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遺産相続の勝手な手続きは無効!確実に取り戻す具体策をケース別に解説

遺産相続の勝手な手続きについての画像
この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

「遺産相続を知らされずに勝手に手続きされた」「同居していた姉が、勝手に銀行からお金を引き出してしまった」など、他の相続人が、同意を得ずに勝手に手続きをしてしまうケースは少なくありません。

勝手に手続きされているかも…という事態に面した時、心配になってしまう方も多いでしょうが、まずは安心してください

結論からいうと、遺産分割は相続人全員の同意が必要となるため、勝手に行われた手続きは無効となります(受遺者がいる場合は受遺者全員の同意も必要)。勝手に行われた手続きは「やり直しできる」「それにより被った不利益は取り戻せる」と考えて問題ありません。

その前提を元に、この記事ではケースごとに、「具体的に何をすれば良いか」「どのようなステップで取り戻すのか」などを詳しく解説していきます。

【ケース1】他の相続人だけで遺産相続手続きを進められた場合

【ケース2】相続権のない人が勝手に遺産を取得した場合

【ケース3】勝手に不動産の相続登記の手続きをされた場合

【ケース4】預貯金を勝手に引き出された場合

【ケース5】株式を勝手に売却された場合

【ケース6】勝手に相続放棄の手続きをされた場合

なお、取り戻したい内容によっては、取り戻すための権利の時効が存在するものもあります。そのため、「勝手に手続きされているかもしれない」と感じたら、いち早く行動することが大切です。

ぜひこの記事を最後までお読みいただき、何をすれば良いかしっかり確認してみてください。

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目次

勝手に手続きされた遺産相続は無効にできる

まず大前提として、遺産の相続が発生した場合に、「誰かが勝手に手続きすることは許されない」ということを解説していきます。

被相続人が亡くなり相続が開始すると、その遺産の分割方法を決める必要があります。相続人が複数いる場合は、大前提として、相続人全員(※)で遺産の分割方法を決める必要があるのです。これを「遺産分割協議」といいます。

※遺言が残されている場合は、受遺者(遺言で指定された方)も含めた全員での協議が必要です。

遺産分割協議で決めた内容を「遺産分割協議書」にまとめたら、全員分の印鑑証明書を貼付します。これをもって初めて、相続登記(不動産の名義変更)や預貯金の払い戻しなど各種手続きが可能となるのです。

そのため、以下のような手続きや行為は全て無効もしくは取り戻すことができます。

・自分の知らないところで、勝手に遺産分割協議書を作成された
・遺産分割協議に自分だけ呼ばれなかった
・相続人なのに、被相続人が亡くなったことを知らされなかった
・同意していないのに、遺産分割協議に勝手に押印された
・法定相続人ではない親族が勝手に遺産を自分のものにしていた
・勝手に財産(不動産・預貯金・株式など)を相続人の1人が使い込んでしまった
・勝手に相続放棄させられた

