弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
「遺留分の調停」に関して、“調停を起こしたい”という方もいれば、“調停を起こされた”という方もいるでしょう。
どちらのケースでも重要なのは、しっかりと基礎知識を身につけたうえで臨むことです。
納得いく解決をするために、この記事では、遺留分侵害額の請求調停の申立て方法から調停の流れや注意点まで詳しく解説します。
相続の弁護士費用に、新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと7.7%着手金無料プランを用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
相続の弁護士費用に、
新しい選択肢を。
サリュは、お客様の弁護士費用の負担を軽減するため、
月額料金プランと
7.7%着手金無料プラン
を用意しました。
最良の法的サービスを、もっと身近に。
まずは、「遺留分」「調停」といった用語の意味など基本事項から確認していきましょう。
1. 「遺留分」とは何か?
2. 「遺留分侵害額請求権」とは?
3. 遺留分に関する権利を行使する方法
4. 当事者同士の協議で合意できない場合は調停へ
5. 調停とは何か
6. 訴訟か調停か
遺留分(いりゅうぶん)とは、法律によって一定の相続人が取得することが保証されている相続財産のことです。
被相続人(亡くなった人)による贈与や遺言(遺贈)であっても、遺留分を奪うことはできません。
遺留分を受け取る権利を持つ人を「遺留分権利者」といい、兄弟姉妹を除く法定相続人(直系卑属、直系尊属、配偶者)が該当します。
遺留分の割合は、相続人が誰であるか、何人いるかによって、変動します。
たとえば、相続人が配偶者だけの場合なら、相続財産 の「2分の1」が配偶者の遺留分です。(*1)
仮に、被相続人が「私の全財産を、○○に寄付する」と遺言を残したとしても、遺留分のほうが効力は上です。よって、配偶者はそのような遺言があっても被相続人の財産の2分の1を相続できます。
※遺留分権利者や法定相続分・遺留分についてさらに詳しく知りたい方は「法定相続分・遺留分の違いとは?権利者や割合をわかりやすく図解」もあわせてご覧ください。
*1:正確には、遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、その贈与した財産の価額を加えた額から、債務の全額を控除した額と定められています(民法1043条)。
次に知っておきたいのが、「遺留分侵害額請求権」です。
前述のとおり、遺留分は法律によって取得することが保障されています。しかし、自動的に取得できるわけではありません。
被相続人が贈与や遺贈をしたために、遺留分権利者の相続財産の額が遺留分を下回る場合は、遺留分を侵害された人が、その不足分を請求する必要があります。つまり、適切に権利を行使しなければ、遺留分は取得できないのです。
この侵害された遺留分を請求する権利のことを「遺留分侵害額請求権」といいます。
【遺留分侵害額の請求】
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。 出典:民法1046条 |
請求する相手は、贈与や遺贈を受けた人です。
遺留分侵害額請求には時効があります。遺留分の侵害を知ったときから1年、また、相続開始のときから10年です。
【遺留分侵害額請求権の期間の制限】
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。 出典:民法1048条 |
民法では、〈遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる〉と定められていますが、具体的な方法は規定されていません。
したがって、口頭や書面など任意の方法で「遺留分侵害額を請求します」と意思表示すれば良いのです。
しかし、実際には請求書面を作成し、内容証明郵便を送付して請求するのが通常です。
内容証明郵便は、その謄本(写し)を郵便局が保存する特殊な郵便物です。いつ・誰が・誰に・どのような内容の文書を送付したのか記録が残るため、期限内に請求した事実を証拠することができます。
遺留分侵害額請求の流れについては、「遺贈や寄付に対して「遺留分」を取り戻す方法|請求の流れを解説」にて解説していますので、あわせてご覧ください。
