長男に独り占めさせない!相続で遺産を守る方法と今すぐすべきこと

相続で長男に独り占めさせない
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

「長男が父の遺産を全て相続しようとしているのでどうにかして止めたい。そもそも遺産の独り占めは可能なのか。」

「長男が独り占めした遺産を取り戻す方法を知りたい」

亡くなった親の遺産は兄弟間で平等に分けるべきであり、長男だけが遺産を独り占めするなんて不公平ですよね。

相続が発生した場合、誰がどれだけ相続するかは民法に定めがあり、他の相続人の同意なしに長男が遺産を独り占めすることは認められません

しかし、長男が聞く耳を持たず、無理やり相続を進めようとするケースも少なくありません。そのような場合、まずは口座を凍結して預貯金等を引き出せないようにしましょう。

その上で、長男が独り占めしようとするケース別に下記の対処法を実行してください。

どのケースにおいてもまずは長男との話し合いから始めますが、長男が同意しない場合は最終的には調停での解決を図ることになります。

しかし、調停は煩雑で時間のかかる手続きであり、心身ともに負担が大きくかかるものです。

また、上記対処法の中には専門的な知識や経験が求められ、自身の力だけではどうしても難しいものがあります。適切に対処できなかった結果、長男の遺産独り占めを止められなかったという事態を招きかねません

対応が難しい部分は弁護士に依頼するなど、専門家の力を借りながら無理なく進めていくようにしましょう。

本記事では長男の遺産独り占めについて下記のポイントをお伝えしていきます。

                 本記事で分かること
・遺産の独り占めが認められない理由
・長男に遺産を独り占めさせないための予防法・対処法(自分で行う場合)
・弁護士に任せる場合の依頼方法
・独り占めしようとした長男を罰せられるかどうか

本記事を読めば相続と財産管理について正しい知識を身に付け、長男の独り占めを防ぐことができるようになります

また、すでに独り占めが起きている場合は、隠された財産を突き止めて取り戻すことができるようになります

ぜひ最後までご覧ください。

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目次

【原則】長男の遺産独り占めは認められない

他の相続人が合意していないのにも関わらず、一人の相続人が遺産を独り占めしてはいけません

まずは遺産の独り占めが認められない法的な根拠と、例外的に独り占めという結果になるケースについて理解しましょう。

【遺産の独り占めは認められない】

・相続人と相続割合は民法で定められている
・遺言書がある場合でも遺留分を請求できる
・【例外】長男が独り占めするケースもある

相続人と相続割合は民法で定められている

財産を有する人が亡くなったとき、誰がどれだけ相続するかは民法で下記のとおり定められています。

(共同相続の効力)

第898条

 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

第899条 

 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
(法定相続分)

第900条

 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。

1 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。

2 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。

3 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。

4 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

民法 | e-Gov法令検索

この規定に定められた相続人のことを法定相続人、相続割合のことを法定相続分と呼びます。

法定相続分の具体的な割合について下記一覧にまとめました。

【相続人の法定相続分】

相続人

法定相続分割合

配偶者

直系血族

配偶者

子ども

父母

兄弟姉妹

子ども

1/2

1/2

父母

2/3

1/3

兄弟姉妹

3/4

1/4

子ども

1

父母

1

兄弟姉妹

1

※子どもや兄弟姉妹が複数人いる場合は人数で均等割します。例えば配偶者と子ども2人が相続人の場合は、子ども一人につき法定相続分は1/2÷2人=1/4となります。

遺言のない場合、遺産分割は原則として上記表の割合に従って進めていきます。

相続人全員が同意している場合は、上記表以外の分割方法で相続を行っても問題ありませんが、一人でも納得していない人がいる場合に法定相続分を無視した相続を行うことは法律に反することになります。

遺言書がある場合でも遺留分を請求できる

遺言書がある場合、亡くなった人の意思は法定相続より優先されるため、遺言の内容に従って相続を行うことになります。

では「全財産を長男に譲る」という遺言が残されていた場合、遺産は長男に独り占めされてしまうのかというと、そうとは限りません。

このような極端な内容の遺言の場合、遺産を全くあるいはわずかしか取得できなかった相続人は、長男に対して遺留分侵害額を請求することができます

遺留分とは、法定相続人(※)に保証されている最低限度の相続分のことです。亡くなった人の家族の生活を保障するためにこの制度が設けられました。

※配偶者・子どもなど直系卑属・父母など直系尊属(兄弟姉妹、甥姪は対象外)

