養子縁組の相続トラブル|起こりえる5つのトラブルと3つの対処法

養子縁組の相続トラブル
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

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「養子縁組で相続税を節税できると聞いたけど、トラブルも心配だ」

「養子縁組で起こるトラブルにはどんなものがあるのだろう」

相続税の節税などの目的で養子縁組を利用する方は多くいますが、養子縁組による相続トラブルも実際に起こっています。

養子縁組による相続のトラブルとして代表的なものが以下の5つです。

相続税対策としてもよく利用される養子縁組ですが、安易に養子縁組を利用してしまうと、これらのトラブルに巻き込まれることも考えられます。

養子縁組を行う場合は、あらかじめトラブルを避けるための対処を十分に行うことが重要です。

そこで今回は

・養子縁組で起こる相続の5つトラブル

・養子縁組の相続でトラブルが起きたらどうする?

・養子縁組で相続トラブルが起きそうだと考えている方に向けて3つの対処法

・養子縁組の相続トラブルを避けるために弁護士へ相談すべき3つの理由

について詳しく解説していきます。

この記事を読めば、トラブルを避け、有効に養子縁組を利用することができるようになります。

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目次

養子縁組で起こる相続の5つトラブル

養子縁組の相続で起こりえるトラブルとして挙げられるのは、主に以下の5つです。

まずはこれらのトラブルの詳細について、一つずつ確認していきましょう。

実子の相続分が減ることに不満を持ち遺産分割協議で争いとなった

養子縁組では、養子縁組によって法定相続人が増えることで、相続の減る実子が不満を持ち、トラブルに発展するケースがあります。

例えば死亡した被相続人に配偶者と実子が2人いる場合、法定相続の割合は、配偶者が2分の1、実子が残りの2分の1を2人で分ける形になります。

このため実子1人あたりの取り分は資産全体の4分の1になります。

しかし養子縁組を行なった場合、養子は相続において実子と同等の相続権を有することが法律で定められています。

このため例えば実子2人の家族に養子が1人いる場合、相続の割合は以下のように変わります。

この場合、配偶者の相続割合は、相続財産全体の2分の1で変わりませんが、実子の相続財産は養子が含まれることによって残りを3人で分割することになるため、4分の1から6分の1に減額されることになるわけです。

実子からしてみれば、本来は相続するはずのない養子が突然、家の財産を奪っていくように見えることもあり、自分の相続財産が減ることに納得がいかず、被相続人の死後に遺産分割協議などでトラブルとなるケースがあります。

養子縁組を行うためには実子の了承を得る必要はありません。

しかし、被相続人の一存で養子縁組を進めてしまうと、その後、長きにわたって親族間での感情的な対立が生じる危険性もあるため、養子縁組を行う際には親族間でしっかりと話し合うことをおすすめします。

子供の配偶者を養子にした後に子供が離婚した

家業を継がせるなどの理由から娘の婿(配偶者)を養子にするというケースもよくありますが、養子縁組を行なった後で娘夫婦が離婚した場合に、婿との養子縁組の解消が難航しトラブルが起こります。

娘が離婚した場合、娘と婿の婚姻関係は無くなりますが、被相続人との養子縁組の関係は離婚した後も残ることになります。

もちろんこのままでは養子となった婿の相続権もそのまま残ってしまうため、養子縁組を解消する手続きが必要になりますが、養子縁組の解消はそう簡単ではありません。

養子縁組を解消するためには、役所に「離縁届」を提出することになりますが、離縁届は離縁する両者の合意が必要です。

つまり上の図の場合、養子縁組を行なった婿が離縁を拒否した場合、養子縁組を解消することはできません。

養子縁組を拒否された場合には家庭裁判所へ「離縁調停」を申し立てることになりますが、長期にわたる対応が必要になります。

結婚相手の子供を養子にした後に離婚することになった

結婚相手の子供を養子にし、その後に離婚した場合、離婚した相手の子供との養子関係が残るため、トラブルが起こり得ます。

結婚相手に連れ子がいる場合、相手との婚姻関係が成立しても相手の連れ子は自分の戸籍には入りません。このような場合、家族の関係を深めるため、あるいは子供との扶養の関係を築くなどの理由から、養子縁組によって連れ子を自分の養子とするケースもよくあります。