遺留分侵害額請求を行い相手方と協議したにもかかわらず、合意に至らない場合には、家庭裁判所の調停手続を利用できます。
ここで、本記事のテーマである「調停」が出てきました。調停とは、簡単にいえば“裁判所での話し合い”のことです。
遺留分に関する紛争は、家庭裁判所の「家事調停」で取り扱っています。家事調停とは、相続や離婚など、主に家庭内の紛争について扱う調停です。
裁判のように「勝ち・負け」を決めるのではなく、調停では話し合いによる合意形成を目指します。
もっとも、調停の場では当事者同士が直接話し合うわけではなく、調停委員が間に入ってくれます。公平中立な立場である調停委員が当事者の言い分や気持ちを交互に聞き、解決に向けた働きかけを行ってくれるのです。
【調停委員とは?】
調停委員は、調停に一般市民の良識を反映させるため、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を持つ人の中から選ばれます。具体的には、原則として40歳以上70歳未満の人で、弁護士、医師、大学教授、公認会計士、不動産鑑定士、建築士などの専門家のほか、地域社会に密着して幅広く活動してきた人など、社会の各分野から選ばれています。
出典:裁判所「調停委員」
遺留分をめぐる事件は、当事者間での交渉で解決ができない場合であっても、いきなり訴訟を起こすことはできず、まずは調停を申し立てなければいけません。これを調停前置主義と言います(家事事件手続法257条1項)。
訴訟は調停と比較して手続きが煩雑なうえ時間や費用がかかることを考えても、まずは調停での解決を目指しましょう。
遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方法を、以下のステップに分けて解説します。
1. 前提を確認する
2. 申立先を決める
3. 申立てに必要な費用を準備する
4. 申立てに必要な書類を準備する
5. 申立書と添付書類を提出する
1つめのステップは、遺留分侵害額を請求する余地があるのか否か、「前提を確認する」ことです。
【前提】
(1)遺留分を侵害されている事実がある
(2)遺留分侵害額請求権の時効を迎えていない(遺留分侵害を知ったときから1年、または相続開始のときから10年)
(3)被相続人が亡くなったのが2019年7月1日以降である
(1)(2)については、前述したとおりですから、ここでは割愛します。
注意したいのが、(3)の被相続人が亡くなった時期です。この理由は民法改正によるものです。
遺留分侵害額請求は、2019年7月1日以降に生じた相続に関して適用となります。
2019年6月30日までに被相続人が亡くなっている場合は、改正前民法に基づき、遺留分減殺による物件返還請求調停を申立てることになります。請求内容が異なりますので、詳細は裁判所の「遺留分減殺による物件返還請求調停」にてご確認いただくか、弁護士にご相談ください。
2つめのステップは「申立先を決める」です。
申立先は「家庭裁判所」ですが、家庭裁判所は全国に50ヶ所あります(出典:裁判所「下級裁判所」)。
その中でどの家庭裁判所に申し立てるかを決めなければいけません。
但し、申立人が自由に決められるわけではなく、決まりがあります。
【申立先】
(1)相手方の住所地を管轄する家庭裁判所
(2)当事者が合意で定める家庭裁判所
相手方との合意によって、相手方の住所地以外の家庭裁判所に申し立てる場合、管轄合意書の提出が必要となります。
裁判所の管轄区域を調べたい方はこちらのページから、確認できます。
3つめのステップは「申立てに必要な費用を準備する」です。
申立てに必要な費用は、以下のとおりです。
・収入印紙1200円分 ・連絡用の郵便切手(申立先の家庭裁判所に確認してください。なお、各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」中に記載されている場合もあります。) 出典:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」 |
連絡用の郵便切手の額は、申立先の家庭裁判所によって異なるため、事前の確認が必要です。
例えば東京家庭裁判所の場合は次のとおりです。
出典:東京家庭裁判所「遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方へ」
