弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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同志社大学法科大学院客員教授
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「遺言で全財産を兄に渡すと書かれていた。自分も相続人なのに、一円も受け取れないのだろうか?」
もらえると思っていた相続財産がもらえないと分かったら、納得もいかないし生活に困ることもあるでしょう。
亡くなった人の財産につき、誰がどれだけ相続できるかは法律で定められています(これを法定相続と呼びます)(民法第886条~890条、900条、901条)。
ところが、亡くなった人の意思や他の相続人の思惑により、法定相続人が遺産をもらえない状況になることは少なくありません。
そのような状況であっても、適切に対処すると財産を受け取れる可能性があります。
本記事では遺産をもらえない6つのケースとその対処法を紹介していきます。
対処法がある場合には、できるだけ早く実践するようにしましょう。
対処法の中には時効が規定されている場合があり、時効を過ぎてしまうと遺産をもらえなくなってしまいます。
たとえば遺留分は「相続が開始したことと遺留分が侵害されていることを知ってから1年」または「相続が開始してから10年」が過ぎてしまうと請求ができません。
相続問題は早めに対処しないと、様々なトラブルが生じて解決が難しくなってしまいます。
本記事では相続で遺産をもらえないケースについて下記ポイントをお伝えしていきます。
本記事で分かること |
・相続で遺産をもらえないケースとその対処法 ・他の相続人ともめた場合の解決法 |
6つのケースの中で自身があてはまるものを選び、リンクから移動して読み進めてみてください。
【遺産をもらえないケース】
1.【対処法あり】遺言により遺産の受け取り人に指定されなかった 2.【対処法あり】生前贈与により財産が全く残っていなかった 3.【対処法あり】他の相続人が遺産を渡そうとしない 4.【対処法あり】他の相続人が遺産を隠した・使い込んだ 5.【対処法なし】相続廃除により相続権を失った 6.【対処法なし】相続欠格により相続権を失った |
【なぜ遺産をもらえないか分からない場合の確認方法】
自身がどのケースにあてはまるか判断できない場合は、次の方法で調べてみてください。 ▪1のケースでは、遺言書を確認すれば判明します。 ▪2・3・4のケースでは、亡くなった人の財産調査を行いましょう。たとえば預金通帳を確認すると、入出金履歴が分かるので、どれにあてはまるか判明します。 ▪5のケースでは、相続廃除されると戸籍全部事項証明書に「推定相続人廃除」と記載されます。 ▪6のケースでは、民法891条にあてはまればただちに相続欠格になります。民法891条は後述します。 |
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遺言により遺産の受け取り人に指定されなかったケースは、遺産がもらえない典型例です。
しかし、このケースでは最低限保障されている相続分を請求することができます。
解説と対処法を順に見ていきましょう。
遺言が残されていた場合、遺産分割は遺言の内容に従って進めていきます。
これは亡くなった人の意思が、法定相続分よりも優先されるためです(民法第902条・964条)。
そのため、「全財産を〇〇に渡す」というような遺言が残されていると、法定相続人であっても遺産をもらえないという事態が起こります。
【具体的な事例】
・母が亡くなり、妹と「遺産は半分ずつ分けよう」と話していた。しかし、遺品を整理していたら「全ての遺産を次女に相続させる」という遺言が見つかった。それを見た妹は、「遺言に書いてあるから、私が全て相続する」と言って、遺産を全て取得、姉の私には何も渡してくれない。 |
遺言で遺産の受け取り人に指定されていなかった場合、何も対処しないと手元には一円も入ってきません。
遺言により遺産がもらえない場合は、遺留分を請求することで、最低限の相続分を受け取れる可能性があります。
ここでは遺留分について、下記内容を見ていきましょう。
【遺留分について】
・遺留分とは ・請求できる遺留分の割合 ・遺留分を請求する方法①話し合う ・遺留分を請求する方法②配達証明付き内容証明郵便を送る ・遺留分を請求する方法③調停・訴訟を起こす |