(遺留分侵害額の請求)

第1046条

 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

民法 | e-Gov法令検索

遺留分を請求することにより、長男による遺産独り占めを防ぐことができます。

遺留分の額や請求方法については遺留分を請求するで解説していきます。

【例外】長男が独り占めするケースもある

ここまで「他の相続人の同意がない限り、長男の独り占めは認められない」と伝えてきましたが、下記のケースでは長男が独り占めする結果になります。

【例外:長男が独り占めするケース】

・元々相続人が長男一人である
・他の相続人が相続放棄などで相続権を喪失する
・遺産分割協議で他の相続人が長男が全財産を取得することに合意した

■元々相続人が長男一人である

そもそも相続人が長男一人しかいない場合は長男が全ての遺産を独り占めすることになります。

例1)父の遺産相続:母はすでに他界、子どもが長男しかいない。
例2)父の遺産相続:母はすでに他界、子どもは長男と次男だが、次男がすでに他界して次男に子どもがいない。

■他の相続人が相続放棄などで相続権を喪失する

他の相続人が相続放棄をしたり、あるいは相続廃除(※)を受けたりして相続人の地位を喪失した場合、結果的に長男一人だけが相続人となるこがあります。

※相続廃除:相続人が亡くなった人に対して虐待など重大な非行を行ったと認められた場合に相続人の地位を奪うこと

例1)父の遺産相続:母が相続放棄、子どもが長男しかいない。
例2)父の遺産相続:母はすでに他界、子どもは長男と次男だが、次男が相続の廃除を受けた。

■遺産分割協議で他の相続人が長男が全財産を取得することに合意した

複数の相続人で遺産分割協議を行った結果、長男が全財産を相続することに全員が合意すれば長男が遺産を全て取得できます。

例1)父の遺産相続:長男が家業を継ぐことを条件に、他の相続人である母・次男・三男は長男が全財産を継ぐことに同意した。
例2)父の遺産相続:母はすでに他界。長男が父を同居介護していたため、他の相続人である次男・三男は自分たちの相続分も長男に譲った。

長男の遺産独り占めを防ぐためにはすぐに口座を凍結すべき

他の相続人の同意なしに長男が遺産を独り占めすることは認められませんが、実際には長男が話を全く聞かず独り占めをしようとするケースも少なくありません。

そこでここでは長男の独り占めに気づいたときにまずすべきこととして「口座を凍結する」ことについてお伝えしていきます。

親が亡くなったときはただちに金融機関に連絡して親名義の口座を凍結してもらいましょう。

口座を凍結することにより、たとえ長男が亡くなった親のキャッシュカードを預かっていて暗証番号も知っていたとしても、勝手に預貯金を引き出すことができなくなります。

これにより遺産の独り占めや以降の被害拡大を防止する効果があります。

ここでは口座凍結について下記内容を紹介していきます。

【口座凍結について】

・口座を凍結する方法
・口座凍結のときにすべきこと(残高証明書と取引明細の取得)
・金融機関が分からない場合に特定する方法

なお、ここでは金融機関に預けてある預貯金について解説しますが、有価証券の場合もすべきことや手続きは同じです。

口座を凍結する方法

口座を凍結するためには金融機関の窓口で名義人が亡くなった事実を伝える必要があります。

人が亡くなると自動的に口座が凍結されると思っている人も多いと思いますが、そうではありません。金融機関が死亡の事実を認識して初めて口座が凍結されます。

凍結の手続きの際は下記書類が必要になることがあります。金融機関によって異なるので、事前にHPか電話で確認するようにしましょう。

【凍結手続きに必要な書類】

・亡くなった人の戸籍(除籍)謄本
・窓口に来た人の戸籍謄本(相続関係を証明するため)
・窓口に来た人の本人確認書類(顔写真付き)

