遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き

遺言書の8つの効力について
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

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遺言書の代表的な効力は、「自分の財産を誰にどのくらい渡すかを決められる」というものです。法定相続分と異なる割合で相続させることや、相続人ではない人に遺産を譲れるメリットがあります。

しかし実際にはその他にも法的な効力を持っています。遺言者のさまざまな意思を法的に有効な形で残せるのが遺言書なのです。

遺言書の8つの効力

❶誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する
❷特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)
❸遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)
❹特別受益の持ち戻しを免除する
❺婚外子を認知して相続人に加える
❻未成年者の後見人を指定する
❼遺言執行者を指定する
❽祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

この記事では、遺言書が持つ8つの効力を詳しく解説するとともに、法的に効力が認められる遺言書を作成するためのチェックリストと注意点についてもお伝えします。

<自筆証書遺言の場合の、効力が認められる書き方チェックリスト>

「公正証書遺言」「秘密証書遺言」についても同様のチェックリストを掲載しているので、ぜひ最後までお読みください。

「せっかく作る遺言書を無効にしたくない」と考えている方は、法的に有効な遺言書を完成させるとともに、作成後に注意すべきポイントまでしっかり理解しておきましょう。

なお、当法人の弁護士が「遺言書の役割や必要性」について、動画で解説しておりますので、こちらもご覧ください。

目次

遺言書の効力のうち代表的なものは「相続財産の分け方」の指定

遺言書で認められる効力にはさまざまなものがありますが、その中でも代表的なものが「死後の自分の財産を誰にどれだけ渡すか決められる」というものです。

法定相続人の中で特定の人に多く遺産を渡したい場合はもちろん、反対に「この人には遺産を渡したくない」という場合や、法定相続人ではない人に遺産を渡したい場合に遺言書による意思表示が有効です。

遺言書が存在しなければ通常は法定相続分に従って相続が進められますが、遺言書があれば遺言書の内容が優先されます。

しかし、せっかく遺言書を用意してもその遺言書が無効となってしまえば、遺言書を作成した意味がありません。遺言書の効果を発揮するためには「遺言書が法的に有効になる要件」を満たすことが大切です。

また、遺言書が有効であったとしても、遺留分の権利までは奪えないことを知っておきましょう。

【遺留分についての補足】
遺留分とは、一定の法定相続人に保障された「最低限の遺産をもらえる権利」をいいます。遺言書が有効だったとしても、遺留分の権利が優先となります。
例えば相続人が妻と子ども1人の場合、「全財産を妻に渡す」という遺言書が有効だったとしても、子どもには相続財産の4分の1の遺留分があり、遺留分に相当する金額を請求する権利があります。
遺留分についての基礎的な知識を知りたい方は「遺留分とは?言葉の意味や請求方法をどこよりも分かりやすく解説」の記事をご覧ください。

遺言書で指定できる8つの効力

ここからは具体的に、遺言書が持つ効力にはどんなものがあるか解説していきます。これを読めば「遺言書で何ができるか」具体的に理解できるはずです。

遺言書の効力は、おおむね以下の8つに分類できます。

遺言書の8つの効力

❶誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する
❷特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)
❸遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)
❹特別受益の持ち戻しを免除する
❺非嫡出子を認知して相続人に加える
❻未成年者の後見人を指定する
❼遺言執行者を指定する
❽祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

効力❶誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する

遺言書によって、誰にどの財産をどのくらい渡すのかを自由に指定できます。

特定の相続人に多く相続させることもできますし、法定相続人ではない人(例えば従兄弟やお世話になった家政婦、団体など)に財産を譲る(=遺贈)ことも可能です。

遺言書の例
【例1】長男に2分の1、長女と次男に各4分の1を相続させる。
【例2】金融資産のうち100万円を一般財団法人〇〇(住所)に遺贈し、その残余を長男〇〇〇〇に相続させる。

(遺言による相続分の指定) 第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。 2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

民法第902条

効力❷特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)

特定の相続人から虐待や重大な侮辱を受けていた場合や、その他の著しい非行などがあった場合には、遺言で相続する権利を奪う「廃除」をすることで、その相続人の相続権を消失させることができます。