遺留分とは、相続人(兄弟姉妹は除く)に保証されている最低限度の相続分のことです(民法第1042条)。
残された家族の生活を保障するためにこの制度が設けられました。
相続した遺産が遺留分に満たない場合、遺産を多く受け取った人に対して、遺留分侵害額を請求することができます(民法第1046条)。
法改正により、2019年7月以降に亡くなった被相続人の相続については遺留分侵害額は原則金銭で支払ってもらうことになりました。
遺留分の割合は民法で定められています(民法第1042条)。
相続人の関係性や人数によって変わるので、下記一覧でご確認ください。
【遺留分の割合】
法定相続人の組み合わせ | 遺産額に対する遺留分の割合 | ||
配偶者 | 子ども(直系卑属) | 親(直系尊属) | |
配偶者のみ | 1/2 | ー | ー |
配偶者と子ども | 1/4 | 1/4 | ー |
配偶者と親 | 2/6 | ー | 1/6 |
子どものみ | ー | 1/2 | ー |
親のみ | ー | ー | 1/3 |
※子ども・親が複数人いる場合は表の割合を人数で割ります(例:相続人が子ども3人の場合、1人当たりの遺留分は1/2×1/3⁼1/6)
たとえば、父親が亡くなったとして、相続人が母親と子であるあなたの二人の場合、「妻に全財産4,000万円を譲る」と書かれた父親の遺言書が見つかったとします。この場合、あなたは4,000万円の1/4である1,000万円を母親に請求することができます。
ここからは遺留分侵害額を請求して受け取るまでの手順を紹介します。
遺留分侵害額を計算できたら、まずは遺産を多く受け取った相手に対し、遺留分を請求したい旨を文書で伝えましょう。
ただし、話し合いがまとまりそうにない場合や相手と対立している場合は、②から進める方がスムーズです。
話し合いで、相手が遺留分侵害額を支払うことに合意すれば、合意書を作成しましょう。
合意書の作成は必須ではありませんが、口約束だけではトラブルになるおそれがあるため、作成しておくことをおすすめします。
合意書に決まった形式はありませんが、「支払者・支払期限・支払額・支払方法」などをしっかりと明記し、必ず双方が署名捺印をするようにしましょう。
話し合いがまとまらない場合や話し合いができる状態でない場合は、内容証明郵便を送りましょう。
内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる郵便のことです。
内容証明郵便は遺留分侵害額を請求するにあたって重要なポイントなので、少し詳しく見ていきます。
内容証明郵便を送る第一の理由は、遺留分侵害額の請求には時効があるからです。
遺留分は下記いずれかを過ぎてしまうと請求することができません(民法1048条)。
・「相続が開始したこと」「遺留分が侵害されていること」の両方を知ってから1年
・相続が開始してから10年
内容証明郵便を送ることで、時効完成より前に遺留分侵害額を請求する権利を行使したことを証明することができます。
内容証明郵便を送れば、相手に「きちんと対応しなければいけない」というプレッシャーを与えることができます。
口頭で「遺留分を請求したい」と伝えても適当にあしらわれることがあります。
内容証明郵便を送ることによって、「本気で権利を行使して請求していること」や「対応しないと法的手続きに進む可能性があること」が相手に伝わり、話し合いに応じてもらえる可能性がアップします。
内容証明郵便の作成方法・送付方法については、郵便局の案内を参考にしながら進めてください。
上記に従いながら、書面に下記内容を記載するようにしましょう。
【内容証明郵便に書くべき内容】
・請求する人の名前 ・請求される人の名前 ・請求の対象となる遺贈・贈与・遺言の内容 ・遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求する旨 ・請求する日 |
送付の際は、「請求した日」と「相手に到達したこと」が証明できる配達証明付きで送るとより確実です。
相手に遺留分侵害額の支払いを拒否された場合、「遺留分侵害額請求調停」を起こすことを検討しましょう。
調停とは、裁判所にて調停委員に間を取りもってもらい話し合いによる解決を図る手続のことです。
調停でも解決できなければ、その次は訴訟に進めます。
訴訟では和解か判決により、遺留分の問題を終局的に解決することができます。
調停を起こすための手続きは次のとおりです。
【遺留分侵害額の請求調停申立ての手続き】