無効となった「遺産分割協議」はやり直しが可能ですし、使い込みがあった場合には取り戻すことが可能です。

【ケース別】遺産相続の手続きを勝手にされた時の対処法

前章で解説した通り、「勝手に手続きされた遺産相続は無効にできる」ことを前提に、ここからは、それぞれの対処法をケースごとに解説していきます。

自分のケースはどのケースか確認しながら、解決策や詳しい内容を確認してみてください。

【ケース1】他の相続人だけで遺産相続手続きを進められた場合

【ケース2】相続権のない人が勝手に遺産を取得した場合

【ケース3】勝手に不動産の相続登記の手続きをされた場合

【ケース4】預貯金を勝手に引き出された場合

【ケース5】株式を勝手に売却された場合

【ケース6】勝手に相続放棄の手続きをされた場合

【ケース1】他の相続人だけで勝手に遺産分割の手続きを進められた場合

最初のケースは、遺産を受け取る権利を持つあなた抜きで、勝手に他の相続人だけで遺産分割されてしまった場合です。

あなたが法定相続人の場合と、あなたが遺言で指定された「受遺者」の場合も同様です。

状況一部の相続人や受遺者を除外して、勝手に遺産分割協議が進められた ※受遺者とは、遺言により財産を受け取る人のこと
どうなるか遺産分割協議には「相続人+受遺者」全員が合意しなければならないので、その遺産分割協議は無効となる
対処法ステップ1:話し合いで解決できる場合は、遺産分割協議をやり直す
ステップ2:話し合いで解決できない場合は、「遺産分割協議無効確認訴訟」を起こす
注意相続分を取り戻すための権利(相続回復請求権)には時効があるので注意しよう

・相続分が侵害されていることを知ってから5年
・相続分が侵害されていることを知らない場合、相続開始時(被相続人が亡くなった時)から20年  

※ただし、他の相続人が悪意を持って除外した場合には時効は適用されないので安心してください。

❶勝手に遺産分割されるケースの具体例

このケースに該当する具体例には、例えば以下のようなものがあります。

該当するケースの具体例
あなたの祖母が4カ月前に亡くなった。あなたの母親(祖母から見ると長女)は既に亡くなっているため、代襲相続により、あなたには相続権がある。それなのに、あなたの叔母と叔父(祖母から見ると次女・長男)だけで遺産分割協議書を作成し、遺産の分割を進めていたことを知った。
該当するケースの具体例
有料老人ホームで世話をしていたAさんが亡くなった。Aさんは親族と疎遠になっているらしく、生前に「あなたに全額遺産をあげるから遺言書を書いたわ」と言っていた。 Aさんが亡くなった後、Aさんの息子と葬式で挨拶はしたが、その後も遺産についての何の連絡も来なかった。遺言書を無視して(または気付かずに)、勝手に遺産分割の手続きをされているかもしれない。

❷勝手に遺産分割された場合の対処法

遺産分割協議には「相続人+受遺者」全員が合意しなければなりません。そのため、一部の相続人や受遺者が除外された遺産分割協議は無効となり、改めて全員が参加して遺産分割協議をやり直す必要があります。

この場合の対処法は、まずは「話し合い」で解決を試みます。遺産分割協議が無効であることを伝え、改めて遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しましょう。

話し合いでの解決が難しい場合には、裁判で決着させるしかありません。具体的には「遺産分割協議無効確認訴訟」を提起し、一部の共同相続人を除外して行った遺産分割協議が無効であることを主張します。

❸勝手に遺産分割された場合の注意点

このケースのように自分を除外して他の相続人だけで勝手に遺産分割された場合、時効に注意する必要があります。相続分を取り戻すための権利は「相続回復請求権」といい、この権利には以下のような時効が存在します。

(相続回復請求権)
第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
引用:民法884条

民法の内容を噛み砕くと、つまり、「自分を除外して勝手に手続きされたことを知った時から5年」または、「相続開始=被相続人が亡くなってから20年」を経過した時に時効となります。

この時効が完成してしまうと、相続権を回復できなくなるため、遺産を受け取れなくなります。

なお、この時効が適用されるのは、他の相続人に「悪意」や「過失」がなかった場合です。例えば、他の相続人が「除外した相続人に相続権があると認識していなかった」場合などに適用されます。

逆に、他の相続人が「相続権があると知りながら、一部の相続人をわざと遺産分割協議に呼ばなかった」など悪意がある場合には、時効はありません。いつでも遺産分割協議のやり直しを請求することができます。