遺言書の例
遺言者は、次男〇〇を相続から廃除する。
〇〇は、お金がなくなると遺言者に金をせびり、暴言を吐き、暴力を振るい、時には金を盗むこともあった。このように遺言者に対する虐待、重大な侮辱又は著しい非行があるといえるので、同人を廃除する。

(推定相続人の廃除) 遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

民法第892条

(遺言による推定相続人の廃除) 第八百九十三条 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

民法第893条

効力❸遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)

どのように遺産を分けるか、誰に何を残すかを、具体的に指定することができます。

遺言書の例
遺言者は、遺言者の有する次の不動産を、妻〇〇に相続させる。
(1)土地(※土地の住所などを指定する) 遺言者は、遺言者の有する預貯金の全てを、長男〇〇に相続させる。 遺言者は、遺言者の有する株式の全て及びその余の財産を、次男〇〇に相続させる。

また逆に、遺産分割の禁止を遺言書で指定することもできます。ただし、禁止できる期間は最大5年となります。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止) 第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

民法第908条

効力❹特別受益の持ち戻し免除を指定する

特別受益とは、特定の相続人が生前に遺言者から住宅購入資金などを受け取っていたなど特別な利益を受けていたことを言います。相続人間の実質的な衡平を図るため、特別受益を受けていた場合には、生前贈与分を加算して一応の相続分が算出され、そこから生前贈与分が差し引かれて具体的な相続分が決まります。これを特別受益の持ち戻しといいます。

例えば、3人の子ども(B・C・D)がいる遺言者Aが、長女Bだけに住宅購入資金1,000万円を生前贈与していたとします。
この場合、長女Bは1,000万円の特別受益を得ているため、相続できる金額から1,000万円が差し引かれます。

しかし、遺言書でその特別受益の持ち戻しを免除すれば、特別受益分が相続分から差し引かれるのを防ぐことができます(民法第903条3項)。

(特別受益者の相続分) 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

民法第903条

効力❺非嫡出子を認知して相続人に加える

非嫡出子(婚姻していない相手との間にできた子ども)を遺言書によって認知できます。

被相続人が男性の場合、認知が無い非嫡出子には相続権はありませんが、認知することにより相続人に加えることができます。相続人に加えると、嫡出子(婚姻中の夫婦の間に生まれた子ども)と同じ法定相続分となります。

(認知) 第七百七十九条 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

民法第779条

(認知の方式) 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。 2 認知は、遺言によっても、することができる。

民法第781条

効力❻未成年者の後見人を指定する

残された子どもなどの後見人を、遺言書によって指定できます。後見人とは、親権者に代わって未成年者の養育や財産管理を行う人のことをいいます。

遺言者が死亡した後に、子どもを育てる人がいなくなってしまうケースなどでは、後見人を定めておくと安心です。

(未成年後見人の指定) 第八百三十九条 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。

民法第839条

効力❼遺言執行者を指定する

遺言者によって「遺言執行者」を指定できます。または、遺言執行者の指定を任せる人を遺言書で指定することができます。

例えば、遺言執行者として司法書士を指定することができます。 または、遺言執行者を誰にするかを次男に決めてもらうように指定すれば、例えば次男が選んだ弁護士が遺言執行者になります。

遺言執行者とは、遺産相続を実施する手続きを行う人のことをいいます。遺言書の内容を円滑に実現するため、遺言執行者を遺言書で決めておくと安心です。

(遺言執行者の指定) 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

民法第1006条

効力❽祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

祭祀承継者(さいししょうけいしゃ)とは、系譜(家系図など)や仏壇・神棚などの祭具、墓石や墓碑などの墳墓、遺骨を管理し、祖先を祭る手続きをする人のことをいいます。

祭祀承継者は、生前に口頭で指定することもできますし、遺言書で指定することも可能です。(民法897条1項但書)

