弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
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「遺産分割調停の呼び出しの通知が届いたけれど、無視しても大丈夫?」
そんな疑問に結論からお伝えすると、無視したからといって、直接的な不利益があるわけではありません。
基本的には、調停の呼び出しに応じるかどうか自体は、任意といえます。しかしながら、問題はその後です。
そのまま放置すると「審判手続」という裁判官による判断・決定の手続きに移行したり、内容によっては訴訟を提起される可能性があります。
この記事では、遺産分割調停の基礎知識から、呼び出しにはどの程度の強制力があるのか、無視し続けたら具体的にどうなるのかについて、解説します。
呼び出しを無視したいと考えている方は、まずはこの記事をご一読ください。デメリットも含めて把握したうえで、どうするか決めていきましょう。
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そもそも「遺産分割調停」とは何か、基本事項から確認しておきましょう。
遺産分割調停とは、遺産分割について家庭裁判所(調停委員会)に仲介してもらいながら話し合い、円満に解決できるように合意を目指す手続きのことです。
調停では、裁判官1名と、民間の良識のある人から選ばれた調停委員2名で構成される調停委員会が、当事者の相続人たちそれぞれの言い分を聞き、助言やあっせんをします。
遺産分割調停は、当事者にとって以下のようなメリットがあります。
●感情的になりがちな相続に関するもめ事を、調停の中で話し合うことにより、互いに相手の立場を理解し、公平で納得できる結論を導き出せる ●調停委員を介して話し合いをするため、当事者同士の言い争いにはならない ●訴訟(裁判)のように公開の法廷で争うものではないので、秘密が第三者に漏れることがない 参考:裁判所「遺産分割調停手続のご利用にあたって 」 |
「遺産分割調停の呼び出しを、無視したい」と考える理由として、「他の相続人と会いたくないから」という人がいます。
遺産分割調停では、基本的に、他の相続人と話す必要はありません。
当日は、調停委員会が、各相続人を順番に個室(調停室)に呼び、個別に事情を聞くのが通常の進め方です。
自分の主張や言い分は、他の相続人に直接ぶつけるのではなく、調停委員に話すことになります。
同じく、他の相続人から直接、意見をぶつけられることはありません。
ただし、「他の相続人とまったく会わないで済むか?」というと、会う可能性はあります。
調停の開始時や終了時に、他の相続人と同席で調停の進行状況を確認する場が設けられたり、時間配分の都合上、全員一緒に事情を聞かれたりするケースがあるためです。
他の相続人と同席することに支障がある場合は、事前に提出を求められる「進行に関する照会回答書」に事情を書くと、配慮してもらえます。
▼ 「進行に関する照会回答書」の例
参考:調停のしおり
他の相続人が、遺産分割調停の申立てをして、それが家庭裁判所に受理されると、第1回目期日の案内が郵送で届きます。
この呼び出しを、無視してもよいものなのか、詳しく見ていきましょう。
法的には、正当な理由がないのに調停の呼び出しを無視して、出席しなかった場合、5万円以下の過料に処せられる場合があります。
しかしながら、実務的には過料が処せられることは極めてまれで、
「呼び出しに応じるかは、実質的に任意」
といえます。
先にも述べたとおり、遺産分割調停は家庭裁判所(調停委員会)に仲介してもらいながら話し合う場であり、裁判のように勝ち負けを決める場ではありません。
遺産分割調停を欠席すると、相続人同士の話し合いができないので、事態は何も動かないことになります。
別の言い方をすると、調停不成立となり、調停前の状態が維持されるだけです。何らかの不利な決定が下されるようなことは、ありません。
「もし、あとで裁判や審判になったとき、調停に欠席したことによって不利になりませんか?」
と心配する方もいるようです。
そのような心配もありません。
たとえば、同じ調停でも「離婚調停で、親権を争っている」といった場合は、無断欠席によって不利になるおそれもあります。親権者としての適格性を判断する際に、影響を及ぼす可能性があるためです。
しかしながら、遺産分割調停に欠席したこと自体が、後の裁判や審判に影響を与える可能性は低いといえます。
