遺産相続の12の時効・期限を全解説┃権利消滅で財産が受け取れない事態を避けよう

遺産相続の時効の画像
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

遺産相続が発生した場合に気を付けなければならないのが、さまざまな手続きに関わる「時効」や「期限」です。特に注意すべきは、一定の時間の経過によって権利が消滅してしまう「消滅時効」、そしてあらかじめ決められた「期限」です。

時効(消滅時効)

一定期間、権利が行使されない時に、その権利が消滅してしまうこと

例:遺留分侵害額請求の消滅時効は1年で、時効を過ぎると権利が消滅してしまう

時効(取得時効)

一定期間、所有の意思を持ってものを占有したとき、その物の所有権を取得できる制度

例:自分の土地だと信じて建物を建てて住んでいた場合、たとえそれが他人の土地だったとしても、10年間あるいは20年間の占有によって土地の所有権を取得し得る。

 期限

前もって決められた一定の期間のこと

例:相続放棄できる期限は、原則、相続開始を知ってから3カ月

時効と期限の意味は混同しやすく難しいものですが、この記事では、時効も期限も両方合わせて説明していきますので、遺産相続で「何をいつまでにしなければならないのか」全てを網羅して理解することができるでしょう。

実は、遺産を相続する権利そのものには時効はありません。しかし、遺産相続に関わるその他の時効に注意しないと、「受け取れるはずの遺産を受け取れなかった」という事態に陥りかねません

例えば、法律上は相続資格のない者によって遺産分割が進められてしまった場合、真の相続人には「相続回復請求権」がありますが、この権利は、相続人またはその法定代理人が、相続権が侵害された事実を知ったときから、5年で時効によって消滅します。

つまり、このケースでは、時効を迎えてしまえば、遺産を請求する権利が消滅してしまうのです。

遺産相続で損しないためには、遺産相続に関わる時効や期限を事前に知っておくことが重要です。そこで今回は、12の視点から遺産相続の時効や期限をそれぞれ詳しく解説していきます。

項目時効・期限
相続権
遺産を相続する権利
詳細↓
相続権(遺産を相続する権利)の時効
時効はない
相続回復請求権
侵害されている相続権を回復する権利
詳細↓
相続回復請求権の時効
侵害を知ってから5年 または相続開始から20年
遺留分侵害額請求権
侵害されている遺留分を請求できる権利
詳細↓
遺留分侵害額請求権の時効
侵害を知ってから1年 または相続開始から10年
相続放棄できる期限
詳細↓
相続放棄できる期限(熟慮期間)
自己のための相続開始を知ってから3カ月
新たな遺産がでてきた場合
詳細↓
新たな遺産が出てきた
遺産分割協議自体に時効はない
遺産分割協議を取り消したい
錯誤・詐欺・脅迫などがあった場合
詳細↓
遺産分割協議を取り消したい
錯誤や詐欺に気付いてから5年 または、遺産分割が行われてから20年
遺産分割協議をやり直したい
理由は問わない
詳細↓
遺産分割協議をやり直したい
時効はないが、全員の合意が必要となるためハードルが高い
相続税申告の期限を過ぎてしまった
財産の存在自体を知らなかったケース
詳細↓
相続税申告の期限を過ぎてしまった
相続税の時効は申告期限の翌日から5年
贈与税申告の期限を過ぎてしまった  
詳細↓
贈与税申告の期限を過ぎてしまった
贈与税の時効は申告期限の翌日から6年 (悪意がある場合は7年)
相続登記(相続した不動産の名義変更)
詳細↓
相続登記(不動産名義変更)
2024年4月1日から手続きが義務化 不動産取得を知ってから3年以内
債務(債権)の消滅時効
詳細↓
債務(債権)の消滅時効
債権者が権利行使可能であることを知った時から5年 または権利の行使ができる時から10年
遺産の取得時効
相続人の1人が遺産を占有し続ける場合
詳細↓
遺産の取得時効
10年または20年で取得時効が完成 ただし、要件は厳しめ