(祭祀に関する権利の承継) 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。 引用元:民法第897条

(祭祀に関する権利の承継) 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

民法第897条

遺言書の効力が無効になってしまうケース

遺言者自身が効力のある遺言書を書いたつもりでも、さまざまな理由でその効力が無効になってしまうケースがあります。

せっかく遺言書を書いたのに無効になってしまったということが無いよう、無効になるケースを事前に知っておきましょう。

遺言書の効力が無効になるケース
❶指定された遺言の形式で書かれていない場合
(例えば、自筆証書遺言がパソコンで書かれている、日付の記載がないなど)
❷遺言当時に「遺言能力が無かった」と判断された場合
(遺言者が15歳未満や、重度の認知症で遺言能力がなかったと判断されるなど)
❸遺言書の内容が不明瞭な場合
(不明確で意味が分からない遺言書は無効となります)
❹遺言書が最新のものではなく、最新の遺言書と矛盾する内容の場合
(複数の遺言書が見つかり内容が矛盾する場合は、古い遺言書は無効となる)
❺誰かが遺言書を書き換えてしまい、元の内容が判別できない場合
保管していた遺言書を紛失・破棄・燃やされた場合

なお、遺言書の有効要件は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言でそれぞれ異なります。遺言書の形式ごとに無効にならない遺言書の書き方について、次の4章で詳しく解説します。

効力のある「自筆証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

効力のある「公正証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

効力のある「秘密証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

効力のある遺言書の書き方チェックリスト(3種類ごとに解説)

効力のある遺言書の形式は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言でそれぞれ異なります。

スクロールできます
 自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
遺言を 書く人本人法律の知識を持った
公証人が作成
本人(代筆可)
費用なし
(内容を相談する場合は
弁護士費用など)
財産価額に応じた
公証役場手数料
一律11,000円の 公証役場手数料
証人不要2人以上2人以上
秘密性存在・内容を
秘密にできる
なし内容だけ 秘密にできる
偽造や改変のリスクありなし低い
保管方法本人が保管または
法務省に保管
公証役場に保管本人が保管
おすすめ度★★★☆☆★★★★★☆☆☆☆

遺言書の効力が争いになりにくいという点で見ると、証人が2名以上必要かつ公証役場に保管される「公正証書遺言」が最もおすすめです。

ここからは、3つの遺言書の形式ごとに、無効にならない遺言書の書き方について解説していきます。

効力のある「自筆証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

自筆証書遺言とは、全文を自筆(手書き)で書く遺言書のことをいいます。但し、財産目録のみパソコンで作成しても構いません。

自筆証書遺言は、日付や押印漏れ、訂正の仕方が間違っているなどで無効になりやすいため、注意しましょう。

自筆証書遺言を「有効」に作成したい場合は、必ず以下のチェックリストを確認してください。

全文が、パソコンではなく自筆の手書きで書かれている
(ただし、相続財産目録はパソコンで作成可能)
遺言書の作成年月日が自筆で記載されている
遺言者の氏名(1名分のみ)が書かれている
押印がある
記載内容の変更が所定の方式に沿っている
・訂正した場所に二重線を引いて押印して、正しい文字を記載
・どこをどう訂正したのかを余白等に記載
遺言書の内容が明確で、意味が分かるように記載されている
公序良俗に違反しない内容となっている
(公序良俗違反:不倫関係を維持するために不倫相手に遺贈する場合)

なお、せっかく効力のある遺言書を作成しても、書き換えられたり、紛失・盗難・破棄されてしまっては意味がありません。保管場所にも気を付けるようにしましょう。

法務局で自筆証書遺言を保管できる制度が2020年7月10日から始まっているので、できればこの制度を利用して保管するのがおすすめです。

参考:法務省「自筆証書遺言書補完制度」

また、形式の不備や内容のあいまいさで相続人が困らないよう、弁護士や司法書士に依頼して遺言書を作成することをおすすめします。

効力のある「公正証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

公正証書遺言は、法律の知識を持った専門家が作成する遺言書なので、形式の不備によって無効となることはほぼありません。そのため、有効な遺言書を残したい場合に、最もおすすめな方法です。

