公正証書遺言の効力とは?無効になりにくい理由・無効にできる条件

公正証書遺言の効力
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

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「他の自筆証書遺言などよりも、効力が強いんだよね?」

公正証書遺言の効力の強さや、どのような効力があるかを知りたい方は多いのではないでしょうか。

結論からいうと、公正証書遺言の効力は「他の遺言と同じ」ですが、法的に無効になりづらいという特徴を持っています。だからこそ、遺言内容を実現したい人は、公正証書遺言を選ぶことが多いのです。

この記事では、公正証書遺言の効力について、具体的な8つの効力や遺留分との関係などを詳しく解説していきます。

公正証書遺言は、法律を熟知した公証人によって作成されて公証役場で保管されるため、形式不備で無効になる可能性はとても低い遺言形式です。

それでも無効になるケースはどんなものか?という点についてや、公正証書遺言の内容に納得行かない場合の対処法について詳しく説明します。

混乱しがちな公正証書遺言の効力について正しく理解した上で、遺言作成や相続手続きを進めていきましょう。

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目次

公正証書遺言の効力は「他の遺言と同じ」だが法的に無効になりづらい

これから遺言を作成する人にとっても、遺言を遺された側の人にとっても、「公正証書遺言の効力が他と比べて強いのかどうか」が気になる人は多いのではないでしょうか。

結論からいえば、公正証書遺言の効力は他の方式の遺言書と変わりはありません他の方式よりも効力が強い訳ではないのです。

法律で定められた形式や要件を満たしている遺言書であれば、どの方式の遺言書であっても、優劣はありません。自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のどれでも、法的な効力は同じです。

しかしながら、効力の差はなくても、3つの遺言書の中で最も無効になりづらいのは公正証書遺言です。だからこそ、確実に遺言内容を実現したい方は公正証書遺言を選ぶことになります。

以下からは、遺言書の3つの方式を比較した上で、公正証書遺言が他と比べて無効になりづらい3つの理由を解説していきます。

遺言方式作成のポイント注意点・特徴
自筆証書遺言1  遺言者が、全文を書き(パソコンでの作成・代筆は不可)、日付及び氏名を自署・押印し、自分で保管(法務大臣の指定する法務局への保管申請が可能)
2  遺言書の全文に添付する財産目録については、パソコンでの作成、通帳のコピー・登録事項証明書等の添付が可能(ただし、それぞれに遺言者の署名と押印が必要)
1  いつでもどこでも作成でき、内容を誰にも知られない
2  形式の不備で無効になることも
3  開封に家庭裁判所の検認が必要(左記1の法務局保管の遺言書については不要)
公正証書遺言1  遺言者が公証人の面前で遺言内容を口授し、公証人が文書にまとめて作成(2人以上の証人が必要)
2  原本は20年間、公証役場で保管
3  印鑑証明書及び運転免許証などの身元確認の資料が必要
1  秘密裏に作成することはできないが、内容が漏れる心配はない
2  公証人が作成するので、形式不備の可能性が極めて低い
3  開封に家庭裁判所の検認は不要
秘密証書遺言1  遺言者が作成、署名・押印して封筒に入れて封印し、公証人からその存在の証明を受け(2人以上の証人が必要)、自分が保管
2  パソコンでの作成、代筆は可
1  内容の秘密を保持できる
2  形式の不備で無効になることも
3  開封に家庭裁判所の検認が必要

理由1:法律を熟知した公証人によって作成されるから

自筆証書遺言及び秘密証書遺言は遺言書を遺言者自身が作成しますが、公正証書遺言は、法律を熟知した「公証人」が公証役場にて内容を聞き取って作成します。

そのため、自筆証書遺言・秘密証書遺言でよくある「形式不備による無効」となることは考えにくいです。

理由2:公証役場で保管されるから

公証人によって作成された公正証書遺言は、そのまま公証役場で厳重に保管されます。これも、公正証書遺言が無効になりにくい重要なポイントです。

自筆証書遺言については「偽造や改ざんされたものではないか」が論点になることがありますが、公正証書遺言は2人以上の証人の前で公証人が作成してそのまま保管されるため、疑う余地がありません。

