弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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「遺留分を侵害する遺言書って作ってもいいの?」
「遺留分を侵害する遺言書を作成したらどうなるの?リスクや注意すべきことはある?」
ただ大切な人に財産を残したくて作成を思いたった遺言書が「ほかの相続人の遺留分を侵害するかもしれない」ということに気づき、このまま作ってしまってよいのか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
遺留分を侵害する遺言書を作っても、法的には問題ありません。遺留分は「遺言書の内容に関係なく相続人が最低限の相続財産を請求できる権利」であるため遺言書よりも優先されますが、だからといって遺言書が無効になるわけではありません。
しかし、作成することによって「遺留分侵害額請求をされる可能性がある」「相続人同士でトラブルになりやすい」といったリスクが生じるため、リスク対策は必要です。
遺留分侵害額請求をされない遺言書を作り、さらに請求されても慌てなくて済むように備えたいのであれば、この記事を参考に行動してみることをおすすめします。
この記事でわかること |
・なぜ遺留分を侵害する遺言書を作っても問題ないかがわかる ・「遺留分を侵害する遺言」がどのようなものかがわかる ・遺留分を侵害する遺言書を作ることで発生するリスクがわかる ・遺留分侵害額請求をされないための遺言書を作成する方法がわかる ・遺留分を侵害する遺言書を作成するときの注意点がわかる |
遺留分を侵害する内容の遺言書を作成したいけど、できるだけトラブルのないようにしたい、という方はぜひ最後までご覧ください。
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遺留分を侵害する遺言書を作っても、法的には問題ありません。「遺留分を侵害する遺言書を作成してはならない」というルールは存在しないためです。
民法では、遺留分を侵害された人は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定めています。このことから、「遺言書が遺留分を侵害する可能性があること」を前提としていることがわかります。
そもそも遺留分とは、遺言書の内容に関係なく相続人が最低限の相続財産を請求できる権利です。そのため遺留分は遺言書よりも優先されますが、遺留分を侵害しているからといって、遺言書自体を無効にするものではありません。
(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
引用:民法|e-Gov法令検索
「遺留分を侵害する遺言」とは?
以下のような内容の遺言書は、「遺留分を侵害する」遺言書であるといえます。
1.複数の相続人がいるにもかかわらず、そのうち1人だけにすべてを相続させる内容
2.相続人には一切相続させず、第三者にすべてを遺贈する内容
3.長男に遺産の多くを相続させ、次男や三男にはほとんど相続させない内容
上記のうち1のケースでは、何も相続できなかった相続人が「なぜあの人だけ」という不満を感じる可能性があります。
2は、例えば遺言者が生前お世話になった人や愛人などに遺贈するケースが例として挙げられます。相続人と遺贈を受けた第三者(受遺者)に面識がなく、遺言者がお世話になった事情などを知らなければ、一切相続できなかった相続人たちは余計に不満に思うでしょう。
3は、遺言によって3人いる兄弟のうち、長男だけが遺産の多くを相続したケースです。
遺留分は、相続人ごとに割合が決められています。このケースでは次男や三男も相続していますが、相続した割合によっては遺留分侵害に該当する可能性があるでしょう。
遺留分の割合については、「遺留分侵害額請求されない遺言書を作るための4STEP」で詳しく解説します。
いくら法的に問題がなくても、遺留分を侵害する遺言書を作ることで、何か悪影響があるのでは?と不安になる方もいるでしょう。リスクについてきちんと理解しておかないと、安心して遺言書を作れませんよね。
そこで、遺留分を侵害する遺言書を作ることで生じる、2つのリスクについて解説します。
1.「遺留分侵害額請求」をされる可能性がある 2. 相続人同士でトラブルになるおそれがある |
それぞれ解説します。
遺留分を侵害する遺言書を作成すると、将来的に「遺留分侵害額請求」をされる可能性があります。たしかに遺留分を侵害する内容の遺言書を作成しても、法的には問題ありませんが、「優先されるのは遺留分のほう」であるためです。