4つめのステップは「申立てに必要な書類を準備する」です。
必要書類は、以下のとおりです。
(1) 申立書及びその写し (2) 標準的な申立添付書類 ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・相続人全員の戸籍謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・遺言書写し又は遺言書の検認調書謄本の写し ・遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し又は残高証明書、有価証券写し、債務の額に関する資料等) *相続人に被相続人の父母が含まれている場合: 父母の一方が死亡しているときは、その死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 出典:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」 |
“申立書と写し” は、「裁判所用、相手方用(複数人であれば全員分)、申立人用(控え)」が必要です(例:相手方が1人の場合、合計3通が必要)。
遺留分侵害額の請求調停の申立書は、裁判所の「遺留分侵害額の請求調停の申立書」からPDFファイルをダウンロードできます。以下は引用です。
【遺留分侵害額の請求調停の申立書】
これは遺留分侵害額の請求調停の申立てをする場合の申立書記入例です。
申立後、家庭裁判所から書面で照会がきたり直接事情を聞かれる場合もあります。
書式のダウンロード
書式の記入例
なお、申立先の家庭裁判所によって特定の様式を求められる場合もあります。詳細は申立先の家庭裁判所のWebサイトなどでご確認ください。
申立書は、基本的には事実に沿って記入していけばよいのですが、[申立ての趣旨]と[申立ての理由]の項目が迷いやすいかもしれません。
【申立ての趣旨の例文】
相手方は、申立人に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うとの調停を求めます。 |
【申立ての理由の例文】
被相続人甲野太郎(本籍○○県○○市○○町○丁目○番地)は、令和〇年〇月〇日に死亡し、相続が開始しました。相続人は、被相続人の子である申立人と相手方です。 被相続人は、遺産のすべてを相手方に遺贈する旨の平成○年○月○日付け自筆証書による遺言書(令和〇年〇月〇日検認済み)を作成しています。 被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載のとおりであり、負債はありません。 申立人は、相手方に対し、上記遺贈が申立人の遺留分を侵害するものであることから、令和○年○月○日到着の内容証明郵便により、遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をしましたが、相手方は金銭の支払についての話し合いに応じようとしないため、申立ての趣旨のとおりの調停を求めます。 |
注意点として、申立書の写しは相手方に送付されるため、その前提で記載しましょう。
必要以上に攻撃的な表現や相手の感情を逆なでする表現は避けたほうが良いでしょう。
上記のほかに調停をスムーズに進めるうえで伝えたいことがあれば、「進行に関する照会回答書」に記載します。この文書は申立書とは違って相手方には公開されません。
たとえば、相手方の暴力があるなど、裁判所に配慮を求めたい事項があれば記載しましょう。
調停期日(調停が行われる日)の希望を書く欄もあります。
5つめのステップは「申立書と添付書類を提出する」です。
申立書・添付書類・収入印紙・郵便切手の準備ができたら、申立先の家庭裁判所に提出します。
提出方法は、直接持参して窓口に提出する方法と郵送する方法があります。
家庭裁判所に直接持参すると、仮に不備があった場合でもその場で指示を受けて修正できるので安心です。記載方法に不明な点がある場合も、家庭裁判所で案内が行われています。
参考までに、東京家庭裁判所の家事手続案内を紹介します。
申立書を持参する際は、訂正が必要になったときに訂正印を押せるよう、申立書に押印した印鑑と同じ印鑑も持参しましょう。
持参による提出が難しい場合は、申立先の家庭裁判所宛に郵送します。その場合、普通郵便でも受理されますが、重要書類のため、書留または簡易書留で送るとよいでしょう(書留の詳細は、郵便局のサイトの「書留」にて確認できます)。
