弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
「相続分の譲渡とはどういうもの?した方がいいのだろうか?」
「相続分を譲渡することに決めたけど、どうやって進めていけばいいのだろう。」
遺産を相続したくない場合や特定の人に遺産を渡したい場合、相続分の譲渡という方法があります。しかし聞き慣れない言葉のため、どのような仕組みでどのような時に活用すべきなのかいまひとつ分かりませんよね。
相続分の譲渡とは自分の法定相続分を他の人に譲ることです。遺産分割協議成立の前であれば譲渡の内容は当人同士で自由に決めることができます。
譲渡により、渡したい人に自分の相続分を譲ることができたり、相続から早期に離脱して対価を得ることができたりします。
しかし、相続分の譲渡はあくまで「相続できる権利」を譲渡しただけであって、相続人の地位まではなくなりません。そのため、遺産に債務が含まれる場合、債権者から弁済を要求されれば応じなければならないというリスクもあります。
このように相続分の譲渡は様々なメリット・デメリットがあり、それをよく理解した上で譲渡すべきかどうか判断しなければいけません。
そこで本記事では相続分の譲渡について次のようにまとめました。
本記事の内容 |
1.相続分の譲渡とは 2.相続分の譲渡のメリット・デメリット 3.相続分の譲渡に向いているケース・向いていないケース 4.相続分の譲渡と相続放棄、どちらがいいのか? 5.相続分を譲渡する場合の相続の進め方 6.【注意】相続分の譲渡によって課される税金が変わる |
本記事を読めば相続分の譲渡について正しく理解でき、譲渡を行うかどうか判断することができます。
そして譲渡を行うと決めた場合はスムーズに譲渡と相続を進められるよう実践できるようになります。
是非最後まで読んでいってくださいね。
相続の弁護士費用に、新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと7.7%着手金無料プランを用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
相続の弁護士費用に、
新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと
7.7%着手金無料プラン
を用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
相続分の譲渡とはどのような仕組みなのでしょうか。本章では相続分の譲渡について正しく理解していきましょう。
◎相続分の譲渡とは|自分の法定相続分を譲ること
◎相続分の譲渡について知っておくべきルール
相続分の譲渡とは、自分の法定相続分を他の人に譲ることを指します。自身が持っている相続分を手放したいとき、あるいは自分の相続の持分を誰かに渡したいときに使われる方法です。
相続分の譲渡とは |
自分の法定相続分を他の人に譲ること 譲る人を譲渡人、譲ってもらう人を譲受人と呼ぶ |
譲渡を行うことにより、次のような効果が期待できます。
◎遺産を渡したい人に譲ることができる
◎遺産分割協議を待たず金銭等を得ることができる
◎相続手続きや相続トラブルから抜けることができる
◎遺産分割協議がスムーズに進みやすい
尚、譲ることができるのは遺産に対する持分割合のみで、特定の遺産そのものではありません。
例えば相続人が長男・次男・三男の3人で、法定相続分がそれぞれ1/3だとします。長男が次男に譲渡したい場合、渡せるのは1/3の持分割合であり、「不動産を譲りたい」と指定できるものではありません。どの財産を相続するかは、その後次男と三男の話し合いで決めていくことになります。
【遺言書がある場合は譲渡できる?ー対象財産が指定されていないなら可能】 例えば「財産の50%を長女に譲る」と遺言が残されていた場合は長女は渡したい人に相続分を譲渡することができます。 しかし、「自宅を長女に譲る」と書かれていた場合は譲渡できません。 (この場合、長女が自宅を引き継ぎたくないのなら、単純にその旨を他の相続人に伝えればOKです。(民法986条) |