なお、遺留分侵害額請求の概要は以下のとおりです。
遺留分侵害額請求とは |
被相続人の遺贈や贈与により、遺留分権利者の遺留分が侵害された場合に、その遺贈や贈与を受けた者に対し、「侵害されている額」に相当する金銭を請求すること。 |
遺留分侵害額請求は、遺産を多く受け取った人に対して行われます。つまり、遺言書を作成した本人ではなく、遺言書によって遺産を受け取った相続人や受遺者が請求されるのです。
ただし、遺留分侵害額請求をするかどうかは相続人次第です。遺留分は自動的に確保されるわけではなく、侵害された側が内容証明郵便などを用いて「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知ってから一年」(民法1048条前段)以内に請求しなければなりません。
例えば遺言書の内容に納得していたり、もともと相続放棄するつもりだったりすると、遺留分を侵害されたとわかっていても侵害額請求をしないことがあります。なかには、遺言者の意向を大切にしたいと考える人もいるでしょう。
とはいえ、実際に遺留分を侵害された人がどう思うかはわかりません。遺言書を作成する際は、「おそらく大丈夫だろう」と高を括らず、遺留分侵害額請求がされる可能性を念頭に置いておいたほうがよいでしょう。
遺留分を侵害する遺言書を作成することによって、自分の死後、相続人同士でトラブルになるおそれがあります。
中には「遺産はいらない」という人もいるでしょう。しかし多くの相続人は、自分が相続できることをある程度期待していると考えられます。
そのため、親が亡くなり、「特定の相続人がすべて相続し、自分は一切相続できない」内容の遺言書が出てきた場合、その「特定の相続人」に対してネガティブ感情を持つ可能性があります。これまで仲の良かった兄弟が、親の遺した遺言書をきっかけに仲違いしてしまうケースも珍しくありません。
「トラブルを避けるために」と考えて作成した遺言書が、かえって家族の絆を壊してしまう可能性があることを知っておきましょう。
前述のとおり、遺留分を侵害する遺言書には、「遺留分侵害額請求をされる」「相続人同士でトラブルになる可能性がある」といったリスクがあります。
リスクを避けるために重要なのは「リスク対策」をしっかり行うことです。効果的なリスク対策には、例えば以下のようなものがあります。
・遺留分に配慮したり「付言事項」を活用するなどして、遺留分侵害請求がされにくい遺言書を目指す ・遺言書は公正証書で作成し、リスク対策を行ったうえで遺留分侵害請求される可能性も視野に入れておく |
遺留分侵害請求がされにくい遺言書を目指すことで、「遺留分を請求されるかも」という不安を軽減できます。
まずは遺留分の割合や計算方法を知り、「どこからが侵害にあたるのか?」を確認しましょう。実際に計算してみたら、「遺留分を侵害する」というほど不公平な内容ではないかもしれません。
とはいえ、リスク対策も100%ではありません。遺留分を侵害する内容の遺言書を作成するなら、リスク対策を行いつつも「遺留分侵害請求をされる可能性」について考えておくべきです。
詳しくは「遺留分を侵害する遺言書を作成する場合の注意点」でご紹介しますが、「生命保険で備える」「遺留分放棄してもらう」といった方法で遺留分侵害額請求に備えられます。
ここからは、遺留分侵害額請求がされにくい遺言書を作るための方法をご紹介します。
遺留分を侵害する遺言書を作るなら、リスク対策が必要であることがわかりました。
実際に、遺留分侵害額請求や相続人同士のトラブルといったリスクを回避するためには、どのような遺言書を作ればよいのでしょうか。
ここでは、遺留分侵害額請求がされにくい遺言書を作るための4STEPをご紹介します。
・STEP1:相続人ごとの遺留分の割合を確認する ・STEP2:相続人に意向を伝えておく ・STEP3:2つのポイントをおさえて遺言書を作成する ・STEP4:遺言書を定期的に見直す |
それぞれ順番に解説します。
まず、相続人ごとに認められる「遺留分の割合」を確認しましょう。実際にどの程度の遺留分が認められているかを知らないままでは、リスク対策のしようがないためです。
もしかしたら、遺留分を侵害すると思い込んでいただけで、実際には「侵害する」とまではいえないレベルかもしれません。
遺留分の権利が認められているのは、以下の相続人です。
・配偶者:常に認められる
・子ども・孫:常に認められる
・父母・祖父母:子ども・孫がいない場合に認められる
注意点は、兄弟姉妹や甥姪には遺留分が認められていない点です。
