弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
「公正証書遺言って、どのような効力があるの?」
自分が相続人や遺言の当事者となったとき、気になる点ではないでしょうか。
公正証書遺言には法的効力がありますが、より強い効力を持つ遺留分の制度や、複数の遺言がある場合の優劣の兼ね合いがあり、きちんと理解しておく必要があります。
この記事では、以下についてわかりやすくまとめました。
混乱しがちな公正証書遺言の効力について正しく理解し、遺言作成や相続手続に役立てていきましょう。
相続の弁護士費用に、新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと7.7%着手金無料プランを用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
相続の弁護士費用に、
新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと
7.7%着手金無料プラン
を用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
まずは「公正証書遺言」の効力について、基本事項から押さえておきましょう。
そもそもの話となりますが、法的な効力を持つのは、民法に定められた「遺言( ※) 」の方式に従って行われた遺言です。
※「ゆいごん」でも間違いではありませんが、法律用語としては通常「いごん」と読みます。
法律で定められた方式に則っていない遺言書や、いわゆる「遺書(いしょ)」は、自分の気持ちなどを伝える私的な文書と解釈され、「遺言」のような法的効力は持ちません。
本記事の主題である「公正証書遺言」は、民法に定められた遺言方式の1つです。
以下は、公正証書遺言を含む3つの遺言方式を、簡単にまとめた表となります。
遺言方式 | 作成のポイント | 注意点・特徴 |
自筆証書遺言 | 1 遺言者が、全文を書き(パソコンでの作成・代筆は不可)、日付及び氏名を自署・押印し、自分で保管(法務大臣の指定する法務局への保管申請が可能) 2 遺言書の全文に添付する財産目録については、パソコンでの作成、通帳のコピー・登録事項証明書等の添付が可能(ただし、それぞれに遺言者の署名と押印が必要) | 1 いつでもどこでも作成でき、内容を誰にも知られない 2 形式の不備で無効になることも 3 開封に家庭裁判所の検認が必要(左記1の法務局保管の遺言書については不要) |
公正証書遺言 | 1 遺言者が公証人の面前で遺言内容を口授し、公証人が文書にまとめて作成(2人以上の証人が必要) 2 原本は20年間、公証役場で保管 3 印鑑・証明身元確認の資料が必要 | 1 秘密裏に作成することはできないが、内容が漏れる心配はない 2 公証人が作成するので、形式不備で無効になることがない 3 開封に家庭裁判所の検認は不要 |
秘密証書遺言 | 1 遺言者が作成、署名・押印して封筒に入れて封印し、公証人からその存在の証明を受け(2人以上の証人が必要)、自分が保管 2 パソコンでの作成、代筆は可 | 1 内容の秘密を保持できる 2 形式の不備で無効になることも 3 開封に家庭裁判所の検認が必要 |
出典:遺産相続と遺言
自筆証書遺言・秘密証書遺言は、遺言書を遺言者自身が作成しますが、公正証書遺言は、公証役場にて公証人が作成し、原本は公証役場で保管されます。
よって、公式証書遺言が、形式不備によって無効となることは、基本的にありません。
遺言が無効になるケースについては「遺言 無効」にて詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
法律で定められた形式や要件を満たしている遺言書であれば、どの方式の遺言書であっても、優劣はありません。
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のどれでも、法的な効力は同じです。
遺言書は何通でも作成することができ、法律上の要件を満たしているものは全て法的な効力を持ちます。
たとえば、自筆証書遺言が2通、公正証書遺言が1通ある場合、3通とも法的効力を持ちます。
ただし、複数存在する遺言書の内容が矛盾するときには、後に作られた遺言書(日付が新しい遺言書)が優先され、前に作られた遺言書は撤回されたものとみなされます。
民法1023条で、
〈前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。〉
と定められているためです。
▼ 例
→ 後の遺言に従って、A不動産を三男が相続する。
公正証書遺言として残された内容に、納得がいかないと思われることは珍しくありません。
公正証書遺言は、形式面については公証役場でチェックされますが、内容の妥当性については、ほとんど確認されないからです。
以下のセクションで、公正証書遺言の内容を争うことができる場合について、ご説明します。
前述のとおり、法に定められた形式を守って作成された公正証書遺言であれば、遺言としての法的効力を持ちます。
しかし一方で、公正証書遺言であっても法的効力を持たないケースもあります。
具体的には以下の4つが挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
1つめは「遺留分」です。
遺留分とは、相続財産(遺産)のうち、一定の相続人に保障されている遺産の取得割合のことです。