理由3:無効になるケースが他の遺言より少ないから

上記のような理由から、公正証書遺言は形式不備になる可能性も、偽造・改ざんが疑われる可能性も低くなります。

そのため、遺言が無効になるケースが他の遺言方式と比べて極端に少なくなります。

詳しくは後述しますが、公正証書遺言が無効と認められるケースは、錯誤(思い違い)があったことや口授を欠いていたことが認められる場合などかなり限定的なケースのみです。

これらが、公正証書遺言の有効性が高いといわれる大きな理由のひとつです。

そもそも公正証書遺言が持つ具体的な効力とは?

ここからは改めて、「公正証書遺言」が持つ効力について基本事項を押さえておきましょう。

民法で定められた「遺言」に法的効力が発生する

そもそもの話となりますが、法的な効力を持つのは、民法に定められた「遺言( ※) 」の方式に従って行われた遺言です。

※「ゆいごん」でも間違いではありませんが、法律用語としては通常「いごん」と読みます。

法律で定められた方式に則っていない遺言書や、いわゆる「遺書(いしょ)」は、自分の気持ちなどを伝える私的な文書と解釈され、「遺言」のような法的効力は持ちません。

遺言書には主に8つの効力がある

具体的な遺言書の効力には主に以下のようなものがあります。遺言書の代表的な効力は「自分の財産を誰にどのくらい渡すかを決められる」というものですが、それ以外にもさまざまな法的効力を持っていることが分かります。

❶誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する
❷特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)
❸遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)
❹特別受益の持ち戻しを免除する
❺婚外子を認知して相続人に加える
❻未成年者の後見人を指定する
❼遺言執行者を指定する
❽祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

8つの効力についてさらに詳しく知りたい方は、「遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き」の記事もぜひ参考になさってください。

逆に言えば、法的効力が及ばない内容について遺言書に書いたとしてもそれらは有効とはなりません。例えば遺言書に事業の継承方法などの希望を記したとしても、希望は相続人に伝わりますが、遺言どおりに執行する法的な効力は発生しません

「法定遺言事項」以外の事柄には効力は及ばない

次に、「法定遺言事項」以外の事柄が遺言書に書かれていた場合、その事柄に関する事項には法的効力がありません。

「遺言は法的効力を持つ」とお伝えしましたが、どのような内容にも効力が認められるではありません。

法的効力が認められる事項のことを「法定遺言事項」といい、大きく以下の3つに分けられます。

  1. 相続について
    相続分の指定、特別受益の免除、遺言執行者の指定 など
  2. 身分について
    子の認知、推定相続人の廃除およびその取消し、後見人の指定 など
  3. 遺産の処分について
    財産の処分(遺贈)、寄付行為、生命保険金受取人指定、信託の設定 など

詳しくは「遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き」にて解説していますので、ご確認ください。

たとえば、

「私の葬儀は行わないでください」

「会社の後継者に長女を指名する」

「家は売却せず長男一家が住むこと」

など、法定遺言事項でないことが書かれていたとしても、法的拘束力はありません。

なお、法定遺言事項以外の事柄が付言として遺言書に書かれるケースはあります。法的拘束力がないというだけで、記載すること自体は禁じられていません。

遺志、遺訓、親族間の交際や葬儀方法に関する事項などの付言への対応(従う/従わないなど)は、残された人たちの自由意思に任されます。

遺言書は何通でも効力を持つが矛盾する場合は後の遺言が有効

遺言書は何通でも作成することができ、法律上の要件を満たしているものは全て法的な効力を持ちます。

たとえば、自筆証書遺言が2通、公正証書遺言が1通ある場合、3通とも法的効力を持ちます。

ただし、複数存在する遺言書の内容が矛盾するときには、後に作られた遺言書(日付が新しい遺言書)が優先され、前に作られた遺言書は撤回されたものとみなされます。

民法1023条で、

〈前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。〉

と定められているためです。

▼ 例

  • 2015年1月1日に作成された遺言書に「A不動産を長男に相続させる」と書いてある。
  • 2022年1月1日に作成された遺言書に「A不動産を三男に相続させる」と書いてある。