兄弟姉妹は、亡くなった人(被相続人)に子どもや孫、父母や祖父母がいないときに法定相続人になります。しかし、相続人になったとしても遺留分はありません。
また、孫は被相続人より先に子どもが亡くなっているなら子どもに代わって相続人になり、遺留分の権利も発生します。子どもが健在なら、相続権も遺留分もありません。
父母・祖父母については、子どもも孫もいない場合に相続人になり、遺留分の権利も発生しますが、子どもが健在なら相続権も遺留分もありません。
相続人ごとの遺留分の割合は以下のとおりです。
父母だけが相続人になる場合、遺留分の割合は「被相続人の遺産の3分の1」です。
配偶者だけ・子どもだけであれば、「被相続人の遺産の2分の1」が遺留分の割合です。相続人が複数人いるなら、遺留分の割合に法定相続分をかけて計算します。
例えば配偶者と子どもが相続人になるときは、それぞれ4分の1ずつになります。子どもが複数人いる場合は4分の1を均等に分けるため、2人であれば8分の1ずつ、3人であれば12分の1ずつです。
父母も同様です。例えば父母のみが相続人になるケースで、父母のうちどちらしかいないなら3分の1ですが、両親ともに健在であればそれぞれ6分の1になります。
それでは、遺留分の計算方法を見てみましょう。遺留分は、「遺留分算出の基礎となる財産×遺留分の割合」で求められます。
「遺留分算出の基礎となる財産」とは、以下のものを足した財産のことです。
・相続開始時の相続財産の額(遺贈した財産も含む)
・相続が開始するまでの1年間に行われた第三者に対する生前贈与の額
・相続が開始するまでの10年の間に行われた相続人に対する生前贈与の額(特別受益)
ただし、借金などの債務は相続開始時の相続財産から控除します。
なお、「特別受益」とは、特定の相続人が、生前贈与や遺贈、死因贈与によって被相続人から受けた利益のことをいいます。
計算式は以下のとおりです。
遺留分の計算式 |
((相続開始時の相続財産ー債務)+第三者への贈与+相続人への贈与)×それぞれの遺留分の割合 |
ここからは、実際に計算例を見てみましょう。
遺留分の計算例
それでは、以下の具体例を用いて実際に遺留分を算出し、遺留分が侵害されていないかどうかを確認しましょう。
相続人 | 妻+子ども2人(長男・次男) |
遺言書の内容 | ・配偶者に自宅の土地・建物+住宅ローン ・長男・次男にそれぞれ預貯金1,000万円 |
相続開始時の相続財産 | 8,000万円(自宅の土地・建物6,000万円+預貯金2,000万円) |
債務 | 2,000万円(住宅ローン) |
相続人への贈与 | 2,000万円(相続開始10カ月前に行われた妻への贈与) |
相続人への贈与 | 1,000万円(相続開始5年前に長男が受け取った結婚持参金) |
遺留分算出の基礎となる 財産の計算式 | 8,000万円−2,000万円+2,000万円+1,000万円=9,000万円 |
上記のケースでは、「遺留分算出の基礎となる財産」が9,000万円であることがわかりました。遺留分はそれぞれ以下のとおりです。
・妻:9,000万円×4分の1(2分の1×2分の1)=2,250万円
・長男・次男:9,000万円×8分の1(2分の1×4分の1)=それぞれ1,125万円
これらの情報から、実際に遺留分が侵害されていないかどうかを確認します。遺留分から相続した財産や贈与・特別受益で受け取った金額を足し、債務があれば差し引きます。
・妻:2,250ー(土地・建物6,000万円+贈与2,000万円−住宅ローン2,000万円)=−3,750万円
・長男:1,125−(預貯金1,000万円+結婚持参金1,000万円)=−875万円
・次男:1,125−預貯金1,000万円=125万円
合計がマイナスになれば遺留分は侵害されていませんが、プラスになっている場合は要注意です。上記のケースでは次男の遺留分が侵害されているため、侵害された125万円が遺留分侵害額請求の対象になります。
誰かの遺留分を侵害してしまうことがわかったら、将来相続人になる予定の人(推定相続人)に意向を伝えておくとよいでしょう。遺言書の内容やそのような遺言書を作成しようと思った理由を直接話すことで、推定相続人に納得してもらえる可能性があります。
推定相続人としても、「親が亡くなり、出てきた遺言書を確認したら自分の遺留分を侵害する内容だった」となれば、大きなショックを受けることが予想されます。
自分は遺留分を侵害された一方、多くの遺産を受け取った相続人がいると知れば、いい気はしません。それにより、相続人同士の関係が悪化するおそれもあります。