亡くなった人の戸籍(除籍)謄本の取得方法は下表を参考にしてください。

【亡くなった人の戸籍(除籍)謄本の取得方法】

申請できる人配偶者または直系の血族
申請先亡くなった人の最終本籍地の役所






必要書類
<窓口>
・戸籍交付申請書(窓口またはHPから入手)
・申請する人の戸籍謄本(相続関係を証明するため)
・印鑑
・本人確認書類
・委任状(申請する人が亡くなった人の配偶者・直系血族以外の場合)
<郵送の場合>
・戸籍交付申請書
・定額小為替(手数料分を郵便局で入手)
・申請する人の戸籍謄本のコピー(相続関係を証明するため)
・本人確認書類のコピー
・委任状(申請する人が亡くなった人の配偶者・直系血族以外の場合)
・返信用封筒(切手貼付)
手数料戸籍謄本…1通450円
除籍謄本…1通750円
発行までの期間<窓口>即日
<郵送>~1週間

口座凍結のときにすべきこと(残高証明書と取引明細書の取得)

口座凍結の手続きの際には残高証明書と取引明細書のいずれか、または両方を取得しておくことをおすすめします。

■残高証明書

残高証明書とは特定日時点の残高を証明するものです。取得することで財産隠しや使い込みを見つけられる可能性があります。例えば死亡日と申請日の2通を取得すれば、死亡後に引き出しがあったか否か突き止めることができます。

■取引明細書

取引明細書は取引履歴を一覧にしたものです。通帳があれば必要ありませんが、ない場合は取引明細書を取得することで生前の財産隠しや使い込みまで見つけられる可能性があります。財産調査の場合5年分取得することが一般的です。

申請に必要な書類と費用は下記を参考にしてください。金融機関によって異なるので、事前にHPか電話で確認するようにしましょう。

【残高証明書・取引明細書申請方法】



必要書類
・亡くなった人の戸籍(除籍)謄本
・申請者の戸籍謄本(相続関係を証明するため)
・申請者の本人確認書類(顔写真付き)
・申請者の実印
・申請者の印鑑証明書
手数料(目安)残高証明書…550円~1,100円/通
取引明細書…約5,500円/5年分

金融機関が分からない場合に特定する方法

亡くなった人がどこの金融機関と取引しているか分からない場合は金融機関の特定から取り掛かりましょう。

亡くなった人の自宅から通帳やキャッシュカードが見つかれば簡単ですが、既に長男が持ち去っている可能性もあります。

その場合は下記の手がかりを探してみましょう。

【金融機関を特定する手がかりとなるもの】

・金融機関からもらったノベルティ
・金融機関から届いた郵便物
・パソコン・スマホのアプリ
・メール 等

※アプリやメールの中身まで開いて見ることは電気通信事業法や不正アクセス禁止法に抵触する恐れがありますので注意してください。

それでも見つからない場合は地道な作業になりますが、近くの金融機関に片っ端から問い合わせるという方法もあります。

【ケース別】長男に遺産を独り占めさせない方法(自分でする場合)

ここからは長男が遺産を独り占めしようとするケース別に対処法を紹介していきます。

長男が独り占めを実現させようとするケースは主に下記3つに分類され、それぞれ対処法が異なってきます。

【長男に遺産を独り占めさせない方法】

長男が全財産を取得すると主張してきた場合
遺言で「長男に全財産を渡す」と書かれていた場合
長男が遺産を隠した可能性がある場合

自身の状況にあてはまるケースを選んで該当箇所へお進みください。

以下では自身で対処する場合の方法をお伝えしていきますが、中には専門知識や煩雑な手続き、多大な時間を要する項目もあるため、実際に自分で全て行うのは難しい部分があります。