相続を進める上で損しないためにも、これらの時効や期限をしっかり押さえておきましょう。

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目次

そもそも時効・期限とは

遺産相続に関する時効や期限をそれぞれ解説する前に、まず「時効」と「期限」とは何か理解しておきましょう。

時効には「消滅時効」と「取得時効」があり、それとは別に期限(期間の制限)という言葉が存在します。

時効(消滅時効)

一定期間、権利が行使されない時に、その権利が消滅してしまうこと

例:遺留分侵害額請求の消滅時効は1年で、時効を過ぎると権利が消滅してしまう

時効(取得時効)

一定期間、所有の意思をもって物を占有したとき、その物の所有権を取得できる制度

例:自分の土地だと信じて建物を建てて住んでいた場合、たとえそれが他人の土地だったとしても、10年間あるいは20年間の占有によって土地の所有権を取得し得る。

 期限

前もって決められた一定の期間のこと

例:相続放棄できる期限は、原則、相続開始を知ってから3カ月

上記のように意味の違いがあることをしっかり理解しておくことで、この後の2章~13章の解説をより理解しやすくなります。

3つの言葉の中で、特に注意しなければならないのが「消滅時効」です。せっかく正当な権利を持っていても、消滅時効を迎えてしまうとその権利を主張できなくなってしまうからです。

早速、以下から、それぞれの時効や期限を確認していきましょう。

相続権(遺産を相続する権利)の時効:なし

はじめに、「相続権そのものに時効は存在するのか?」という部分からお話します。

相続権、つまり遺産を相続する権利そのものには、「いつまでに受け取らなければ権利を失う」のような消滅時効は存在しません

ただし、相続権があるのに相続開始があったことを知らされていなかった場合などにその権利を回復する「相続回復請求権」の時効はあります。

相続回復請求権の時効は、侵害の事実を知った時から5年、または相続開始から20年です。そのため、実質的には、この相続回復請求権の時効が遺産相続できる時効と考えることもできるでしょう。

相続回復請求権については、次の章で詳しく解説します。

なお、今後、2021年4月の民法改正(2023年5月施行予定)により、相続開始後10年を経過すると特別受益や寄与分の主張ができなくなります。もし、特別受益や寄与分の主張をしたい場合は、10年を経過する前に調停等を申し立てるようにしましょう。特別受益や寄与分については以下の記事をご覧ください。

相続回復請求権の時効:5年(最長20年)

相続権(相続する権利)を侵害されている場合には、「相続回復請求」を行うことで相続財産を取り戻せる可能性があります。例えば、相続権がない人が遺産を占有したなどのケースで権利を行使できます。

その請求権を行使するための時効は、侵害の事実を知った時から5年または相続開始から20年です。

相続回復請求権の時効:侵害を知ってから5年(または相続開始から20年)
状況相続権(相続する権利)が侵害されている  
例えば、
・相続廃除されて相続権のない兄が、実家にそのまま住みついている
・兄弟3人で3分の1ずつ遺産を受け継いだはずなのに、兄が勝手に全ての預貯金を自分のものにしてしまった
時効❶相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間
❷相続開始の時から20年を経過したとき
時効が過ぎるとどうなるか時効期間が過ぎると権利を請求できなくなる
民法相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする (民法884条)。

想定される状況とは、例えば、以下のようなケースが考えられます。

  • 本来であれば相続人廃除や相続欠格などの理由により「相続人ではない」人物が、遺産を取得した
  • 共同相続人が、自分の相続分を超えて遺産を取り込んでしまった場合

時効が成立すると権利を請求できなくなる可能性があるので注意しましょう。ただし、他の相続人がわざと特定の相続人に相続を知らせずに遺産分割協議を行った場合にはこの時効は適用されず、遺産分割協議自体を無効にできる可能性があります。

遺留分侵害額請求権の時効:1年(最長10年)

遺言がある場合はその内容通りに遺産分割を進めますが、遺留分が侵害されている場合には「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