ただし、悪意や過失があったかどうかを証拠として提出するのは難しいので、できるだけ時効を迎える前に、遺産分割のやり直しを提案するようにしましょう。

【ケース2】相続権のない人が勝手に遺産を取得した場合

次は、相続権のない人物が勝手に遺産相続の手続きを進めてしまった場合について解説します。

状況相続権のない人物が、勝手に遺産を自分のものにしてしまった 相続権のない人物が、遺産分割協議に参加して遺産を取得したなど
どうなるか相続権のない人物は遺産を相続できない(遺言で指定がない場合)。相続権のない者が参加した遺産分割協議は無効となる。また、もし勝手に遺産を使い込んだ場合は、遺産の返還請求ができる。
対処法ステップ1:話し合いで解決できる場合は、話し合いで解決する ステップ2:話し合いで解決できない場合は、「相続人の地位不存在確認訴訟」や「不当利得返還請求訴訟」を起こす
注意相続分を取り戻すための権利には時効があるので注意しよう ・侵害されていることを知ってから5年 ・相続開始(被相続人が亡くなってから20年)   ※ただし、相手が悪意を持って相続権を侵害した場合には、この時効は適用されないので安心してください。

❶相続権のない人に勝手に遺産を取得されるケースの具体例

このケースに該当する具体例には、例えば以下のようなものがあります。

該当するケースの具体例
Aさん(あなた)の母親が亡くなった。配偶者である父Bは10年前に他界している。母親の2人の子ども(あなたA+兄C)に相続権があり、2人で半分ずつ遺産を受け取れるはずである。
ところが、母親と同居していた叔母(母親から見ると妹で、このケースでは相続権はない)が、勝手に母親の銀行預金を引き出してしまったようだ。
該当するケースの具体例
Aさん(あなた)の父親であるBさんがなくなった。父親Bさんは長年、あなたの兄であるCさん(父親Bさんから見ると息子)から暴力を振るわれており、父親Bさんは、遺言にてCさんを相続人廃除するという内容を記していた。
そのためCさんには相続権はないが、Cさんが勝手に「遺産分割協議書」を作成して相続登記し、父親Bさんの遺産である実家の所有権を自分のものにしてしまった。

遺言が無い場合、相続権があるのは、民法で決められた法定相続人となります。

亡くなった方に子がいる場合は「配偶者+子」が法定相続人になり、子がいない場合は「配偶者+親」が、子も親もいない場合は「配偶者+兄弟姉妹」が法定相続人になります(配偶者がいない場合は、子のみ、または親のみ、または兄弟姉妹のみが法定相続人)。

さらに詳しくは、「遺産の相続割合が分かる!図解・シミュレーション計算例をケースごとに解説」の記事を参考にしてください。

この範囲に含まれていない親族に相続権はありません。また、法定相続人であっても、相続欠格(相続権が剥奪された人)や相続人廃除(被相続人から相続権を奪われた人)は相続権がないため、相続できません。

❷相続権のない人に勝手に遺産を取得された場合の対処法

相続権のない人に勝手に遺産を取得された場合も、まずは話し合いで解決を試みましょう。話し合いでの解決が難しい場合には、裁判で問題を決着させます。

ただし、相手が悪意を持って相続権を侵害している場合には、話し合いが難しいケースも多いでしょう。その場合は、早い段階で弁護士に相談し、交渉に入ってもらうのがおすすめです。

具体的には、勝手にされた内容によって採るべき対処法が異なります。

 

取るべき対処法

預貯金を勝手に引き出して使われた

❶「不当利得返還請求」を行い、金銭を返してもらう

❷さらに損害がある場合には、「損害賠償請求」を行う

株式を勝手に売却された

勝手に相続登記された

「抹消登記」を行い、相続登記をリセットする

相続権のない人は勝手に相続登記できないので、もしされている場合は書類が偽造されているケースが想定されます。民事・刑事両面から追及する必要があり、弁護士に相談することをおすすめします。

❸相続権のない人に勝手に遺産を取得された場合の注意点

勝手に取得された遺産は「不当利得返還請求」で取り戻すことになりますが、不当利得返還請求権には時効があるので気を付けましょう。

時効は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です。つまり、勝手に遺産を使われていることを知ったら5年以内に「不当利得返還請求」を行いましょう。