→ 後の遺言に従って、A不動産を三男が相続する。

公正証書遺言の効力が及ぶ期間・時効

最後に、公正証書遺言書の効力が及ぶ期間について、見ていきましょう。

公正証書遺言に有効期限はない(時効なし)

民法では、遺言書の効力について、消滅時効などの定めはありません。

公正証書遺言やその他の方式の遺言には、時効がありません。

効力が生じるのは死後

消滅時効については定めがありませんが、効力の発生する時期は、以下のとおり〈遺言者の死亡の時から〉と定められています。

(遺言の効力の発生時期)
第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

出典:民法

公正証書遺言の保存期間はある(原則20年)

一方、公正証書遺言が公証役場に保存されている期間は、公証人法施行規則によって20年となっています。

ただし、実質的には「半永久的に保存」されているケースが多いと考えられます。以下は、日本公証人連合会のWebサイトからの引用です。

Q10.公正証書遺言は、どのくらいの期間、保管されるのですか。

1 公正証書の保存期間に関する定め

公正証書の保存期間は、公証人法施行規則により、20年となっています。さらに、上記規則は、特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間は保存しなければならないと定めています。

2  遺言公正証書の保存期間の運用

遺言公正証書は、上記規則の「特別の事由」に該当すると解釈されています。現在のところ、遺言公正証書については、いわば半永久的に保存している公証役場や、遺言者の生後120年間保存している公証役場等があります。

出典:日本公証人連合会

相続後に遺言書が見つかった場合の対応

遺言書に時効がないとなると、

「相続後に遺言書が見つかったら、どうすればいい?」

という点が気になるところかもしれません。

公正証書遺言についていえば、「相続が終わってから見つかる」というケースは、多くありません。公正証書遺言の有無は公証役場で確認できるためです。

実際に起きやすいのは、公正証書遺言に基づいて遺産分割を行った後に、日付の新しい自筆証書遺言が自宅などから発見されるケースです。

この場合の対応としては、見つかった相続人と受遺者(遺言書によって財産を取得する人)の全員が、

「相続のやり直しはしない」

と合意できれば、遺産分割協議のやり直しをする必要はありません。

相続人・受遺者全員の合意による変更」にてご紹介したとおり、相続人と受遺者の全員の合意があれば、遺言に従わない遺産分割でも問題ないからです。

しかし、合意しない人が1人でもいる場合は、遺産分割協議をやり直すことになります。

見つかった遺言書の隠匿や破棄はできない

遺産分割協議からやり直しとなると気が重いものですが、

「遺言書が見つかったけれど、隠しておこう、捨ててしまおう」

などと考えてはいけません。

先ほどご紹介した「相続人の欠格事由」のとおり、遺言書の隠匿や破棄をすると、相続人としての権利を失ってしまいます。

新しい遺言書が見つかった場合には、速やかに他の相続人らに公開して、対応を協議する必要があります。

遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き」でも解説していますので、あわせてご覧ください。

効力が認められやすい公正証書遺言であっても無効になる6つのケース

前述のとおり、法に定められた形式を守って作成された公正証書遺言であれば、遺言としての法的効力を持ちます。また、他の形式の遺言よりも無効になりにくいのも説明したとおりです。

しかしながら、公正証書遺言でも無効が認められることがあります。どのようなケースで無効になることがあるのか、確認していきましょう。

定められた要件を満たしていない場合

民法の定める遺言は、各方式に定められている要件を具備しない限り無効となります。

よって、方式に違反した公正証書遺言は無効になるのですが、実際には公正証書遺言が方式の違反で無効になることはほとんどありません。

遺言方式作成のポイント注意点・特徴
公正証書遺言1  遺言者が公証人の面前で遺言内容を口授し、公証人が文書にまとめて作成(2人以上の証人が必要)
2  原本は20年間、公証役場で保管
3  印鑑証明及び運転免許証などの身元確認の資料が必要
1  秘密裏に作成することはできないが、内容が漏れる心配はない
2  公証人が作成するので、形式不備で無効になることがない3  開封に家庭裁判所の検認は不要