弁護士に依頼する方法についても紹介していますので、自分では手に負えないと思う場合は弁護士への依頼をご検討ください。

全てを依頼するのはなく、自分でできそうなところは自分でやって、部分的に依頼するという方法もあります。

長男が全財産を取得すると主張してきた場合の対処法

親が亡くなったときに長男が「長男である自分が全財産を相続する」と主張してきた場合は、次の手順で対処していきましょう。

①遺産分割協議をする

②遺産分割調停・審判を申し立てる

①遺産分割協議をする

まずは相続人全員で遺産分割協議を開き、長男の説得を試みましょう。

遺産分割協議とは遺産をどのように分けるかを相続人全員で話し合うことです。

遺産分割協議の進め方

相続人と相続割合は民法で定められているで解説した法的根拠をもとに、長男に対して遺産の独り占めは認められないことをしっかり説明しましょう。

長男が納得してくれたのであれば分割方法について話し合い、取り決めた内容を遺産分割協議書に記載します。

遺産分割協議書とは遺産分割協議の内容を取りまとめた文書のことです。作成方法については下記のサイトも参考にしてください。

遺産分割協議 : 三井住友銀行

他方、長男が説得に全く応じない場合、②遺産分割調停に進めましょう。

注意!合意していない遺産分割協議書には絶対に署名・押印しない

中には長男が「自分が全財産を相続する」旨の遺産分割協議書を勝手に作成し署名押印をするよう迫って来るケースもあります。

このような場合、絶対に遺産分割協議書に署名押印してはいけません

遺産分割協議書に署名押印したということは文書の内容に合意したことを意味します。

遺産分割協議書に全員の署名押印が揃うと、それを以て長男が預貯金の引き出しや相続登記を勝手に進めてしまうおそれがあります。

一度署名押印してしまうと撤回することは困難であるため、くれぐれも署名押印には気をつけてください。

②遺産分割調停・審判を申し立てる

遺産分割協議がまとまらなかった場合は遺産分割調停を申立てましょう。

遺産分割調停とは

遺産分割調停とは、調停委員(※)に間を取りもってもらい、話し合いによる解決を目指す手続きです。

※調停委員…社会生活上の知識経験や専門知識を持つ人の中から裁判所が選任する。当事者の話し合いの中で、中立の立場から合意を斡旋し、紛争の解決に当たる。

調停では調停委員が双方の主張を交互に聞き、解決に向けてアドバイスや解決策を提案してくれます。この場合は調停委員が長男に法定相続に従うよう諭してくれることが期待できるでしょう。

しかしそれでも長男が合意しなければ、調停は不成立として自動的に審判に移行します。

話し合いで解決を目指す調停とは異なり、審判は裁判官が決定を下し、当事者は全員その決定事項に従わなければいけません。これにより最終的には法定相続に従った遺産分割の実現が期待できます。

遺産分割調停についてはこちらの記事で詳しく解説しているので、併せてご一読ください。

遺産分割調停の申立て方法

遺産分割調停の申立ては下記を参考にして進めてください。

【遺産分割調停の申立て方法】

申立人相続人


申立先
・相手方相続人のうち一人の住所地の家庭裁判所
または
・当事者が合意で決めた家庭裁判所
*裁判所を探す場合はこちら→各地の裁判所


必要書類
・申立書(裁判所HPからダウンロード可→遺産分割調停の申立書 | 裁判所
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の住民票または戸籍の附票
・相続財産を証明する書面(預金残高証明書や固定資産評価証明書など)
※個別のケースによって追加で必要な書類の提出が求められます
受付時間平日8:30~17:00(昼休憩有り)
費用収入印紙1200円分/人
・連絡用の郵便切手代

申立て方法や必要書類の詳細については裁判所のHPでご確認いただけます。

遺産分割調停 | 裁判所

遺言で「長男に全財産を渡す」と書かれていた場合の対処法

「長男に全財産を渡す」と書かれた遺言が見つかり、内容に納得がいかない場合は次の手順で対処していきましょう。

①遺言に効力があるかどうか確認する

②遺留分を請求する

①遺言に効力があるかどうか確認する

まずは見つかった遺言書が有効かどうか確かめましょう。

遺言書は法律で定められた方式を満たしていないと無効になります。無効になった場合は遺産分割協議によって遺産分割方法を決めることになります。

下記に該当する場合は無効になる可能性が高いので、遺言書と照らし合わせて確認してみてください。

【遺言書が無効になるケース】




自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合
・自筆で作成されていない
・作成日が明確に記載されていない(〇月吉日などはNG)
・署名・押印がない
・訂正方法に誤りがある
・内容が不明瞭
・共同(2名以上)で作成されている
・遺言能力のない人(認知症など)が作成していた
・強迫されて作成されていた

公正証書遺言の場合
・証人が2名に満たなかった
・証人になれない人が立ち合いをしていた
・遺言能力のない人(認知症など)が作成していた
・強迫されて作成されていた

(民法968条・969条・975条)

自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の違いは下記のとおりです。

【遺言書の種類】

遺言書の種類         特徴        見分け方
公正証書遺言・公証人が遺言書を作成し、公証役場で保管
・証人2名立ち会い
・表題が「遺言公正証書」・公正役場の名前が記載されている
自筆証書遺言・本人が遺言書を作成・保管
・証人なし
・全文本人が記載
秘密証書遺言・本人が遺言書を作成し、公証役場が遺言書の存在を保証
・証人2名立ち会い
・証人2名以上の署名捺印がある

