不動産の相続でよくあるトラブル12選┃対策と解決方法も紹介

不動産相続よくあるトラブルの画像
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

「遺産に不動産があると、相続トラブルが起きやすいと聞いた。どのようなトラブルが起こるのだろう?」

不動産は高額な財産であり、現金のように簡単に分けることができないため遺産に不動産があるとトラブルに発展しやすくなります

これから相続が始まる人にとっては、トラブルの事例と対策・解決法を知って、相続に備えておきたいですよね。

本記事では、よくある不動産の相続トラブルを12ケース紹介していきます。

上記12ケースのトラブルを、対策と解決法とともにお伝えしていきます。

しかし、不動産の相続トラブルは実に多種多様であり、これら12ケース以外にも、思わぬ相続トラブルに巻き込まれる可能性があります。

これら12ケースを含め、あらゆるトラブルを避けるためには、生前から予防策を実施しておくことが大切です。

特に、不動産の所有者に「遺言を残してもらう」ことと「不動産の整理をしてもらう」ことを実行してもらえれば、ほとんどのトラブルの問題を最小限に抑えることができるでしょう。

本文では不動産の相続トラブルについて次の内容をお伝えしていきます。

本記事で分かること
・遺産に不動産がある場合によく起きる相続トラブル&対策・解決法
・不動産相続トラブルの予防法
・弁護士に相談すべきケース
・知っておくべき法改正|2024年4月から相続登記義務化

本記事を読めばよくある不動産の相続トラブルと、その対策・解決法を知り、実践することができるようになります。

ぜひ最後まで読んでいってくださいね。

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目次

よく起こる不動産相続のトラブル12ケース一覧

遺産に不動産があると相続トラブルが起きやすくなります。

それは不動産が高額な財産であり、現金のように簡単には分割できないためです。

本記事では2章以降で、よく起こるトラブル12ケースについて、トラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

【よく起こる不動産相続のトラブル12ケース】

①不動産を誰が取得するかで争う
②誰も相続したがらない不動産がある
③空き家トラブルを引き起こす
④相続税が支払えない
⑤居住権を巡ってもめる
⑥不動産の名義変更がされていなかった
⑦【現物分割/代償分割】不動産の評価額でもめる
⑧【代償分割】代償金が支払われない
⑨【換価分割】売却時に発生した譲渡所得税の負担方法でもめる
⑩【共有分割】不動産活用方法で意見が割れる
⑪【共有分割】相続人が増えて収拾がつかなくなる
⑫【共有分割】税金や維持費の負担方法でもめる

読み進めていく際には、ぜひ下記チェックシートをご活用ください。

  あてはまる対策実行済
不動産を誰が取得するかで争う  
誰も相続したがらない不動産がある  
空き家トラブルを引き起こす  
相続税が支払えない  
居住権を巡ってもめる  
不動産の名義変更がされていなかった  
【現物分割/代償分割】不動産の評価額でもめる  
【代償分割】代償金が支払われない  
【換価分割】売却時に発生した譲渡所得税の負担方法でもめる  
【共有分割】不動産活用方法で意見が割れる  
【共有分割】相続人が増えて収拾がつかなくなる  
【共有分割】税金や維持費の負担方法でもめる  

チェックシートには「あてはまる」と「対策実行済」の列があります。

本文と照らし合わせながらチェックをつけていくことで、各トラブルについて「自分は対策をすべきかどうか」「対策ができているかどうか」を整理することができます。

ぜひシートを印刷して活用してみてください。

それでは、それぞれのトラブルについてひとつずつ見ていきましょう。

不動産相続トラブル①不動産を誰が取得するかで争う

誰が不動産を相続するかで争うことは、不動産相続トラブルの代表例です。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・遺産がほぼ不動産のみ
・価値の高い不動産である(立地や環境が良い、不動産の評価額が高い)

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

亡くなった人の遺産が不動産しかなかったり、価値の高い不動産であったりすると、その不動産を巡って相続争いが起きやすくなります。

不動産は現金のように均等に分けられないので、相続人全員が納得のいくように分けるのは難しい部分があります。

具体例を見てみましょう。

【不動産を誰が取得するかで争う事例】
・亡くなった人:父
・相続人:長男・次男
・遺産:自宅(評価額6,000万円)、現金2,000万円  

遺産分割協議が始まったが、長男も次男も両方が「自宅を取得したい」と主張した。自宅は人気路線の駅に近く、リフォームしたばかり。長男も次男もお互い譲らないため、話し合いでもめ始め、それまで良好だった仲が険悪になってしまった。

このままだと話し合いが平行線で、遺産分割協議が進みません

上記のように相続人同士の関係性にも悪影響が及ぶおそれがあります。

対策:遺言を残してもらう

不動産を所有する人に、誰にどの不動産を譲るのかを遺言に書いてもらうようにしましょう。

遺言があると原則相続人は遺言の内容に従わなければいけないので、不動産を巡る争いを避けることができます。

ただし、「物件Aを〇〇に譲る」という内容だけの遺言だと、他の相続人の不満が生じ、相続人同士の関係にしこりが残ります。

他の相続人にも生命保険や退職金などを活用して、財産を残すようにしてもらいましょう。

解決法2つ

実際にトラブルが起こった場合は、下記2つの方法で解決を図りましょう。

解決法①4つの分割方法で解決できないか話し合う

不動産には下記5つの分割方法があります。下記いずれかの方法で解決できないか話し合ってみましょう。

それぞれの分割方法の特徴をまとめました。この中でもトラブルが起こりにくい分割方法として、現物分割か換価分割にすることをおすすめします。

【4つの不動産分割方法】

 