また、勝手に不動産の相続登記をされたケースでは、遺言や遺産分割協議書が偽造されている可能性があります。そのようなケースでは自分たちだけでの解決は難しいので、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

【ケース3】勝手に不動産の相続登記の手続きをされた場合

続いて、勝手に不動産の相続登記をされたケースについての対処法を解説していきます。

なお、前提として、不動産の相続登記を行う時には、遺言書や遺産分割協議書など「誰にどの権利が移ったのか」を証明する文書を求められます。そのため、勝手に不動産を独り占めされるケースはあまり起こりません。もしあるとすると、偽造した遺言書や遺産分割協議書を提出した可能性があり、これは犯罪行為となります。

ただし、法定相続分で相続する場合(例えば相続人である2人の子どもが2分の1ずつなど)には、共有名義で勝手に相続登記できてしまいます。今回は、このように「自分は不動産を相続したくなかったのに、勝手に共有名義で相続登記の手続きをされた場合」について解説していきます。

状況遺産に含まれる不動産(例えば実家)について、勝手に共有名義での「相続登記」(所有権移転登記)の手続きをされた
どうなるか勝手に行われた相続登記は無効となる
対処法無効な相続登記について、抹消登記手続請求を行う
注意勝手に不動産を自分だけのものにされたケースでは、遺言書や遺産分割協議書が偽造された可能性がある

❶勝手に相続登記の手続きをされたケースの具体例

該当するケースの具体例
あなたの母親Aさんが亡くなった。父親Bさんは既に亡くなっている。あなたには姉Cさんがおり、姉Cさんは母親Aさんと長年実家で同居していた。 あなたは実家から離れた場所に住んでおり、実家の相続はせず、現金で相続したいと考えていた。しかし、姉Cが勝手に共有名義で実家の相続登記の手続きを行ってしまった。

❷勝手に相続登記の手続きをされた場合の対処法

勝手に行われた相続登記は無効にできます。具体的には法務局で「抹消登記手続」を行い、勝手に行われた相続登記を白紙に戻します。そのうえで再度、遺産分割協議を行い、どのように遺産を分割するかしっかりと話し合いましょう。

話し合いで遺産分割協議がまとまらない場合には、早めの段階で弁護士に相談し、交渉を進めると良いでしょう。どうしてもまとまらない場合には、家庭裁判所において調停員に間に入ってもらう「遺産分割協議調停」を行います。

❸勝手に相続登記の手続きをされた場合の注意点

前述した通り、通常であれば、勝手に相続した不動産を自分だけのものにすることはできません。相続登記には、遺言書や遺産分割協議書の提出が必要だからです。

もし勝手に不動産を自分だけのものにされて相続登記されていたとすると、遺言書や遺産分割協議書が偽造されたケースが考えられます。こうなった場合は「犯罪」なので、民事と刑事の両面から争うことになります。なるべく早くに弁護士に相談しましょう。

【ケース4】預貯金を勝手に引き出された場合

遺産分割が済んでいない状態で、被相続人の銀行口座などから勝手に預貯金を引き出された場合の対処法について解説します。

状況遺産に含まれる亡くなった方(例えば母親)の預貯金を、特定の人物が勝手に引き出してしまった
どうなるか勝手に使い込まれた自己の相続分は、返してもらうことが可能
対処法1. 銀行に連絡して、口座を凍結してもらう
2. 口座の取引履歴を調べる
3. 話し合いをして現金を返してもらう(または、遺産分割協議で使い込んだ分を減らす)
4. 揉める場合は「不当利得返還請求」の裁判を起こす
注意勝手に不動産を自分だけのものにされたケースでは、遺言書や遺産分割協議書が偽造された可能性がある

