遺産分割協議書の押印は拒否できる?立場別に知っておきたい対応策

遺産分割協議書の押印は拒否できる?
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

遺産分割協議書の押印は、

「押印を求められているが、拒否したい」

という方もいれば、

「押印を拒否している相続人がいて、困っている」

という方もいるでしょう。

それぞれの立場によって異なる事情があり、悩みの種類もさまざまです。

問題は、知識がないことで不利な対応をしてしまったり、相続人同士のトラブルに発展してしまったりするケースが、後を絶たないことです。

この記事では、「押印を拒否したい人/拒否されている人」の2つの立場別に、どう対応していけばよいか解説します。

できるだけ円滑に遺産分割を進められるよう、具体的な解決策をご提案しますので、ぜひ参考にしてみてください。

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目次

そもそも遺産分割協議書の押印とは何か

最初に、遺産分割協議や押印について、基本事項から確認していきましょう。

遺産分割とは?

そもそも「遺産分割」とは何かといえば、

遺産を、各相続人の相続分に応じて分割し、各相続人の単独財産とすること”

をいいます。

簡単にいえば、遺産の分配のことです。民法では、遺産分割することが原則となっています。

分割方法は、遺言書があれば、それを亡くなった人の意思として優先します。

遺産分割協議とは?

遺言書がない場合や、遺言書があっても遺産分割について指定がない場合には、相続人全員で話し合って、分割方法を決めます。これが「遺産分割協議」です。

遺産分割協議では、相続財産を具体的にどのように分けるかを協議します。

相続人全員で合意すれば遺言書どおりでなくてもよい

先ほど述べたとおり、「遺言書があれば、分割方法はそれに従う」のが原則です。

しかし、相続人全員の話し合いで合意した場合には、遺言書どおりに分割する必要はなく、これを一般的に「協議分割」と呼んでいます。

相続人全員参加でないと協議は無効

遺産分割協議には、相続人全員の参加が必要です。全員参加でなければ、協議は無効となります。

遺産分割協議書には相続人全員の実印と印鑑証明書を添付する

相続人全員が納得する遺産分割の方法が決まったら、その合意した内容を記載した「遺産分割協議書」を作成します。

▼ 遺産分割協議書の文例

出典:神戸市

遺産分割協議書には、各相続人が合意した証として、相続人全員の実印を押印し、印鑑証明書を添付します

これが本記事の主題となる「遺産分割協議の“押印”」です。

遺産分割協議書の押印にまつわる2つの悩み

遺産分割協議書の押印にまつわる悩みとして多いのは、以下2つのケースです。

  • 他の相続人から、遺産分割協議書の押印を求められたが、拒否したい
  • 遺産分割協議書の押印を、他の相続人に拒否されていて、遺産相続の手続きを進められない

以降で、それぞれのケース別にポイントを解説します。

遺産分割協議書の押印を【求められたが拒否したい場合】のポイント

1つめのケースは、遺産分割協議書の押印を求められたが、拒否したい場合です。

☑勝手に遺産分割協議書を作成された
☑協議は行われたが結論に納得していない
☑一方的に遺産分割協議書が送られてきた

どう対応すべきか、見ていきましょう。

勝手に作成されて納得できないなら拒否するべき

「遺産分割協議書の押印を、拒否できるのか?」

という疑問に対する答えとしては、拒否できます。

先ほど解説したとおり、遺産分割協議書の押印は、遺産分割協議の内容に納得して合意した証拠となるものです。

よって、内容に合意していないときは、押印すべきではありません。

まずは遺言書あるいは法定相続分に基づいた遺産分割を求める

遺産分割協議書の内容に納得できない場合は、まずは以下の原則に基づいた分割を求めるとよいでしょう。

遺言書があれば、それを優先する
遺言書がない場合は、法定相続分(※)に基づいて分割する

※法定相続分については下記の記事にてご確認ください。