おすすめ

特徴

現物分割

・財産を現物のまま分けること

・財産が複数あるときによく使われる方法

・登記簿上1つの土地を2つ以上に分けて登記をする分筆という方法もある(分筆できる条件を満たしている土地はわずか)

長男が物件A、次男が物件B、三男が現金をそれぞれ相続する

(分筆の場合)400㎡の土地を、長男と次男で200㎡ずつ分ける

共有分割

 

・ひとつの財産を相続人共有で相続する

・新たなトラブルが生じやすい(不動産トラブル

自宅を長男・次男・三男3人の共有名義にする

代償分割

 

・財産を相続した人が、他の相続人に代償金を支払う

・財産を相続する人が、代償金を支払う資力がある場合にのみ可能

・新たなトラブルが生じやすい(不動産トラブル

長男が自宅(評価額3,000万円)を相続し、次男と三男にそれぞれ代償金1,000万円ずつ支払う

換価分割

・不動産を売却して、売却金を相続人で分ける

自宅(評価額4,000万円)を売却し、売却金を長男と次男で2,000万円ずつ分ける

解決法②遺産分割調停を申し立てる

話し合いで解決できなかった場合、遺産分割調停を申し立てるという方法があります。

調停とは調停委員に間を取りもってもらい、話し合いにより解決を図る家庭裁判所の手続きのことです。遺産分割調停では、誰がどの遺産をどれだけ相続するかを決めていきます。

調停委員とは、中立の立場で双方の意見を聞きながら、解決に向けてアドバイスなどを提案する役割を担う人物を指します。

調停でも合意できなければ審判に進みますが、審判では原則法律に沿った遺産分割内容が言い渡されます。

相続人は必ず審判の通りに遺産分割を行わなければいけません。これにより、最終的には遺産分割問題が解決できます。

遺産分割調停の申立て方法や必要書類の詳細については裁判所のホームページをご確認ください。

遺産分割調停 | 裁判所

不動産相続トラブル②誰も相続したがらない不動産がある

遺産の中に誰も相続したがらない不動産があるケースも少なくありません。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・活用も売却も難しい不動産が遺産に含まれる(地形が悪い、立地や環境が悪い、など)

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

田舎にある古家や山林・農地などは、需要がないため活用も売却も難航します。さらに、所有しているだけで固定資産税や維持費がかかってきます。

このような不動産は誰も欲しがらないため、相続でも持て余してしまいます。

具体例を見てみましょう。

【誰も相続したがらない不動産がある事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長女、次女
・遺産:自宅、土地、現金  

財産調査を進めていくうちに、母が地方の土地の所有権を持っていることが明らかになった。しかし、長女も次女も都内に住んでいるため、土地は不要である。さらにその土地は傾斜が多く、活用が難しい。長女も次女も土地を相続したがらず、遺産分割協議が進まない。

このように、いらない不動産を相続人同士で押し付け合って、いつまで経っても遺産分割協議を終わらせることができません

話し合っている間にも、固定資産税と維持費は発生しています。

対策:生前に処分しておいてもらう

財産を有する人に、生きている間に処分してもらうよう依頼しましょう。処分方法は次の解決法を参考にしてください。

解決法3つ

実際にトラブルが起こった場合は、下記3つの方法で解決を図りましょう。

解決法①不動産業者に相談する

「売れないだろう」「使い道がないだろう」と思っている不動産でも、プロに相談すれば解決の糸口が見つかるかもしれません。

田舎の土地でも資材置き場や営業用太陽光発電所など、様々な用途で活用できる可能性があります。

解決法②譲渡や寄付をする

不動産によっては、各自治体が寄付を受付けてくれる場合があります。一度相談してみましょう。

2023年4月からは「相続土地国庫帰属制度」という制度が始まりました。これは相続した不要な土地を国に返すことができる制度です。

しかし、認められるための条件は厳しく、費用も数十万円以上かかります(土地の面積などによって費用は変わる)。

詳細は法務省のホームページでご確認ください。

法務省:相続土地国庫帰属制度について

解決法③相続放棄をする

相続放棄をすれば不動産を相続する必要はありません。ただし、一切の遺産を相続する権利を失うので、よく考えてから決めましょう。相続放棄の期限は3ヶ月です。 

不動産相続トラブル③空き家トラブルを引き起こす

亡くなった人が住んでいた家をそのまま放置していると、空き家トラブルを引き起こすおそれがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続した家に誰も住まない場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

亡くなった人の自宅を誰も使用しないと、その家は空き家になってしまいます。

空き家にしておくと、次のようなリスクが生じます。

・住む人がいないと湿気が溜まるため、建物の劣化が急速に進む

・不審者が入り込んだり、ゴミを不法投棄されたり、悪用されやすい

・家の劣化や治安状況の悪化から、近隣住民に迷惑をかける

・家の劣化が進むと、市町村から「特定空き家」に認定され、固定資産税が6倍になる

・建物が老朽化してしまい、地震や台風などの天災で建物が倒壊し、近隣住居に損害を与えてしまう結果、損害賠償義務を負う

空き家を放置していると、上記のような様々な問題を引き起こしてしまうでしょう。

例えば次のような事例です。

【空き家トラブルを引き起こす事例】
・亡くなった人:父
・相続人:母・長男・次男
・遺産:自宅、現金  
父が亡くなったのを機に、母は高齢者住宅に入居し、自宅が空き家になった。
次男は「売却しよう」と言ったが、母と長男は「思い出がいっぱいつまった家を壊したくない」と反対。しばらくは自宅を残しておくことになった。  
とはいえ、長男も次男も遠方に住んでいるため、ほとんど足を運んでいなかった。  
何年か経った後に、親戚に家を貸すことになった。片付けのために家に入ると、悪臭が漂っていた。
調べてみると、排水管の封水トラップの水が蒸発し、下水の悪臭が逆流していたようだった。さらに、ネズミが住み着き、電気回線や家の柱がところどころかじられていた。
湿気が溜まっていたせいで、カビが生えている箇所もあった。  
とても貸せる状態ではないため、業者に依頼しておおがかりな修繕を行うことになり、費用が400万円かかった。  

