寄与分の時効は10年!法改正による猶予期間と例外ケースを詳しく解説

この記事の監修者
弁護士西村学

弁護士 西村 学

弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授

弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。

「寄与分の主張を考えているけど、主張できる期間や時効ってあるの?自分は主張ができる?」

「寄与分の主張をしたいけど、他の相続人に時効!と言われた。時効っていつまで?」

結論からお伝えすると、2023年4月1日に改正された民法により、寄与分の請求(主張)ができるのは、相続発生から10年以内と設けられています。

相続開始時から10年経過いずれか遅い時に、
寄与分が主張できなくなる。
(民法904条の3第1号、附則3条)
2023年4月1日から5年を経過

そのため、被相続人が亡くなってから10年を経過すると、寄与分を主張することはできず、法定相続分を基準とした遺産分割しか行えなくなるのです。

ただし、被相続人が亡くなった日によっては、10年の時効が過ぎても主張ができるケースもあるため、ご自身のケースの時効がいつなのか、主張ができるのか、しっかり確認が必要です。

この記事では、民法改正に伴い複雑となった寄与分の時効についてわかりやすく解説をします。

※上記民法の規定は、寄与分を主張することができる期間の制限に関する規定であり、「時効」(権利の消滅等)とは法的には異なりますが、この記事は一般の方向けに執筆しておりますので、以下では便宜上「時効」として説明しております。
                   この記事のポイント
・寄与分の時効がわかり、主張ができるかどうか判断ができる
・時効が過ぎても主張ができる例外ケースを確認できる

この記事を最後まで読み進めると、ご自身のケースで寄与分の時効をクリアし、主張ができるのかどうかを判断することができます。

寄与分の主張を検討している人は、最後まで読み進めてください。

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目次

寄与分の時効(主張できる期間)は相続開始から10年まで

冒頭でお伝えしたとおり、2023年4月1日の民法改正により寄与分の時効は、被相続人が亡くなってから10年以内となりました。

相続開始時から10年経過いずれか遅い時に、
寄与分が主張できなくなる。
(民法904条の3第1号、附則3条)
2023年4月1日から5年を経過

民法の条文では、以下のように記されています。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。
出典:民法|e-GOV法令検索「第九百四条の三」

例えば、民法改正後の2023年10月1日に被相続人が亡くなった場合、時効は10年後の2033年9月30日までとなります。

このように、被相続人が亡くなってから10年で寄与分の時効を迎え、原則として寄与分の主張ができなくなります。

これにより、法定相続分を基準とした遺産分割しか行えなくなります。

【特別寄与料の時効は相続の開始から1年以内】

2019年7月1日の民法改正により、特別寄与料という制度が新設されました。混同される人も多いですが、寄与分と特別寄与料は全く違う制度です。

特別寄与料とは、法定相続人ではない人が「相続人の財産の維持・増加に貢献」した場合に、その貢献が考慮される制度です。

特別寄与料の時効は、6ヶ月の消滅時効(※)と1年の除斥期間があります。
※除斥期間との解釈もありますが、一般的には消滅時効と理解されております。


消滅時効は、簡単にいうと、権利があっても一定期間行使しない場合、相手方が時効を主張(時効の援用)した場合に、権利が消滅してしまう制度です。

特別寄与料は、相続の開始および相続人を知ったときから6ヶ月経過した時点で、請求する権利があったとしても主張ができなくなります(請求自体はできますが、相手から時効消滅の主張(時効の援用)をされてしまうと、特別寄与料を支払ってもらうことはできません)

除斥期間は、法律で定められている期間を経過すると、その権利が消滅する制度です。
(消滅時効とは異なり、相手方の時効の援用の必要はなく、期間の経過のみで権利が消滅します。)