相続分の譲渡はどのようなルールで利用できるのでしょうか。
実は法律上、相続分の譲渡の要件や方法について定めた規定はありません。すなわち譲渡人と譲受人が合意すれば譲渡の内容は当人たちで決めることができるのです。
ただひとつ、譲渡できる時期は遺産分割協議(または調停)が成立する前に限られているので注意しましょう。
【相続分の譲渡について】
譲渡できる相手 | 相続人・第三者、両方可能 複数人でもOK |
対価 | 有償・無償、両方可能 |
譲渡できる相続分 (所有する持分割合の範囲内) | 全部・一部、両方可能 |
譲渡できる時期 | 遺産分割協議の成立前 |
■譲受人
譲受人は同じ相続人でも、全く関係のない第三者でも可能です。そのため本来相続人ではない内縁の夫または妻、相続人の配偶者にも渡すことができます。
また、人数にも制限はありません。例えば自分の子ども3人に相続分を譲渡したい場合、それぞれに3分の1ずつ渡すことも可能です。
■対価
無償で渡しても、渡す代わりに金銭などの対価を受け取ってもどちらでもOKです。
ただし贈与や税金に関わってくるので注意してください。
無償で相続分を譲渡した場合は贈与に該当するため、譲渡人が亡くなったときに特別受益の対象になる可能性があります。
関連記事:特別受益とは?該当するケース10例と主張する流れ、計算方法を解説
また、第三者に無償で譲渡した場合は譲受人に贈与税が発生します。税金については相続分の譲渡によって課される税金が変わるので詳しく解説するのでそちらをご確認ください。
■譲渡できる相続分(所有する持分割合の範囲内)
遺産に対する自身の持分割合の範囲内であれば譲渡する相続分は自由に決めることができます。
例えば、相続人が自分と弟の2人でそれぞれ2分の1ずつだったとします。自分の子どもに相続分を譲渡したい場合、2分の1全てを渡してもいいし、2分の1の内の半分だけを渡すこともできます。
■譲渡できる時期
譲渡できるタイミングは遺産分割協議が成立する前だけに限ります。
実務上、相続人の相続分が変わったり新たに相続権を持った人物が登場したりすると、遺産分割協議を一からやり直さないといけなくなるため、協議が成立した後は譲渡を行えません。
成立する前であれば問題ないので、話し合いの途中や調停中でも譲渡は可能です。
前章で譲渡の基本について理解できたところで、では実際相続分を譲渡すればどのようなメリットが得られるのか見ていきましょう。
そして譲渡することによってどのようなデメリット・リスクが発生するかも事前に知っておく必要があります。
相続分を譲渡することによって次のようなことが期待できます。
【相続分の譲渡のメリット】
1.特定の人に譲渡できる 2.対価を得ることができる(有償の場合) 3.相続手続きや相続トラブルから離脱できる 4.相続人が減ることにより遺産分割協議がスムーズに進みやすい |
譲渡の最大のメリットといえるのが、自分が渡したい人に相続分を譲渡できることです。例えば父が亡くなり、母と自分、弟、妹が相続人になったとします。父亡き後の母の生活が心配ならば、自分の相続分を母に譲渡すれば母の生活に役立てることができます。
有償の場合なら遺産分割協議が成立する前に金銭などの対価を得ることができます。
遺産は遺産分割協議が終わらないと引き継ぐことができません。しかし遺産分割協議は長ければ成立まで1年、2年とかかる場合があるので、先に相続分を有償で譲渡すれば協議成立を待たずに金銭等を得ることができます。
相続の手続きは思っている以上に大変です。他の相続人とやりとりをして遺産分割協議が成立するまで何度も集まらなければいけません。他にも何通にも及ぶ戸籍を収集したり、各公的機関に出向いたりと、時間も手間もかかります。
また、ときに遺産相続は様々なトラブルを引き起こします。遺産を巡って相続人同士が対立することは珍しくなく、相続問題で後々の関係性にも悪影響を及ぼしかねません。