このように、空き家の定期的なメンテナンスを怠っていたために、後から余計な手間や費用がかかってしまうことがあります。

対策:定期的に管理する

空き家トラブルを起こさないためには、定期的にしっかり管理することが重要です。自分たちで管理できない場合は、管理会社に委託することも検討しましょう。

解決法:早めに売却するか賃貸に出す

空き家となってしまった家は、早めに売却するか賃貸に出すようにしましょう。

空き家を残しておくと、空き家トラブルのリスクがあるだけでなく、固定資産税や修繕維持費も発生するし、管理のために労力もかかります。

不動産相続トラブル④相続税が支払えない

不動産を含む相続では、しばしば相続税が支払えないとう事態に陥ることがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・遺産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)を超える場合
・遺産が不動産ばかりで、現金がほぼない

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

相続税は原則現金で納めなければいけません。

ところが、遺産が不動産ばかりだと、相続税の納付に充てる現金が足りなくなってしまうことがあります。

遺産が数億円だと相続税だけでも1,000万円を超えてくるので、そのような大金を相続が始まってから準備するのでは、相続税申告期限(10ヶ月)に間に合わせるのが難しいでしょう。

例えば次のような事例です。

【相続税が支払えない事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長男
・遺産:自宅、賃貸アパート  

母が亡くなり、自宅と賃貸アパートが残された。長男が相続手続きを調べているうちに、相続税が800万円かかることが判明。
あまりにも突然のことで、長男では800万円も用意できない。
母の現金は介護費用などに使ってしまい、ほとんど残されていなかった。親戚にお金を貸してもらえないか尋ねてみても、全て断られてしまった。

このように遺産に現金が残されていないと、納税の資金が不足してしまうおそれがあるでしょう。

申告期限までに相続税の申告・納税をしないと、無申告加算税や延滞税が課せられます。

対策:相続税納付のための現金を準備しておく

相続税納付のための現金は前もって計画的に準備しておくべきです。

生命保険や退職金などを上手に活用しましょう。

解決法4つ

実際にトラブルが起こった場合は、下記4つの方法で解決を図りましょう。

解決法①延納制度を利用する

相続税は、期限までに納付が困難な場合は、事前に申請して期限後に納めることができます。

ただし、利用できる条件が限らており、延納期間中は利子税がかかります。

解決法②:物納制度を利用する

延納制度でも納付が難しい場合は、現金の代わりに相続した不動産を納めることができます。

こちらも利用できる条件が限られています。延納・物納の詳細は下記国税庁のホームページでご確認ください。

延納・物納申請等|国税庁

解決法③:相続した不動産を売却する

相続した不動産がどうしても残しておきたい物件でなければ、売却して売却金で納付する方法も検討しましょう。

解決法④:金融機関からお金を借りる

相続した不動産を担保に、金融機関からお金を借りられる可能性があります。一度金融機関に相談してみましょう。

不動産相続トラブル⑤居住権を巡ってもめる

遺産となる自宅や土地に相続人が住んでいた場合、居住権を巡ってもめるおそれがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数人いる
・遺産がほぼ不動産しかない
・亡くなった人名義の自宅で、亡くなった人と相続人の一人が同居していた
・亡くなった人名義の家で、複数の相続人が同居している
・亡くなった人名義の土地に、相続人の一人が家を建てている

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

相続により「住んでいる人」と「所有権を持っている人」が別々になってしまうと、家の権利を巡って争いに発展しやすくなります。

このケースについては、具体例を3つ見ていきましょう。

【①亡くなった人と相続人の一人が同居していた事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長男・次男
・遺産:自宅のみ(評価額2,000万円)  

長男は母の家で母と長年同居していた。母が亡くなってからも住み続けられると思っていたが、次男は「この家は半分は自分のものだから、勝手に住み続けるのはおかしい」と言い、売却して売却金を分けたいと主張。  
【②複数の相続人が一緒に暮らしていた事例】
・亡くなった人:母(父とは離婚)
・相続人:長女・次女
・遺産:自宅のみ(評価額2,000万円)  

生前、母名義の家に母と長女、次女3人で暮らしていた。
母の死後、自宅は共有名義にしたまま2人で暮らしていたが、しばらくして長女の結婚が決まった。そのため、長女と次女どちらが自宅に残るかで争いに発展した。  
【③親名義の土地に相続人の一人が家を建てていた事例】
・亡くなった人:父
・相続人:長男・長女
・遺産:土地(評価額1,000万円)と現金少し  
長男は父が所有する土地の上に長男名義で家を建てていた。そのとき、1,200万円の援助をしてもらっていた。父が亡くなり、長男には生前贈与があったため、遺産は土地を含め全て長女が相続することになった。長女は長男に「自分の土地に住んでいるのだから賃料を払って」と要求。長男には賃料を払う余裕がないため拒み、長女と言い争いになった。  

このように、最悪の場合「住んでいる人」が家を追い出される事態に発展することがあります。

一方、「所有権を持っている人」からすれば、自分の家や土地に他の人が無償で住み続けることは納得がいかないでしょう。

【配偶者には「配偶者居住権」が認められている】
亡くなった人名義の家に配偶者が同居していた場合、他の相続人が家の所有権を相続しても、配偶者は無償かつ亡くなるまで家に住み続けることができます。(民法1028条、1030条)。