送付先や宛名の書き方は、申立先の家庭裁判所のWebサイトなどで確認します。東京家庭裁判所の場合、次のとおり掲載されています。
次に、申立て後の流れを見ていきましょう。おおまかには下図のとおりです。
出典:裁判所「調停手続の流れ」を参考に作成
以下で、それぞれの流れを解説します。
1. 調停期日の通知を受ける
2. 第1回の調停に出席する
3. 第2回以降の調停に出席する
4. 調停成立・不成立・取り下げのいずれかで終了する
通常、申立てから2週間以内に郵便で「調停期日通知書」が届きます。届くタイミングは申立人も相手方も同じです。
調停期日通知書には、初回の調停期日の日時・場所・持ち物などが、記載されています。
この調停期日は、裁判所の開庁時間内で、裁判所が指定します。
裁判所の開庁時間:月曜日~金曜日(祝祭日及び年末年始を除く)の午前8時30分~午後5時00分
第1回期日は、申立てから1ヶ月ほど先の日時が指定されるのが一般的です。
答弁書の返送など必要な準備がある場合は、調停期日通知書で案内されます。よく確認して対応しましょう。
調停期日当日は、まずは書記官室に行って出席を報告します。その後、呼び出されるまでは待合室で待機することになります。
当日の持ち物は、次のとおりです。
・裁判所から送られた調停期日通知書 ・本人確認用の身分証明書(運転免許証など) ・印鑑(認印でよい) ・調停期日通知書で持参するように指定された書類(指定があった場合) ・調停で話したいことをまとめたメモ ・調停中にメモを取るためのノートと筆記用具 |
調停の1期日あたりの時間は、通常1時間半〜2時間程度です。
東京家庭裁判所の場合、調停の流れは次のように説明されています。
申立人と相手方は別々の待合室でお待ちいただき、交互又は同時に、調停委員が調停室でお話を聴きながら調停を進めていきます。 また、原則として、各調停期日の開始時と終了時に、双方当事者ご本人に同時に調停室に入っていただき、調停の手続、進行予定や次回までの課題等に関する説明を行いますので、支障がある場合には、「進行に関する照会回答書」にその具体的な事情を記載してください。 手続代理人が選任されている場合も同様です。 出典:東京家庭裁判所「遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方へ」 |
「申立人待合室」と「相手方待合室」が用意され、それぞれ自分の番になったら、「調停室」に入って、調停委員と話す流れになります。
基本的には申立人と相手方が直接話し合いをすることはありません。相手とは調停委員を介してやりとりすることになります。
しかしながら、最初と最後に行われる全体説明では、同席して顔を合わせることになります。
特別な事情があって同席できない場合、同席したくない場合は、事前に「進行に関する照会回答書」に記載して裁判所に伝えておきましょう(進行に関する照会回答書の様式はこちら)。
調停委員と話すときのポイントは、次のとおりです。
・マナーを守って、丁寧に話す。敬語を正しく使い、乱暴で汚い言葉は避ける。 ・自分の主張は明確にはっきりと述べる。曖昧な態度をとらない。 ・自分の主張を根拠付ける証拠を示す。 ・愚痴、不満、悪口、苦労話など、感情論に余計な必要な時間を使わない。 ・言いたいことを整理して、伝えるべき事柄から優先して話す。 ・感情的にならずに冷静さを貫く。 |
裁判所のWebサイトなどでは、調停委員について、「公平公正な立場」「円滑な解決をサポート」「経験豊富で良識ある人物」といったポジティブな記載しかありません。
しかし、実際にはさまざまなタイプの調停委員がいます。
「ひどく失礼なことを言われた」
「上から目線で説教された」
「調停委員の理解力が低くて困った」
という不満を聞くことも珍しくありません。
仮にそのような調停委員に当たってしまったとしても、感情的にならずに冷静かつ丁寧な対応を心がけましょう。“調停委員が理解しやすいように、自分の通したい主張を伝えること” が大切です。
調停が1回で終了することはほぼなく、複数回の調停を重ねながら合意形成を目指します。
なお、調停期日は1〜2ヶ月に1回のペースで行われるのが通常ですから、解決までには相応の時間を要することになります。
調停の終わり方には、次の3つがあります。