申立先 | 下記いずれか ・相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所 ・当事者が合意で定める家庭裁判所(遺産分割調停を申し立てている場合はその申立て裁判所) 裁判所を探す場合はこちら→各地の裁判所 | |
費用 | ・収入印紙1200円分 ・連絡用の郵便切手 | |
必要書類 | ・申立書 ・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・遺言書の写し ・遺言書の検認調書謄本の写し(検認がある場合) ・遺産に関する証明書(預貯金通帳の写しや、固定資産評価証明書など) ほか、状況に応じて別途追加書類が求められる |
さらに詳しく知りたい場合は裁判所HPをご確認ください。
申立書もこちらからダウンロードできます。
亡くなった人が特定の人に生前贈与していたことにより、亡くなった頃には既に財産が残っておらず、遺産をもらえなかったというケースもよくあります。
この場合、財産を取り戻すためには遺留分侵害額を請求する方法があります。しかし、生前贈与の場合は遺留分侵害額を請求できるケースもあればできないケースがあるので注意が必要です。
このケースについての解説と対処法を見ていきましょう。
生前贈与とは、生きている間に自身の財産を特定の人に贈与することを指します。
生前贈与においては、誰に何をどれだけ渡すかは贈与する人が自由に決められます。
そのため、特定の人に対して多額の生前贈与が行われ、その結果亡くるときには遺産が全く残されていなかったという事態が起こるのです。
【具体的な事例】
・母が亡くなり、相続手続を進めようと思い財産調査を始めると、財産がほとんど残っていないことが分かった。5年前父が亡くなったとき、母は現金3,000万円を相続していたのにおかしい。兄に問い詰めると、兄がマイホーム購入のときに2,000万円の資金援助を受けていたことが発覚した。 ・亡くなった父の預金通帳を調べてみると、亡くなる少し前に約3,000万円が引き出され、残高がほとんど残っていないことが発覚。調べてみると、死期を察した父が愛人にマンションと車を買い与えていたことが分かった。 |
これらのケースでも対処しない限りは手元には一円も入ってきません。
生前贈与があった場合には、遺言があった場合と同様、遺留分を請求することで、最低限の相続分を受け取れる可能性があります。
ただし、生前贈与は下記3つの条件のいずれかにあてはまる場合のみ、遺留分の対象となるので注意してください(民法第1044条)。
【遺留分の対象となる生前贈与の条件】
①死亡前1年以内に行われた贈与 ②死亡前10年以内に相続人に対して行われた特別受益にあたる贈与 ③贈与する人・受ける人双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知って行われた贈与 |
遺留分の詳細や請求方法については、遺産を受け取る方法:遺留分を請求するをご確認ください。
生前贈与と遺留分の関係については、下記記事でより詳しく解説しています。
3つの条件について詳しく見ていきましょう。
亡くなった時からさかのぼって1年以内に贈与が行われた場合は、その者に対して遺留分侵害額を請求できます。相続人であるかどうかは問いません。
たとえば、「亡くなる直前に全財産を愛人に贈与した」などの事例があてはまります。
亡くなった時からさかのぼって10年以内に相続人に対して特別受益にあたる贈与があった場合は、その者に対して遺留分侵害額を請求できます。
たとえば、「亡くなる5年前に、長男にマイホーム購入資金として1,000万円を渡した」などの事例があてはまります。
特別受益とは、一部の相続人だけが被相続人から婚姻もしくは養子縁組のため又は生計の資本として特別に受けた利益のことです。生前贈与だけでなく、遺贈(遺言によって財産を特定の人にゆずること)や死因贈与により受け取る利益も含みます。
生前贈与における特別受益としては、具体的には下記のものがあてはまります。
【生前贈与の中で特別受益にあてはまるもの】
・婚姻・養子縁組のための贈与…結婚挙式費用・結納金、養子縁組の持参金など ・生計の資本としての贈与…住宅購入資金・多額の教育費・扶養の範囲を超える生活費など |
贈与する人・贈与を受ける人双方が、贈与によって遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、遺留分を請求することができます。
相続人であるか否かは問いません。
このケースにあてはまる場合、①②のような期限はありません。