対策①:遺言書を作成しつつ、不動産を取得しない相続人への配慮を

まず対策として考えれるのは、不動産を取得する相続人をあらかじめ決め、遺言書に残しておくことです。遺言書で、所有者が死亡した後に当該不動産の所有名義人となる人を特定しておけば、誰が不動産を取得するかについて争いになることは少なくなります。

また、ここで重要なのが、必ず不動産を取得しない相続人の配慮をすることです。

例えば、不動産以外に預貯金があれば、預貯金の受取人を不動産を取得しない相続人に取得させるなどです。もし、不動産に相当する預貯金を用意できない場合には、生命保険金の受取人を不動産を取得しない相続人に指定するといった対策も有用でしょう。

相続財産が不動産一つだけの場合には、遺言書を残して特定の相続人にその不動産を取得させるとしても、遺留分侵害の可能性が残ってしまいますから、遺留分に相当する金銭についても考慮が必要です。

対策②:使用借契約を結んでおく

何らかの理由で遺言書を作成できない場合、所有者が亡くなった後も家に住み続けたい場合は、使用収益の目的や使用貸借期間を定めた「使用貸借契約」を結んでおきましょう。

使用貸借契約が結んであると、家を相続した人でも住んでいる人に対して立ち退きを強要するのは難しいと考えられています。

使用貸借契約とは、無償で物件の使用を許可する契約です。貸主が亡くなった後も契約は続くので、住み続けることが可能になります。

通常、生前に上記のような契約を書面化していなかったとしても、被相続人(亡くなった人)名義の不動産に相続人が被相続人と同居していたような場合には、被相続人は自己名義の不動産にその相続人を無償で住まわせることを承諾していたと考えられるため、使用貸借契約が成立していたと考えられるケースが多いです。

もっとも、使用貸借契約は、永遠に継続するというわけではなく、民法上は、以下のように契約期間が定められています。

第五百九十七条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。

 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において、使用及び収益の目的を定めたときは、使用貸借は、借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。

 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

民法

このように、当事者が使用貸借期間を定めなかった場合には、「借主がその目的に従い使用及び収益を終えること」によって使用貸借契約は終了することになりますが、この解釈はとてもあいまいで、裁判でも争われることが多いです。そのため、使用貸借期間を定めた使用貸借契約を締結することが重要です。

解決法:話し合いで決まらなければ遺産分割調停を申し立てる

当人同士の話し合いで決まらなければ、遺産分割調停を申立てましょう。遺産分割調停については「解決法②遺産分割調停を申し立てる」を参照ください。

不動産相続トラブル⑥不動産の名義変更がされていなかった

いざ相続が始まってみると、不動産の名義変更がされていなかったというケースがあります。

これは全員に起こり得るトラブルなので、しっかり対策をしておきましょう。

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

相続が始まり、登記事項証明書などを取り寄せてみると、不動産の名義人が亡くなった人ではないことが判明することがあります。

これは亡くなった人が不動産を相続するときに、きちんと名義変更していなかったことに原因があります。

具体例を見てみましょう。

【不動産の名義変更がされていなかった事例】
・亡くなった人:父
・相続人:母・長男
・遺産:自宅、現金  

父が亡くなり、自宅の名義変更を母に変えることになった。不動産の書類を取り寄せると、自宅が建っている土地が祖父の名義のままであることが判明。祖父が亡くなったとき、土地の名義を父に変えていなかったのだろう。  
法務局に問い合わせると、名義を祖父から直接母に変えることはできず、まずは祖父から父への名義変更を行わなければならないことが分かった。
そのためには祖父の相続人である伯母にも連絡を取らないといけないが、伯母もすでに亡くなっている。伯母の相続人であるいとこたちは、連絡先を知らないので、連絡を取ることができない。  

このように、不動産の名義変更をするためには、まずは一つ前の相続の名義変更を済ませないといけません。

しかし、一つ前の相続の相続人と連絡がとれなかったり、名義変更に同意してくれなかったりと、スムーズに進まないケースが少なくありません。

面倒だからと放置していると、相続人が増える一方で、収拾がつかない事態になってしまいます。

対策:生前に名義変更を済ませてもらう

財産を有する人が生きている間に、一度不動産の権利関係を確認しておきましょう。名義がその人物になっていない場合は、名義変更を済ませてもらうようにしましょう。

解決法:相続が発生した順に名義変更をしていく

実際にトラブルが起こった場合は、まずは先に起こった相続(一次相続)の名義変更を済ませるしかありません。

ます。一次相続の相続人全員に連絡をとり、遺産分割協議書を作成します。それから今回発生した相続の名義変更を進めていくようにしましょう。

もし、連絡が取れない相続人がいる場合には、専門家に依頼して相続人の所在調査をしたり、遺産分割調停を申し立てたりといった解決策が有効です。

詳しい進め方は下記の記事で紹介しているので、参考にして進めてください。

不動産相続トラブル⑦【現物分割/代償分割】不動産の評価額でもめる

不動産の分割方法が現物分割か代償分割である場合、不動産の評価額でもめることがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・不動産を現物分割(財産を現物のまま分ける)または代償分割(財産を相続した人が他の相続人に代償金を支払う)で遺産分割する場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

不動産の評価方法は主に下記4通りあります。

・実勢価格(取引価格)

・地価公示価格

・路線価

・固定資産税評価額

評価方法によって評価額が変わるため、どの評価方法を用いるかで揉めやすくなります

代償分割の例で言うと、不動産を相続する人にとっては評価額は低い方が支払う代償金の額が少なく済みます。

一方、不動産を相続しない人にとっては、評価額は高い方が、代償金を多くもらえることになります。

具体例を見てみましょう。

【現物分割・代償分割|不動産の評価額でもめる事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長女・次女
・遺産:自宅のみ(評価額?円)  