公正証書遺言の効力が無効になるのは、欠格事由のある者が証人になった場合か、遺言能力がない人が残した遺言の場合が考えられます。

効力のある公正証書遺言を作成したい場合は、以下の全てのチェックボックスにチェックが付くように作成しましょう。

証人に欠格事由がない
※以下の者は欠格事由に該当するので、証人にしないこと
・未成年者、
・推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
方式に不備がない
(通常、公証人は法律の専門家なので不備があることはほとんどない)
・遺言能力のある者がした遺言である
・遺言者が遺言内容を口頭で伝えること
・公証人が遺言者及び証人に、作成した公正証書遺言を読み聞かせまたは閲覧させたこと
・遺言者・証人(2人以上)
・公証人の全員の署名・押印がある
・欠格事由がない証人2人以上が立ち会うこと
・公序良俗に反する内容でない
・後見人の利益になる内容ではないこと(ただし、後見人が被後見人の直系血族・配偶者・兄弟姉妹であるときは除く)

効力のある「秘密証書遺言」の書き方(チェックリスト付き)

秘密証書遺言とは、全文を誰にも(公証人にも証人にも)見られず秘密にした上で、公証役場に持ち込んで遺言書の存在を証明してもらう形式の遺言書です。

ただし、他の方法に比べて手間がかかり、形式に不備があると無効になることがあるため、あまり利用されない遺言方法です。

秘密証書遺言を書く場合は、形式不備で無効にならないよう、以下全てにチェックが入るように作成しましょう。

遺言者の自筆の署名と押印がある
(内容は手書きでもパソコンでも代筆でも構わない)
遺言書を封筒に入れて、遺言書に押印した印鑑と同じ印鑑を使って封印する
公証人と証人(2人以上)の前で封書を提出し、自分の遺言書であることを宣言し、氏名と住所を口頭で述べる
2人の証人には、欠格事由がない者を選ぶ   ※以下の者は欠格事由に該当するので、証人にしないこと ・未成年者
・推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
・公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
公証人が遺言書を提出した日付・氏名・住所を封筒に記載し、遺言者と証人の署名・押印がされている
遺言書の内容が明確で、意味が分かるように記載されている
公序良俗に違反しない内容となっている (公序良俗違反:不倫関係を維持するために不倫相手に遺贈する場合)

公証役場には、遺言書を作成したという記録だけが残り、完成した秘密証書遺言の管理は遺言者自身が行うことになります。そのため、秘密証書遺言の紛失・盗難を避けるよう対策しておく必要があります。

効力のある「特別方式の遺言書」の作成方法

自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の他に、緊急時に遺言を残すことができる特別方式の遺言書があります。

例えば、死期が迫っている場合や船が遭難した場合、伝染病などで隔離されている場合などの特殊なケースに書く遺言書です。

特別方式の遺言書を残す場合は、以下の条件を満たしていることを確認しましょう。

スクロールできます
 一般危急時遺言難船危急時遺言一般隔絶地遺言船舶隔絶地遺言
状況病気や怪我で死期が迫っている場合船や飛行機内で死期が迫っている場合伝染病などで隔離されている場合など陸地から離れている場合など
書く人証人による代筆可証人による代筆可本人が作成本人が作成
証人・ 立会人3名以上 (利害関係者以外)2名以上 (利害関係者以外)警官1名+ 証人1名以上船長または事務員1名+証人2名以上
署名・ 捺印証人証人遺言者と立会人遺言者と立会人

なお、これらはいずれも緊急時に使える方式なので、命の危機を回避してから6カ月間生存している場合にはこれらの遺言は無効となります。

効力のある遺言書を作った後に無効になる4つのケース

せっかく効力のある遺言書を作っても、その後の経緯によっては効力を失う可能性があります。

効力のある遺言書が、その後に効力を失うケース

❶遺言書を紛失すると効力はなくなる
❷遺言書を燃やされたり捨てられたりすると効力が失われる
❸内容の異なる遺言書を書くと、古い遺言書の効力がなくなる
❹相続人・受遺者全員が同意すれば遺言書と違う遺産分割が可能
(効力が失われるわけではないが、遺言書の内容が実行されない)