ここまでの話をまとめると、遺産分割調停の呼び出しを無視したからといって、深刻なペナルティが科せられることはありません。
ただし、だからといって「無視して何も問題なし」とはいえません。それほど簡単な問題ではないのが、悩みどころです。
どういうことか、続けて、無視した場合のデメリットを解説します。
遺産分割調停の呼び出しを無視し続けた場合、以下のデメリットが考えられます。
●話し合いによる解決の機会を失う ●相続税の申告期限に間に合わなくなる ●裁判(審判や訴訟)に移行する ●他の相続人や家庭裁判所に迷惑をかける ●希望する遺産分割を実現することができない |
以下で詳しく見ていきましょう。
1つめのデメリットは「話し合いによる解決の機会を失う」ことです。
遺産分割調停は、当事者同士が裁判などで争うのではなく、話し合いによって合意する最後のチャンスといえます。
最後のチャンスを失って本当によいのか、慎重に検討しなければなりません。
呼び出しを無視すれば、ほかの相続人たちとの関係性が悪化して、絶縁状態となることも考えられます。無視すると決めることは、重い決断です。
「対応するのが面倒だから」
といった軽い気持ちで無視するのは、おすすめできません。
2つめのデメリットは「相続税の申告期限に間に合わなくなる」ことです。
遺産を相続すると、以下の相続税がかかります(相続放棄しない限りは、かならず納付することになります)。
▼ 相続税の速算表
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
相続税の申告期限は、
「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」
と定められています。
複数の相続人がいる場合には、ほかの相続人が共同して申告する方法もあるのですが、ほかの相続人が自分の分まで申告してくれたかどうかは、確認しないとわかりません。
共同で申告書が提出されていなければ、自分の分は別途申告書を作成して、提出する必要があります。
申告期限に間に合わないと、「無申告加算税」や「延滞税」が加算され、もとの納税額よりも高い金額を納める必要がでてきます。
さらに、相続税にはさまざまな特例があり、特例を利用すると節税効果が期待できますが、特例を使うためには申告期限までに申告することが原則です。
まとめると、以下3つの点で、金銭的な出費が多くなります。
・無申告加算税 ・延滞税 ・特例が使えない |
3つめのデメリットは「裁判(審判や訴訟)に移行する」ことです。
遺産分割調停の呼び出しを無視すると、調停は不成立となり、終了します。その場合、自動的に「審判手続」が開始されます。
審判は、広い意味での裁判のひとつです。裁判官が、当事者から提出された書類やさまざまな資料に基づいて判断し、遺産分割について決定する手続きとなります。
審判は、調停に比較すると、柔軟性がありません。
調停のように、当事者間の話し合いによって全体的な解決を目指すのではなく、裁判官の判断によって決定されるためです。
たとえば、調停であれば、厳密には遺産分割では扱えない事情も含めての検討が可能ですが、審判では付随問題への考慮は難しくなります。
遺産分割自体の裁判は、前述の「審判手続」が該当します。
一方、遺言書の有効性、遺産の範囲、相続人の範囲などの遺産分割の前提問題、遺留分の問題がある場合には、他の相続人から訴訟を提起されることがあります。
訴訟となると裁判所から訴状が届くのですが、訴状を無視して裁判を欠席すると、大きな不利益を被るリスクがあります。
裁判所は「欠席 = 相手の主張する内容を、すべて認めた」とみなし、訴訟提起した相続人の主張が認められることになるからです。
さらに、裁判は非常に長い時間がかかります。数年以上、裁判が終わらずに拘束されている人もいます。
安易な気持ちで調停を無視すると、
「何年も裁判で大変な思いをするくらいなら、調停で決着をつけておけばよかった」
と、大きな後悔をすることになります。
調停で解決できることなら、できる限り、調停で解決しておくことを強くおすすめします。
審判・訴訟についてはこちらの記事にて詳しく解説していますので、参考にご覧ください。
4つめのデメリットは「他の相続人や家庭裁判所に迷惑をかける」ことです。
たとえば、以下は裁判所が発行する「遺産分割ハンドブック」からの引用ですが、指定された調停期日に行けないときでも無視せずに、かならず必要書類を提出するように要請されています。
