公正証書遺言でも遺留分は請求できる!手順を分かりやすく解説

公正証書遺言でも遺留分は請求できる
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

法的に有効になりやすい「公正証書遺言」が残されていた場合、「遺留分も請求できないのではないか」と考える方がいるかもしれません。しかし、それは間違いです。

結論から言うと、公正証書遺言であっても侵害されている遺留分を請求できます。なぜならば、遺留分を請求する権利は、遺言によっても奪えないからです。

この記事では、なぜ公正証書遺言より遺留分が優先されるのかを分かりやすく解説していきます。

また、後半では公正証書遺言が残されていた場合に、侵害されている遺留分を請求する方法(遺留分侵害額請求のやり方)をお伝えします。

遺留分の請求は、近親者に与えられた正当な権利です。ただし請求できる権利は最短1年で時効消滅します。後悔しないためには、この記事を読んだらできる限り早めに行動することをおすすめします。

遺留分(いりゅうぶん)とは、一定の相続人(配偶者・子ども・親)に最低限保障される相続財産のことです。この遺留分は、遺言によっても奪うことができません。
遺留分についての基礎的な知識を知りたい方は「遺留分とは?言葉の意味や請求方法をどこよりも分かりやすく解説」の記事をご覧ください。
目次

公正証書遺言であっても遺留分は請求できる

公正証書遺言であっても、遺留分が侵害されていれば「遺留分侵害額請求」ができます

なぜならば、遺留分侵害額請求は「本来財産を相続できるはずの近親者を救済するため」の制度であり、たとえ有効な公正証書遺言があったとしてもそれより優先されるものだからです。

遺言は法定相続分より優先されますが、遺留分を請求する権利は遺言よりも優先されます。優先される順番に並べると、遺留分→遺言→法定相続分となります。

ただし、遺留分は請求しないともらえないので、「侵害されている遺留分の請求方法(3ステップで解説)」を参考に忘れずに請求しましょう。

「遺言が有効だから遺留分侵害額請求できない」は間違い

普通方式の遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあり、公正証書遺言は有効性が認められやすい遺言とされています。なぜならば、法律の知識がある公証人が作成し、公証役場で保管されるからです。

そのため、「有効性の高い公正証書遺言なら、遺留分も請求されないだろう」「遺言が有効なんだから、遺留分は請求できないでしょ?」と勘違いしている方がいるかもしれません。

しかし実際には、遺言の有効性と遺留分には関係がないのです。遺言能力のある遺言者が残した遺言は、遺言の方式に関する要件を満たしていれば有効です。それでも遺言書が遺留分を侵害している場合があるのです。

「この公正証書遺言は有効なのだから、遺留分は無いよ」と言われるかもしれませんが、それは間違いです。

公正証書遺言については、当法人の弁護士が動画で解説しておりますので、こちらもご覧ください。

「遺言は最優先されるもの」は間違い

遺言は、遺言者が最期に残す願望や意志であり、「優先すべきもの」という考えは間違ってはいません。しかし遺言者の意思と同じように、遺された人の権利も配慮されるべきです。

遺留分は、本来であればその遺産を受け取れるはずだった相続人を救済する制度です。そのため、遺言よりも優先されます

たとえ遺言書の付言事項に「遺留分は請求しないように」と記載があったとしても、そのことによって遺留分を請求できなくなることはありません。どんな状況であっても、遺留分を請求する権利はなくなりません。

他の相続人から「遺言を尊重して遺留分を請求しないで」と言われるかもしれませんが、「法的には請求する正当な権利がある」ことを覚えておきましょう。

ただし、侵害されている遺留分を取り戻すには「遺留分侵害額請求」を行わなければなりません。この方法について次章で解説していきます。

侵害されている遺留分の請求方法(3ステップで解説)

公正証書遺言によって侵害されている遺留分を請求するには、「遺留分侵害額請求」という手続きを行います。この請求手続きの進め方を、3ステップで解説します。

まずは侵害されている遺留分がどのくらいかを計算

まずは、侵害されている遺留分がいくらになるかを正しく把握しましょう。

遺留分額の計算式は、【遺留分の基礎となる財産】×【個別の遺留分の割合】で表されます。

遺留分額=【遺留分の基礎となる財産】×【個別の遺留分の割合】

例えば、遺留分の基礎となる財産が3億円で、遺留分割合が2分の1なら、遺留分=3億円×1/2=1.5億円となります。この場合、公正証書遺言で指定された相続分が1.5億円未満なら、遺留分が侵害されていることになります。

例えば、公正証書遺言であなたに指定された相続分が1億円しかないのであれば、侵害されている遺留分=1.5億円-1億円=5,000万円となり、5,000万円について遺留分侵害額請求を行うことができます。請求先は、遺産を受け取っている相手らです。

なお、遺留分の基礎となる財産の評価額には、遺産だけでなく、生前に行われた贈与なども含まれます。

遺留分の基礎となる財産に含まれるもの

❶不動産・金融資産・動産などのプラスの遺産
❷生前贈与(相続開始前1年以内)
❸相続人に対する特別受益にあたる生前贈与(相続開始前10年以内)
❹遺留分を侵害すると知って行われた贈与(期間制限なし)
❺遺留分権利者に損害を与えることを知って行われた不相当な対価による有償行為(期間制限なし)