それぞれのケースについて解説していきます。

遺言書を紛失すると効力はなくなる

自筆証書遺言や秘密証書遺言を遺言者本人が自宅などで保管していた場合、遺言書を失くしてしまうと遺言書の内容を実現することは出来ません。

遺言書の紛失による無効を避けたいならば、公正証書遺言を作成して公証役場に預けるか、自筆証書遺言を作成して法務局に預けるのがおすすめです。

遺言書を燃やされたり捨てられたりすると効力が失われる

遺言書の内容が気に入らない相続人などに遺言書を燃やされたり破棄されたりしてしまうと、遺言書自体がなくなるため、遺言書の効力は失われます

なお、遺言書を破棄した相続人は「相続欠格」となり、相続する権利を奪われます。

燃やされたり捨てられたりするのを避けるならば、やはり公正証書遺言を作成して公証役場に預けるか、自筆証書遺言を作成して法務局に預けるのがおすすめです。

内容の異なる遺言書を書くと、古い遺言書の効力がなくなる

内容に矛盾がある遺言書が複数見つかった場合、日付の新しい遺言書が有効となり、古い遺言書の効力はなくなります。

矛盾がない場合はどちらの遺言書も有効となりますが、複数の遺言書を書く場合には気を付けましょう。

相続人・受遺者全員が同意すれば遺言書と違う遺産分割が可能

効力のある遺言書があっても、相続人と受遺者全員が同意すれば、遺言書とは異なる遺産分割が可能となります。「効力のある遺言書を書けば、100%遺言のとおりになる」というわけではないのです。

※受遺者とは、一般的に、遺言によって遺産を譲られる人の中で法定相続人ではない人のことをいいます。例えば、法定相続人ではない親族や、被相続人が生前に世話になった相手などが考えられます。

ただし、相続人・受遺者のうち1人でも「遺言どおりに相続しよう」と主張すれば、遺言が優先となります。

特定の誰かに財産を残したいならば、生前や遺言の付言事項で気持ちを伝えて、遺言書に従うように言っておくと良いでしょう。

遺言書の効力についてのQ&A(良くある質問)

最後に、遺言書の効力についての良くある質問と答えを載せておきます。これを参考に有効な遺言書を作成しましょう。

遺言書に時効はある?何十年も前の遺言が見つかった場合は?

【答え】遺言書に時効はありません。書き方に不備が無ければ、古い遺言書でも有効となります。

20年前や30年前の古い遺言書でも、書き方に不備がなければ有効です。

ただし、遺言書を書いた当時に遺言能力が無ければ無効となるため、遺言書作成時に15歳に達している必要があります。年齢に上限はありません。

遺言書は複数作成していいの?どの遺言書の効力が有効になるの?

【答え】遺言書は複数作成して構いません。内容に矛盾が無ければ、全ての遺言書が有効となります。

ただし、遺言書の内容に矛盾がある場合は、古い遺言書は無効となり、日付が新しい遺言書が有効となります。

矛盾がない場合は全ての遺言書も有効となりますが、複数の遺言書を書く場合には気を付けましょう。

遺産分割協議後に見つかった遺言書の効力はどうなるの?

【答え】遺産分割協議後に見つかったとしても、遺言書の効力はなくなりません。

相続人が遺言書の存在に気付かずに遺産分割協議を進め、その後に遺言書が出てきたとしても、遺言書の効力は有効です。

その場合の対処法としては、2つの方向性が考えられます。

❶遺産分割協議の内容を白紙に戻し、遺言書の内容に従って相続をやり直す

❷相続人全員が同意して、遺言書の内容に従わず、既に決めた遺産分割協議の内容で相続を行う

相続人が遺言書に気付かずに遺産分割を進めてしまわないよう、遺言書の存在を生前に伝えておくと良いでしょう。

遺言書を誰かが開封してしまったら効力はなくなるの?

【答え】誰かが開封してしまったとしても、そのことを理由に遺言書が無効になることはありません。

封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人立ち合いのもと開封するのが基本です。

ただし、裁判所外で開封されてしまったことを理由に遺言書が無効になることはないので安心してください。

もし間違って誰かが封印の押してある遺言書を開けてしまったら、その事実を添えて家庭裁判所に検認手続きをしてもらいましょう。なお、勝手に開封してしまった場合は、5万円以下の罰金を処せられる場合があります。

相続人以外への遺贈を内容とする遺言書は、無効になってしまう?