無効な遺言書であることが判明したら、長男に無効の事実と根拠を伝え、遺産分割協議を開くよう説得しましょう。

もし長男が説得に応じず無効な遺言書で無理に相続を進めようとする場合は、「遺言無効確認」という調停・訴訟を申し立てることができます。

遺言無効確認調停・訴訟の申立て方法については裁判所HPに個別の案内がありませんので、裁判所に問い合わせるか弁護士に相談しましょう。

遺言書を確認した結果、有効だと分かった場合は以下をご確認ください。

遺留分を請求する

遺言書に効力がある場合でも、長男以外の相続人は長男に対して遺留分侵害額を請求することができます。

ここでは遺留分の基礎知識と請求方法に分けて見ていきましょう。

遺留分とは

先に述べましたが、遺留分とは法定相続人(※)に保証されている最低限度の相続分のことです。亡くなった人の家族の生活を保障するためにこの制度が設けられました。

※配偶者・子どもなど直系卑属・父母など直系尊属(兄弟姉妹、甥姪は対象外)

遺留分の割合は民法で定められており、相続人の関係性や人数によって変わります(民法1042条)。

【遺留分の割合】

法定相続人の

組み合わせ

遺産額に対する遺留分の割合

配偶者

子ども(直系卑属)

親(直系尊属)

配偶者のみ

1/2

配偶者と子ども

1/4

1/4

配偶者と親

2/6

1/6

子どものみ

1/2

親のみ

1/3

※子ども・親が複数人いる場合は人数で均等割します。

相続人が取得した財産が表の割合に満たない場合は、長男に表の割合を満たすまで金銭を請求することができます。

例えば法定相続人が長男と次男の二人で、「長男に全財産4,000万円を譲る」と書かれた遺言書が見つかったとします。この場合、次男は4,000万円の1/4(子の遺留分1/2×子の人数分1/2)である1,000万円を長男に請求することができます。

遺留分を請求する方法

遺留分を受け取るには、まず話し合いにて長男に請求します。長男が請求に応じない場合は「遺留分侵害額請求」調停を申し立てましょう。

調停の申立ては下記を参考にして進めてください。

【遺留分侵害額の請求調停の申立て方法】

申立人遺留分を侵害された者またはその承継人

申立先
・相手方相続人のうち一人の住所地を管轄する家庭裁判所
 または
・当事者が合意で決めた家庭裁判所
*裁判所を探す場合はこちら→各地の裁判所
期限下記いずれか早い方
相続開始と遺留分侵害を知ったときから1年以内
相続開始から10年以内



必要書類
・申立書(裁判所HPからダウンロード可→遺留分侵害額の請求調停の申立書 | 裁判所
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・遺言書
・検認済証明書(自筆証書遺言・秘密証書遺言の場合)
・相続財産を証明する書面(残高証明書や固定資産評価証明書など)
※個別のケースによって追加で必要な書類の提出が求められます
受付時間平日8:30~17:00(昼休憩有り)
費用収入印紙1200円分/人
・連絡用の郵便切手代