遺留分に関しては、遺言者であっても、遺言によって自由に処分することはできません。
遺留分を持っている者を「遺留分権利者」といい、配偶者・直系卑属・直系尊属が該当し得ます。
※補足:直系尊属とは父母・祖父母など前の世代で直通する系統の血縁者、直系卑属とは子・孫など後の世代で直通する系統の血縁者を指します。
本文中での説明ではわかりやすく、直系尊属=父母、直系卑属=子として表記します。
遺留分の額は、相続人が誰であるかによって、以下のとおり割合が変わります。
民法の規定は以下のとおりです。
(遺留分の帰属及びその割合)
出典:民法
第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
二 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
たとえば、遺言者(亡くなった人)に配偶者がいた場合、配偶者の遺留分は2分の1です。
▼ 相続人が「配偶者のみ」の場合:
仮に「私の財産のすべてを母校に遺贈する」と遺言に書かれていたとしても、遺留分権利者である配偶者は、最低限の取り分(=遺留分)として2分の1を取得する権利があります。
遺留分を侵害する遺言が残っていた場合の対応方法は、大きく2つあります。
1つめの方法は、他の相続人、遺留分権利者、受遺者(遺言書により財産を受け取る人)全員で話し合いをすることです(遺産分割協議といいます)。
遺産分割協議で全員が合意すれば、遺言書とは異なる方法での遺産分割が可能となります。
2つめの方法は、「遺留分侵害額請求」をすることです。
これは、遺言者が贈与や遺贈をしたために、自分が相続する財産が遺留分を下回ることになった場合に、贈与や遺贈を受けた者に対して金銭の支払いを請求する手続です。
具体的な手続きステップは「遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?請求方法と注意点を解説」にてご確認ください。
注意点としては、遺留分侵害額請求権は行使できる期間が定められており、それを過ぎると時効が成立して請求できなくなることです。
「遺留分の侵害を知ったときから1年」または「相続開始から10年」で消滅時効が成立します。
(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
出典:民法
第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。
遺留分を侵害されている恐れがある場合には、早めの行動が大切です。
より詳しく知りたい方には、以下の記事をおすすめします。
次に、「法定遺言事項」以外の事柄が遺言書に書かれていた場合、その事柄に関する事項には法的効力がありません。
「遺言は法的効力を持つ」とお伝えしましたが、どのような内容にも効力が認められるではありません。
法的効力が認められる事項のことを「法定遺言事項」といい、大きく以下の3つに分けられます。
詳しくは「遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き」にて解説していますので、ご確認ください。
たとえば、
「私の葬儀は行わないでください」
「会社の後継者に長女を指名する」
「家は売却せず長男一家が住むこと」
など、法定遺言事項でないことが書かれていたとしても、法的拘束力はありません。
なお、法定遺言事項以外の事柄が付言として遺言書に書かれるケースはあります。法的拘束力がないというだけで、記載すること自体は禁じられていません。
遺志、遺訓、親族間の交際や葬儀方法に関する事項などの付言への対応(従う/従わないなど)は、残された人たちの自由意思に任されます。
前述のとおり、遺言のうち法定遺言事項は法的効力を持ちます。
しかし、これを覆す方法があります。
それは、「相続人・受遺者の全員の合意による、相続分や遺産分割の変更」です。
相続人と受遺者(遺言書によって財産を受け取る人)の全員が合意すれば、遺言に従う必要はありません。
考え方としては、遺言に書かれた内容は、遺言者の意思として尊重するのが原則です。
しかしながら、相続または遺贈された財産は相続人や受遺者の所有となるため、それをどう扱うかは相続人や受遺者の自由だと考えられます。
そこで、「相続人・受遺者の全員による合意」は、遺言の法的効力よりも優先されるのです。
具体的な手続きとしては、協議して合意した内容を「遺産分割協議書」にまとめ、全員が署名と実印による捺印をする必要があります。
詳しくは「遺産相続の手続きを徹底解説|期限別の流れと準備するもの」をご確認ください。
遺言書で相続分を指定されていたとしても、相続できない場合があります。
遺産を相続する相続人には、満たすべき資格があるためです。
たとえば、遺言書に関して詐欺・強迫・偽造・変造・破棄・隠匿などを行った人や、被相続人や他の相続人を殺したり殺そうとしたりして確定判決を受けた人は、遺言書で相続分を指定されていたとしても、遺産を受け取ることはできません。
具体的には、以下のとおり5つの欠格事由が定められています。
(相続人の欠格事由)
出典:民法
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
続いて、公正証書遺言そのものが無効となるケースについて、見ていきましょう。
民法の定める遺言は、各方式に定められている要件を具備しない限り無効となります。
よって、方式に違反した公正証書遺言は無効になるのですが、実際には公正証書遺言が方式の違反で無効になることはほとんどありません。