後に結婚相手と離婚をした場合、離婚したとしても養子縁組の関係が解消されるわけではありません

養子縁組の解消には「離縁」の手続きが必要になりますが、15歳未満の場合、連れ子の法定代理人となる実母あるいは実父の同意が必要になります。

また「離縁」が成立しなければ親子関係も解消されないため、養子が未成年の場合には扶養の義務も存続することになります。

孫を養子にしたところ相続税が予想外に高額になった

相続税対策として、孫を養子にするというのも一般的に行われる方法ですが、孫を養子にした場合の相続税は税率が高いため、状況によってはかえって相続税が高くなってしまうというケースもあります。

相続税は相続人が以下の何れかに該当する場合、税額が2割上乗せされます。これを「相続税の2割加算」と言います。

・配偶者ではない

・被相続人の1親等の血族(両親か子供)

養子縁組をした場合、基本的には実子と同じ扱いになるため、この2割加算の対象から外れることになりますが、孫を養子とする場合は2割加算の対象となることが法律で定められています。

相続税法第18条2項には、この相続税が2割加算の対象について、

一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている場合を含まないものとする。

と示されています。

つまり孫を養子にした場合は、この2割加算の除外対象には含まれないため、相続税は2親等以上の相続人と同様、2割増しとなるわけです。

この「相続税の2割加算」によって、節税の目的で行なった養子縁組が、かえって相続税を増やしてしまうという事態も起こり得るため、相続税の節税を考慮して養子縁組を行う場合は、あらかじめ支払う相続税を試算しておくことをおすすめします。

相続税申告の際に養子の相続権が認められなかった

相続対策として養子縁組を行うこと自体は珍しいことではありませんが、養子縁組が明らかに節税のためだけに行われていると税務署に判断された場合、養子の相続権が認められないリスクも存在します。

相続税法63条には以下のように記載されています。

養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができる。

つまり、税法上は相続税の節税だけのために養子縁組が行われ、相続税が不当に減額されたことが明らかであると判断された場合は、税務署の判断において、その養子を法定相続人から外すことができるというわけです。

このため、養子縁組が節税だけのために行われ養子縁組を行う双方に実際の親子関係を築く意思がない場合、養子の相続権が認められない可能性があるという点に留意しましょう。

養子縁組の相続でトラブルが起きたらどうする?

では実際に養子縁組の絡む相続でトラブルが起こった場合、どのような対応が可能なのでしょうか。

以下の2つのケースでの具体的な対応の流れを確認しましょう。

一つずつ解説していきます。

養子縁組の解消を承諾してもらえない場合

前章でも記載したとおり、養子縁組を解消するには、役所に「離縁届」を提出することになりますが、これはあくまでも双方の合意が必要であり、合意がもらえない場合は以下の手続きで、養子縁組の解消を試みることになります。