❶預貯金を勝手に引き出されたケースの具体例

該当するケースの具体例
あなたの母親Aさんが亡くなった。父親Bさんは既に亡くなっている。あなたには姉Cさんがおり、姉Cさんは母親Aさんと長年実家で同居しており、銀行口座も管理していた。 母親Aさんの死後、姉Cが勝手にキャッシュカードを使い、現金を引き出してしまった。

❷預貯金を勝手に引き出された場合の対処法

まずは口座を凍結

勝手に預貯金を引き出されてしまった(可能性がある)場合は、まずは、該当口座を凍結しましょう。

口座の名義人が亡くなると銀行は口座を凍結しますが、誰かが銀行に連絡しない限り、銀行側は「口座の名義人が亡くなったこと」を知るすべはありません。これ以上勝手に預貯金を引き出されないよう、銀行に連絡して凍結してもらいましょう。

※遺産分割協議が完了した時点で必要な書類を揃えれば、凍結を解除して遺産分割することが可能です。また、「払い戻し制度」を活用すれば、相続手続きが長引く場合に生活費や葬儀代を用意するための資金のみを口座から引き出すことも可能です。  

※払い戻し制度については、「【相続手続き完了前】預貯金を引き出す方法|払戻し制度を利用」の記事で詳しく解説しています。
取引明細を確認する

口座を凍結したら、あらためて「使い込みがあったのか」「金額はいくらか」を確認するために、取引明細書を取得しましょう。一般的に、取引明細書は申込時から5年分遡って取得できます。不自然な出金記録が無いか確認してみましょう。

話し合いや裁判で解決する

次に、証拠を持って相手と話し合いを行います。話し合いで解決できそうであれば、勝手に引き出された現金を返してもらいます。遺産分割協議がまだなら、使い込んだ分の現金を差し引いて遺産分割することで、公平に遺産分割できるでしょう。

話し合いで解決できなさそうな場合は、裁判で決着を付けることになります。遺産分割協議がまだ済んでいない場合は「遺産分割調停」を、遺産分割協議が済んでいるのに不当に使い込まれた場合は「不当利得返還請求」の裁判を行うことになります。

❸預貯金を勝手に引き出された場合の注意点

勝手に取得された遺産は「不当利得返還請求」で取り戻すことになりますが、不当利得返還請求権には時効があるので気を付けましょう。

時効は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です。つまり、勝手に遺産を使われていることを知ったら5年以内に「不当利得返還請求」を行いましょう。

【ケース5】株式を勝手に売却された場合

ここからは、株式を勝手に売却された場合どうなるかについて解説していきます。

前述した通り、相続人が複数いる場合、遺産分割が完了する前の相続財産は共有状態となります。まだ「誰のもの」と決められていない以上、その遺産に含まれる株式を誰が勝手に売却してはいけません

通常ならば、相続開始を証券会社に連絡し、遺言や遺産分割協議書など「どう遺産を分割するか」が分かるものを用意した上で、株式を相続することになった人に名義を変更します。

ただし、生前から管理を任されており証券口座のログイン情報を知っているケースなどでは、勝手に売却される可能性はゼロではありません。とはいえ、そうなった場合も、出金口座には名義人(亡くなった方)の口座しか指定できないため、勝手に出金されるケースはあまり起こりにくいでしょう。

状況遺産に含まれる株式を、一部の相続人が勝手に売却してしまった
どうなるか遺産分割協議が決着していない状態では、株式は相続人全員の共有財産である 共有財産を一人の独断で勝手に売却することは許されない そのため、勝手に売却された場合は「不当利得返還請求」などで返金してもらう
対処法1. 証券会社に相続の手続き開始を連絡し、証券口座の取引履歴を調べる 2. 話し合いをして、目減りした財産などがある場合の決着方法を話し合う 3. 揉める場合は弁護士に相談しよう
注意