表に記載のとおり遺留分侵害額の請求には期限があるので注意しましょう。

調停制度に関する内容は遺産分割調停とはでご確認ください。

申立て方法や必要書類の詳細については裁判所のHPでご確認いただけます。

遺留分侵害額の請求調停 | 裁判所

長男が遺産を隠した可能性がある場合の対処法

「長男が調べて報告してくれた財産内容がどうもおかしい。財産を隠している気がする。」

「長男が財産の一部を使い込んでいるのではないか。」

このような疑いがある場合は、下記手順で財産隠しや使い込みの事実を突き止めましょう。

①財産調査を行う

②使い込みが疑われる場合は証拠を集める

③使い込まれた財産を取り戻す

そして財産隠しや使い込みが判明した場合は、その証拠を示して遺産に戻してもらいます。

①財産調査を行う

長男が報告してきた財産内容を鵜呑みにするのではなく、自身でもひとつひとつ調査して、どんな財産があるのか洗い出しましょう。

調査は財産ごとに下記のとおり進めていきます。

【財産調査方法】

スクロールできます
財産の種類             調査手順 手がかりとなるもの
預貯金①亡くなった親の自宅から取引のある金融機関が分かる手がかりを探す(右列)
②手がかりが見つからない場合は近くの金融機関にひとつひとつ問い合わせる
③金融機関に残高証明書や取引明細書の発行を申請する(2章を参照ください)
・通帳、キャッシュカード
・金融機関からもらったノベルティ
・金融機関から届いた郵便物
・パソコン・スマホの情報
不動産①亡くなった親の自宅から所有している不動産の手がかりを探す(右列)
②手がかりが見つからない場合は名寄帳(※)の発行を申請する
・固定資産税の納税通知書
・登記済権利証(登記識別情報)
・預金通帳の取引履歴
有価証券①亡くなった親の自宅から取引のある証券会社等が分かる手がかりを探す(右列)
②手がかりが見つからない場合は証券保管振替機構(※)に問い合わせをする
③証券会社等に残高証明書や取引明細書を申請する
・株券
・取引報告書
・配当金の支払通知書
・株主総会招集通知書
・口座開設時の案内書
・株式発行会社の事業報告書
・証券会社等のノベルティ
・預金通帳の取引履歴
・パソコン・スマホの情報

※印がついているものについて詳しく説明していきます。

■名寄帳について

名寄帳とは、所有者の納税対象である不動産のリストのことです。つまり、名寄帳を取得すれば亡くなった人が所有していた不動産が確認できます。

ただし役場の管轄外の不動産情報は載っていないので注意しましょう。

取得方法は下記の通りです。

【名寄帳の取得方法】

申請先不動産が所在する市町村役場
必要書類・申請用紙(各市町村役場のホームページまたは窓口から入手)
・亡くなった人の死亡の事実が分かる戸籍または除籍謄本
・申請者が相続人であることが確認できる戸籍謄本
・申請者の本人確認書類
・切手貼付済の返信用封筒(郵送の場合)
・手数料分の定額小為替(郵送の場合)
費用の目安200~300円
期間の目安数週間

■証券保管振替機構について

証券保管振替機構とは有価証券取引の管理を行っている機関で、情報開示請求によって亡くなった人が取引していた証券会社を知ることができますただし証券をいくら保有しているかまでは調べることができません。

開示請求方法は下記のとおりです。

【証券保管振替機構への開示請求方法】

請求方法郵送のみ



必要書類
・開示請求書(登録済加入者情報開示請求書 留意事項をダウンロード)
・亡くなった人の本人確認書類(住所が分かるもの)
・申請者の本人確認書類
・申請者の印鑑証明書または住民票
・亡くなった人の死亡の事実が分かる戸籍または除籍謄本
・申請者が相続人であることが確認できる戸籍謄本
費用の目安6,050円/件
2件目以降は1件あたり1,100円追加
期間の目安数週間
詳細URLご本人又は亡くなった方の株式等に係る口座の開設先を確認したい場合

財産調査の結果、財産を隠していたことが判明した場合は遺産分割協議でその財産につき誰が相続するかを含めて話し合うようにしましょう

②使い込みが疑われる場合は証拠を集める

財産調査によって預貯金などの使い込みが疑われる場合はさらなる証拠を集めましょう。

長男に対していきなり「親の財産を使い込んだでしょう」と問い詰めてもシラを切られるだけです。証拠不十分では調停を起こしても認めてもらいにくいでしょう。

長男に使い込みを認めさせるためには、誰が見ても「使い込みがあった」と分かるような客観的な証拠を見せることが重要です。

使い込みは「勝手に財産を持ち出したこと」と「自身のために使い込んだこと」の両方の証拠が揃って初めて証明することができます。

具体的に証拠として使えるものを下表にまとめました。

【使い込みの証拠となるもの】

勝手に財産を持ち出した証拠となるもの・預貯金または有価証券の取引明細
・預貯金の振込伝票または委任状
・贈与契約書(偽造かどうか確認するため)
長男が自分のために使い込んだ証拠となるもの・医師の診断書またはカルテ
・要介護認定書や介護記録
・医療費・介護費用・葬儀代の領収書
・長男の通帳(実際には難しい)

病院や介護施設の資料等は、親が認知症や体の不自由のため自ら預貯金を引き出せる状況ではなかったことを証明できます。

使い込みの証拠集めについてはこちらの記事で詳細を解説しています。証拠の取得方法について詳しく紹介しているので、併せてご確認ください。

③使い込まれた財産を取り戻す

証拠が揃ったら使い込まれた財産を取り戻す方法を試みましょう。

使い込みを認めさせるためには次の手順で進めていきます。

(1)長男と話し合う

(2)遺産分割調停を起こす(死後の使い込み)

