する
相続税も視野に入れた遺産分割を行うなら、税理士か相続税に詳しい弁護士に相談しましょう。
専門家に任せると控除など様々な方法を活用して節税に取り組んでもらえるので、相続税を低く抑えることが期待できます。
■解決方法:なし
一度遺産分割協議を決めると原則取り消せません。
「遺産が不動産だけ」など相続財産に現金がない場合、相続税が払えないという事態に陥ることがあります。
相続税は10ヶ月以内に現金一括で納めなければならないため、すぐにお金を用意できないと税金を滞納してしまうことになります。
■トラブル予防策:遺産を売却して現金化する
手放しても問題ない相続財産があるなら、売却して現金化しましょう。
■解決方法①:分割納付を申請する
「延納」という制度を利用すれば分割で支払うことが認められます。この場合も10ヶ月の申告期限内に申請する必要があるので、遅滞なく手続きを行いましょう。
■解決方法②:不動産や株などで納付する
相続税の納付は原則現金ですが、支払が困難な場合は「相続財産で物納」も認められます。この場合も10ヶ月の申告期限内に申請をしなければいけません。
遺産相続でトラブルが起きた場合、自分で解決できそうにないと思ったら弁護士に相談しましょう。ここでは弁護士に依頼する場合のメリットや費用、探し方を紹介していきます。
弁護士は豊富な専門知識と実績で依頼者の遺産相続トラブルを解決に導きます。
特に相続人同士の揉め事や、裁判所に関わることなら交渉技術と法的な主張能力の高さで、依頼者が望む結果を叶えてくれる可能性が高まるでしょう。
下記に弁護士に依頼することで得られるメリットをまとめました。
【遺産相続を弁護士を依頼するメリット】
代理人として交渉してくれる 的確なアドバイスで解決に導いてくれる 手間と時間を省ける 遺産相続で損をしない 不安やストレスが軽減され、心の平穏を保てる |
弁護士は司法書士や行政書士など他の専門家に比べて遺産相続で取り扱える業務範囲が広いので、前章・前々章で紹介したトラブルのほぼ全て(相続税以外)に対応可能です。
頼りになる弁護士ですが、費用は決して安くありません。
弁護士にかかる依頼内容別の費用相場を下表にまとめました。
実際のところは取り扱う案件や弁護士事務所によっても大きく異なるので、あくまでも目安としてください。
■弁護士費用相場|依頼内容別
相続人間での紛争案件 | 着手金(約22万円~55万円)+報酬金(取得できる遺産額の4%~16%) |
相続放棄 | 約5万5千円~11万円/人 |
相続人の調査 | 約5万5,000円~11万円 |
相続財産の調査 | 約11万円~22万円 |
前節の得られるメリットと費用を天秤にかけて依頼するかどうか判断しましょう。
具体的には下記にあてはまる場合は弁護士を頼る方が、結果的に納得感が得られるはずです。
【弁護士に依頼した方がお得なケース】
手続き等の対応に時間を確保できない 遺産相続が行き詰っている 他の相続人との争いが激化している 戸籍など書類の収集が難航している 争いで有利になる証拠を集められない 相続放棄の申請期限が過ぎている |
弁護士に依頼を検討している場合、弁護士の選び方は非常に重要です。
なぜなら弁護士には得意・不得意の分野があり、全ての弁護士が遺産相続に強いわけではありません。相続の実績が少ない弁護士だと、専門知識が不十分で望む結果を得られない可能性が高くなってしまいます。必ず相続に強い弁護士に依頼するようにしましょう。
相続に強い弁護士は次の手順で探してみてください。
【相続に強い弁護士の探し方】
①インターネットでKW「地域名+弁護士+相続」で検索 ②弁護士事務所のホームページで相続問題の解決件数が多いかどうか確認 ③ホームページの料金表案内が明瞭であるかどうか確認 ④実際に会ってみて、話しやすく質問にも丁寧に答えてくれるかどうか確認 |
本記事を読んで遺産トラブルの傾向と対策を理解できたでしょうか。
あらためて本文の内容をおさらいしましょう。
まずは相続トラブルは誰にでも起こる可能性があることをお伝えしました。そしてトラブルが起こるケースにはいくつか特徴があり、それをまとめたものがこちらです。
遺産相続トラブルが起こりやすい10のケース |
相続人同士の仲が悪い 他の相続人と疎遠である 遺産に不動産が含まれていている 遺産が自宅のみで住んでいる相続人がいる 不公平な遺言書が残されていた 介護していた相続人がいる 生前贈与を受けていた相続人がいる 被相続人の財産管理をしている相続人がいる 相続放棄をする 相続税が発生する |
この10のケースについて具体的な事例と予防策・解決方法を紹介しました。それを参考にして対処していってほしいのですが、中には自分では解決できない状態にまで陥ってしまうこともあります。
そんなときは弁護士に依頼することも検討しましょう。
遺産相続トラブルが起きたら弁護士に相談すべき |
弁護士はトラブル解決のプロ! 依頼するメリット 弁護士にかかる費用相場 相続に強い弁護士の探し方 |
この記事を元に遺産相続のトラブル被害を最小限に留め、相続が円滑に進められるようになれば幸いです。