弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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「夫の父を生前献身的に介護していたのに、一円も遺産をもらえなかった」
亡くなった親族に対して生前献身的に尽くしてきたのに、「相続人ではないから」という理由で遺産を全く受け取れないのは納得がいかないですよね。
そのような場合には相続人に対して「特別寄与料」を請求できる可能性があります。
特別寄与料を請求すると貢献度に応じて金銭を受け取れ、相続人との不公平さを解消できる可能性があります。要件を満たす場合は是非制度利用を検討してみましょう。
特別寄与料を請求するためにはまず相続人全員と話し合う必要があります。しかし、相続人にとっては寄与を認めるということは金銭を支払うということなので、認めようとしない相続人も少なくありません。
特別寄与料は実際にはなかなか認められにくく、認められたとしても期待したよりずっと少額になってしまう傾向があるのです。
話し合いが成立しない場合にポイントとなるのが、下記「特別寄与料を認めてもらうための7つの基準」を満たしていることです。この基準は、相続人に認められ得る寄与分の認定の際に参考とされる基準ですが、特別寄与料の認定の際にも参考となります。
【特別寄与料を認めてもらうための7つの基準】(参考)
①寄与行為が相続開始前であること ②その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠だったこと ③特別な貢献であること【重要】 ④被相続人から対価を受け取っていないこと ⑤寄与行為が一定期間以上であること ⑥片手間ではなくかなりの負担があったこと ⑦寄与行為と被相続人の財産の維持・増加に因果関係があること |
この7つの基準を満たしていれば、調停に進んでも認めてもらえる可能性が高いでしょう。
本記事では特別寄与料について次のようにまとめました。
本記事の内容 |
1.特別の寄与制度とは 2.介護・事業に携わっていたなら特別寄与料を請求したほうがいい 3.特別寄与料を請求する手順 4.特別寄与料は認められにくい|調停で寄与分を認めてもらうためのポイント 5.特別の寄与を認めてもらうための7つの基準 6.特別寄与料はいくらもらえるのか?計算式と上限、支払について 7.【注意】特別寄与料の相続税は2割増! |
本記事を読めば特別寄与料について正しく理解した上で、請求するかどうかを判断できるようになります。
そして特別寄与料を請求すると決めた場合は、請求の進め方やポイント、注意点などの知識を身に着けて実行できるようになります。
是非最後まで読んでいってくださいね。
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本章ではまず、特別寄与料がどういう制度なのかを分かりやすく紹介していきます。
制度の意義や、誰がどのような場合に利用できるのかを理解しましょう。
【特別寄与料とは】
◎特別の寄与とは ◎特別寄与料を請求できる2つのケース ◎特別寄与料を請求できる人 |
まずは制度について解説します。
特別寄与料制度とは |
寄与=貢献 親族(相続人以外)が無償の労務により亡くなった人の財産形成に貢献した場合、 相続時にその貢献度に応じて相続人に金銭を請求できる制度 |
出典:法務省
この特別の寄与をした者を特別寄与者と呼び、貢献度に応じて請求できる金銭のことを特別寄与料と呼びます。
これまで両親の介護を長男の妻が長年行ってきたとしても、長男の妻は相続人ではないため、両親の遺産を受け取ることはできませんでした。
一切面倒を見ていなかった実子が両親の遺産を受け取れて、献身的に介護してきた長男の妻が遺産を全く受け取れないのは不公平ですよね。
そこで2019年の法改正で新たに設けられたのがこの「特別寄与料制度」です。
この制度により、相続人ではない親族でも介護などで労務を提供した場合は相続人に金銭を請求できるようになりました。
《民法》 “被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。”(1050条) 引用:民法 | e-Gov法令検索 |