❶株式を勝手に売却されたケースの具体例

該当するケースの具体例
あなたの母親Aさんが亡くなった。父親Bさんは既に亡くなっている。あなたには姉Cさんがおり、姉Cさんは母親Aさんと長年実家で同居しており、証券口座のパスワードも知っていた。 母親Aさんの死後、姉Cが勝手に株式を全て売却してしまった。

❷株式を勝手に売却された場合の対処法

遺産分割前に勝手に株式を売却されたことによって遺産価値が目減りしたなど、損害が発生している場合は、その分を加味した上で遺産分割協議を進める方法があります。また、応じない場合は「不当利得返還請求」を行える可能性もあるでしょう。

また、もし株式を勝手に現金化されて出金され、使い込みが発生した場合は、「【ケース4】預貯金を勝手に引き出された場合」で解説した通り、使い込まれたお金を差し引いた遺産分割を進めるか、「不当利得返還請求」を行う方法で解決しましょう。

詳しくは、判断が難しいため、弁護士に相談しましょう。

❸株式を勝手に売却された場合の注意点

不当利得返還請求を行う場合、請求権には時効があるので気を付けましょう。

時効は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年です。つまり、勝手に手続きされていることを知ったら5年以内に「不当利得返還請求」を行いましょう。

【ケース6】勝手に相続放棄の手続きをされた

ここからは、自分の遺産を増やしたい他の相続人が、あなたの知らないうちに勝手に相続放棄の手続きをしてしまった場合について解説していきます。

相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の遺産の一切を受け取らないことをいいます。一般的には借金などマイナスの財産が多い場合に相続放棄の手続きを行うことで、その負担を引き継がずに済みます。

この相続放棄を悪用して「自分の遺産の取り分を増やしたい」と考える人がいると、トラブルになることがあります。

状況他の相続人が勝手にあなたの「相続放棄の申述」を作成して提出し、受理されてしまった
どうなるか第三者の書類偽造による相続放棄は、当然に「無効」となる
対処法特に何らかの手続きをする必要は無い。 本人が知らない間に行われた相続放棄は、受理されたとしても効力を生じないため、相続放棄が無効であることを裁判上または裁判外で主張できる。
注意これ以上トラブルにならないよう、弁護士に相談することをおすすめ
※なお、似た事例として、相続放棄したくなかったのに脅迫されたり騙されたりして相続放棄させられたケースがあります。このケースでは「相続放棄の取り消しの申述」を行うことができますが、実際に取り消しが認められるのは困難です。
なぜならば、脅迫や詐欺の明確な証拠を用意する必要があるからです。立証できなければ取り消しはできません。相続放棄を迫られたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

❶勝手に相続放棄の手続きを出されたケースの具体例

該当するケースの具体例
母親が亡くなり、父親と娘(あなた)が相続することになった(母親に兄弟はいない)。父親は、娘(あなた)が相続放棄すれば遺産を全部自分のものにできると考え、勝手にあなたの相続放棄の申述書を偽造して提出し、受理されてしまった。

❷勝手に相続放棄の手続きを出された場合の対処法

勝手に相続放棄の手続きを行われた場合の対処法としては、特になにもすることはありません。なぜならば、本人が知らない間に他人が行った相続放棄は効力を生じないからです。このケースでは、裁判上でも裁判外でも、「その相続放棄は無効です」と主張し続ければ良いということになります。

受理されてしまった相続放棄が無効であることを家庭裁判所に認めてもらうための手段は、特に存在しません。何か手続きをしておきたいところですが、する必要は一切ないので安心してください。

なお、似た手続きに「相続放棄の取り消しの申述」がありますが、これは本人が相続放棄の手続きを行ってしまった場合に取り消すための手続きとなります。この手続きは、今回のケースでは使えません。