遺留分侵害額請求できる権利の時効は、相続開始と遺留分侵害を知ってから1年、または知らなかった場合も10年で自動的に請求権が消滅となります。

遺留分とは、一定の相続人(配偶者・子ども・親等)に与えられている、遺言によっても奪うことができない「最低限もらえる遺産の取り分」のことです。遺言があったとしても、遺留分が侵害されている場合には請求でき、取り戻すことができます。  

詳しくは「遺留分とは?言葉の意味や請求方法をどこよりも分かりやすく解説」の記事をご覧ください。
遺留分侵害額請求の時効:相続開始と侵害を知ってから1年、または相続開始から10年
状況遺留分(一定の相続人に与えられている最低限もらえる取り分)が侵害されている
時効❶相続開始および遺留分を侵害する事実があったことを知ってから1年
❷相続開始から10年を経過したとき
時効が過ぎるとどうなるか請求できる権利がなくなる
民法(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

例えば、Aという人物が亡くなり、相続人が妻Bと子Cだったとします。このケースでは、妻Bの法定相続分は2分の1であり、遺留分はその半分にあたる4分の1です。遺言で「子Cに全ての財産を相続する」とあった場合、妻Bは「遺留分侵害額請求」を行うことで4分の1の相続財産を取り戻すことができます。

しかし、相続開始を知ってから1年が経つと請求権が時効となるため、遺留分を請求できなくなります。また、相続が開始したことや侵害されていることを知らなかった場合も、相続開始後(Aが死後)10年が経つと自動的に請求権は消滅します。

遺留分を受け取りたい場合は、時効が完成する前に「遺留分侵害額請求」を行いましょう。

請求の仕方や時効についてのさらに詳しい説明は、「遺留分侵害額請求の時効は最短1年!時効の詳細と確実に止める方法」の記事も参考にしてください。

相続放棄できる期限(熟慮期間):3カ月

相続財産の中に借金やローンなどマイナスの遺産がある場合、家庭裁判所に申し出ることで相続放棄できます。

相続放棄とは、相続する権利を全て放棄すること。プラスの財産も含めて相続しないことをいいます。  
さらに詳しくは「確実に相続放棄するなら弁護士に依頼すべき┃費用・依頼先・流れを解説」の記事をご覧ください。

相続放棄の期間制限は、「自己のための相続開始を知ってから3か月」で(この期間を「熟慮期間」といいます。)、その期間内に家庭裁判所で手続きを行わなければ相続放棄できなくなります。つまり、マイナスの遺産も含めて相続しなければならなくなります。

相続放棄の期間制限:相続開始を知ってから3カ月
状況相続を放棄したい(相続したくない)
期間制限相続開始があったことを知った時から3カ月以内
熟慮期間までにしなければならないこと家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う
熟慮期間が過ぎるとどうなるか相続放棄できなくなる
民法(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

ただし、相続開始後の財産調査に時間がかかる場合など、家庭裁判所に「相続放棄期間の伸長」を申し立てることで、熟慮期間を延ばすことができます

参考:裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」

なお、特別な事情がある場合には熟慮期間を過ぎても相続放棄が認められる可能性があります。例えば、昭和59年4月27日最高裁判決では、他の相続人との仲が悪くて財産調査ができず、なおかつ(積極財産も消極財産も含めて)相続財産がまったく存在しないと認識していたケースで相続放棄が認められています。

このように、「熟慮期間を過ぎてしまったけど相続放棄したい」というケースでは、弁護士に相談してみましょう。詳しくは「確実に相続放棄するなら弁護士に依頼すべき|費用・依頼先・流れを解説」の記事もご覧ください。

新たな遺産が出てきた:相続できる時効は無いがその他の時効に注意

遺産分割協議を行った後に新たなプラスの財産(価値がある財産)が出てきた場合について解説します。

1章で解説した通り相続そのものに時効はないため、新しく見つかった相続財産も引き継ぐことが可能です。遺産分割協議をやり直す必要もなく、新たな遺産の分割方法を話し合えば良いでしょう。