この制度を利用することによって労務に見合った金銭を相続人から受け取ることができ、これまでの介護の苦労が報われるようになったのです。
特別寄与料はどのような場面で請求できるのでしょうか。
民法の条文では”無償で療養看護その他の労務の提供”した場合に特別寄与料を請求できると定められています。(民法1050条)
「療養看護その他の労務」は下記2つのケースに分類することができるので、このどちらかにあてはまる場合は特別寄与料を請求できます。
【特別寄与料を請求できる2つのケース】
◎亡くなった人を介護をしていた【療養看護型】 ◎亡くなった人の事業に携わっていた【家業従事型】 |
■介護をしていた【療養看護型】
特別寄与料の代表例と言えるのが、亡くなった人を生前無償で介護していたケースです。典型的な事例として次のような状況が挙げられます。
◎父が認知症を発症し介護が必要になったが、実子である長男は仕事で忙しいため、長男の妻がパートを辞めて父の介護をしていた
◎母が入院を機に自宅介護が必要になったが、実子である長男は遠方に住むため、近くに住む母の妹が住み込みで介護をしていた
■事業に携わっていた【家業従事型】
亡くなった人が経営していた事業を手伝っていた場合も特別の寄与に該当します。よくある事例としては次のような状況が挙げられるでしょう。
◎父が営む酒屋で、毎日息子の妻が日中店番をしていた
◎兄一家が亡き両親の田畑を継いだが、その農作業は弟も担っていた
特別寄与料を請求できるのは民法で、「被相続人の親族(相続人と相続権を失った者を除く)」と定められています。(民法1050条)
つまり、特別寄与者になるためには下記3つの要件を全て満たしている必要があります。
【特別寄与者になるための要件】
①親族であること ②相続人ではないこと ③相続放棄や欠格事由・廃除によって相続権を失った者ではないこと |
②の場合、相続人であるならば主張できるのは「特別寄与料」ではなく「寄与分」です。寄与分についてはこちらの記事で詳細をご確認ください。
③の場合は遺産を取得させる必要がないため対象外となっています。
では「親族」と「相続人」とはどの範囲を指すのか、それぞれ確認していきましょう。
原則相続人になれるのは配偶者と血族のみです。
配偶者は常に相続人ですが、血族は第一順位が子ども(直系卑属)、第一順位が誰もいない場合は第二順位の父母(直系尊属)、第二順位も誰もいない場合に第三順位である兄弟姉妹(甥姪)が相続人になります。(民法887,889,890条)
親族とは次の範囲の者を指します。(民法725条)
【親族の範囲】
・6親等内の血族 ・配偶者 ・3親等内の姻族 |
血族・配偶者・姻族とは亡くなった人の戸籍上の続柄である必要があるため、内縁の妻と認知していない子どもはあてはまりません。
この親族の範囲にあてはまり、かつ相続人には該当しない人が特別寄与者となることができます。
前章を読んで「自分にあてはまる」と思った場合は特別寄与料の請求を検討してみてください。
特別寄与料を請求することで、次のような効果が期待できます。
【特別寄与料を請求するとよい理由】
・金銭を得られる ・不公平さを解消し、納得感を得られる ・親族の関係を見直すきっかけになる |
■金銭を得られる
寄与と認められると相続人から寄与料を受け取ることができます。金額はどれだけ寄与をしていたかにより異なるので一概には言えません。参考として、相続人に対する寄与分の審判では数百万円~1,000万円ほど認められているケースもあります。
■不公平さを解消し、納得感を得られる
特別寄与料を受け取ることで、介護や事業に従事していなかった相続人たちとの不公平さを解消することができ、納得感が得られます。
さらに亡くなった人にこれまで尽くしてきた苦労が報われるので、満足感を得ることができ気持ちに区切りをつけられるようになるでしょう。
無償の労務への溜飲を下げるためには、被相続人から遺贈してもらう他、特別寄与料請求以外に他の方法はありません。
■親族の関係を見直すきっかけになる
これまで「長男の嫁だから」などと理不尽に無償で労務を提供することを強いられていた場合は、特別寄与料を請求することで対等な関係を構築できるきっかけになるかもしれません。