母が亡くなり、母と同居していた長女が自宅を相続し、長女が次女に代償金を支払うことで話がまとまった。  
しかし、代償金の金額を決める段階で、意見が分かれてしまった。
長女は、「固定資産税評価額4,000万円で代償分割をしたい。相続税は固定資産税評価額をもとに算出するから、遺産分割も固定資産税評価額を用いるべき」でと主張。  
一方次女は、「遺産分割協議では一般的に実勢価格を用いられるから、実勢価格で代償分割すべき」と主張。不動産業者に見積もってもらった評価額4,800万円を提示してきた。  
次第に口論になり、話し合いを続けることが困難になった。  

評価額でもめだすと、遺産分割協議が成立せず、相続を進められません

上記のように相続人同士の関係性にも悪影響が及ぶおそれもあります。

対策:遺言を残してもらう

現物分割ができそうな場合は、不動産を所有する人に分割方法について遺言を残してもらいましょう。

遺言で「物件Aは〇〇に相続させる、物件Bは〇〇に相続させる」と書かれていれば、どの評価方法にするか決める必要がなくなります。また、預貯金などの分割しやすい相続財産があれば、「物件Aは〇〇に相続させる、預貯金は〇〇に相続させる」といった形で遺言を残せばトラブルを少なくすることができます。

なお、遺言書を作成する際は、遺留分を侵害しないように留意しましょう。

解決法:話し合いで決まらなければ遺産分割調停を申し立てる

当人同士の話し合いで決まらなければ、遺産分割調停を申立てましょう。調停でもなかなか話がまとまらない場合は、不動産鑑定士に鑑定を依頼し、その評価額を採用するのが一般的です。

不動産相続トラブル⑧【代償分割】代償金が支払われない

不動産を代償分割で遺産分割した場合、代償金が支払われなくなるというトラブルは少なくありません。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・不動産を代償分割(財産を相続した人が他の相続人に代償金を支払う)で遺産分割する場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

不動産を代償分割で相続することで遺産分割協議が成立したものの、代償金の支払いが滞ることがあります。

これは話し合いのときに安易に代償分割を選んだことがトラブルの一因です。

代償分割を選ぶときは、必ず確実に代償金を支払えるかどうかを確認してから選ばなければいけません。

現に調停や審判では、預金通帳のコピーなどを確認して、十分な資力があると判断した場合のみ、代償分割を選びます。

しかし、当事者同士で話し合うときは、資力の確認が不十分になりがちです。支払えなくなったときの対応についても取り決めされないことが多いため、トラブルが生じやすくなります。

具体例を見てみましょう。

【代償分割|代償金が支払われない事例】
・亡くなった人:父(母はすでに他界)
・相続人:長女・次女
・遺産:自宅(評価額3,000万円)、現金1,000万円  

父が所有していた自宅を長女が相続し、長女が次女に代償金1,000万円を支払うことに合意した。
遺産分割協議書にもその旨を記載し、遺産分割協議はスムーズに終わった。  
しかし、支払い方法や支払期日までは取り決めていなかったため、いつまで経っても代償金が支払われない。
長女が次女に催促をしても、「もう少し待って」とかわされ続けていた。  
ところが、しばらくすると長女が家を第三者に売却していたことが発覚。次女が長女に連絡を取ろうとしても、電話番号など全て変更されていて、連絡が取れなくなっていた。

代償金は遺産分割協議の時点で詳細まで取り決めておかないと、上記例のように代償金を踏み倒されて逃げられるおそれがあります。

なお、代償金が支払われなかったからといって、遺産分割協議をやり直すことはできません

対策4つ

トラブルを防ぐためには、下記4つの対策を行うようにしましょう。

対策①不動産を相続する人に資力がない場合は代償分割を選ばない

身内同士であっても、預金通帳の残高などを見せてもらい、必ず支払い能力を確認しましょう。
また、もし、代償金を支払う側に代理人弁護士が就任しているような場合には、実務上は、代理人弁護士の預かり金口座に一旦代償金を振り込んでもらい、振り込まれたことが確認できる資料(通帳の写し等)を提示させることで支払いを確実にさせることがあります。

対策②分割払いにしない

分割払いは途中で支払いが止まってしまうおそれがあります。なるべく早めに一括で支払ってもらうようにしましょう。

対策③遺産分割協議書に支払いについての条項を入れておく

遺産分割協議書には下記項目を記載しておくようにしましょう。

・支払い方法と期日

・支払いが滞った場合の対処法

対策④公正証書として遺産分割協議書を作成する

公正証書として遺産分割協議書を作ると、「代償金が支払われない場合は、強制執行に服する」という文言を入れることができます。これにより、代償金が支払われなかった場合、ただちに強制執行ができます。

公正証書として遺産分割協議書を作成する場合は下記サイトを参考に進めてください。

3 遺産分割協議 | 日本公証人連合会

解決法:遺産分割後の紛争調整調停を申し立てる

代償金が支払われない場合は、遺産分割後の紛争調整調停を申し立てましょう。

調停で支払いについて話し合いがまとまれば調停調書が発行されます。それでも支払いがない場合は、調停調書をもとに強制執行をすることができます。

申立て方法についてはお近くの裁判所(各地の裁判所)か弁護士にお尋ねください。

不動産相続トラブル⑨【換価分割】売却時に発生した譲渡所得税の負担方法でもめる

換価分割にして売却した結果、譲渡所得税が発生し、その負担方法を巡ってもめることがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・換価分割(不動産を売却して売却金を分配する)にした場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