❸勝手に相続放棄の手続きを出された場合の注意点

書類を偽造してまで相続財産を増やそうとした相続人がいる場合、あなたの相続放棄は無効になっても、今後も円滑に相続手続きが進まない可能性が高いと言えます。

このような揉めるケースでは、できるだけ弁護士に相談してこれ以上トラブルにならないようにすることをおすすめします。

遺産相続の手続きを勝手にされていると感じたらすること

ここからは、2章で解説したようなさまざまなケースで勝手に遺産相続の手続きをされた場合に対処する流れをまとめて解説していきます。

勝手に遺産相続の手続きをされてしまった場合、ケースにもよりますが、以下のような流れがおすすめです。

勝手に手続きされていることが分かった時点で、弁護士に相談することをおすすめします。なぜならば、明確に相手に悪意があり、意見が対立することが目に見えているからです。

特に、書類の偽造など明らかな犯罪行為がある場合にはできるだけ早めに弁護士に相談しましょう。少しでも何かお困りのことがあれば、当事務所(弁護士法人サリュ)の無料相談をご利用ください。

銀行口座凍結などの措置があれば実行する

銀行口座を凍結するなど、緊急な対策方法がある場合は、ひとまずその措置を行いましょう。それ以上使い込まれることを防ぐことができます。

勝手に手続きされた証拠を取得する

次に、「本当に勝手に手続きされているのか」「どのくらい使い込みされているのか」などの証拠を取得しましょう。例えば銀行口座なら口座の取引明細書を取得し、不審な出金履歴がないかチェックします。

弁護士に相談する

調べてみて、使い込みや勝手に手続きされた可能性が高い場合には、自分の財産を守るためにも弁護士に相談することをおすすめします。なぜならば、相手が「遺産をできるだけ独り占めしたい」意思を持っていることが明白なので、普通の話し合いでは解決できない可能性が高いからです。

なお、証拠を用意するのが難しい場合や、どんな証拠を用意するのか分からない場合には、その点も含めて弁護士に相談すると良いでしょう。

まずは話し合って解決を試みる

相手の勘違いで勝手に手続きしてしまっただけなど、話し合いの余地がある場合はまず話し合いで解決を試みます。手続きを取り消したり、使い込んだ分を返還してもらったり、遺産分割協議で相殺したりという解決策が考えられます。

相手との交渉に不安がある場合は、弁護士に同席してもらうことも検討しましょう。

揉める場合は調停・訴訟で決着させる

話し合いを重ねてもどうしても解決できない場合は、調停や訴訟に場を移して、決着させる必要があります。

2章のケースに応じて、遺産分割調停や訴訟、不当利得返還請求、損害賠償請求などの訴訟を起こして争うことになります。訴訟になった場合は、証拠固めや訴訟の進め方が自分だけでは難しいので、弁護士に依頼して訴訟を進めていきましょう。

なお、次の章では、揉める場合に気を付けたい時効や期限についても解説していきます。

遺産相続に関連する時効・期限に注意しよう

最後に、勝手に遺産相続の手続きをされた時に注意したい「時効」について解説していきます。

すでにお話した通り、勝手に行われた遺産相続の手続きは「無効」であり、遺産分割協議をやり直したり、使い込まれた金銭などを取り戻したりすることは可能です。しかしそれぞれの権利に時効が設けられているものがあるため注意が必要です。

具体的にどのような時効があるのか、知っておきましょう。

不当利得請求や損害賠償請求には時効がある

勝手に手続きされて遺産を使い込まれた場合、「不当利得返還請求」や「不法行為による損害賠償請求」を行います。しかし、これらを請求できる権利には時効があるため注意しましょう。

権利消滅時効
不当利得返還請求債権等の消滅時効が適用される(民法第166条)
❶請求できることを知ってから5年間行使しない場合、請求権が消滅する
❷請求できるときから10年行使しない場合、請求権が消滅する
不法行為による損害賠償請求不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条)
❶損害および加害者を知った時から3年間行使しない場合、請求権が消滅する
❷不法行為のときから20年間行使しない場合、請求権が消滅する