新たなプラス財産が出てきた場合:時効はないのでそのまま引き継げる
状況遺産分割協議が終わって既に相続を行った後に、新しいプラス財産が出てきた   例:遺産は預貯金だけだと思っていたら、タンスの中から株券が見つかった
時効被相続人の死亡から時間が経っていても、相続できなくなることはない(時効はない)
時効が過ぎるとどうなるかいつでも遺産を引き継げる

ただし、相続にあたっていくつか他の期間制限にも注意する必要があります。

例えば、新たに発見された遺産が株の場合、未受領配当金(受け取っていない配当金)を受け取れる期間が制限されている可能性があります。民法では時効は10年ですが、株の発行会社によってはそれより短く定款で決められていることもあります。

また、新しい遺産に対して相続税の申告が必要になる場合があります。遺産が発見された時期が相続税の申告期限内であれば、新たに発見された遺産も含めて相続税の申告をやり直すことになります。申告期限後に発見された場合は、修正申告を行うことになります。この場合は、原則として、過少申告加算税に加えて延滞税も課税されることになります。

なお、相続税に関しては、「相続税申告の期限を過ぎてしまった:相続税の時効は5年または7年」で後述するとおり、申告期限から5年または7年の経過により納税義務は時効により消滅し、相続税を支払う必要はなくなります。

遺産分割協議を取り消したい:時効は5年(最長20年)

錯誤・詐欺・脅迫があったなどの理由で遺産分割協議を取り消したい場合、取消権(取り消せる権利)の時効は、錯誤・詐欺・脅迫に気付いてから5年です。また、遺産分割が行われてから20年が経過した場合にも権利が消滅します。

遺産分割協議の取消権:錯誤や詐欺などに気付いてから5年(または遺産分割した時から20年)
状況錯誤・詐欺・脅迫の行為があったため、遺産分割協議を取り消したい
時効❶詐欺・詐欺・脅迫の行為に気付いてから5年
❷遺産分割が行われた時から20年が経過したとき
時効が過ぎるとどうなるか遺産分割協議を取り消せなくなる
時効を中断させるためにすること他の相続人や受遺者全員に取り消しの意思表示を行う(内容証明郵便による通知が一般的)
民法(取消権の期間の制限) 第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

遺産分割協議を取り消すことができるのは、主に「錯誤」または「詐欺・脅迫」に当たる行為があった場合です。

錯誤とは、内容について思い違いや誤解をしており、その誤解に基づいて意思表示してしまったことをいいます。民法第95条によると、錯誤による意思表示は取り消せるとされています。

詐欺とは、他の人がついたウソを信じてしまい、それによって意思表示したことをいいます。脅迫とは、脅されたことにより無理やり署名・捺印してしまったケースなどをいいます。民法第96条によると、詐欺・脅迫による意思表示は取り消せるとされています。

錯誤・詐欺・脅迫があったことによる遺産分割協議の取り消しを行うには、他の相続人や受遺者(遺言により遺産を受け取る人)全員に向けて、取り消しの意思表示を行う必要があります。上記の時効前に、内容証明郵便を利用して「取消権を行使した」という証拠を残しましょう。

遺産分割協議をやり直したい:時効は無いが難しい

遺産分割には時効はないため、遺産分割協議をやり直す場合の期限はありません。

民法の第907条にも、共同相続人は「いつでも」協議によって遺産の分割ができると書かれています。つまり、いつまでに遺産分割協議を終わらせなければならないという決まりはありません。

遺産分割の時効:特になし
状況遺産分割協議をやり直したい   例えば、遺産分割協議では法定相続分よりも少なく相続することを承認したが、協議を白紙にしてやっぱり法定相続分の遺産を受け取りたい
時効遺産分割の時効はない
民法(遺産の分割の協議又は審判等) 第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。

しかし、時効はなくても、一度決まった遺産分割協議をやり直すのはかなりハードルは高いので注意しましょう。

なぜならば、遺産分割協議をやり直す場合も、再度、相続人全員の合意が必要となるからです。一度合意が得られている場合、基本的にやり直しは想定されていないことと認識しておきましょう。