相続分を譲渡すると、これら一連の相続手続き・問題から離脱することができます。時間や労力を取られないだけでなく、他の相続人との良好な関係性も維持できるでしょう。
遺産分割の話し合いは人数が多ければ多いほど複雑化します。人数が多い分進行も時間がかかり、遺産を巡って対立するリスクも高まるでしょう。相続分を譲渡して相続から抜けることで、遺産分割協議がスムーズに進行することを期待できます。
一方で、相続分の譲渡には次のようなデメリット・リスクもあります。
【相続分の譲渡のデメリット・リスク】
1.債務の弁済を免れることができない 2.贈与の対象になることがある(無償の場合) 3.第三者への譲渡:他の相続人から取り戻し請求されることがある 4.第三者への譲渡:手続きが煩雑になる 5.第三者への譲渡:譲渡人・譲受人双方に税金がかかる(無償の場合) |
相続分を全て譲渡したとしても、遺産に借金などの債務がある場合、債権者から弁済要求があれば弁済に応じなければいけません。この点が相続分の譲渡の最大のデメリットと言えるでしょう。
相続分の譲渡とは相続の権利を手放すことであり、相続人としての地位は喪失しません。そのため、相続分を全て譲渡したとしても「相続人であること」に変わりはないのです。
このようにマイナスの財産がある場合は、相続分の譲渡ではなく相続放棄を選択するのが一般的です。相続放棄については相続分の「譲渡」と「相続放棄」、どちらがいいの?で説明するのでそちらで詳細をご確認ください。
先ほども少し述べましたが、無償で相続分を譲渡すると贈与の対象になることがあります。
例えば祖父が亡くなり、父が持っている相続分を長男に無償譲渡して長男は1,000万円の現金を取得したとします。何年かのち父が亡くなると今度は父の相続が始まりますが、その時に次男は長男に対して「過去に長男は父から相続分を譲渡してもらって1,000万円受け取ったのだから、その分も財産に含めるべき」と主張してくることが考えられます。
このように、無償の譲渡は生前贈与として扱われ、特別受益の対象となり、譲渡人の相続のときにトラブルを引き起こす可能性があることを想定しておきましょう。
相続分を法定相続人ではない第三者へ譲渡した場合、他の相続人はその第三者から相続分を取り戻すことが法律で認められています。
“(民法905条 相続分の取戻権) 第九百五条 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。 2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。” 引用:民法 | e-Gov法令検索 |
なぜこのような条文があるのかというと、他の相続人たちにとっては部外者だと思っていた他人と遺産を分け合うことになるので、遺産分割協議がスムーズに進まない恐れがあるからです。
そのため、他の相続人から相続権の取り戻しを請求された場合は、譲受人はこれに応じなければいけません。もちろん譲渡が有償であった場合は他の相続人はその費用を譲受人に渡す必要があります。
尚、取り戻し請求の期限は譲渡を知ったときから1ヶ月と定められています。
相続分を法定相続人以外の人物に譲渡する場合、その後の預貯金の引き出しや不動産の登記での手続きが煩雑になります。
本来相続人ではない人物が遺産を引き継ごうとしているのですから、銀行や法務省側も慎重に対処するのは当然ですよね。
手続きの詳細については相続分を譲渡する場合の相続の進め方で解説していきます。
相続分を第三者に無償で譲渡した場合は税金が二重で発生するので注意しましょう。詳細は相続分の譲渡によって課される税金が変わるで解説します。
【第三者へ無償譲渡した場合の税金】
譲渡人 | 相続税がかかる |
譲受人 | 贈与税がかかる |
※相続税・贈与税ともに基礎控除以内の場合は発生しない
例えば祖父が亡くなり、父の持分が評価額にすると3,000万円分だったとします。父は相続分を全て祖父のお世話をしてくれていた祖父の妹に無償譲渡しました。