たとえば、遺言者が自書で作成する「自筆証書遺言」は、日付の書き忘れなどの不備によって無効となることがあります。

しかし、「公正証書遺言」は、公証役場で、法の専門家である公証人が、その権限に基づいて作成する文書です。

公証人の違反行為や不注意などがあれば、形式不備により無効になることもあり得ますが、現実的にはその可能性は極めて低いでしょう。

遺言能力の欠如が認められた場合

公正証書遺言の有効性が裁判で争われるケースで多いのは、「公正証書遺言作成当時における、遺言者の意思能力の有無」を争点とする裁判です。

遺言を行うためには、「15歳以上であること」と「遺言能力」(事物に対する判断力・意思能力)が必要とされています。

(遺言能力)
第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
(略)第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

認知症をはじめとする疾患などにより、公正証書遺言を作成した当時、意思能力が欠如していたと考えられる場合には、無効とされる可能性があります。

遺言無効確認請求訴訟を提起して、裁判所によって遺言能力の欠如が認められ、その公正証書遺言が無効であると確認されれば、公正証書遺言の法的効力は認められません。

詳しくは、以下の記事もご覧ください。

立ち会った証人が欠格事由に該当する者だった場合

公正証書遺言を作成する場合には、証人2名が立ち会う必要があります。この証人が欠格者だった場合には、その遺言は無効となります。

(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

証人が未成年者だった場合や、推定相続人やその家族、受遺者(遺言で指定された相手)やその家族、公証人の家族や4親等以内の親族であった場合など、欠格事由に該当する証人が立ち会っていた場合には無効となります。

口授を欠いていたと認められる場合

公正証書遺言は「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授する」ことが条件として決められています(民法969条)。口授とは、口で直接言って伝えることをいいます。

そのため、公正証書遺言が作成される場合に「口授を欠いていた」と判断されれば、その公正証書遺言は無効となります。

本来であれば、遺言内容を遺言者が公証人に口で伝え、それを公証人が筆記し、遺言者と証人に読み聞かせるか閲覧させて、それぞれの署名と押印を行うのが手順となります。

しかし実務上は、公証人が先に遺言者から聞いていた遺言内容を書面化し、遺言者に読み聞かせるという流れがほとんどです。そのため、遺言者が「はい」と応答できさえすれば公正証書遺言を作成できてしまう場合があります。

これを悪用し、遺言者本人ではない人(例えば相続人である子)が遺言書の文案を作成し、それを遺言者に持たせて作った公正証書遺言は無効になる可能性があります。

詐欺・脅迫・錯誤があった場合

詐欺・脅迫・錯誤によって作成された遺言は無効となりますが、公正証書遺言は本人が公証人に伝える形で行われるため、詐欺・脅迫によるものは起きにくいと考えられます。

起きるとすると「錯誤(思い違いや勘違い)」による公正証書遺言の作成です。

例:錯誤による遺言を認めて遺言を無効とした判決(東京高裁平成25年12月19日判決)
この事例で、被相続人Aは、Aと法定相続人ではないYとの間に、実の親子関係があることを前提に、すべての財産をYに遺贈する旨の公正証書遺言を作成していました。
しかし、Aの死後、DNA鑑定の結果、AとYとの間に血縁関係が認められないことが明らかとなりました。そこで、法定相続人であるXが、Aの遺言はAとYとの間に実の親子関係があることを前提にしているとして、Yに対して、遺言の無効確認を求める訴訟を提起しました。
裁判所は、被相続人Aの遺言における真意は、YがAの実の子であるということを前提としていると判断しました。そして、AとYとの間に実の親子関係が否定された以上、Aが作成した公正証書遺言は錯誤により無効である旨を判断しました。