逆に、上記の原則に基づいた遺産分割協議内容を拒否したい、ということであれば、合理性がないと他の相続人も納得できません。

「生前に、多く金銭をもらっている相続人がいる」

「私は、介護でずっと面倒を看てきた」

といった個別の事情に対しては、以下の「特別受益」「寄与分」を知っておくと役立ちます。

特別受益

生前に、資金援助や財産の贈与を受けている場合、それらを「特別受益」といいます。

特別受益の価額は、法定相続分などで算定した相続分から控除すること

となっています。

簡単にいえば、特別受益は相続の前渡しと考え、相続分から差し引いて計算するということです。

寄与分

寄与分は特別受益とは逆に、亡くなった人に対して、相続人が特別な寄与をしていた場合です。

たとえば、仕送りする、借金を肩代わりする、無償で看病介護をするなどの貢献があった場合、他の相続人と同じ相続分では不公平、と考えられます。

そこで、貢献に見合う分を相続分にプラスするのが寄与分です。

注意点として、寄与分の算出には、明確な証拠が必要となります。主張するためには、他の相続人を説得できる資料が残っていることが必要です。

遺産分割協議で合意に至らない場合は調停や審判となる

「遺産分割協議書の押印を拒否し続けたら、どうなるのか?」

というと、協議が調わなければ、まずは調停で話し合いをするのが一般的です。

▼ 調停とは?

調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。調停手続では、一般市民から選ばれた調停委員が、裁判官とともに、紛争の解決に当たっています。

参考:家事調停 | 裁判所

調停でも合意に至らない場合は、審判に移行して、家庭裁判所にその決定を委ねることになります。

※調停に関しては、以下の記事にて、詳しく解説しています。

相続税の申告期限に要注意

一方、注意したいのが「相続税の申告期限」です。

申告遅れのペナルティを避けたり、優遇措置を受けたりするためには、

「期限までに合意できるよう、自分もできる譲歩をしながら、建設的に落としどころを見つけていく」

というスタンスも、必要になってきます。

相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内

相続税の申告期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。この期限前までに遺産分割協議書を作成しておく必要があります。

申告期限までに適切に手続きしなかった場合の扱いは、「加算税や延滞税がかかる場合がある」と国税庁のWebページに明記されています。

申告期限までに申告をしなかった場合や、実際に取得した財産の額より少ない額で申告をした場合には、本来の税金のほかに加算税や延滞税がかかる場合がありますのでご注意ください。
なお、申告期限までに遺産分割協議が成立しなかった場合は、未分割の申告をしておくと良いでしょう。

出典:No.4205 相続税の申告と納税|国税庁

相続税の優遇措置が受けられなくなる

加えて、相続税のさまざまな優遇措置が受けられなくなる可能性がある点も、痛手です。

そもそも、相続税の税率は、以下のとおりとなっています。

▼ 相続税の速算表

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1,000万円以下10%
3,000万円以下15%50万円
5,000万円以下20%200万円
1億円以下30%700万円
2億円以下40%1,700万円
3億円以下45%2,700万円
6億円以下50%4,200万円
6億円超55%7,200万円

出典:国税庁「No.4155 相続税の税率」

基礎控除額以外に、税額から控除されるものとして、以下が挙げられます。

  • 配偶者の税額軽減(配偶者控除)
  • 未成年者控除
  • 障害者控除
  • 暦年課税に係る贈与税額控除
  • 相続時精算課税に係る贈与税額控除

「相続分を多くしたい」という思いで遺産分割協議書の押印を拒否しても、申告期限を過ぎてしまえば、加算税や延滞税、控除の無効などによって、逆に出費が多くなることも考えられます。