次に介護が発生した場合は「介護するなら手当をもらう」とあらかじめ請求できるようになるなど、今後の在り方も見直すことができるでしょう。
【注意】親族と揉めたくないなら請求しない方がいい場合もある 特別寄与料の請求はお金にかかわることなので、相続人と揉め事に発展するケースも少なくありません。「親族と揉めるのは避けたい」という場合は、特別寄与料の請求はしないでおくという選択肢もあります。 |
これまでの説明を読んで特別寄与料を請求するかどうか決心がついたかと思います。
ここからは特別寄与料を請求する上で知っておくべきことをお伝えしていきます。
まずはどういう流れで特別寄与料を受け取るのか、請求の手順を見ていきましょう。
【特別寄与料を請求する手順】
【STEP1】相続人と話し合って合意を得る 【STEP2】話し合いが不成立なら調停を申し立てる |
まずは相続人全員に呼びかけて話し合いの場を設けます。
そこで自分がどの程度介護または事業の手伝いを行ってきたかを説明し、特別寄与料を請求することを伝えましょう。
特別の寄与があったことを認めてもらったら、寄与料の額についても決めていきます。
特別の寄与を認めてもらうには細かな基準がいくつかあるのですが(「特別の寄与を認めてもらうための7つの基準」で解説)、実際は「それは特別の寄与に値する。寄与料を支払おう。」と相続人全員が合意すれば基準を満たしていなくても特別寄与料は受け取れます。
寄与料の額についても、目安となる計算方法はありますが(「特別寄与料はいくらもらえるのか?計算式と上限、支払について」で解説)相続人全員が合意すれば自由に決めて問題ありません。
相続人に納得してもらうためには、寄与の根拠となる証拠資料を見せながら、数字(〇年間、週〇時間など)を入れて具体的に話すようにしましょう。
介護の苦労などは他の人には見えづらいものです。客観的な証拠資料を見せることで、介護に費やした労力や時間を理解してもらいやすくなります。
証拠資料については「「特別の寄与」を裏付ける証拠資料を提出すること【重要】」をご参照ください。
特別寄与料の額が決まったら合意書を作成するようにしましょう。口頭だけの取り決めだと後々言った言わないで揉める恐れがあるため、合意書を作成しておくと安心です。
合意書の作成方法は決まった書式はありませんが、法的な効力を持たせるためには次の項目を守るようにしましょう。
【合意書で必ず書くべきこと】
・合意した内容(特別寄与料の金額と誰が誰に渡すかを、第三者が見ても分かるように客観的に書く) ・合意書の通数(当事者の人数分であることが一般的) ・合意書の作成日付(令和〇年〇月〇日) ・特別寄与者と相続人全員の住所・署名・押印(実印推奨) |
署名押印以外はパソコン作成でも問題ありません。
話し合いが成立しなければ家庭裁判所に「特別の寄与に関する処分調停」を申し立てることができます。
調停とは調停委員に間を取り持ってもらいながら話し合いによる解決を目指すことを目的としています。調停委員は双方の言い分を順に聞き入れ、解決に向けてアドバイスや解決策を提案してくれます。
調停を起こすための手続きは下表の通りです。
申立先 |
相続人の住所地の家庭裁判所、または 当事者同士で決めた家庭裁判所 (管轄の裁判所を調べる→裁判所の管轄区域) |
申立期限 |
相続の開始あるいは相続人を知ったときから6ヶ月、または 相続開始(死亡時)から1年を経過するまで |
必要書類 |
・申立書 ・特別寄与者の戸籍謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・亡くなった人の死亡が分かる戸籍または除籍謄本 |
費用 |
・収入印紙1200円分 ・連絡用の郵便切手 |
【調停申立ての手続き】
表の通り、特別の寄与に関する処分調停は申立てできる期限が定められているので注意しましょう。
調停でも話し合いがまとまらなかった場合は自動的に審判に移行します。話し合いで解決を目指す調停とは異なり、審判は裁判官が決定を下し、特別寄与者と相続人はその決定事項に従うことになります。
さらに詳しく知りたい場合は裁判所HPからご確認ください。申立書もHPからダウンロードできます。
前章で説明したとおり、特別の寄与は相続人全員が認めてくれれば寄与料をもらうことができます。