不動産売却は売却価格によっては多額の譲渡所得税が発生することがあります。

遺産分割協議の時点ではそのことに考えが及ばなかったため取り決めをしておらず、いざ税金が発生してから支払いでもめやすくなります

換価分割にする場合、不動産を相続人全員の名義に変更した上で売却することもありますが、いったん相続人の代表者に名義変更してから売却する方法を取ることが多いです。

そうなると所得税の納付書はその代表者に届きます代表者が立替て納付したものの、立て替えた代金を回収しそびれるリスクがあります。

具体例を見てみましょう。

【換価分割|売却時に発生した譲渡所得税の負担方法でもめる事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長男・次男・三男
・遺産:自宅のみ
遺産分割協議を行い、母が住んでいた自宅を売却することで合意した。
手続きの都合上、名義を長男に移して売却を進めた。  
早いうちに買い手が見つかり、売却はスムーズに進んだ。
手数料などを差し引いて、手元に入った金額は3,200万円。
長男が代表して売却手続きを進めたので、長男が1,200万円、次男と三男は1,000万円ずつ取得した。  
翌年になり、譲渡所得税60万円を納めるために、長男は次男と三男に20万円ずつ出すよう伝えた。
しかし、次男と三男は、「売却金を多めに渡したのだから、その分から出してくれ」と主張。譲渡所得税の負担を巡って言い争いに発展した。  

このように、売却のために名義人になった人が、税金面で損をしてしまうおそれがあります。

対策:遺産分割協議であらかじめ取り決める

遺産分割協議で、あらかじめ譲渡所得税を算出し、その分を引いた額で分配するよう取り決めましょう。

譲渡所得税は事前におおよその税額を計算することが可能です。実際に税額が確定すれば誤差は売却金で調整する必要がありますが、少なくとも立替分を回収できないリスクは避けられます。

譲渡所得税の算出が難しければ、少なくとも遺産分割協議書に、譲渡所得税については相続分に応じて按分する旨記載することが有効です。

譲渡所得税の計算方法については国税庁のホームページをご確認ください。

No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁

解決法:売却金の分配で調整する

売却金をまだ分配していないなら、売却金で調整できます。

不動産相続トラブル⑩【共有分割】不動産活用方法で意見が割れる

不動産を共有名義にした場合、不動産の活用方法で意見が分かれてもめることがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・共有分割(共有名義で相続する)にした場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

共有名義の場合、売却や活用は名義人全員の同意が必要です。誰か一人が不動産を勝手に売却したりすることはできません(民法251条)。

そのため、他の相続人たちと意見が合わず、いつまで経っても売却や活用ができないまま放置されてしまいます。

具体例を見てみましょう。

【共有分割|不動産活用方法で意見が割れる事例】
・亡くなった人:父
・相続人:母・長女・次女
・遺産:土地  

父の相続のとき、遺産は土地しかなかったので、公平を図るためひとまず母・長女・次女の共有名義で相続した。  
土地は利便性が良いため、「駐車場にして経営しよう」と次女が言い出した。
しかし、母と長女は反対。「駐車場をつくるにはお金がかかる。集客できるかどうか分からないし、経営を始めたらずっと管理しなければならない」と主張した。
次女は「このまま土地を持っているだけでは維持費がかかるだけ。活用しないなら売却したい。」と反論。   顔を合わせるたび、土地活用についてもめだすので、次第に3人の間に溝ができてしまった。  

不動産活用について意見が合わないと、いつまで経っても有効に活用できません

対策:なるべく早めに単独名義にする

共有分割にした場合は、なるべく早めに単独名義にするようにしましょう。共有分割は一時的な対処法として考えるべきです。

解決法①:持分のみを売却する

共有名義の場合、不動産を売却することはできませんが、自分の持分だけを売却することは可能です。

いつまでも他の相続人と話し合いがまとまらず、不動産の共同所有が煩わしく感じるなら、手放してしまうのも手です。

解決法②:共有物分割請求訴訟を提起する

話し合いによって、共有状態の不動産を分割できないような場合には、共有物分割請求調停の申し立てや、訴訟を提起するといった方法があります。

調停は、話し合いでまとまる可能性が低いことから、実際には現実的ではなく、訴訟で解決を図ることが多いです。訴訟では、不動産を誰かに取得させる代わりにお金で調整する価格賠償、現物を分割する方法、換価分割といった分割方法が採用されます。

不動産相続トラブル⑪【共有分割】相続人が増えて収拾がつかなくなる

不動産を共有分割にした場合、放置していると相続人がどんどん増えて収拾がつかなくなるおそれがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・共有分割(共有名義で相続する)にした場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

不動産を共有名義にしたままでいると、共有名義人の一人が亡くなった場合、その相続人が新たに共有名義人として加わります。

共有名義の場合は全員の合意がないと売却も活用もできません。人数が多ければ多いほど、意見をまとめることが難しくなります

具体例を見てみましょう。

【共有分割|相続人が増えて収拾がつかなくなる事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長男・次男・三男
・遺産:自宅、賃貸アパート、現金  

母が亡くなったとき賃貸アパートを誰が相続するかでもめたが、最終的に3人で共有名義にすることで落ち着いた。  
5年後、賃貸アパートを売却しようかと相談しているタイミングで、長男と次男が立て続けに亡くなってしまった。
5人の親族が新たに相続人として加わったが、売却に反対する者がいて、結局売却することができなくなってしまった。  