しかし事前にきちんと話しておけば、そのような遺言を遺す理由や遺言者の思いが伝わるはずです。はじめは納得できなかった相続人も、伝えてから実際に相続が開始するまでの間に、自分の中で折り合いがつくかもしれません。
トラブルを100%防げるとは言いきれませんが、有効なリスク対策のひとつであるといえるでしょう。
遺留分侵害額請求を回避するためには、遺言書自体も工夫して作成する必要があります。
遺言書を作成する際は、以下の2つのポイントを押さえましょう。
①できるだけ遺留分に配慮した内容にする
②遺留分を侵害するなら「付言事項」で思いを伝える
それぞれ解説します。
①できるだけ遺留分に配慮した内容にする
遺留分侵害額請求をされにくくするために重要なのは、できるだけ遺留分に配慮した内容の遺言書を作成することです。
「特定の相続人がすべての遺産を相続した」「特定の相続人が多額の贈与を受けていたことによって、結果的に遺留分を侵害された相続人がいる」というようなケースでは、遺留分侵害額請求をされても不思議ではありません。
「遺留分の計算例」で紹介したケースでいえば、次男だけが生前贈を受けておらず、不公平な結果になりました。同じ立場であるはずの長男とも差があることから、兄弟間でトラブルになる可能性があります。
また、過去に3,000万円の贈与を受けており、さらに自宅を相続した母親に対しても、不満を感じるかもしれません。
遺言書は、トラブルを避ける効果がある反面、内容によってはそれまで仲の良かった家族の絆を壊す結果にもつながることを理解しておくべきでしょう。トラブルを避けたいなら、はじめから遺留分に配慮した内容にしておくことが理想です。
それでもやはり遺留分を侵害する遺言書を作成したい場合は後述する「付言事項」を活用し、できるだけ自分の思いや考えを伝えられるようにしましょう。相続人それぞれに対し、愛情を込めてしたためることが大切です。
②遺留分を侵害するなら「付言事項」で思いを伝える
遺留分を侵害する遺言書を作成するなら、「付言事項」で思いを伝えましょう。
付言事項とは |
相続人に対して言い残したいことを記載する条項のこと。法的拘束力がなく、基本的に何を書いてもよいとされている。相続人に対しての感謝の気持ちや願い、葬儀に関する希望などが書かれることが多い。 |
例えば、以下のようなことを記載するとよいでしょう。
・このような遺言書を作成した理由
・遺留分侵害額請求をしないでほしい旨
・相続人それぞれに対するメッセージ
ただし、「面倒を見てくれなかった」「◯◯してくれなかった」というようなネガティブな感情を、付言事項で残すことはおすすめできません。
前述のとおり、付言事項には何を書こうと自由です。しかし、たとえ事実であったとしても、相続人が嫌な気持ちになるような表現は避けるべきです。
相続人それぞれの気持ちに配慮し、できるだけ前向きな表現をするよう心がけましょう。そうしたほうが、遺言書の内容に納得してもらいやすくなります。
ここからは、おすすめの文例をご紹介します。
妻にすべて相続するケース |
妻◯◯は、長年遺言者に尽くしてくれました。 長男◯◯・長女◯◯には何も遺してあげられませんが、それぞれすでに独立し、立派に働いているためお父さんは心配していません。 立派に育ってくれてありがとう。 妻には、自分が亡くなったあともお金に困ることなく、安心して暮らしてほしいと思っています。そのため、妻◯◯にすべての財産を相続させることにしました。 どうか子どもたちは遺留分侵害額請求をせず、いつまでも家族仲良く暮らしてくれることを願っています。 |
介護をしてくれた長男の嫁に遺贈するケース |
長男の嫁◯◯さんは、長年私の介護をしてくれました。 子育てや家事で忙しい中、嫌な顔ひとつせず優しく接してくれたことに心から感謝しています。 ありがとう。 この遺言書は、◯◯さんにこれまでのお礼をするため作成したものです。 どうか受け取ってください。 相続人である妻◯◯、長男◯◯、次男◯◯は不満に思うかもしれませんが、私の意向を尊重してくれると嬉しいです。 どうか遺留分を請求しないよう、よろしくお願いします。これからも家族みんなで仲良く暮らしてくれることを願っています。 |
法定相続分と異なる割合で相続させるケース |
妻◯◯と2人の優しい子どもたちのおかげで、私はとても幸せでした。 今まで本当にありがとう。 妻には、これからも自宅で安心して過ごしてほしいとの思いから、自宅の土地と建物を残すことにしました。 これだけで法定相続分を大きく超えてしまいますが、子どもたちはどうかお母さんに遺留分を請求しないようお願いします。 これからも、家族で力を合わせて暮らしていってくれることを願っています。 |