(3)不当利得返還請求の調停・訴訟を起こす(生前の使い込み)

(1)長男と話し合う

まずは長男との話し合いの場を設け、集めた証拠を見せて使い込みについて追及します。

長男が使い込みを否定する場合は、使い込みではない証拠を出してもらもらいましょう。

例えば、長男が「確かに親の預貯金からお金を引き出したけど、親の入院費用に充てた」と主張してきた場合は、その入院代の領収書を見せてもらうよう依頼します。

話し合いの結果長男が使い込みを認めたら、次は使い込んだ金額を戻す方法を相談してきましょう。遺産分割で調整するのか、長男の財産から補填するのかを決めます。

(2)遺産分割調停を起こす(死後の使い込み)

話し合いが決裂した場合は調停を申し立てて解決を図りましょう。

親が亡くなった後の使い込みについては遺産分割調停の中で使い込みの事実を主張します。

遺産分割調停については遺産分割調停で詳細をご確認ください。

(3)不当利得返還請求の調停を起こす(生前の使い込み)

親の生前に行われた使い込みについては、「不当利得返還請求の調停・訴訟」で使い込みの事実を主張しましょう。

不当利得返還請求とは、正当な理由なく利益を得て他人に損失を及ぼした者に対して、利益の返還を求めることです。

ただし不当利得返還請求は「使い込みを行ったときから10年」または「使い込みを知ったときから5年」を過ぎたら時効消滅を主張されてしまうので注意してください。

不当利得返還請求の調停・訴訟申立て方法についてはについては裁判所HPに個別の案内がありませんので、裁判所に問い合わせるか弁護士に相談して進めるようにしましょう。

自身で対処できない場合は弁護士に依頼すべき

これまではご自身で対処する方法について解説してきました。

しかし読み進めるなかで、「自分でするにはハードルが高い」と感じる部分もあったことでしょう。

そのような場合は弁護士に対応を任せることをおすすめします。

自身で無理に進めると、適切に対処することができず長男の独り占めを止められないリスクがあります。

専門知識と経験が豊富な弁護士に依頼することで、よりスムーズに、そして確実に対処できるでしょう。

本章では弁護士への依頼について下記内容をお伝えしていきます。

【長男に遺産を独り占めさせない方法:弁護士に依頼する場合】

・弁護士に依頼するメリット・デメリット
・依頼すべきケース
・弁護士費用

弁護士に依頼するメリット・デメリット

長男に遺産を独り占めさせないために弁護士に依頼するメリットとデメリットをまとめました。

【弁護士に依頼するメリット・デメリット】

メリット・長男を説得してくれる
・調停や審判、遺留分侵害額請求など法的手続きをサポートしてもらえる
・書類や証拠を迅速に揃えてくれる
・煩雑な作業や手続きを任せることで、労力と時間をかけずに済む
・相談にのってもらい、心身の負担を軽減することができる
デメリット・弁護士費用が発生する

■メリット①長男を説得してくれる

家族同士の揉め事は感情的になりやすく、身内には耳を貸そうとしないケースも多いでしょう。弁護士という第三者が説得することで、長男が冷静になって話を聞き入れてくれることが期待できます。また、弁護士は法的根拠をもとに論理的に説明する技術に長けているため、長男を説得できる可能性が高まるでしょう。長男と直接話をしたくない場合は弁護士に代理で交渉を依頼すれば顔を合わせずに済みます。

■メリット②調停や審判、遺留分侵害額請求など法的手続きをサポートしてもらえる

自身で調停や審判、遺留分侵害額請求をしようとすると、不慣れなため時間がかかったりミスをしてしまったり、裁判所とのやりとりで適切に対応できない恐れがあります。弁護士なら法的な知識と経験を十分に備えているため、迅速かつ適切に進めることができます。

■メリット③書類や証拠を迅速に揃えてくれる

一般の人が必要な書類や財産隠しの証拠を集めるには手間と時間がかかります。弁護士ならこのような業務に慣れているため、迅速かつ適切に進めてもらえるでしょう。

■メリット④煩雑な作業や手続きを任せることで、労力と時間をかけずに済む

役場や裁判所とのやりとりは平日の日中に限られるため、仕事を抱えながら手続きを行うのは大変でしょう。また、弁護士に手間と時間がかかる作業を任せることで、時間を有効活用することができます。