この場合、遺産は一旦父が引き継いだと見なされ父には3,000万円に対して相続税が発生します。そして祖父の妹にも、父から3,000万円を贈与してもらった形になり3,000万円に対して贈与税が発生することになります。
前章で相続分の譲渡を行うとどのようなことが起こるか理解していただけたかと思います。
メリット・デメリット双方を把握した上で、ではどのようなケースなら相続分の譲渡を検討すべきでしょうか。ここでは相続分の譲渡に向いているケースと向いていないケースについて紹介していきます。
【相続分の譲渡に向いているケース】
・自分の相続分を譲りたい人がいる ・できるだけ早く現金を手にしたい ・遺産が不動産のみなどで、欲しい遺産がなく現金で受け取りたい ・遺産を相続したくない ・興味がない ・遺産分割のために時間や労力をかけられない ・相続トラブルに巻き込まれたくない ・相続人を少人数に絞りたい |
2章で紹介したメリットを最大限享受できそうなケースは相続分の譲渡を活用してみるのがおすすめです。
しかし、上記のケースでも下記にもあてはまる場合は相続分の譲渡はおすすめしません。
【相続分の譲渡に向いていないケース】
・遺産の中に債務がある ・贈与の対象になる可能性があり、贈与のトラブルを避けたい ・相続税・贈与税の課税対象となり、税負担を避けたい (課税の詳細→相続分の譲渡によって課される税金が変わる) |
向いていないケースにあてはまる場合は相続放棄を行という方法もあります。次章で相続放棄について詳しく見ていきましょう。
相続分の譲渡と似ている制度として、相続放棄という方法があります。
本章では相続放棄とは何か、譲渡とどう違うのかをお伝えしていくので、相続分の譲渡と相続放棄のどちらを行うべきか比較検討してみてください。
相続放棄とは、自身の相続権を放棄し、遺産を一切相続しない制度です。プラスの財産だけなくマイナスの財産も全て引き継ぎません。
相続分の譲渡とは違って相続放棄を行うと相続人の地位も喪失するので、始めから相続人ではなかったとみなされます。相続人ではなくなるので債務の弁済には応じる必要がありません。
他にもどのような点が譲渡と異なるのか、下表にまとめたので比較してみてください。
相続分の譲渡 | 相続放棄 | |
相続人としての地位 | 喪失しない | 喪失する |
相続権の移行 | 特定の人に譲渡できる | 相手を指定できない |
譲渡・放棄できる相続分 | 全部・一部、両方可能 | 全部 |
期限 | 遺産分割協議の成立前 | 原則として相続人が自己のために 相続の開始があったことを知った時から 3か月以内 |
家庭裁判所の手続き | 原則不要 | 必要 |
債務の弁済 | 応じる必要がある | 応じる必要がない |
相続放棄は原則として相続発生を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に手続きを行う必要があります。期限を過ぎてしまうと原則相続放棄は認められなくなるので注意しましょう。
前節をふまえ、下記のケースは相続分の譲渡よりも相続放棄がふさわしいでしょう。
【相続放棄の方が向いているケース】
・プラスの遺産よりも大きな債務がある ・譲りたい人がいない、または譲受人を指定したくない |
■プラスの遺産よりも大きな債務がある
繰り返しますが相続放棄は債務の弁済に応じる必要がないので、遺産に債務が含まれ、これが取得できるプラスの遺産よりも大きな負担となる場合は譲渡よりも相続放棄を選ぶべきです。
■譲りたい人がいない、または譲受人を指名したくない
対価を希望せず譲渡したい相手もいない場合は、譲渡よりも相続放棄を選ぶ方が他の相続人との対立を避けることができます。
特定の人物に相続分を譲渡すると、他の相続人から「ズルい」「不公平だ」と対立感情が生まれる可能性があります。
一方、相続放棄だと相続権が誰に移るかは法律によって定められているものなので、他の相続人から不満は出にくいでしょう。