たとえば、次男の遺留分を侵害すると分かっていながら父が長男に多額の財産を渡していたら、10年以上前のことでも、遺留分侵害額請求の対象になります。
遺産がいくらか残されていた場合は、特別受益の持ち戻しを求める方法もある 遺産が残っている場合、「特別受益の持ち戻し」により、より多く財産を取り戻せる場合があります(民法第903条)。特別受益については下記記事でも解説してるので、詳しく知りたい場合はあわせてご一読ください。 |
他の相続人が遺産を渡そうとしないために、遺産をもらえないということもあります。
このケースでは適切に対応することで、遺産を受け取ることができます。
解説と対処法を順に見ていきましょう。
身勝手な相続人が理不尽な主張をしたり、遺産分割の呼びかけを無視したりして、他の相続人に遺産を渡そうとしないことがあります。
遺言がない場合に誰がどれだけ相続できるかは法律によって定められていますから、一部の相続人の身勝手を許してはいけません。
具体的には次のような事例が考えられます。
・亡くなった母の遺産は自宅のみ。相続人は長男と次男の2人。自宅では長男が母と同居していた。次男は「遺産は自宅しかないから、売却してその売却金を分けよう」と提案したものの、長男は「おれが長男だから、自宅は俺がもらう」と言って、家から出て行こうとしない。長男は話し合いに応じず、次男は一向に財産を受け取ることができない。 |
このような場合、適切に対応しないと本来自分がもらえるはずの遺産はいつまでたってももらえないままです。
身勝手な相続人が話し合いに応じず遺産を渡そうとしない場合には、遺産分割調停を起こす方法があります。
ここでは遺産分割調停について見ていきましょう。
【遺産分割調停について】
・遺産分割調停とは ・遺産分割調停を起こす方法 |
調停とは、裁判所にて調停委員に間を取りもってもらい話し合いにより解決を図る手続のことです。
遺産分割調停では、話し合いにより誰がどの遺産をどれだけ相続するかを決めていきます。
調停委員は根拠のない主張は聞き入れませんから、身勝手な相続人を説得してくれるでしょう。
調停が成立しなければ自動的に審判に進みますが、審判でもやはり理不尽な主張は認められません。
審判では法律に沿った遺産分割内容が言い渡されます。これにより、最終的には遺産分割問題が解決して、遺産を受け取ることができます。
遺産分割調停の申立方法は下表を参考にしながら進めてください。
【遺産分割調停の申立て方法】
申立先 | 下記いずれか ・相手方相続人のうち一人の住所地の家庭裁判所 ・当事者が合意で決めた家庭裁判所 裁判所を探す場合はこちら→各地の裁判所 | |
必要書類 | ・申立書(裁判所HPからダウンロード可→遺産分割調停の申立書 | 裁判所) ・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍(除籍)謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・相続人全員の住民票または戸籍の附票 ・相続財産を証明する書面(残高証明書や固定資産評価証明書など) ※個別のケースによって追加で書類の提出が求められます | |
受付時間 | 平日8:30~17:00(昼休憩有り) | |
費用 | ・収入印紙1200円分 ・連絡用の郵便切手代 |
申立て方法や必要書類の詳細については裁判所のHPでご確認いただけます。
他の相続人が、遺産を隠したり使い込んだりして、遺産をもらえないということもあります。
このケースでも適切な対処をすることで遺産を取り戻せる可能性があります。
解説と対処法を見ていきましょう。
一人の相続人が遺産を隠したり使い込んだりして、他の相続人には「遺産は残っていなかった」などと言ってごまかす場合があります。
これは、親の財産を子どもの一人が管理しているときによく起こる問題です。親からキャッシュカードを預かり、暗証番号を教えてもらっていれば、預貯金を自由に引き出すことができるからです。
具体的な事例を見てみましょう。
・母は足が不自由だったため、キャッシュカードを長男に預け、暗証番号も伝えていた。長男は定期的に母の預貯金を引き出し、自身の趣味のために使っていた。母が亡くなる頃には、十分あったはずの財産がほとんど残っていなかった。 ・高齢になった父はもしものときに備えて、貯金用口座の存在とキャッシュカードの保管場所、暗唱番号を長女に伝えていた。父が亡くなった後、長女はすぐに父の預貯金を全額引き出し、自分の家に隠した。他の兄弟には、預金口座の存在を伝えなかった。 |