養子縁組の解消を承諾してもらえない場合の手続き
①離縁調停
②裁判による離縁

①離縁調停

養子縁組の解消を行いたいのに相手の同意を得られない場合は、家庭裁判所に「離縁調停」の申し立てを行うことができます。

「離縁調停」とは、養子縁組の離縁につき双方の合意が得られない場合に、調停委員を介して話し合いを行うことによって、問題解決を図る手続きです。

二者間で意見の相違がある場合でも、第三者である調停委員が話し合いに参加することで、感情的にならず、冷静な話し合いができるようになります。

ただし、離縁調停においても、離縁が成立するために両者の合意が必要であるという原則は変わらず、調停が不成立に終わることも十分にあり得ます。

②裁判による離縁

離縁調停でも離縁が成立せず、引き続き離縁の成立を求める場合、裁判によって離縁求める方法があります。

裁判では、離縁に同意しない養子あるいは養親の意向にかかわらず、裁判官が双方の主張と証拠に基づいて離縁の可否を判断することになります。

ただし離縁が認められるためには、離縁の理由が法律で定められた以下の3つの理由に該当しなければいけません。

・相手方から悪意で遺棄されたとき

・相手方の生死が3年以上明らかでないとき

・その他縁組を継続しがたい重大な事由があるとき

このように養子縁組は一旦成立してしまうと、その解消に大きな労力を割く必要が生じるため、特に相続税対策を目的に養子縁組を行う場合は、慎重に判断する必要があります。

養子の相続で親族とトラブルになった場合

被相続人が亡くなって相続が発生した場合、法定相続人は遺産分割協議において相続する遺産を合意する必要があります。

養子縁組の絡む相続などでトラブルとなり、法定相続人全員の同意が得られない場合、以下の手順で手続を進めることになります。

養子の相続で親族とトラブルになった場合の手続き
①遺産分割調停
②遺産分割審判

①遺産分割調停

遺産の相続で法定相続人が合意に至らない場合、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てることができます。

遺産分割調停では家庭裁判所の調停委員が、法定相続人の間に入ることで冷静な話し合いを進め合意を促します。

ただし調停委員はあくまでも第三者的立場からの助言を行うだけであり、結局合意に至らないケースも多くあります。

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②遺産分割審判

遺産分割調停によって合意が得られず調停が不成立となった場合、遺産分割審判を申し立てることができます。

遺産分割審判では、裁判官が「審判」によって遺産相続の方法を決定します。

もちろん養子縁組の絡む相続で遺産分割審判が行われる場合も、裁判官が全ての法定相続人の主張を確認したうえで法律に従って判決を下します。相続人はこれに従わなければいけません

判決に納得ができない場合は「即時抗告」のかたちで不服申し立てを行うことができます。

即時抗告がなされた場合、高等裁判所で抗告審のかたちで、もう一度裁判所の判断を仰ぐことになります。

養子縁組で相続トラブルが起きそうだと考えている方に向けて3つの対処法

前章までで確認したとおり、養子縁組の絡む相続のトラブルは解決に大きな労力と時間を要することになります。

できるだけトラブルを避けたいという方は、以下の3つの対処法を実践することをおすすめします。

一つずつ解説していきます。

養子縁組を行う前に必ず親族の同意を得る

養子縁組は、養子縁組を行う2人の間に合意があれば親族の同意を得る必要はありません。しかし、トラブルの火種を残さないためには、親族の同意を得ておくことが重要です。

養子縁組による相続では、そもそも血縁関係のない養子が遺産を相続し、それにより親族が相続する遺産は目減りすることになるため、親族が不満を抱えるのも自然な成り行きです。

そのような状況にもかかわらず、強引に養親と養子だけで養子縁組を進めれば親族間の争いを招く原因にもなりかねません。

このため養子縁組の際には、養子縁組を行う前に、親族に養子縁組を行いたいとの想いを伝えたうえで、親族の了解のもとに手続きを進めることをおすすめします。

遺言書を作成する

相続のことを考えて養子縁組を行う場合は、遺言を作成しておくことをおすすめします。

遺言書は、遺産をどのように相続させるか、自分の意思を相続に反映させるために残されるものですが、遺言には遺産相続におけるトラブルを予防する効果もあります。

法定相続で決められたとおりの配分であったとしても、養子への相続が被相続人の思いであることを遺言記すことで、相続人は受け入れやすくなるのです。

関連記事:公正証書遺言の効力とは?遺留分や時効・効力が及ばない4つのケース
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弁護士にサポートを依頼する

養子縁組の絡む相続でトラブルを避けるためには、養子縁組を行う段階から弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。