例えば、亡くなった方が銀行口座に預けていた預金を勝手に引き出して使い込んでいた場合、不当利得返還請求で取り戻すことができます。

しかし、不当利得返還請求には時効があるため、使い込みに気付いてから5年間(もしくは遺産の使い込みがあってから10年間)請求しなければ時効を迎え、それ以降は請求できなくなります。

時効を止めるには、時効を迎える前に「請求します」と相手に通知する必要があります。時効前に請求している証拠を残すため、相手に到着した日付が分かる「配達証明付き内容証明郵便」で請求を行うと良いでしょう。

遺産分割協議の時効は無いが早めに行った方が良い

一部の相続人を除外して行われた遺産分割協議は無効であり、改めて全員で遺産分割協議を行うことになります。

遺産分割協議には時効はなく、無効な遺産分割協議はいつでもやり直しができます。ただし、相続開始から時間が経つと、相続人が死亡して二次相続が起こったり、遺産の共有状態が続いて管理が難しくなったりします。

そのため、できるだけ早くに遺産分割協議のやり直しを行うことをおすすめします。

なお、2023年4月1日から施行される民法改正により、10年を超えた特別受益や寄与分の主張ができなくなります。そのため、特別受益や寄与分を主張したいならば、少なくとも10年以内に遺産分割を終わらせましょう。

遺産相続に関わる他の時効も知っておきたいという方は、「遺産相続の12の時効・期限を全解説|権利消滅で財産が受け取れない事態を避けよう」の記事もぜひ参考にしてください。

まとめ

この記事では、遺産相続の手続きを勝手にされてしまった場合について、ケースごとに「どうなるか」「対処法は何か」を詳しく解説してきました。最後にこの記事の内容を簡単に振り返っていきましょう。

まず1章では、大前提として、勝手に手続きされた遺産相続は無効にできるということをお伝えしました。遺産分割は相続人全員で同意して行うべきものです。誰か1人の一存で勝手に決めて勝手に手続きすることは許されません。

2章では、勝手に手続きされるケースを6つに分けて、それぞれの対処法を解説しました。

あなた抜きで 勝手に遺産分割された一部の相続人を除外した遺産分割協議は無効!
【対処法】
・遺産分割協議をやり直す
・揉める場合は「遺産分割協議無効確認訴訟」を起こす
相続権のない人に 勝手に遺産を取得された相続権のない人物は遺産を取得できない!
【対処法】
・話し合いで解決する
・揉める場合は「相続人の地位不存在確認訴訟」や「不当利得返還請求訴訟」を起こす
勝手に相続登記された勝手に行われた相続登記は無効!
【対処法】
・抹消登記手続請求を行う
預貯金を勝手に引き出された勝手に使い込まれた自己の相続分は返してもらうことが可能
【対処法】
・口座を凍結してもらい、取引履歴を調べる
・話し合いで現金を返してもらう(または遺産分割協議でその分を相続分から差し引くなど)
・揉める場合は「不当利得返還請求」の裁判を起こす
株式を勝手に売却された遺産を勝手に売却することは許されない!
【対処法】
・証券会社に相続手続き開始を連絡し、取引履歴を調べる
・目減りした財産などがあれば決着方法を話し合う
・揉める場合は弁護士に相談しよう

3章では、「勝手に手続きされているかも?」と思った場合にすべきことを5ステップで解説しました。

また、「遺産相続に関連する時効・期限に注意しよう」では、遺産相続にはさまざまな時効や期限があることをお話ししました。それらの時効や期限に引っかかってしまうと、本来受け取れるはずだった相続財産を受け取れず損してしまう可能性があるため注意しましょう。

「勝手に手続きされている」と感じたら、できるだけ早めに事実確認を行い、弁護士に相談しながらトラブルを早期解決できるようスピーディーに動きましょう。当事務所(弁護士法人サリュ)では無料相談も受け付けておりますので、ぜひまずはお気軽にご相談ください。

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