このような場合、適切な対処をしないと、本来もらえるはずの遺産が他の相続人に奪われたままになってしまいます。
遺産隠しや使い込みが疑われる場合、不当利得返還請求か遺産分割調停を行うことで、財産を取り戻せる可能性があります。
生前の使い込みなら「不当利得返還請求」、死後の使い込みなら「遺産分割調停」を起こしましょう。
いずれの場合でも、まずは遺産隠し・使い込みの証拠を集めなければいけません。
証拠が不十分では調停や訴訟を起こしても主張は認められません。
【遺産隠し・使い込みの対処法】
①まずは証拠を集める ②不当利得返還請求をする《生前の使い込み》 ③遺産分割調停を起こす《死後の使い込み》 |
遺産隠し・使い込みの対処法については、下記記事で詳しく解説しているので、あわせてご確認ください。
まずは財産隠し・使い込みの証拠を集めましょう。
具体的に証拠として使えるものを下記にまとめました。
【使い込みの証拠として使えるもの】
・預貯金または有価証券の取引明細 ・預貯金の振込伝票または委任状 ・贈与契約書(偽造かどうか確認) ・医師の診断書またはカルテ ・要介護認定書や介護記録・医療費・介護費用・葬儀代の領収書 ・使い込みの疑いがある人の通帳(実際には難しい) |
誰が見ても「使い込みがあった」と分かるような客観的な証拠を見せることが重要です。
例えば、病院や介護施設の資料は、親が認知症や体の不自由のため自ら預貯金を引き出せる状況ではなかったことを証明できます。
財産隠しや使い込みが生前に行われた場合、「不当利得返還請求」によって決着をつけます。
不当利得返還請求とは、正当な理由なく利益を得て他人に損失を及ぼした者に対して、利益の返還を求めることです(民法第703条)。
不当利得返還請求はまず話し合いを行い、話し合いがまとまらなければ訴訟を提起します。
まずは、集めた証拠を示して、隠した財産・使い込んだ財産を戻してもらうよう説得します。
相手が応じたら、返還すべき金額や方法を合意書に記載しましょう。
合意書の作成は必須ではありませんが、口約束だと返還が行われないリスクがあるため、作成しておくと安心です。
合意書の形式は自由ですが、「支払者・支払額・支払期限・支払方法」などをしっかりと記載し、必ず双方が署名捺印をするようにしましょう。
話し合いがまとまらなければ、「不当利得返還請求」の訴訟を提起します。
訴訟は地方裁判所か簡易裁判所に対して行います。
不当利得返還請求の訴訟提起方法については、裁判所のホームページに個別の案内がありません。
訴訟の方法や必要書類、管轄が知りたい場合は、裁判所に問い合わせるか弁護士に相談しましょう。
財産隠しや使い込みが死後に行われた場合、「遺産分割調停」によって決着をつけます。
遺産分割調停については遺産を受け取る方法:遺産分割調停を起こすをご確認ください。
相続廃除により相続権を失った場合も、遺産をもらうことができません。
このケースでは残念ながら対処法はありません。
相続廃除とは、家庭裁判所の判断により相続人になる予定だった人の相続権をはく奪する制度です。
相続人に著しい非行があった場合や、虐待や侮辱を行われた場合は、推定相続人を相続廃除することができます(民法第892条)。
【具体的な事例】
・長男が父に対して日常的に暴力をふるい、ケガを負わせた ・妻は、介護が必要な夫に対して十分な世話をせず、劣悪な環境で生活させた ・夫が、妻と三人の子どもを置いて、不倫相手と同棲していた ・次男がギャンブルに溺れ、父が多額の借金を肩代わりさせられた ・長男が犯罪行為を行った ・次男が反社会勢力に加入した |
相続廃除は、財産の所有者(被相続人)が裁判所に対して申立てを行う必要があります。
家庭裁判所の判断により廃除が確定すると、相続権を失い、遺留分も請求できません。
廃除の取り消しができるのは申し立てた本人のみであるため(民法第894条)、廃除された相続人は何もできることがありません。
なお、廃除された人に子どもや孫がいる場合は、その子どもや孫は代襲相続人として遺産を相続することができます。
相続欠格により相続権を失った場合も、遺産をもらうことができません。
このケースも残念ながら対処法はありません。
相続欠格とは、相続に関して不当な行為・不正な行為があった場合に相続人の資格をはく奪することです(民法第891条)。
【具体的な事例】