【答え】相続人以外への遺贈も可能です。

相続では、原則として法定相続人にしか自分の財産を残せません。しかし、遺贈であれば相続人以外にも財産をゆずることができます。死後に相続人以外に財産を渡したい場合は、遺言書にその旨を記載しましょう。

「相続人でもない人に財産を譲るなんて、こんな遺言書は無効だ!」と主張する相続人もいるかもしれませんが、遺贈の指定が原因で遺言書が無効になることはありません。

ただし、公序良俗に反する遺言は無効になる可能性があります。公序良俗違反に該当するかは状況によりますが、不倫相手や顧問弁護士へ遺贈する旨の遺言が無効とされた裁判例があります。

遺留分を侵害する遺言書は無効になってしまう?

【答え】遺留分を侵害するような内容の遺言書であっても、それが理由で遺言書が無効になることはありません。

遺言書は遺言者の意思を伝えるものなので、遺留分を侵害するような内容を遺言書に書いても構いませんし、それによって遺言書が無効になることはありません。

遺留分を侵害される相続人が「そんな遺言書は無効だ!」と言いたくなる気持ちは分かりますが、遺留分を侵害するような内容を書いたからといって無効にはなるわけではありません。

ただし、そのような遺言を書くことで遺された人がトラブルに発展する可能性があることは念頭に置いておくと良いでしょう。

※遺留分とは、特定の法定相続人が最低限もらえる財産のことをいいます。遺留分を侵害するような遺言書が残されていた場合、侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行うことで、侵害されている遺留分に相当する金額を取り戻すことができます。

遺留分を請求させたくない場合は、「遺言書より遺留分が優先!それでも遺留分を渡したくない場合の対処法を解説」の記事もぜひ参考にしてください。

効力のある遺言書を作成したいなら専門家に相談しよう

ここまで、遺言書の8つの効力や、効力のある遺言書を作成する方法、効力についてのQ&Aなどを紹介してきました。お読みいただいた方は、遺言書で何ができるのか、遺言書が無効にならないための対策方法を正しく理解できたことと思います。

しかし、法律の専門知識が無い方が1人で効力のある遺言書を書くのは難しいものです。

無効になるリスクを避けて遺言内容を実現したいならば、弁護士や司法書士などに遺言書の内容について相談し、正しい形式で作成した上で、遺言執行者になってもらうのがおすすめです。

また、形式不備になりにくく、公証役場に保管されるため紛失・改ざんがしにくい公正証書遺言を選択するようにしましょう。

当事務所(弁護士法人サリュ)では「公正証書遺言パック」という定額報酬のサービスを実施しており、財産一覧表作成から遺言書作成、公証役場での証人立会いまでトータルでサポートしております。遺言執行者の選定もオプションで対応可能です。

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まとめ

この記事では、遺言書の8つの効力や、遺言書を無効にしないための方法などを詳しく解説してきました。

最後にもう一度記事の内容を簡単に振り返っていきましょう。

遺言書にはさまざまな効力がありますが、分類すると以下のような効力があります。

遺言書の8つの効力
❶誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する
❷特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)
❸遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)
❹特別受益の持ち戻しを免除する
❺非嫡出子を認知して相続人に加える
❻未成年者の後見人を指定する
❼遺言執行者を指定する
❽祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

誰にどのくらい財産を残すかだけでなく、特定の相続人の相続権を奪ったり、遺産の分け方を指定したり、婚外子を認知したり後見人を指定したり…さまざまな事柄を指定できるのが遺言書なのです。

ただし、遺言書には定められた形式があるため、その形式から外れてしまうと「無効」になってしまうことがあります。例えば「自筆証書遺言」の場合は、以下の形式を満たしている必要があります。

同様に、「公正証書遺言」「秘密証書遺言」についてもチェックリストを掲載したので、ぜひ今一度チェックしてみてください。

せっかく作成した遺言書が無効にならないよう、できれば弁護士や司法書士に遺言書の内容を相談した上で、公正証書遺言の形式で作成するのがおすすめです。

ぜひ今回紹介した内容を参考にして、効力のある遺言書を作成してみてください。


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