しかし、相続人側からすると寄与を認めることは特別寄与者に金銭を支払うことになるため、簡単には認めようとしないことが少なくありません。
相続人が特別の寄与を認めない、または寄与料の額について合意できないとなると、特別寄与料を巡って調停で争うことになります。
調停に進むとなると、特別の寄与を認めてもらうハードルは上がります。裁判所は特別の寄与を「無償労務の恩賞」ではなく、「財産形成の対価」として捉えるので、いかにして亡くなった人の財産形成に貢献できたのかを慎重に判断するからです。
そのため客観的に十分な寄与があったことを証明できない限り特別の寄与を認めてもらうのは難しいでしょう。もし認めてもらえたとしても寄与料は思っていたより少額になりやすい傾向があります。
そこで調停で特別の寄与を認めてもらうためには、次章で紹介する7つの基準を満たしていることが重要になってきます。
調停に進む前に7つの基準を満たせているかどうか確認し、それを証明できるようよく準備してから調停に臨むようにしましょう。
「基準を全て満たしていない」「調停で認めてもらえるか不安」という場合は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
前章でお伝えしたとおり、特別寄与料を確実に請求するためには下記7つの基準を満たしていることが重要です。加えて、これらの7つの事実を証明する資料が必要になります。
【特別の寄与を認めてもらうための7つの基準】
①寄与行為が相続開始前であること ②その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠だったこと ③特別な貢献であること【重要】 ④被相続人から対価を受け取っていないこと ⑤寄与行為が一定期間以上であること ⑥片手間ではなくかなりの負担があったこと ⑦寄与行為と被相続人の財産の維持・増加に因果関係があること |
※被相続人=財産を残して亡くなった人。ここでは寄与行為の対象者を指す
民法では寄与料の要件を”無償で療養看護その他の労務の提供”と定義しています。(民法1050条)
この民法で定める要件がどの程度である必要があるかを具体的に表したのがこの7つの基準です。これは、あくまで相続人に認められ得る寄与分に関して東京家庭裁判所が明文化したもので、案内書「寄与分の主張を検討する皆様へ」に掲載されています。
相続人以外に認められ得る特別寄与料についても、同様の検討が可能ですので、以下で参考としてご紹介いたします。ただし、相続人と被相続人との関係では、相続人が扶養義務を負っていることが多いことから、以下の7つのように厳格な基準が求められますが、被相続人と相続人ではない親族の関係では、扶養義務を負っていないことが多いため、親族としての関係性から通常想定される貢献を超える程度の貢献があれば足りると考えられます。
そのため、以下の7つの基準は、特別寄与料の検討においては絶対的なものではなく、あくまで参考としてお考えください。
“寄与分が認められるためには ①主張する寄与行為が相続開始前の行為であること 被相続人が亡くなった後の行為、例えば、遺産不動産の維持管理・遺産管理・法要の実施などは、寄与分の対象になりません。 ②寄与分が認められるだけの要件を満たしていること ※要件とは、 「その寄与行為が被相続人にとって必要不可欠であったこと」、 「特別な貢献であること」 「被相続人から対価を得ていないこと」 「寄与行為が一定の期間あること」 「片手間ではなくかなりの負担を要していること」 「寄与行為と被相続人の財産の維持又は増加に因果関係があること」 などで、その要件の一つでも欠けると認めることが難しくなります。 ③客観的な裏付け資料が提出されていること” 引用:東京家庭裁判所第5民事部「寄与分の主張を検討する皆様へ」 |
どのような内容であるかひとつずつ具体例を挙げながら見ていきましょう。
寄与行為の期間は生前のみに限られます。亡くなった後に携わった対象者の仕事や、葬儀の準備は含まれません。
寄与行為がないと被相続人の生活に支障が生じてしまうような状況であった必要があります。
例えば被相続人が病気で半身不随になってしまい、介護なしでは生きていけないなどのケースがあてはまります。