遺言者の思い違いや勘違いが原因で作成された遺言は、公正証書遺言であっても無効になるケースがあります。

公序良俗に違反している場合

遺言内容が公序良俗に反する(社会通念上許容されない)場合は、公正証書遺言であっても無効となることがあります。

公序良俗に反しているかどうかは状況によっても判断が分かれるため難しいものです。

しかしながら、たとえば「同居している妻子がいるのに、愛人関係を継続することを目的として全財産を譲る旨の遺言を作成したケース」では、遺言が無効となりえます。

公正証書遺言の効力とは関係なく財産を取得できる2つのケース

公正証書遺言の効力とは関係なく、財産を取得できる2つのケースもあるので、解説していきます

  • 遺留分
  • 相続人・受遺者全員の合意による変更

それぞれ見ていきましょう。

遺留分

1つめは「遺留分」です。

遺留分とは、相続財産(遺産)のうち、一定の相続人に保障されている遺産の取得割合のことです。

遺留分に関しては、遺言者であっても、遺言によって自由に処分することはできません。

遺留分を持っている者を「遺留分権利者」といい、配偶者・直系卑属・直系尊属が該当し得ます。

※補足:直系尊属とは父母・祖父母など前の世代で直通する系統の血縁者、直系卑属とは子・孫など後の世代で直通する系統の血縁者を指します。

本文中での説明ではわかりやすく、直系尊属=父母、直系卑属=子として表記します。

遺留分の額は、相続人が誰であるかによって、以下のとおり割合が変わります。

民法の規定は以下のとおりです。

(遺留分の帰属及びその割合)
第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

出典:民法

例:配偶者のみが相続人の場合「遺産の半分」は取得できる

たとえば、遺言者(亡くなった人)に配偶者がいた場合、配偶者の遺留分は2分の1です。

▼ 相続人が「配偶者のみ」の場合:

仮に「私の財産のすべてを母校に遺贈する」と遺言に書かれていたとしても、遺留分権利者である配偶者は、最低限の取り分(=遺留分)として2分の1を取得する権利があります。

遺言で遺留分が侵害された場合の対応方法

遺留分を侵害する遺言が残っていた場合の対応方法は、大きく2つあります。

1つめの方法は、他の相続人、遺留分権利者、受遺者(遺言書により財産を受け取る人)全員で話し合いをすることです(遺産分割協議といいます)。

遺産分割協議で全員が合意すれば、遺言書とは異なる方法での遺産分割が可能となります。

2つめの方法は、「遺留分侵害額請求」をすることです。

これは、遺言者が贈与や遺贈をしたために、自分が相続する財産が遺留分を下回ることになった場合に、贈与や遺贈を受けた者に対して金銭の支払いを請求する手続です。

具体的な手続きステップは「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?請求方法と注意点を解説」にてご確認ください。

遺留分侵害額請求権は侵害を知ったときから1年で時効

注意点としては、遺留分侵害額請求権は行使できる期間が定められており、それを過ぎると時効が成立して請求できなくなることです。

「遺留分の侵害を知ったときから1年」または「相続開始から10年」で消滅時効が成立します。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

出典:民法

遺留分を侵害されている恐れがある場合には、早めの行動が大切です。

より詳しく知りたい方には、以下の記事をおすすめします。

相続人・受遺者全員の合意による変更

前述のとおり、遺言のうち法定遺言事項は法的効力を持ちます。

しかし、これを覆す方法があります。

それは、「相続人・受遺者の全員の合意による、相続分や遺産分割の変更」です。

相続人と受遺者(遺言書によって財産を受け取る人)の全員が合意すれば、遺言に従う必要はありません。

考え方としては、遺言に書かれた内容は、遺言者の意思として尊重するのが原則です。

しかしながら、相続または遺贈された財産は相続人や受遺者の所有となるため、それをどう扱うかは相続人や受遺者の自由だと考えられます。

そこで、「相続人・受遺者の全員による合意」は、遺言の法的効力よりも優先されるのです。

具体的な手続きとしては、協議して合意した内容を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名と実印による捺印をする必要があります。