【相続権の移行の例】 例えば父が亡くなった場合、相続人は長男・次男・三男の3人で、それぞれ3分の1ずつ相続分があるとしましょう。長男が相続放棄した場合、最初から長男は相続人ではなかったものと見なされるので、次男と三男の相続分は2分の1ずつになります。 また、長男が一人っ子であった場合、長男が相続放棄をすると次の相続順位である父の両親に相続権が移ることになります。 |
関連記事:遺産の相続割合が分かる!図解・シミュレーション計算例をケースごとに解説
関連記事:相続順位とは?遺産を受け取れる相続人の順番を分かりやすく解説
前章まで読み進めて「相続分を譲渡しよう」と決めた場合、どのように譲渡を進めていくべきかを本章でお伝えしていきます。
相続分を譲渡する場合、通常の相続とは手続きが異なってくる場面がいくつかあります。ここではその異なる点を中心に順を追って見ていきましょう。
【相続分を譲渡する場合の相続の進め方】
1.相続分譲渡証明書を作成する 2.相続分譲渡通知書を作成して他の相続人に送る ~~遺産分割協議~~ 3.銀行の預金を引き出す(譲受人が預金を相続した場合) 4.不動産の名義変更を行う(譲受人が預金を相続した場合) |
相続分を譲渡することが決まったら、まずは譲渡人と譲受人の間で相続分譲渡証明書を作成しましょう。相続分譲渡証明書とは「相続分を譲渡したこと」を証明する書類のことです。
相続分の譲渡は口頭でも取り決め可能です。しかし、やはり財産の受け渡しに関わることなので、後々のトラブル予防のためにも書面に残しておくことを強くおすすめします。
また、下記のケースでは証明書が必ず必要になります。
【相続分譲渡証明書が必要なケース】
①第三者である譲受人が金融機関から被相続人の預貯金を引き出す場合※ ②第三者である譲受人が不動産を相続して名義変更行う場合 ③遺産分割調停中の場合(詳細と書式→相続分譲渡について(説明書)) |
※金融機関によって手続きは異なります。弁護士や司法書士が作成した相続分譲渡証明書でも、第三者である譲受人が預貯金を引き出そうとしても、拒絶される可能性が高いです。→銀行の預金を引き出す(譲受人が預金を相続した場合)
相続分譲渡証明書の書き方について、①~③の目的がある場合はまずは提出先に書式を確認しましょう。(問い合わせ先:①→口座のある金融機関、②→管轄の法務局、③→管轄の裁判所)
それ以外の場合は特に決まった書式はありません。よろしければ下記内容をコピーしてご活用ください。
相続分譲渡証明書 譲渡人〇〇(以下「甲」)は、譲受人〇〇(以下「乙」)に対し、本日、下記被相続人の相続について、甲の相続分を全部( 無償 or 金〇〇円 )で譲渡し、乙はこれを譲り受けた。 令和〇〇年〇〇月〇〇日 被相続人: 死亡時の本籍: 死亡時の住所: 生年月日: 死亡年月日: (甲) 氏名: 《 印 》 住所: 本籍: 生年月日 (乙) 氏名: 《 印 》 住所: 本籍: 生年月日 : |
【ご利用の注意点】
・コピー貼り付け後、書式は整えてください。
・〇〇の部分と空欄部分を記入してください。
・譲渡が相続分の一部の場合は文言を変更してください。
・無償か有償か選択してください。
・押印は実印を使用しましょう。
相続分譲渡証明書を作成したら次は相続分譲渡通知書を作成しましょう。相続分譲渡通知書とは、他の相続人に「相続分の譲渡が行われた」ことを伝えるための文書です。
この文書も必ず作成しなければいけないわけではありませんが、他の相続人に譲渡があったことを知らせないと混乱を招いてしまいます。
遺産分割協議に支障をきたさないようにするためにも、譲渡証明書とセットで作成するようにしましょう。
通知書に関しても決まった書式はありません。下記内容をコピーしてご活用ください。
〇〇(通知したい人の住所) 〇〇様(通知したい人の氏名) 相続分譲渡通知書 被相続人〇〇の相続について、私〇〇は、令和〇〇年〇〇月〇〇日に自己の相続分の全部を〇〇に譲渡しましたので、この旨通知いたします。 令和〇〇年〇〇月〇〇日 〇〇(譲渡人の住所) 〇〇様(譲渡人の氏名) |
【ご利用の注意点】
・コピー貼り付け後、書式は整えてください。