特別な貢献とは親族として助け合いの範囲を超える程度で貢献したことを指します。
親族は互いに支え合うべきと考えられているので、少し身の回りの世話をした程度では特別の貢献とは呼べません。
回数や期間、程度によって一概にはいえませんが、具体的には、下記のような行為は特別な貢献にはあてはまらないことが多いでしょう。
【特別の貢献とはみなされないケース例】
◎入院している被相続人を週に数回見舞いに行き、買い出しなどの雑用をしてあげていた
◎通院のため週に数回車を出してあげていた
◎同居していた被相続人の分の家事も行っていた。
寄与行為を無償で行っていたことは必須条件です。「代わりに車を譲り受けた」「住宅購入資金を出してもらった」などは対価と見なされる可能性があります。
寄与行為は継続性(数年以上)がある必要があり、一回限りや一時的なものでは認められません。明確な期間は決まっていないものの、数ヶ月程度では認められにくいでしょう。
これは寄与行為には多大な手間と労力を注いでいたことを指します。たとえば「仕事を辞めてまで介護をした」場合などがあてはまるでしょう。
寄与行為のおかげで「被相続人の財産が減らずにすんだ」「被相続人の財産が増えた」という結果にならないと特別の寄与とは認められません。
具体的には「自宅介護をしていたおかげで介護施設に入居する費用がかからなかった」「被相続人の事業に携わって売上を大幅にUPさせた」という事実が必要になります。
特別寄与料を認めてもらうためには、①~⑦までの内容を証明する証拠資料を揃える必要があります。
どれだけ被相続人に貢献したとしても、それを客観的に証明できなければ特別の寄与とは認められにくく、仮に認められたとしても少額になってしまいます。
具体的には次のような証拠を揃えていくようにしましょう。
【特別寄与料を請求するための証拠となるもの:例】
家業従事型 |
・勤怠記録(タイムカードなど) ・契約書 ・取引先等とのメールや書類、手紙等 ・被相続人の確定申告書、税務書類 ・事業用の預金通帳 |
看護療養型 |
・要介護認定通知書 ・要介護の認定資料 ・診断書、カルテ ・介護サービス利用表 ・医療機関の領収書 ・介護日誌 |
特別寄与料はいくらぐらい請求できるのでしょうか。
相続人に対する寄与分の審判では数百万円~1,000万円と幅が広く、特別寄与料についても、寄与行為の内容や期間によって金額は大きく変わってきます。
特別寄与料の金額についても特別寄与者と相続人全員が合意さえすれば自由に決めて問題ありません。合意できなかった場合は調停・審判で金額を決めることになりますが、その際に目安となる計算式があるので、それにあてはめて算定していきます。
そのため、まずは話し合いの場でも計算式で算定した金額から交渉を始めるとスムーズでしょう。
そこで本章では金額について話し合うために知っておくべき下記項目について紹介していきます。
【特別寄与料はいくらもらえるのか?計算式と上限、支払について】
◎特別寄与料の計算式 ◎請求できる上限 ◎相続人の特別寄与料の負担割合 |
計算式は家業従事型と療養看護型で異なります。
両方とも寄与行為を正当に評価して数値化することは難しいので、ある程度正確に算定したければ弁護士に相談するようにしましょう。
亡くなった人の事業を手伝っていた場合の計算式は下記のとおりです。
【家業従事型の特別寄与料計算例】 本来貰えるはずの年間給与額:200万円(賃金センサス参考) 寄与年数:5年 生活費控除割合:20% 特別寄与料=本来貰えるはずの年間給与額 × (1 - 生活費控除割合) × 寄与年数 にあてはめると、 特別寄与料=200万円 × (1 - 0.2) × 5年 = 800万円 |
家業従事型の場合は本来貰えたはずの報酬が計算式の基準になります。
「本来貰えるはずの年間給与額」は、下記厚生労働省の統計調査から同業種・同年齢の平均賃金を参考にすることができます。
「生活費控除割合」とは、特別寄与者が亡くなった人に生活費を負担してもらっていた場合(同居など)にその分を考慮して差し引く割合です。負担してもらっていない場合はこの項目は関係ありません。
亡くなった人を看護または介護していた場合の計算式は下記のとおりです。