・調停成立:話し合いを重ねた結果、合意ができた場合には、調停成立となります。 ・調停不成立:結局合意ができなかった場合には、調停委員会の判断により、調停不成立として終了します。 ・取り下げ:調停の必要がなくなった場合、申立人はいつでも調停申立てを取り下げることができます。 |
調停不成立の場合で、引き続き申立人が遺留分侵害額請求を求める場合、次のステップは訴訟となります。
請求する遺留分侵害額の金額が140万円以下の場合には簡易裁判所に、140万円を超える場合には地方裁判所に訴訟提起します。
訴訟に関しては「相続争いを調停・審判・訴訟で解決|7つのケース別進め方」にて解説しています。あわせてご覧ください。
最後に、遺留分の調停に関して注意したい点をお伝えします。
1. 相手方の住所がわからない場合は調停を進められない 2. 相手方が出席しない場合は調停は不成立となる 3. テレビ会議システムを使う場合でも裁判所に出向く必要がある 4. 相続に詳しい弁護士に相談する |
1つめの注意点は「相手方の住所がわからない場合は調停を進められない」ということです。
以下は申立書の抜粋です。
申立書には相手方の住所を記入する必要があり、住所不明のままでは調停手続を進めることはできません。
裁判所が相手方の住所を調べてくれるわけではありませんから、この場合には弁護士などの法律の専門家に相談することをおすすめします。
2つめの注意点は「相手方が出席しない場合は調停は不成立となる」です。
調停への出席に関して、
〈裁判所又は調停委員会の呼出しを受けた事件の関係人が正当な事由がなく出頭しないときは、裁判所は、5万円以下の過料に処する〉(民事調停法第34条) |
という規定はあるものの、実際に過料に科せられることはほぼありません。つまり、調停への出席は事実上は任意と言えます。
実際の調停でも相手方が欠席するケースがよくあります。この場合、調停は不成立となって終了します。
3つめの注意点は「テレビ会議システムを使う場合でも裁判所に出向く必要がある」です。
家事調停ではテレビ会議システムが導入されており、家庭裁判所が認めれば利用できる可能性があります。
調停や審判においては、原則として呼出しを受けた当事者本人が調停等の手続の期日に出席しなければなりませんが、当事者が遠方に住んでいて調停等を行う家庭裁判所まで出向くことが困難であるなど、家庭裁判所が相当と認めるときは、当事者の意見を聴いた上で、テレビ会議システムを利用して、期日における手続を行うことができます(家事事件手続法258条1項、54条)。 出典:裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」 |
ただし、これはリモートワークのように自宅にいながら出席できる、というものではありません。利用が認められた場合、テレビ会議システムが設置されている近くの裁判所に出向く必要があるのです。
4つめの注意点は「相続に詳しい弁護士に相談する」ことです。
相続問題の解決には民法の知識が必須になります。しかし、近年民法が改正され、相続に関する規定も大きく変わっているなか、知識がアップデートされていない弁護士も多くいます。
また、適切な解決のためには、相続財産の評価方法や税金など関連分野の幅広く深い知識が必要です。
弁護士は皆、法律の専門家ですが、そのなかでも相続問題を多く手がけている経験豊富な弁護士を選ぶことが重要と言えます。
本記事では「遺留分の調停」をテーマに解説しました。要点をまとめておきましょう。
遺留分侵害額の請求調停を申し立てる方法は、以下のとおりです。
1. 前提を確認する 2. 申立先を決める 3. 申立てに必要な費用を準備する 4. 申立てに必要な書類を準備する 5. 申立書と添付書類を提出する |
遺留分侵害額の請求調停の申立て後の流れは、以下のとおりです。
1. 調停期日の通知を受ける 2. 第1回の調停に出席する 3. 第2回以降の調停に出席する 4. 調停成立・不成立・取り下げのいずれかで終了する |
注意点として4つのポイントをお伝えしました。
1. 相手方の住所がわからない場合は調停を進められない 2. 相手方が出席しない場合は調停は不成立となる 3. テレビ会議システムを使う場合でも裁判所に出向く必要がある 4. 相続に詳しい弁護士に相談する |
本記事を通じて、遺留分侵害額の請求調停の当事者となった際には、お役立ていただければと思います。