相続税申告の期限を過ぎてしまった:相続税の時効は5年または7年

基礎控除額を超える相続が発生した場合には、相続税を自己申告して納税する義務があります。相続税申告と納税の期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日(通常のケースでは被相続人が亡くなった日)から10カ月と決められています。

それを過ぎてしまうと延滞税などのペナルティが発生するため、必ず期限内に申告・納税しましょう。なお、放置しても税務署はしっかり財産調査を行うので、免れられる可能性はほとんどありません。

相続税の納税義務があることを認識していたうえで払わない場合、多額のペナルティが課される可能性もあるので注意しましょう。

ただし、相続後しばらくしてから財産が見つかった場合などでは、相続税の時効が成立している可能性があります。相続税の時効(相続税の支払義務がなくなる期間)は、申告期限から5年または7年です。

相続税の時効(除斥期間):申告期限の翌日から5年(悪意がある場合は7年)
状況相続財産が後から見つかり、既に相続税申告の期限をかなり過ぎている  

例えば、父親が亡くなって10年後に、実家の屋根裏から現金1億円が入ったカバンが見つかった
時効(除斥期間)申告期限の翌日から5年(悪意がある場合は7年)
時効が過ぎるとどうなるか相続税を申告・納税する義務がなくなる
相続税法(修正申告等に対する国税通則法の適用に関する特則)
第五十条 第三十条の規定による期限後申告書若しくは第三十一条第一項若しくは第四項の規定による修正申告書の提出又は第三十五条第三項から第五項までの規定による更正若しくは決定があつた場合におけるこれらの申告書の提出又は当該更正若しくは決定により納付すべき相続税又は贈与税の徴収を目的とする国の権利については、これらの申告書の提出又は当該更正若しくは決定があつた日から五年間行使しないことによつて、時効により消滅する。
国税通則法(国税の更正、決定等の期間制限)
第七十条 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年(第二号に規定する課税標準申告書の提出を要する国税で当該申告書の提出があつたものに係る賦課決定(納付すべき税額を減少させるものを除く。)については、三年)を経過した日以後においては、することができない。

被相続人の死亡の事実を知らなかったというような場合には5年間、遺産の存在を知りながら申告しなかったというように偽りその他不正の行為により税を免れた場合には7年間が時効期間(除斥期間)になります。

また、納税者が過大な税額に気付いて納めすぎた税金の還付を請求する権利についても、法定申告期限から5年の期間制限がありますから注意が必要です。

贈与税申告の期限を過ぎてしまった:贈与税の時効は6年または7年

9章で解説した「相続税申告の時効」と同様に、亡くなった方から生前贈与されていた場合の贈与税にも申告義務があります。そして同様に時効が存在します。

「贈与税の時効(贈与税の支払義務がなくなるまでの期間をいいます。当事者による援用を必要としないことから、法律的には「除斥期間」と呼んで「時効」と区別しています。)は、6年です。ただし、悪意がある場合(脱税行為や、申告義務を知りながら申告しなかった場合)には、除斥期間は7年まで延長されます。

贈与税の時効(排斥期間):申告期限の翌日から6年(故意に申請しなかった場合は7年)
状況生前に故人から基礎控除(年110万円)を超える財産を贈与されていたが、贈与税を申告していないことに気付いた
時効(除斥期間)申告期限の翌日から6年(悪意がある場合は7年)
時効が完成するとどうなるか贈与税を申告・納税する義務がなくなる
 相続税法(贈与税についての更正、決定等の期間制限の特則) 第三十六条 
税務署長は、贈与税について、国税通則法第七十条(国税の更正、決定等の期間制限)の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正若しくは決定(以下この項及び第四項において「更正決定」という。)又は賦課決定(同法第三十二条第五項(賦課決定)に規定する賦課決定をいう。以下この条において同じ。)を当該各号に定める期限又は日から六年を経過する日まで、することができる。
  (後略)  
 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた贈与税(その贈与税に係る加算税を含む。)についての更正決定若しくは賦課決定又は偽りその他不正の行為により国税通則法第二条第九号に規定する課税期間において生じた同条第六号ハに規定する純損失等の金額が過大にあるものとする同号に規定する納税申告書を提出していた場合における当該納税申告書に記載された当該純損失等の金額(当該金額に関し更正があつた場合には、当該更正後の金額)についての更正は、前三項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正決定又は賦課決定の区分に応じ、当該各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。