前述の概要を再掲しましょう。
遺言方式 | 作成のポイント | 注意点・特徴 |
公正証書遺言 | 1 遺言者が公証人の面前で遺言内容を口授し、公証人が文書にまとめて作成(2人以上の証人が必要) 2 原本は20年間、公証役場で保管 3 印鑑・証明身元確認の資料が必要 | 1 秘密裏に作成することはできないが、内容が漏れる心配はない 2 公証人が作成するので、形式不備で無効になることがない 3 開封に家庭裁判所の検認は不要 |
出典:遺産相続と遺言
たとえば、遺言者が自書で作成する「自筆証書遺言」は、日付の書き忘れなどの不備によって無効となることがあります(詳しくは「遺言書 無効」をご確認ください)。
しかし、「公正証書遺言」は、公証役場で、法の専門家である公証人が、その権限に基づいて作成する文書です。
公証人の違反行為や不注意などがあれば、形式不備により無効になることもあり得ますが、現実的にはその可能性は極めて低いでしょう。
それでも、公正証書遺言の有効性が裁判で争われるケースがあります。
多いのは、「公正証書遺言作成当時における、遺言者の意思能力の有無」を争点する裁判です。
遺言を行うためには、「遺言能力」が必要とされています。
(遺言能力)
第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
(略)第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
出典:民法
15歳以上であることと、事物に対する判断力(意思能力)が必要です。
認知症をはじめとする疾患などにより、公正証書遺言を作成した当時、意思能力が欠如していたと考えられる場合には、遺言無効確認請求訴訟を提起します。
裁判所によって、遺言能力の欠如が認められ、その公正証書遺言が無効であると確認されれば、公正証書遺言の法的効力は認められません。
詳しくは、以下の記事もご覧ください。
最後に、公正証書遺言書の効力が及ぶ期間について、見ていきましょう。
民法では、遺言書の効力について、消滅時効などの定めはありません。
公正証書遺言やその他の方式の遺言には、時効がありません。
消滅時効については定めがありませんが、効力の発生する時期は、以下のとおり〈遺言者の死亡の時から〉と定められています。
(遺言の効力の発生時期)
出典:民法
第985条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
一方、公正証書遺言が公証役場に保存されている期間は、公証人法施行規則によって20年となっています。
ただし、実質的には「半永久的に保存」されているケースが多いと考えられます。以下は、日本公証人連合会のWebサイトからの引用です。
Q10.公正証書遺言は、どのくらいの期間、保管されるのですか。
1 公正証書の保存期間に関する定め
公正証書の保存期間は、公証人法施行規則により、20年となっています。さらに、上記規則は、特別の事由により保存の必要があるときは、その事由のある間は保存しなければならないと定めています。
2 遺言公正証書の保存期間の運用
遺言公正証書は、上記規則の「特別の事由」に該当すると解釈されています。現在のところ、遺言公正証書については、いわば半永久的に保存している公証役場や、遺言者の生後120年間保存している公証役場等があります。
出典:日本公証人連合会
遺言書に時効がないとなると、
「相続後に遺言書が見つかったら、どうすればいい?」
という点が気になるところかもしれません。
公正証書遺言についていえば、「相続が終わってから見つかる」というケースは、多くありません。公正証書遺言の有無は公証役場で確認できるためです。
実際に起きやすいのは、公正証書遺言に基づいて遺産分割を行った後に、日付の新しい自筆証書遺言が自宅などから発見されるケースです。
この場合の対応としては、見つかった相続人と受遺者(遺言書によって財産を取得する人)の全員が、
「相続のやり直しはしない」
と合意できれば、遺産分割協議のやり直しをする必要はありません。
「相続人・受遺者全員の合意による変更」にてご紹介したとおり、相続人と受遺者の全員の合意があれば、遺言に従わない遺産分割でも問題ないからです。
しかし、合意しない人が1人でもいる場合は、遺産分割協議をやり直すことになります。
遺産分割協議からやり直しとなると気が重いものですが、
「遺言書が見つかったけれど、隠しておこう、捨ててしまおう」
などと考えてはいけません。
先ほどご紹介した「相続人の欠格事由」のとおり、遺言書の隠匿や破棄をすると、相続人としての権利を失ってしまいます。
新しい遺言書が見つかった場合には、速やかに他の相続人らに公開して、対応を協議する必要があります。
「遺言書の8つの効力を解説!有効な遺言書の書き方チェックリスト付き」でも解説していますので、あわせてご覧ください。
本記事では「公正証書遺言の効力」をテーマに解説しました。要点を簡単にまとめておきましょう。
基本事項として押さえたいポイントはこちらです。
公正証書遺言の効力が及ばない4つのケースとして、以下を解説しました。
公正証書遺言そのものが無効となるケースは、2つ挙げられます。
公正証書遺言の効力の及ぶ期間は、以下のとおりです。
不明な点があれば、遺言に関して専門的な知識を持つ弁護士に相談したうえで、対応を決めると安心です。
公正証書遺言の効力を正しく把握して、トラブルなく手続きを進められるようにしましょう。