・財産の所有者や、同順位以上の相続人を殺害した(未遂に終わった場合も含む)。 例1)自身の相続分を増やすために、長男が次男を殺害 例2)自身が相続権を得るために、祖父が孫を殺害 例3)早く財産を手に入れるために、子が父を殺害 ・財産の所有者が殺害されたことを知って、告発・告訴しなかった 例)長男は父の弟が父を殺害したことを知っていながら、警察に通報しなかった ・詐欺・脅迫によって遺言の撤回や取り消し、変更を妨げた 例)長男は父が遺言の内容を変更しようとしているのを知り、脅迫して妨害した ・詐欺・脅迫によって遺言を撤回・取り消し・変更をさせた 例)長女が高齢の母に「遺言を私の言うとおりに書き直せ」と脅して、遺言を変更させた ・遺言書を偽造、変造、破棄または隠匿した 例)母が亡くなった後、次女は母の引き出しから遺言書を発見。自身に都合が悪い内容だと分かり、他の相続人に知らせることなく処分した。 |
相続廃除との大きな違いは、亡くなった人の意思に関係なく相続人の資格を失う点です。
当然、遺留分も請求できません。
なお、相続欠格となった人に子どもや孫がいる場合には、子どもや孫は代襲相続人として遺産を相続することができます。
他の相続人ともめた場合は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
ここでは弁護士への依頼に関して、次の内容を紹介していきます。
【弁護士への依頼について】
・弁護士に依頼すべき理由 ・弁護士費用の相場|数十万円~数百万円 |
他の相続人ともめた場合に、弁護士に依頼すべき理由は大きく3つ挙げられます。
【弁護士に依頼すべき理由】
・相手にプレッシャーを与え、話し合いがまとまりやすくなる ・財産を少しでも多く受け取れるよう導いてくれる ・調停や訴訟に進んだ場合もサポートしてもらえる |
弁護士に依頼すれば、相手にプレッシャーを与え、話し合いがまとまりやすくなります。
身内同士で、「遺留分を請求する」「使い込んだ分を戻してほしい」と主張しても、相手は聞く耳を持たないことがあります。
しかし、弁護士が介入することで、相手に真剣度合いが伝わり、「対応しないと裁判に進むかもしれない」という圧力をかけることができます。
その結果、話し合いがスムーズに進み、調停や訴訟に進めることなく解決できることが期待できます。
弁護士に依頼すれば、財産を少しでも多く受け取れるように導いてくれます。
ほとんどの人にとって相続トラブルは初めてであるか経験が少ないため、適切な主張を行えなかったり、証拠が十分に集められなかったりして、損をしてしまう傾向があります。
弁護士ならば、豊富な知識と経験を活かし、依頼者が少しでも多くの財産を受け取れるように尽力してくれます。
弁護士に依頼すれば、調停や訴訟に進んだ場合もサポートしてもらえます。
ほとんどの人にとって裁判手続は初めてであるか経験が少ないため、自身の意見を法的根拠に基づいて主張することは難しいでしょう。その点、弁護士は調停委員や裁判官を説得することを得意としています。
また、そもそも調停や訴訟は申立手続が煩雑です。不慣れな人が行うと時間も手間もかかり、ミスが生じるおそれもあります。弁護士に任せればスムーズに申立てることができるでしょう。
弁護士に依頼した場合、かかる費用は数十万円~数百万円が目安です。取得する財産額に応じて大きく変動します。
弁護士費用は下記計算式で算出するのが一般的です。法律事務所によって料金システムは大きく異なるので、必ず依頼する事務所に確認するようにしてください。
弁護士費用の計算式 |
着手金(20~50万円) + 報酬金(取得した遺産の4%~16%)+ その他費用(数万円~) |
※着手金…依頼時に支払う前払金。
※報酬金…解決時に支払う後払金。取得できた遺産の額に応じて金額が決められる(遺産額が上がるにつれ報酬割合は下がることが一般的)
ここまで相続で遺産をもらえないケースについて解説してきました。
最後にもう一度、要点を確認しましょう。
本文では遺産をもらえない6つのケースとその対処法を紹介しました。
遺産をもらえないケース | 主な対処法 | |
遺言により遺産の受け取り人に指定されなかった | 遺留分を請求する | |
生前贈与により財産が全く残っていなかった | 遺留分を請求する(条件有り) | |
他の相続人が遺産を渡そうとしない | 遺産分割調停を起こす | |
他の相続人が遺産を隠した・使い込んだ | 不当利得返還請求・遺産分割調停を起こす | |
相続廃除により相続権を失った | ー | |
相続欠格により相続権を失った | ー |
対処法がある場合にはできるだけ早く実践するようにしましょう。
他の相続人ともめた場合は弁護士に相談することをおすすめします。
以上、本記事をもとに適正な遺産を受け取ることができるよう願っております。