・〇〇の部分を記入してください。
・譲渡が相続分の一部の場合は文言を変更してください。
相続分の譲渡が行われ、遺産分割協議が成立したらようやく遺産を引き継ぐ手続きを始められます。
しかし、譲受人が金融機関から預貯金を引き出す場合は手続きが難航しやすいことをあらかじめ想定しておきましょう。
なぜなら、金融機関からすると「本当にこの人物に預金を渡しても問題ないのか」という疑念があり、リスクを回避しようとするからです。
そこで、あらかじめ手続き準備を始める前に、電話か窓口で事情を説明してどのような書類を揃えれば預金引き出しが可能なのか相談するようにしてください。
そうすれば金融機関側が「司法書士か弁護士に相続分譲渡証明書を作成してもらってください。」「相続人全員の同意書も揃えてください。」と回答してくれるかもしれないので、その内容に従って進めていくようにしましょう。
その他の一般的な預金引き出しに必要な書類はこちらの記事で紹介しているので、参考にしながら進めていくようにしてください。
関連記事:【実践的】遺産使い込みの対処法|取り戻すためには証拠集めが重要
関連記事:遺産相続の勝手な手続きは無効!確実に取り戻す具体策をケース別に解説
譲受人が不動産を相続した場合、譲受人が元々相続人であったか第三者であったかによって手続きは変わります。
まず、譲受人が元々相続人であった場合は通常の不動産の名義変更手続きと変わりません。被相続人から直接名義変更ができます。
しかし、譲受人が第三者であった場合は二段階の登記が必要になります。譲受人が相続人ではない第三者である場合、被相続人から直接名義変更することはできないからです。
まずは被相続人から共同相続人へ名義変更(登記原因=相続)を行います。その後、共同相続人から譲受人に名義変更(登記原因=相続分の贈与または相続分の売買)を行うようにしましょう。
【譲受人が第三者である場合の不動産の名義変更】
手順 | 名義変更 | 登記原因 |
STEP1 | 被相続人→共同相続人 | 「相続」 |
STEP2 | 共同相続人→譲受人 | 「相続分の贈与」(無償の場合) または 「相続分の売買」(有償の場合) |
STEP2の手続き自体は、一般的な必要書類に加え相続分譲渡証明書を添付すれば問題なく進められます。詳細は管轄の法務局に問い合わるようにしてください。
(法務局を探す場合→管轄のご案内:法務局)
相続分の譲渡が行われた場合、条件によって譲渡人か譲受人のどちらに(または双方に)相続税が課されるか異なってきます。さらには贈与税も発生するケースもあります。
申告漏れなどの納税トラブルを起こさないよう、誰にどの税金が課せられるのかを正しく理解して進めていくようにしましょう。
相続税・贈与税は相続分譲渡の対価が無償か有償、そして譲受人が相続人か第三者かによって4つのパターンに分けられます。その4パターンを下表にまとめました。
ここでは理解しやすいよう譲渡人の相続分を全て譲渡した設定で解説していきます。
対価 |
譲受人 |
譲渡人にかかる税金 |
譲受人にかかる税金 |
|
無償 |
相続人 |
なし |
相続税 |
|
第三者 |
相続税 |
贈与税 |
||
有償 |
相続人 |
相続税 |
相続税 |
|
第三者 |
相続税 |
なし |
※相続税は原則、基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えたら発生します。
※贈与税は原則、1年間で110万円を超える場合に発生します。
■無償×譲受人が相続人
・譲渡人…何も取得しないことになるので課税なし
・譲受人…相続分を譲渡してもらって遺産を相続したので相続税が発生
■無償×譲受人が第三者
考え方:このパターンの場合、計算上譲渡人は一旦遺産を相続してそれから譲受人に贈与したと見なして算定することになります。
・譲渡人…一旦遺産を相続したと見なされるので相続税が発生
・譲受人…譲渡人から贈与を受けたと見なされるので贈与税が発生
■有償×譲受人が相続人