■メリット⑤相談にのってもらい、心身の負担を軽減することができる

長男と交渉したり調停を起こしたりすることは心身に大きなストレスがかかります。そのうえ、遺産を取り戻せるか分からず不安を抱えながら過ごすことにるでしょう。弁護士に相談に乗ってもらうことで不安や負担を軽減することができます。

■デメリット:弁護士費用が発生する

デメリットはやはり弁護士費用がかかることでしょう。費用がいくらかかるかは後程解説します。

依頼すべきケース

上記のメリット・デメリットをふまえ、下記に該当するケースは弁護士に依頼することをおすすめします。

【弁護士に依頼すべきケース】

・長男が交渉に応じない
・調停を申し立てる
・遺産を使い込まれた
・時間がない
・各種手続きや書類集めなどを適切に行う自信がない

これらのケースは、適切に対処していくためにも早めに弁護士に依頼するようにしましょう。

弁護士費用

弁護士を依頼する上で気になるのが弁護士費用だと思います。

弁護士事務所や依頼内容、範囲によって大きく異なりますが、一般的には下記の金額が相場です。必ず事前に見積書を確認してから正式に依頼するようにしましょう。

【弁護士費用|依頼内容別】

遺産分割協議

着手金(約22~44万円) + 報酬金(取得した財産の4%~16%

長男との交渉

調停・審判・訴訟

着手金(約33~55万円) + 報酬金(取得した財産の4%~16%

相続財産調査

11万円~22万円

書類取得・作成

※着手金…契約するときに支払う前払い金

※報酬金…解決できたときに支払う後払い金。成功報酬として依頼者が取得した遺産額に応じて支払う。

決して低くはない金額ですが、長男に遺産を独り占めされてしまっては一銭も手元に入りません。その方が結果的には損することになってしまいます。弁護士費用を負担してでも専門家の力を借りることをおすすめします。

費用を下げるためには自身でできる部分は自身で行い、対処が難しい部分だけ依頼することも方法です。

悪質な場合は罰してもらうことができる

ここまで使い込みの予防法・対処法をお伝えしてきましたが、遺産を独り占めしようとした長男を罰してもらうことができるかどうかも気になる点だと思います。

結論として、長男の遺産独り占めは罪に問えないことがほとんどです。

人の財産を勝手に自分のものにするのは違法です。しかし、日本では「法は家庭に入らず」という考え方があり、家庭内の出来事に警察が介入することは限定的です。そのため、身内同士のトラブルについては、民事上の責任は追及できても、刑事上の責任は問えないことが多いのです。

(親族間の犯罪に関する特例)

第244条

 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
(窃盗)

第235条

 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。(不動産侵奪)

第235条の2

 他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。

刑法 | e-Gov法令検索

ただし悪質性が高い場合には刑事罰が科されることもあります。

例えば遺言書を破棄・偽造した場合は有印私文書偽造罪が成立する可能性があり、その場合は3ヶ月~5年の懲役刑が科されます(刑法159条1項)。

まとめ

ここまで長男の遺産独り占めについて解説してきました。

あらためて本文の内容を振り返りましょう。

まず、長男の遺産独り占めは他の相続人が同意していなければ認められません

勝手に遺産を独り占めをしようとする長男には下記予防法・対処法を実施してみてください。

           長男の遺産独り占めに気づいたらすべきこと
・金融機関の口座を凍結する
           長男に遺産を独り占めさせないための対処法
【長男が全財産を取得すると主張してきた場合】
①遺産分割協議をする
②遺産分割調停・審判を申し立てる
【遺言で「長男に全財産を渡す」と書かれていた場合】
①遺言に効力があるかどうか確認する
②遺留分を請求する
【長男が遺産を隠した可能性がある場合】
①財産調査を行う
②使い込みが疑われる場合は証拠を集める
③使い込まれた財産を取り戻す

これらの対策を行うには専門的な知識や技術が必要です。自身で行うのが難しいと感じた場合は弁護士などの専門家に依頼するようにしましょう。

以上、本記事を参考に、長男の独り占めを防ぎ、公平な遺産分割を実現されることを願っております。

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