相続税の申告漏れについては「財産の存在自体を知らなかった」ケースが考えられますが、贈与は受け取る側にも「受け取る意思」がある場合に成立するため、「知らなかった」は通用しません。

贈与とは、当事者の一方が自己の財産を、無償で相手方に与える意思表示をして、相手方が受諾することによって、その効力を生ずる契約のこと。

「贈与税を申告しないまま、時効が完成する6年後を待とう」などという考えは絶対にやめましょう。無申告や申告漏れに気づいた時点で、期間後申告や修正申告を行ってください。

相続登記(不動産名義変更):時効は無いが3年以内の手続きが義務化

相続登記(相続により取得した不動産の名義変更)に時効は無いため、「いつまでに相続登記しなければ相続できなくなる」ということはありません。ただし、法定相続分を超える部分について、登記を行うまでは第三者に対して権利を主張することができません。登記を変更しないと、不動産の売買をすることも難しくなります。

また、2024年4月1日から相続登記の手続きが義務化されることが決まっています。それにより、相続の開始及び不動産取得を知った日から3年以内に相続登記しなければならないことになります。期限を過ぎると罰則(10万円以下の過料)が発生するので注意しましょう。

相続登記の時効:時効は無いが、手続きの義務化(取得を知ってから3年以内)が決まっている
状況相続により不動産をしたため、相続登記をしたい   例えば、亡くなった父の相続財産に含まれていた実家の所有権を、自分に変更したい
時効/手続きの期限時効は無い(いつまでに相続登記を済ませなければ相続できない、ということはない) 2024年4月1日施行の民法改正により相続登記が義務化され、不動産取得を知った日から3年以内の相続登記が必要になる
時効・期限が過ぎるとどうなるか2024年4月1日以降、相続登記の期限を過ぎた場合は、罰則(10万円以下の過料)が科されてしまう
参考サイト法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」

債務(債権)の消滅時効:5年または10年

相続財産の中に借金などの債務(返さなければならない義務)がある場合は、それも含めて相続し、亡くなった方の代わりに相続人が返さなければなりません。

債務は、借金などを貸した側から見ると「債権」といいます。

債務借金などを返さなければならない義務
債権借金などを返してもらえる権利(請求できる権利)

この債権(返してもらう権利)には消滅時効があります。通常のケースでは、弁済期(借金や利息の支払い期日)から5年が経過すると時効によって消滅します。

つまり、被相続人(亡くなった方)の死後すぐには気付かなかった借金を、5年(または10年)経過してから見つけたケースでは、その債務は支払う必要がない可能性があります。

債務の消滅時効:債権者が権利行使可能であることを知った時から5年(または権利の行使ができる時から10年)
状況亡くなった人が借金してから時間が経っている債務を相続した場合 または、借金(マイナスの遺産)があとで見つかった場合
時効・金融機関などからの借金は、原則として、最終返済日の翌日から5年が経過した時
・債権者が弁済期の到来を知らなかった場合でも、弁済期から10年が経過した時点に時効にかかる
 時効が過ぎるとどうなるか借金を支払う義務がなくなる(貸している人が返すよう請求できなくなる)
時効を確定するためにすること時効の「援用」という手続きが必要
民法(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。

例えば、金融機関からの借金が見つかり、その最終返済日から5年が経過している場合は、消滅時効を迎えている可能性が高いですただし消滅時効は、「時効の援用」を行って初めて時効が確定します。