詳しくは「遺産相続の手続きを徹底解説|期限別の流れと準備するもの」をご確認ください。

公正証書遺言の効力について争いたい場合の3つの選択肢

最後に、「公正証書遺言に納得がいかず争いたい」という場合の3つの選択肢について解説します。

選択肢1:遺言の無効を主張する

公正証書遺言の有効性が疑われる場合は、遺言の無効を主張して争っていきましょう。

具体的には、先ほど紹介した、公正証書遺言が無効になるケースに該当する可能性がある場合です。

公正証書遺言が無効になる5つのケース
・定められた要件を満たしていない場合
・遺言能力の欠如が認められた場合
・立ち会った証人が欠格事由に該当する者だった場合
・口授を欠いていたと認められる場合
・詐欺・脅迫・錯誤があった場合
・公序良俗に違反している場合

まずは他の相続人・受遺者に意見を確認して話し合い、話がまとまらないようであれば「遺言無効確認調停」、調停が成立しなければ、続いて「遺言無効確認訴訟」で決着を付ける流れとなります。

選択肢2:相続人・受遺者全員の同意を得て遺産分割協議を行う

他の相続人・受遺者と意見が合う場合には、相続人・受遺者全員の同意を得て遺産分割協議を行うことも可能です。

先ほども解説した通り、相続人全員と受遺者全員が合意していれば、公正証書遺言の内容に必ずしも従わなくても良いのです。

ただし、遺言で遺産分割協議が禁止されている場合は、遺産分割協議を進めることはできません。また、遺言により遺言執行者が指定されている場合は、遺言者執行者の同意も得る必要があります。

この方法を選択する場合は、「遺言書を無視した遺産分割ができる条件は?罰則・注意点も詳しく解説」の記事もぜひ参考になさってください。

選択肢3:遺留分侵害額請求を行う

自分の遺留分を侵害するような不公平な公正証書遺言がのこされていた場合は、遺留分侵害額請求を行いましょう。

先ほど詳しく解説した通り、遺留分が侵害されている(=遺留分に相当する遺産をもらえていない)場合は、遺留分侵害額請求で取り戻すことが可能です。

遺留分侵害額請求できる権利には時効があり、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年で消滅します。また、相続開始から10年経つと自動的に権利がなくなります。そのため、できるだけ早く請求権を行使するよう気を付けましょう。

請求する場合の詳しい方法は「公正証書遺言でも遺留分は請求できる!手順を分かりやすく解説」をご覧ください。

まとめ

本記事では「公正証書遺言の効力」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめておきましょう。

基本事項として押さえたいポイントはこちらです。

・公正証書遺言の効力は「他の遺言と同じ」だが法的に無効になりづらい
・なぜならば、法律を熟知した公証人によって作成されて公証役場で保管されるから

公正証書遺言が持つ具体的な効力は以下の8つです。

・誰にどのくらい財産を相続・遺贈させるかを指定する
・特定の相続人の相続権を奪う(相続人の廃除)
・遺産の分け方を指定する(遺産分割方法の指定・禁止)
・特別受益の持ち戻しを免除する
・婚外子を認知して相続人に加える
・未成年者の後見人を指定する
・遺言執行者を指定する
・祭祀承継者(仏壇などを守る人)を指定する

公正証書遺言そのものが無効となるケースは、6つ挙げられます。

・定められた要件を満たしていない場合
・遺言能力の欠如が認められた場合
・立ち会った証人が欠格事由に該当する者だった場合
・口授を欠いていたと認められる場合
・詐欺・脅迫・錯誤があった場合
・公序良俗に違反している場合

また、公正証書遺言の効力とは別に、遺留分は存在するので注意しましょう。

公正証書遺言の内容に納得できない場合には、無効を主張するか、相続人・受遺者全員の同意を得て遺産分割協議を行うか、遺留分侵害額請求を行う方法があります。

不明な点があれば、遺言に関して専門的な知識を持つ弁護士に相談したうえで、対応を決めると安心です。

公正証書遺言の効力を正しく把握して、トラブルなく手続きを進められるようにしましょう。

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