【療養看護型の特別寄与料計算例】 要介護度:要介護4(日当6,670円) 介護日数:3年 裁量的割合:0.7を適用 特別寄与料=療養看護の報酬相当額(日当)× 介護日数 × 裁量的割合 にあてはめると、 特別寄与料=6,670円 × 1,095日(3年)× 0.7 = 511万2555円 |
療養看護型の場合は本来介護ヘルパーなどを雇った場合に支払う日当額が計算式の基準になります。
日当額は国が定める介護報酬基準額を参考にします。要介護レベルに応じて金額が変わるので、下表で該当する金額をご確認ください。
【介護報酬基準額】
要介護度 | 日当 |
要介護1 | 4,020円 |
要介護2 | 5,840円 |
要介護3 | 5,840円 |
要介護4 | 6,670円 |
要介護5 | 7,500円 |
介護のプロの報酬額をそのまま用いるのは不相応であるため、「裁量的割合」として調整することになります。個別の事情に応じて、大体5~9割になるのが一般的です。
前節で算定した特別寄与料ですが、必ずしもそのまま請求できるとは限りません。
特別寄与料の額は遺産の価額(遺贈を控除した額)を超えることはできないと民法で定められているからです。
《民法》 “4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。”(1050条) 引用:民法 | e-Gov法令検索 |
遺贈とは遺言によって譲り受ける遺産の価額のことを指します。つまり、相続発生時の遺産総額ー遺贈の価額=特別寄与料の上限となるのです。
例えば寄与料の算定が1,000万円だったとしても、遺産総額が800万円しかなければ、寄与料も800万円しか請求できません。
また、亡くなった人が遺産を全額遺贈している場合は特別寄与料は請求できないことになります。
特別寄与料を請求された相続人は、法定相続分の割合に応じて負担するものと民法で定められています。
《民法》 “5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。” 引用:民法 | e-Gov法令検索 |
例えば父が亡くなり、遺産は2000万円、相続人は母・次男・三男の3人だったとします(長男は既に他界)。それぞれの法定相続分の割合は母1/2、次男1/4、三男1/4です。
そこに亡き長男の妻が特別寄与料を1,000万円請求して合意した場合、母・次男・三男の負担額はそれぞれ母1/2(500万円)、次男1/4(250万円)、三男1/4(250万円)となります。
特別寄与料を受け取った人は、相続税法上は、遺贈を受けたとみなされます。そのため、特別寄与料も課税対象になるので相続税を納めなければいけません。
さらに特別寄与者の場合は相続税が2割加算になることにも注意しましょう。
相続税は納める人が亡くなった人の「配偶者または一親等の血族」以外(兄弟姉妹や甥姪、孫、その他第三者)である場合は、相続税が2割増で課されます。
これは、遺産は本来配偶者や子どもなどごく身近な親族が受け取るものであり、それ以外の人物が遺産を受け取るのは偶然性が高いためと考えられているからです。
特別寄与者の相続税の申告期限は、「特別寄与料の金額が定まったことを知った日から10ヶ月以内」です。遅れることのないよう申告・納税するようにしましょう。
ここまで特別寄与料について解説してきました。
あらためて本文の内容を振り返りましょう。
特別の寄与制度の内容を下表にまとめました。
【特別の寄与】
特別の寄与とは | 親族(相続人以外)が無償の労務により、亡くなった人の財産形成に貢献した場合、相続時にその貢献度に応じて相続人に金銭を請求できる制度 |
請求できる人 | 相続人以外の親族 |
期限 | 相続の開始を知ったときから6ヶ月または死亡から1年 |
条件 | ・療養看護型 ・家業従事型 |
特別の寄与を 主張するための手順 | ・相続人と話し合って合意を得る ・話し合い不成立なら調停を申し立てる |
寄与料の額 | 貢献度合いにより大きく左右される 参考として、寄与分の審判で多いのは数百万円~1,000万円 |
注意点 | 相続税は2割増 |
要件を満たす人は特別寄与料の請求を検討してみましょう。
以上、本記事をもとに特別寄与料を受け取ることができ、これまで貢献した分が報われて前向きな気持ちになれることを願っております。