  ❶+❷+❸+❹+❺から、負債(借金など)を差し引く

遺留分の計算方法については、「遺留分の計算方法|3ステップで誰でも遺留分を求められる【計算例付き 」の記事でさらに詳しく解説していますので参考にしてください。

遺留分の計算方法は複雑で、遺産金額や贈与額を正確に計算するのは難しいものです。迷うようなら弁護士に依頼して相談に乗ってもらうと良いでしょう。

配達証明付き内容証明郵便で遺留分侵害額請求をする

侵害されている遺留分の金額が分かったら、遺留分を侵害している相手に対して遺留分侵害額請求を行います。

実は遺留分侵害額請求には決まった様式がなく、口頭で「遺留分を請求します」と意思表示しても構いません。しかしながら、遺留分侵害額請求できる権利は最短1年で時効が完成します。後で「言った」「言わない」という話にならないよう、証拠を残しておくのがおすすめです。

※時効については、「遺留分侵害額請求には時効があるから注意」で改めて詳しく解説します。

そこでおすすめなのが「配達証明付き内容証明郵便」です。これなら「請求した日がいつか」「相手に到達したことが証明できる」ため、時効完成前に遺留分侵害額請求を行った証拠を残せます。

内容証明郵便の内容には、「遺留分侵害額請求を行使する意思」や日時、請求する相手が分かるよう、最低限、以下の要素が含まれる書面を作りましょう。

・請求する人の名前(あなた)
・請求する相手(送付先)
・請求の対象となる遺贈・贈与・遺言の内容
・遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する旨
・請求する日時

配達証明付き内容証明郵便を送った後、相手方との協議がまとまったら、合意書を取り交わして、侵害された遺留分を返還してもらいます。

まとまらなければ調停・訴訟で解決を試みる

内容証明郵便を送っても話がまとまらず、遺留分侵害額の返還がなされない場合は、遺留分侵害額の請求調停や請求訴訟に場所を移すことになります。

請求調停第三者が当事者間に入って「話し合い」で解決を図ること
請求訴訟地方裁判所または簡易裁判所で訴訟を行う
裁判所から提示された和解案に合意するか、判決が言い渡されることで終了となる

請求訴訟では、和解でも判決でも強制執行が可能となるため、相手の財産を差し押さえることも可能となります。

なお、遺留分侵害額請求を行った後、裁判上の請求を行わずにいた場合、5年で「金銭請求権」の時効を迎えます。時効を迎えた後、相手方に消滅時効を援用(時効を主張して時効の利益を受けること)されてしまうと、請求が難しくなるため注意しましょう。

遺留分侵害額請求には時効があるから注意

公正証書遺言の内容に不公平感を抱いているならば、なるべく早くに遺留分侵害額請求することをおすすめします。なぜならば、遺留分侵害額請求には時効があるからです。

遺留分侵害額の請求権の時効は【1年】

遺留分侵害額請求権(遺留分侵害額を請求できる権利)には、1年の消滅時効と10年の除斥期間があります。

遺留分侵害額請求権の 消滅時効(1年)・相続が開始したこと
・遺留分が侵害されていること
  の両方を知ってから1年
遺留分侵害額請求権の 除斥期間(10年)相続が開始してから(被相続人が亡くなってから)10年

第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

民法1048条(遺留分侵害額請求権の期間の制限)

遺留分侵害額請求の消滅時効は、「相続が開始したこと」「遺留分が侵害されていること」を知った時から1年です。これを過ぎると、侵害された遺留分を請求する権利が消滅します。

また、もし被相続人が亡くなったことを知らなくても、相続開始(=被相続人が亡くなった時)から10年で遺留分侵害額請求できる権利が自動的に消滅します。

葬儀や相続税の申告などの手続きに追われているうちに時効にならないよう、できる限り早めに遺留分侵害額請求権を行使しましょう。

遺留分侵害額請求した後の金銭請求権の時効は【5年】

「遺留分侵害額請求権を行使したから安心」とはならないため、注意しましょう。

遺留分侵害額請求を行うと、侵害されている遺留分を金銭で支払うように求める「金銭債権」が発生します。そして、この金銭債権の消滅時効は5年と定められているのです。

第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

民法166条(債権等の消滅時効)
起算点遺留分侵害額請求を行った時
消滅時効5年間
※2020年3月31日以前に遺留分侵害額請求を行っている場合は10年

※2020年4月1日施行の改正法で金銭債権の消滅時効のルールが変わっており、2020年3月31日以前に遺留分侵害額請求を行っていた場合の消滅時効は10年となります。

「遺留分侵害額請求したのに相手がなかなか払ってくれない」という場合は、金銭債権の消滅時効が完成する前に、金銭の支払いを求める裁判を起こすのが有効です。

時効が完成してしまうと侵害されている遺留分を取り戻すことができなくなるので、必ず時効に注意しながら動くようにしてください。

まとめ

この記事では、公正証書遺言と遺留分の関係、侵害されている遺留分を請求する方法について解説しました。

もう一度、この記事の内容を簡単にまとめてみます。結論から言うと、法的に有効になりやすい公正証書遺言であっても、遺留分が侵害されている場合は「遺留分侵害額請求」ができます。

なぜならば、遺留分は本来ならば相続財産を受け取ることができるはずだった近親者を救済するために設けられた法的措置だからです。公正証書遺言でも自筆証書遺言でも、遺留分までは奪えません。

遺留分を侵害しない内容の遺言なら、トラブルにならなかったはずです。しかし、遺留分を侵害するような内容でも遺言書自体は有効になってしまうため、このようなトラブルに発展してしまうことがあります。

もし公正証書遺言によって遺留分を侵害されている場合は、法的に認められた遺留分を取り戻すために、「遺留分侵害額請求」を行いましょう。遺留分は正当な権利なので、時効を迎える前に行使し、後悔がないようにしてください。

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