出典:遺産分割ハンドブック
遺産分割調停は、他の相続人や、家庭裁判所によって構成される調停委員会(裁判官1名+調停委員2名)の立ち会いのもと、行われます。
倫理的なマナーという観点からしても、連絡せずに無視するのは避けるべき、といえます。
調停の呼び出しを無視し続け、遺産分割について何も希望を伝えない場合には、当然、希望通りの遺産分割にはなりません。
例えば、遺産の中に取得を希望する不動産があるにもかかわらず、それ伝えないまま調停にも出席しない場合、もし他にその不動産を取得したい相続人がいれば、その相続人が不動産を取得する可能性が高いです。
調停に出席せず、かつ、何ら遺産分割について希望を言わない場合には、思った通りの遺産分割とならないリスクがあることを知っておきましょう。
ここまでお読みいただくと、遺産分割調停の呼び出しを無視するとどうなるのか、デメリットも含めてご理解いただけたことと思います。
「デメリットをできるだけ回避しつつ、出席しないで済ませる方法はないか?」
という方に、無視する以外の選択肢を4つ、ご紹介します。
・代理人を選任する ・遺産分割協議書に合意して押印する ・相続分の譲渡をする ・相続放棄する |
1つめの方法は「代理人を選任する」です。
具体的には、代理人に弁護士を選任すると、自分の代わりに、弁護士に調停へ出席してもらうことができます。
他の相続人と顔を合わせたくない事情がある場合や、仕事の都合、遠方、介護・育児などの事情で、自分が裁判所へ出向くのを避けたい場合に、有効な方法です。
もちろん、「遺産分割の交渉を有利に進めたい」といった希望も、専門家である弁護士に相談することで、スムーズに進めやすくなります。
弁護士への依頼についてはこちらのも参考にしてみてください。
2つめの方法は「遺産分割協議書に合意して押印する」です。
遺産分割調停は、当事者のみで行う遺産分割協議で合意に至らなかった場合に取られる手続きです。
「遺産分割調停に出席するくらいなら、遺産分割協議で合意して済ませたい」
と考えた場合には、調停を取りやめて、遺産分割協議書に押印する選択肢があります。
遺産分割調停を無視し続けても、審判・訴訟になる可能性を踏まえると、内容に妥協したとしても押印するほうがメリットが大きいケースもあります。慎重に検討してみましょう。
他の相続人に、自分の相続分を譲渡する方法もあります。相続分は有償・無償で他の相続人に譲渡することができます。これにより、遺産分割の争いから離脱し、遺産分割調停に出席しなくても済みます。
4つめの方法は「相続放棄する」です。
もし「遺産はいらない」と考えている場合には、自分の相続分を放棄して、手続きから抜けることが可能です。
ただし、相続放棄の手続きには期限があり、
「相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」
に、被相続人(亡くなった人)の居住地の家庭裁判所へ、申述を行う必要があります。
相続放棄について詳細はこちらの記事をご覧ください。
本記事では、遺産分割調停の呼び出しを無視することについて、解説しました。要点を簡単にまとめます。
遺産分割調停の基本として、押さえたいポイントは以下のとおりです。
● 遺産分割について家庭裁判所の仲介で話し合い合意を目指す手続き ● 他の相続人と直接話すわけではない ● 他の相続人と同席することに支障がある場合は、配慮を求めることが可能 |
遺産分割調停の呼び出しに応じるか否かは「任意」です。
● 法的には5万円以下の過料に処せられるが実際にはまれ ● 欠席したから調停の場で不利な決定が下されることはない ● 裁判で調停の欠席が理由で不利になることもない |
ただし、「無視して何も問題なし」とは、言い切れません。以下のデメリットがあるためです。
● 話し合いによる解決の機会を失う ● 相続税の申告期限に間に合わなくなる ● 裁判(審判や訴訟)に移行する ● 他の相続人や家庭裁判所に迷惑をかける ● 希望する遺産分割を実現することができない |
無視する以外で、遺産分割調停に出席しない選択肢として、以下が挙げられます。
対応について悩んでいる場合には、弁護士に相談してみるのがおすすめです。個々の状況にあわせて、本記事で紹介した以外の選択肢を提案してもらえることもあります。
遺産分割は、永久に放置しておくわけにはいかない問題です。気が重い事情があるかもしれませんが、できるだけ早く解決して、スッキリと生活できるようにしていきましょう。