遺言書を作成したあとも、定期的に内容を見直すようにしましょう。遺言書作成から相続が開始するまでに期間がある場合、家族構成や財産状況が変わる可能性があるためです。
例えば以下のような変更が生じたら、遺言書見直しのサインです。
・遺言者より先に推定相続人が亡くなった ・遺言書作成後に新たに不動産を購入した ・遺言書作成後に配偶者と離婚した |
遺言書が古くなることで、遺言者の目的が果たされなくなることがあります。
遺言書は何度でも変更可能です。定期的に見直すようにしましょう。
遺留分侵害額請求がされにくい遺言書を作るための方法がわかったところで、注意点についても確認しておきましょう。
遺留分を侵害する遺言書を作成する場合の注意点は以下のとおりです。
1.必ず「公正証書」で作成する
2.付言事項を記載してもトラブルを防げるとは限らない
3.遺留分侵害額請求をされることも想定して対策しておく
それぞれ順番に解説します。
注意点の1つ目は、必ず「公正証書」で作成することです。
公正証書で遺言書を作成することは、「間違いなく本人が作成したこと」や「遺言書作成の時点で遺言者に意思能力があったこと」の証明になります。
公正証書遺言とは |
遺言書作成方法の1つ。公証役場の公証人が遺言者の本人確認や意思確認を行ったうえで作成するため、遺言書自体が無効になるリスクを限りなく小さくできる。また、遺言書を公証役場で保管してもらえるため紛失や改ざんのおそれも低い。 |
遺留分を侵害された側が弁護士に対応を依頼した場合、遺留分侵害額請求の前に「遺言無効の訴え」を提起することが考えられます。
遺言書が無効となり、法定相続分どおりに遺産を受け取ったほうが、遺留分を侵害された側としては受ける利益が高くなるためです。
遺言書が公正証書ではなく、遺言者が自分で全文を手書きする「自筆証書遺言」だった場合、「本当に遺言者が書いたのか」「遺言者に意思能力があったのか」が問題となります。場合によっては、遺言書が無効になる可能性もあります。
とはいえ、「公正証書で作成すれば100%無効にならない」というわけではありません。作成の際は以下の「無効になるケース」に該当しないように注意しましょう。
無効になるケース |
・遺言者に遺言能力(意思能力)がなかった ・証人が欠格事由に該当した ・遺言者が遺言書の内容を公証人に口頭で告げていなかった ・遺言書作成にあたって詐欺や強迫、錯誤があった ・遺言書の内容が公序良俗に違反していた |
付言事項を記載しても、必ずトラブルを防げるとは限らない点に注意しましょう。
付言事項の受け取り方は人それぞれであり、相手の性格によっては逆効果になることもあるためです。また、どのような対策を講じようが、トラブルになることはあります。
そのため付言事項で遺留分を侵害されないための対策を講じると同時に、遺留分侵害に備えた対策も講じておくことが重要です。
遺留分侵害額請求がされることを想定した対策については、このあと詳しく解説します。
これまでに解説してきた対策をしても、遺留分侵害額請求をされる可能性はあります。そのため、遺留分侵害額請求をされることも想定して対策しておきましょう。
1.生命保険で遺留分侵害額請求に備える
2.遺産を渡したくない相続人がいるなら「推定相続人の廃除」を行う
3.相当の対価を支払い「遺留分放棄」してもらう
4.弁護士などの専門家を「遺言執行者」に指定しておく
それぞれ解説します。
生命保険で遺留分侵害額請求に備えるという手段があります。遺留分を請求される可能性のある人を生命保険の受取人にしておけば、もし請求されたとしても保険金で対応できるためです。
遺留分が請求された場合、請求を受けた側は請求者に対して金銭で支払うのが原則です。そのため、相続財産が不動産や株式といったすぐに現金化できない財産ばかりだと、侵害額に相当する現金を用意できないケースも考えられます。
しかし生命保険なら直接金銭で支払われます。慌てて資金を調達する必要がありません。
ただし、注意点があります。
生命保険は保険金の受取人が被保険者(遺言者本人)以外であれば相続財産にカウントされませんが、受取人が被保険者本人になっていると相続財産になってしまいます。
遺留分侵害額請求への対策として活用したいなら、「請求される可能性のある人」を受取人にしておく必要があることを覚えておきましょう。
遺産を渡したくない推定相続人がいるなら、「推定相続人の廃除」を検討するのも1つです。
推定相続人の廃除とは |