時効を援用するには、債権者に対して「時効援用通知書」という書面を作成して内容証明郵便で送付しましょう。債権者に到達した時点で時効が成立します。

遺産の取得時効:10年または20年だが成立の要件は厳しい

取得時効とは、あるものを所有の意思をもって一定期間占有した時に、そのものの所有権を取得できることをいいます。遺産の取得時効は、占有開始から10年または20年が経過したときと定められています。

取得時効が成立してしまうと、以降は他の相続人は分割を求めることができなくなります。

遺産取得の時効:10年または20年
状況他の相続人が遺産を占有している   例えば、遺産分割が終わっていない状態で、相続人Aとその家族が相続財産である家に住み続けているなど。
取得時効占有開始から10年または20年が経過したとき
時効が成立する条件占有者が占有物を「自分のものだと確信」していたことが前提となる(確信することがもっともといえるような客観的な事情が必要)。 占有時に善意かつ無過失であったかによって、10年間の占有で足りるか20年間の占有が必要かが異なる。
時効が過ぎるとどうなるか占有者が所有権を取得するため、分割を求めることができなくなる。
民法(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

ここで心配になるのが、「共同相続人が遺産分割に応じず、遺産を占有し続けているケース」です。例えば、相続人の1人が実家に住み続けたらそのままその人のものになってしまうのか?と疑問に思う方も多いでしょう。しかし、遺産の取得時効が成立するケースは稀です。

なぜならば、「所有の意思をもっていること」「平穏かつ公然に占有していること」の要件を満たさないことが多いからです。

所有の意思をもっているとは、「占有している物が自分のものだと思っていること」を指します。つまり、「遺産分割が済んでいない」ことを知っている場合には、所有の意思は認められません。

ただし、相続人の1人が第三者に不動産を明け渡してしまい、その第三者が知らずに住み続けていた場合などには要件が満たされることがあるので注意しましょう。

取得時効については解釈が難しいので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

この記事では、遺産相続にかかわるさまざまな時効・期限について解説してきました。

もう一度この記事の内容をまとめると、以下のようになります。

項目時効・期限
相続権
遺産を相続する権利
時効はない
相続回復請求権
侵害されている相続権を回復する権利
侵害を知ってから5年 または相続開始から20年
遺留分侵害額請求権
侵害されている遺留分を請求できる権利
侵害を知ってから1年 または相続開始から10年
相続放棄できる期限自己のための相続開始を知ってから3カ月
新たな遺産がでてきた場合遺産分割協議自体に時効はない
遺産分割協議を取り消したい
錯誤・詐欺・脅迫などがあった場合
錯誤や詐欺に気付いてから5年 または、遺産分割が行われてから20年
遺産分割協議をやり直したい
理由は問わない
時効はないが、全員の合意が必要となるためハードルが高い
相続税申告の期限を過ぎてしまった
財産の存在自体を知らなかったケース
相続税の時効は申告期限の翌日から5年
贈与税申告の期限を過ぎてしまった  贈与税の時効は申告期限の翌日から6年 (悪意がある場合は7年)
相続登記(相続した不動産の名義変更)2024年4月1日から手続きが義務化 不動産取得を知ってから3年以内
債務(債権)の消滅時効債権者が権利行使可能であることを知った時から5年 または権利の行使ができる時から10年
遺産の取得時効
相続人の1人が遺産を占有し続ける場合
10年または20年で取得時効が完成 ただし、要件は厳しめ

本文中でも述べた通り、相続権や遺産分割自体には時効はなく、いつでも遺産を分けることは可能です。しかし、権利が侵害されている場合の請求権に時効が定められていることがあるため、注意が必要です。

また、相続税の支払期限などにも注意して、遺産相続を進めていく必要があります。

特に、「勝手に遺産を独り占めしようとしている相続人がいる」「各々が自分の権利を主張して遺産分割協議がまとまらない」という場合には、トラブルが長期化し思わぬ時効や期間制限の問題が出てくることがあります。相続トラブルになりそうな場合は、事態が複雑化する前に、早めに弁護士に相談して間に入ってもらうことをおすすめします。

弁護士法人サリュでは、相続に関する無料相談を受け付けています。ささいなことでも気になることがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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