このように、相共有名義続人の一人が亡くなると共有名義人の数が増えて、不動産の活用や売却はさらに難しくなります

最終的には共有名義人の数がねずみ算式に増えていき、収拾がつかない事態になるおそれがあります。

自分が亡くなった後は、自分の相続人にも迷惑をかけることになってしまうでしょう。

対策&解決法:なるべく早めに売却か単独名義にする

共有分割にした場合は、なるべく早めに売却か単独名義にするようにしましょう。共有分割は一時的な対処法として考えるべきです。

もし、実際にトラブルに発展した場合には、「解決法②:共有物分割請求訴訟を提起する」で解説したように、訴訟で解決を図ることも可能です。

不動産相続トラブル⑫【共有分割】税金や維持費の負担方法でもめる

不動産を共有分割にした場合、税金や維持費の負担でもめることがあります。

下記にあてはまるケースは対策をしておきましょう。

【あてはまるケース】

・相続人が複数いる
・共有分割(共有名義で相続する)にした場合

ではトラブルの内容と対策、解決法を紹介していきます。

トラブルの内容

共有名義にした場合、固定資産税や維持費など不動産にかかる費用も名義人全員で負担することが一般的でしょう。

しかし、費用の負担方法まで遺産分割協議で話し合われていないケースが多く、実際に費用が発生した際に負担方法でもめやすくなります。

特に、固定資産税は名義人の代表者に納付書が届きます。所有割合に応じて名義人全員に届くわけではありません。そのため、代表者が立替て納付したものの、立て替えた代金を回収しそびれることがあります。

具体例を見てみましょう。

【共有分割|税金や維持費の負担方法でもめる事例】
・亡くなった人:母(父はすでに他界)
・相続人:長男・次男
・遺産:土地、現金  

母が所有していた土地は田舎の物件だったため、長男も次男も「土地を相続したくない」と主張した。
結局、話し合いがまとまらないので、共有名義にすることで遺産分割協議を成立させた。  
翌年になり、固定資産税の納付書が長男の方に届いた。長男はひとまず自分で納税した後、次男に立て替えた分を請求。
しかし次男は「売却できたときの売却金で調整してくれ」と言って払おうとしない。  
土地を売却には出しているが、なかなか買い手が見つからない。長男は「売却がいつになるか分からないので今払ってほしい」と言うが、次男が応じず、もめ事に発展した。  

このように、代表者になった人が、税金面で損をしてしまうおそれがあります。

対策:遺産分割協議であらかじめ取り決める

遺産分割協議のときに、税金や維持費の支払い方法についても話し合いましょう。取り決めた内容は遺産分割協議書にも記載しておくようにしましょう。

解決法:求償権を行使する

求償権とは、債務を立て替えた分について請求できる権利のことです。共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払う義務を負います(民法253条)。したがって、固定資産税などの債務を共有者の1人が替わりに負担した場合には、立て替えた分のお金を他の共有者に請求することができます。

まずは内容証明郵便で通告し、それでも無視される場合は訴訟を起こしましょう。訴訟で認められれば、相手の財産を差し押さえることができます。

生前の対策が重要|不動産相続トラブルの予防法

上記で紹介した以外にも、不動産に関する様々な相続トラブルが起こる可能性があります。

あらゆる不動産の相続トラブルを防ぐためには、下記3つのことを実施しておきましょう。

【生前から実施すべき:不動産相続トラブルの予防法】

・不動産の整理をしてもらう
・遺言を残してもらう
・相続税対策をしてもらう(基礎控除を超えそうな場合)

この3つのことを実施できていれば、どのようなトラブルも問題を最小限に抑えることができます。

しかし、これらの方法は生前から始めることが大切です。不動産の所有者を含む家族としっかり話し合って、計画的に進めていくようにしましょう。

財産整理をしてもらう

不動産の所有者が元気なうちに、不要な不動産は整理しておいてもらいましょう。

不動産を処分して現金化することで、不動産を巡る一連の争いを防ぐことができます。さらに、相続税の資金も準備できて一石二鳥です。

高齢の両親だと不動産の整理も一苦労です。法務局や役所との書類の取り寄せや提出など、できることはサポートするようにしましょう。

遺言を残してもらう

不動産を残しておく場合や整理ができなかった場合は、遺言を作成してもらいましょう。

遺言は亡くなった人の意思が反映されるため、法律で定められた相続分よりも優先されます(遺留分を侵害することはできませんので配慮が必要です)。

相続人は原則遺言の通りに遺産分割しなければならないので、相続人同士のもめ事を減らすことができるでしょう。

遺言の作成方法は、遺言をどの形式で作成するかによって異なります。形式は下記2つが安全性と確実性の高さからおすすめです。

【遺言の種類】

遺言の種類特徴
公正証書遺言・公証人に遺言書を作成してもらい、公証役場で保管してもらう
・安全性と確実性が最も高い
・費用が若干高い
自筆証書遺言 (法務局保管制度利用)・自身で作成した遺言を法務局に保管してもらう
・安全性と確実性が比較的高い
・費用は3,900円/件

公正証書遺言で作成する場合は、下記サイトを参考に進めていくようにしてください。

Q4.公正証書遺言は、どのような手順で作成するのですか。 | 日本公証人連合会

自筆証書遺言(法務局保管制度利用)で作成する場合は、下記サイトを参考に進めていくようにしてください。

自筆証書遺言書保管制度

相続税対策をしてもらう(基礎控除を超えそうな場合)

不動産を含む財産の総額が、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の人数)を超える場合は相続税が発生します。

相続税の資金を準備する一方で、相続税を減らす対策もしておいてもらいましょう。

ポピュラーな方法としては、生命保険の活用です。受取人を相続人にしておくと、納税資金に充てられる上に、非課税枠(500万円×法定相続人の数)までは相続税がかかりません(相続税法12条)。