考え方:例えば、父の遺産が全て不動産で評価額にして1億円だとします。相続人は母と長男の2人(法定相続分2分の1ずつ)で、長男は不動産が欲しくないため相続分を母に譲渡しました。代わりに対価として5,000万円の現金を受け取りました。つまり、この相続によって長男は現金5,000万円を得て、母も価額5,000万円(1億円の不動産-5,000万円の対価)の遺産を得ていることになります。
よって、
・譲渡人…相続の譲渡によって得た対価に対して相続税が発生
・譲受人…相続した遺産から譲渡人に支払った金額を差し引いた分に相続税が発生
■有償×譲受人が第三者
・譲渡人…相続の譲渡によって得た金銭に対して相続税が発生(所得税も課せられる可能性がある)
・譲受人…遺産を取得したが対価を支払っているので課税なし(支払った対価が著しく低い場合は贈与税が発生する可能性がある)
本記事を読んで相続分の譲渡について理解を深められたことと思います。
あらためて本文の要点をおさらいしましょう。
まず、相続分の譲渡とは何かについてまとめたものが下記の内容です。
相続分の譲渡とは |
自分の法定相続分を他の人に譲ること 譲る人を譲渡人、譲ってもらう人を譲受人と呼ぶ |
【相続分の譲渡について知っておくべきルール】
譲渡できる相手 | 相続人・第三者、両方可能 複数人でもOK |
対価 | 有償・無償、両方可能 |
譲渡できる相続分 (所有する持分割合の範囲内) | 全部・一部、両方可能 |
譲渡できる時期 | 遺産分割協議の成立前 |
次に相続分の譲渡を行うとどんなメリット・デメリットがあるのかをお伝えしました。
相続分の譲渡4つのメリット |
1.特定の人に譲渡できる 2.対価を得ることができる(有償の場合) 3.相続手続きや相続トラブルから離脱できる 4.相続人が減ることにより遺産分割協議がスムーズに進みやすい |
相続分の譲渡5つのデメリット |
1.債務の弁済を免れることができない 2.贈与の対象になることがある(無償の場合) 3.第三者への譲渡:他の相続人から取り戻し請求されることがある 4.第三者への譲渡:手続きが煩雑になる 5.第三者への譲渡:譲渡人・譲受人双方に税金がかかる(無償の場合) |
ではどのようなケースで譲渡を行うべきか、向いているケース・向いていないケースを紹介しました。
相続分の譲渡に向いているケース |
・自分の相続分を譲りたい人がいる ・できるだけ早く現金を手にしたい ・遺産が不動産のみなどで、欲しい遺産がなく現金で受け取りたい ・遺産を相続したくない ・興味がない ・遺産分割のために時間や労力をかけられない ・相続トラブルに巻き込まれたくない ・相続人を少人数に絞りたい |
相続分の譲渡に向いていないケース |
・プラスの遺産よりも大きな債務がある ・贈与の対象になる可能性があり、贈与のトラブルを避けたい ・相続税・贈与税の課税対象となり、税負担を避けたい |
この中で「プラスの遺産よりも大きな債務がある 」ケースでは譲渡ではなく相続放棄を選択することをおすすめします。
そして、実際に相続の譲渡を行う場合は次のポイントをおさえて進めていくようにしましょう。
相続分を譲渡する場合の相続の進め方 |
1.相続分譲渡証明書を作成する 2.相続分譲渡通知書を作成して他の相続人に送る ~~遺産分割協議~~ 3.銀行の預金を引き出す(譲受人が預金を相続した場合) 4.不動産の名義変更を行う(譲受人が不動産を相続した場合) |
また、相続分の譲渡を行うと課される税金が変わってくるので注意が必要です。
対価 |
譲受人 |
譲渡人にかかる税金 |
譲受人にかかる税金 |
無償 |
相続人 |
なし |
相続税 |
第三者 |
相続税 |
贈与税 |
|
有償 |
相続人 |
相続税 |
相続税 |
第三者 |
相続税 |
なし |
以上、本記事を読んで相続分の譲渡について正しく理解でき、譲渡を行うかどうか判断するための役に立てれば幸いです。
そして譲渡を行うと決めた場合は、本記事を参考にしてトラブルのないスムーズな譲渡を行えることを願っております。