養子縁組に精通する弁護士から助言を得ることで、養子縁組やその後の相続に関わる様々なトラブルを、先回りして防止することができます。

もちろん相続のトラブル対応に限らず、養子縁組を利用した効率的な相続を実現するための適切なアドバイスを受けることもできます。

次章では養子縁組の相続で弁護士のサポートを依頼するメリットについて、さらに詳しく解説します。

養子縁組の相続トラブルを避けるために弁護士へ相談すべき3つの理由

結論から言えば、養子縁組を行いたい場合は、その後のトラブルを避けるためにも、弁護士へ相談のうえで進めることが最善であると言えます。

弁護士への相談は、特に以下の3つの点で大きなメリットがあります。

一つずつ確認しましょう。

親族間に起こるトラブルのリスクを下げることができる

弁護士のサポートは親族間の同意のもと、円満に養子による相続を進める上で大きな助けとなります。

親族関係に確執が生まれることは、養子縁組による相続においては最も避けたいことの一つです。

しかしほとんどの方にとって養子縁組を行うことは初めての経験であり、簡単なことではありません。

このような場合、弁護士のサポートは心強い支えとなります。

弁護士のアドバイスのもと慎重に親族との話し合いを進めることで、円満に養子縁組相続を実現すことができます。

遺言書の作成を適切に行うことができる

弁護士のサポートがあれば法的に有効な遺言を正しく作成することができます。

遺言書を作成するでも解説しましたが、被相続人の死後に養子絡みの相続トラブルを回避するためには、遺言書を残すことはたいへん有効です。

しかし、遺言書はただ書けばいいというわけではなく、法的に有効な文言を正しく記載したうえで、適切に管理する必要があります。

弁護士のサポートのもとで正しい遺言書を作成することができれば、死後に生じる相続トラブルを避けることができ、養子絡みの相続を成功させるための大きな助けとなります。

養子縁組が最善の方法かチェックしてもらうことができる

養子縁組による相続税の節税効果についてはよく語られますが、相続税対策として養子縁組が有効かどうは相続の状況によっても異なってきます。

弁護士にサポートを依頼すれば、相続対策として行う養子縁組が本当に最善の方法であるのかを適切に判断してもらうことができます。

弁護士へサポートを依頼すれば

・実際にどの程度の節税ができるのか

・養子縁組によって生じる手間やリスクがそれに見合うものであるのか

・養子縁組以外に取れる節税対策はないのか

など、養子縁組による効果とデメリットを客観的に検証し、最も適切な方法をアドバイスしてもらうことができます。

このため養子縁組を検討している場合、養子縁組を行う前に弁護士へ相談することをおすすめします。

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まとめ

今回は養子縁組の絡む相続トラブルについて詳しく解説しました。

相続対策などで行われる養子縁組ですが、養子縁組の絡む相続トラブルも実際に起こっています。

養子縁組絡みの相続のトラブルとして代表的なものが以下の5つです。

養子縁組による5つの相続トラブル
・実子の相続分が減ることに不満を持ち遺産相続協議で争いとなった
・子供の配偶者を養子にした後に子供が離婚した
・結婚相手の子供を養子にした後に離婚することになった
・孫を養子にしたところ相続税が予想外に高額になった
・相続税申告の際に養子の相続権が認められなかった

これらのトラブルを事前に防ぐための対処法として、以下の3つが挙げられます。

・養子縁組を行う前に必ず親族の同意を得る

・遺言書を作成する

・弁護士にサポートを依頼する

また最後の章では、トラブル回避のための最善の対応として、養子縁組を弁護士への相談の上で行うことのメリットについても詳しく解説しました。

弁護士に相談すべき3つの理由
・親族間に起こるトラブルのリスクを下げることができる
・遺言書の作成を適切に行うことができる
・養子縁組が最善の方法かチェックしてもらうことができる

これら3つの理由から、養子縁組絡みの相続でトラブルを避けたいと考えた場合、あらかじめ養子縁組に精通する弁護士へ相談することをおすすめします。

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