生前贈与も、相続時の財産額を減らすことになるので相続税対策として有効です。

相続人ともめた場合は弁護士に相談すべき

不動産の相続トラブルの中で、他の相続人ともめた場合は早めに弁護士に相談しましょう。

相続において相続人間でもめた場合、解決に向けてサポートを依頼できるのは弁護士だけです。

ここでは弁護士について下記内容をお伝えしていきます。

【弁護士について】

・弁護士に依頼すべき理由
・弁護士費用|数十万円~数百万円が目安

弁護士に依頼すべき理由

他の相続人ともめたら弁護士に依頼すべき理由を下記にまとめました。

【弁護士に依頼すべき3つの理由】

・代理人として相手と交渉してもらえるから
・依頼人の利益を最大化できるように動いてくれるから
・調停や訴訟に発展した場合もサポートしてもらえるから

■代理人として相手と交渉してもらえるから

弁護士に依頼すれば、代理人として相手と交渉してもらえます。

相続人同士は身内であるため、当事者だけで話し合うとお互い感情的になりやすく、対立が深まりやすくなります。

弁護士が間に入ることで、冷静さを取り戻し、話し合いが進むことが期待できるでしょう。

また、不仲で会いたくない相続人がいる場合は、弁護士に交渉を任せることで直接顔を合わせずに済みます

■依頼人の利益を最大化できるように動いてくれるから

弁護士は依頼人の利益を最大化することが仕事です。

素人だともめ事の着地点の見当がつかず、不利な条件で合意してしまうおそれがあります。

弁護士なら、相続の豊富な実績と経験から、利益を最大化して合意できる妥協点が分かりますそのゴールに向けて着実に交渉を進めてくれるでしょう。

■調停に進んだ場合もサポートしてもらえるから

弁護士に依頼すれば調停に進んだ場合もサポートしてもらえます。

自分だけで調停を進めることは可能ですが、素人が法的根拠に基づいた主張をすることは難しいでしょう。

弁護士に任せれば、法律の知識が十分であるため、調停委員や裁判官に納得してもらえるよう話すことができます。

また、調停の申立て準備は煩雑で、素人が行えば1ヶ月前後かかるでしょう。申立て準備も弁護士に任せれば、時間と労力を節約することができます。

弁護士費用|数十万円~数百万円が目安

弁護士に相続人トラブルを依頼した場合、費用は数十万円~数百万円ほどかかります。

この金額はあくまでも目安です。依頼内容や取得財産額に応じて大きく変動するので注意しましょう。

弁護士費用は一般的に下記計算式で算出されます。弁護士事務所によって料金システムは大きく異なるので、必ず見積もりを確認するようにしてください。

遺産分割協議の弁護士費用
着手金(20~40万円) + 報酬金(取得した遺産の4%~16%)+ その他費用(数万円~)

※着手金…依頼時に支払う前払い金。

※報酬金…解決時に支払う後払い金。取得できた遺産の額に応じて金額設定される(遺産額が上がるにつれ%は下がることが一般的)

当事務所では着手金が無料になるプランを用意しておりますので、ご活用ください。

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相続登記はなるべく早くすませよう|2024年4月から義務 

最後に、これから不動産の相続を始める人に知っておいてほしい法改正の内容をお伝えしていきます。

2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。

義務化により、不動産を相続した人は「相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内」に相続登記の申請を済ませなければいけません。

「相続により所有権を取得したことを知った日」とは、相続人が一人の場合は文字通りの意味ですが、相続人が複数人の場合は、遺産分割協議が成立した日を指します。

なお、義務化前に発生した不動産相続も対象です。2024年4月1日から3年以内、つまり2027年4月1日までに申請を済ませなければいけません(相続自体は2024年4月1日より前であっても、遺産分割協議が成立して不動産の所有者になったのが2024年4月1日よりも後であれば、その遺産分割協議が成立した日から3年以内となります)。

正当な理由なく申請しなかった場合は、10万円以下の過料が科されることがあるので注意しましょう。

詳細については下記法務省の案内をご確認ください。

令和6年4月1日から 相続登記の申請が 義務化(※)されます!

まとめ

本記事では不動産の相続トラブルについて解説してきました。

あらためて本文のポイントを振り返りましょう。

まずはよく起こるトラブル12ケースについて、トラブルの内容と対策、解決法をお伝えしました。

よく起こる不動産相続のトラブル12ケース
①不動産を誰が取得するかで争う
②誰も相続したがらない不動産がある
③空き家トラブルを引き起こす
④相続税が支払えない
⑤居住権を巡ってもめる
⑥不動産の名義変更がされていなかった
⑦【現物分割/代償分割】不動産の評価額でもめる
⑧【代償分割】代償金が支払われない
⑨【換価分割】売却時に発生した譲渡所得税の負担方法でもめる
⑩【共有分割】不動産活用方法で意見が割れる
⑪【共有分割】相続人が増えて収拾がつかなくなる
⑫【共有分割】税金や維持費の負担方法でもめる

上記以外にも、不動産に関する様々な相続トラブルが起こる可能性があります。

あらゆる不動産の相続トラブルを防ぐためには、下記3つのことを実施しておきましょう

生前から実施すべき:不動産相続トラブルの予防法
・不動産の整理をしてもらう
・遺言を残してもらう
・相続税対策をしてもらう(基礎控除を超えそうな場合)

最後に、これから不動産相続を迎えるにあたって知っておくべきことを紹介しました。

不動産相続について知っておくべきこと
・相続人ともめた場合は弁護士に相談すべき
・2024年4月から相続登記が義務化

以上、本記事を読むことで不動産相続トラブルの事例と予防法・対処法を知ることでトラブルを回避でき、スムーズな相続を実現できれば幸いです。

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