繰り返しになりますが、大局的に見て「よい落としどころ」を見極めることが、大切です。

参考:国税庁「財産を相続したとき」

遺産分割協議書の押印を【他の相続人に拒否された場合】のポイント

続いて、「遺産分割協議書の押印を他の相続人に拒否されている」というケースについて、見ていきましょう。

感情的にならないことが大事

遺産分割協議書の押印を拒否されると、つい感情的になりがちです。

しかし、まずは冷静に、「なぜ相手は拒否しているのか?」と理由を理解するように努めましょう。

というのは、本来なら早期に解決したはずの事案でも、感情的なもつれによって、絶縁状態まで陥ることは珍しくないからです。

親子・兄弟姉妹・親族といった近しい間柄こそ、骨肉の争いとなり、悔恨が残る結果となりやすいことを、あらためて認識しておきましょう。

押印を拒否する理由の例

遺産分割協議書が拒否される場合、その理由として、以下が見られます。

  • 財産を隠しているのではないか?と疑っている
  • 一部の相続人が一方的に話を進めていると感じて、不満
  • 分けにくい財産(不動産など)に関して、話し合いが不十分
  • 特別受益や寄与分に関して、納得できない(※)
  • 実印や印鑑証明書に関する知識が乏しく、手続きが面倒
  • 認知症などを患っていて、手続きを進められない

こういったケースをあらかじめ想定しておくことで、感情的にならず、冷静さを保ちやすくなります。

※特別受益・寄与分については、先ほど「まずは遺言書あるいは法定相続分に基づいた遺産分割を求める 」で触れていますので、ご確認ください。

情報をオープンにして冷静に話し合う

具体的な対応は、それぞれのケースによって異なりますが、すべてのケースに共通して重要なのは、

「情報をオープンにすること」

「冷静に話し合うこと」

の2点です。

単に主張が食い違っているだけでなく、

「自分が知らないところで、隠れてコソコソやられた」

「私をだまそうとしているに違いない」

といった疑心暗鬼が生じると、感情的な対立が深まってしまいます。

疑心暗鬼が生じる隙のないよう、オープンさを心掛けましょう。

加えて、話し合いは、とにかく心を落ち着けて、冷静に進めるようにします。

遺産分割という本筋の主題とは別のところで、

「あんな言い方をするなんて、ひどい」

といった怒りや恨みが生じないよう、注意を払いましょう。

押印拒否の代表的なケースに対する対処法は、以下の記事にて解説しています。あわせてご覧ください。

遺産分割協議書の押印拒否に関する注意点

最後に、遺産分割協議書の押印拒否に関して、注意したいポイントをお伝えします。

感情的な対立があれば弁護士を代理人に選任する

自分たちだけでスムーズに話をまとめるのが難しいと感じたら、こじれる前に、専門家(弁護士)に相談することを強くおすすめします。

「感情的にこじれてしまい、どうしようもなくなってから弁護士へ依頼する」

というケースが多く見られますが、そうなってからでは、関係性の修復が困難となり、絶縁となってしまうこともあります。

深刻な事態になる前に、第三者として専門家を入れたほうがよいでしょう。

相続放棄するなら3ヶ月以内に手続きが必要

“遺産の相続自体”を拒否したい場合には、遺産分割協議書の押印拒否ではなく、相続放棄の手続きが必要となります。

たとえば、相続財産のうち借金が多い場合や、不動産を自分が承継したくない場合などは、相続放棄すると、はじめから相続人ではなかったものとみなされます。

相続放棄には期限があり、相続開始を知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ相続放棄の申述をする必要があります。

詳しくは、以下の記事にてご確認ください。

まとめ

本記事では「遺産分割協議書の押印拒否」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめておきましょう。

遺産分割協議書の押印を【求められたが拒否したい場合】のポイントは、以下のとおりです。

  • 勝手に作成されて納得できないなら拒否するべき
  • まずは遺言書あるいは法定相続分に基づいた遺産分割を求める
  • 押印を拒否し続けて遺産分割協議で合意に至らない場合は調停や審判となる
  • 相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)に注意が必要

遺産分割協議書の押印を【他の相続人に拒否された場合】のポイントは、以下のとおりです。

  • 感情的にならないことが大事
  • 押印を拒否する理由を丁寧に把握する
  • 情報をオープンにして冷静に話し合う

遺産分割協議書の押印拒否に関して、注意したい点として以下が挙げられます。

  • 感情的な対立があれば弁護士を代理人に選任する
  • 相続放棄するなら3ヶ月以内に手続きが必要

遺産分割協議が平行線のまま合意できない場合には、遺産分割調停・審判といった手続きに移ることになります。

裁判所からの呼び出しに応じる必要があり、相続人にとっては負担もあります。できれば早めに弁護士などの専門家に相談し、早期の解決を図ることをおすすめします。

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