被相続人に対して、以下のようなことを行った相続人から相続権を奪うこと。 ・虐待した ・重大な侮辱を行なった ・著しい非行があった 被相続人または遺言執行者が家庭裁判所に「廃除の申立て」を行い、審判によって対象者の相続権を失わせる。 |
廃除の申立てが認められれば、その人は推定相続人ではなくなります。排除された相続人に子どもがいる場合は子どもが代わって相続します。
ただし申立てを行ったからといって、必ずしも認められるとはかぎりません。単に「折り合いが悪いから相続させたくない」というような理由では廃除できない点に注意しましょう。
相当の対価を支払う代わりに、「遺留分放棄」をしてもらうという選択肢もあります。
遺留分放棄とは |
遺留分の権利者が、自ら遺留分の権利を放棄すること。「相続放棄」とは異なり、あくまでも遺留分を放棄するだけであるため、相続人でなくなるわけではない。 |
例えば…
・その法定相続人の遺留分が500万円
・遺言書では遺留分を放棄することを条件に200万円相続させると記載されている
上記のケースで遺留分を放棄した場合、200万円は受け取れる。本来請求できるはずの300万円(500万円−200万円)は請求できなくなる。
ただし遺言者の生存中に遺留分放棄を行うなら、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
また、以下の要件を満たす必要があります。
・遺留分放棄が本人の意思によること
・遺留分を放棄することに合理性
・必要性があること
・遺留分放棄を行う本人が十分な代償を受け取っていること
あくまでも、遺留分の権利者が自分の意思で放棄する必要があります。例えば無理矢理放棄させるなどの方法は認められません。
また、代償なしに遺留分放棄が認められる可能性は低いため、「タダで放棄してもらう」というわけにはいきません。
遺留分の権利者次第であるため確実に行える方法ではありませんが、要件を満たせるなら活用してみてもよいでしょう。
なお、相続開始後は単に遺留分侵害額請求をしなければよいだけであるため、家庭裁判所の許可は不要です。
弁護士などの専門家を「遺言執行者」に指定しておくのもおすすめです。第三者が遺言を執行することで、相続人が納得しやすくなるためです。
遺言執行者とは |
遺言書の内容を実現する人のこと。未成年者と免責許可の決定を受けていない破産者以外であれば、遺言書の中で自由に指定できる。遺言書の中で「推定相続人の廃除」「認知」を行う場合には、遺言執行者を指定する必要がある。 |
相続人の中から遺言執行者を選ぶと、相続人同士のトラブルに対応できない可能性があります。とくに、遺言によって多く財産を受け取る相続人が遺言執行者になった場合、反発する相続人が出てくるかもしれません。
しかし弁護士などの専門家が遺言執行者になれば、以下のような不満が出にくくなります。
・自分に有利なように手続を進めていないか?
・実は財産を隠しているのではないか?
・手続に時間がかかりすぎているのではないか?
遺留分が問題になるケースでは、専門家に依頼したほうがトラブルを避けやすく手続自体もスムーズに進むことが期待できます。
遺留分を侵害する遺言について解説しました。
記事の中で解説したとおり、遺留分を侵害する遺言書を作成しても法的には問題ありません。しかし遺留分を侵害する遺言書には、以下の2つのリスクがあります。
・遺留分侵害額請求をされる可能性がある ・相続人同士でトラブルになるおそれがある |
そのため遺留分侵害額請求がされにくい遺言書を目指すことや、リスク対策を行いながらも、遺留分侵害額請求をされることを想定してあらかじめ備えておく必要があります。
具体的には、以下の4STEPで遺留分侵害額請求がされにくい遺言書を目指し、
・STEP1:相続人ごとの遺留分の割合を確認する ・STEP2:相続人に意向を伝えておく ・STEP3:以下の2つのポイントをおさえて遺言書を作成する ・できるだけ遺留分に配慮する ・遺留分を侵害する内容になるなら「付言事項」で思いを伝える ・STEP4:遺言書を定期的に見直す |
以下の方法で遺留分侵害額請求に備えます。
1.生命保険で遺留分侵害額請求に備える 2.遺産を渡したくない相続人がいるなら「推定相続人の廃除」を行う 3.相当の対価を支払い「遺留分放棄」をしてもらう 4.弁護士などの専門家を「遺言執行者」に指定しておく |
遺言書を作成する際は、「このような遺言書を作成したい」という自分の希望はもちろん大切ですが、「遺留分を侵害された相続人がどう思うか」ということも重視すべきポイントです。
相続人それぞれの気持ちを考え、遺される家族が不幸にならない遺言書づくりを目指してください。