そのため、特別寄与料は相続開始から1年を経過すると、完全に請求ができなくなります。

過去の相続も時効の対象!基本的にはこの3ケースのみ

民法改正前に被相続人が亡くなった(相続開始)場合でも、時効が適用されるため注意しましょう。

ただし、5年の猶予期間があるため、時効の起算点について、考え方が異なります。

民法改正前に被相続人が亡くなった場合は、相続発生から10年経過時または施行から5年経過時のいずれか遅い方が時効(主張できる期間の終期)となります。

具体的に、施行開始前に相続開始となった場合に主張できるかどうかは、以下3つのケースでわかりやすく解説します。

【相続開始前にとなった場合の時効の考え方】

(1)法改正時に相続開始から既に10年経過している場合
(2)相続開始から10年経過する時が2028年3月31日より「前」の場合
(3)相続開始から10年経過する時が2028年3月31日より「後」の場合

民法改正前に相続人が亡くなっている場合の寄与分の時効を知りたい人は、3つのケースをもとにしっかり確認をしてください。

(1)法改正時に相続開始から既に10年経過している場合

施行時に相続開始から既に10年経過している場合は、猶予期間として施行開始から5年後の2028年3月31日が時効となります。

例えば、民法改正前の2012年5月5日に被相続人が亡くなった場合、10年後は2022年5月4日ですが法改正前となるため、この場合の時効は法改正から5年後の2028年3月31日になります。

(2)相続開始から10年経過する時が2028年3月31日より「前」の場合

相続開始時から10年を経過する時が、法改正時から5年を経過する時よりも前の場合は、猶予期間として施行開始から5年後の2028年3月31日が時効となります。

例えば、民法改正前の2016年4月1日に被相続人が亡くなった場合、10年後は2026年3月31日です。しかし、民法改正から5年経過時は2028年3月31日で、こちらが遅くなります。

そのため、この場合の寄与分の時効は、2028年3月31日です。

(3)相続開始から10年経過する時が2028年3月31日より「後」の場合

相続開始時から10年を経過する時が、法改正時から5年を経過する時より「後」の場合は、相続開始時から10年経過時が時効となります。

例えば、民法改正前の2020年4月1日に被相続人が亡くなった場合、10年後は2030年3月31日です。民法改正から5年経過時は2028年3月31日なので、相続人が亡くなってから10年後の方が遅くなります。

そのため、この場合の寄与分の時効は、2030年3月31日です。

【例外あり】時効10年を過ぎたとしても寄与分を主張できる場合がある

ここまで、寄与分の時効について詳しく解説をしましたが、例外として時効の10年を過ぎたとしても寄与分を主張できる場合があります。

例外ケースは以下の3つです。

【時効の10年を過ぎても寄与分の主張ができる3つのケース】

①10年経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求を申し立てていた場合
②時効満了前6ヶ月以内に遺産分割請求ができないやむを得ない事情があった場合
③遺産分割協議において相続人全員が合意した場合

恐らくこのようなケースは少数だと思いますが、もしも該当する方はぜひ確認してみてください。

10年経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求を申立てていた場合

寄与分の時効となる10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割請求を申立てていた場合は、寄与分の主張ができます。

民法の条文では、以下のように記されています。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

出典:民法|e-GOV法令検索「第九百四条の三」

例えば、家庭裁判所に遺産分割を請求する申立てを行っていたのに、その後なかなか遺産分割が進まず相続開始から10年を過ぎてしまった場合でも、その後に寄与分の主張をすることができるのです。

また、寄与分の時効が迫っている場合は、時効がくる前に家庭裁判所へ遺産分割の請求を申し立てることを検討してみると良いでしょう。

ただし、寄与分の主張をしても認められにくいケースも多いため、ご自身のケースでも主張が認められるかどうか弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士へ相談することがおすすめな理由については、寄与分を主張したい場合は早めに専門家に相談しようで詳しく解説します。


時効満了前6ヶ月以内に遺産分割請求ができないやむを得ない事由があった場合

時効満了前6ヶ月以内に遺産分割請求ができないやむを得ない事由があった場合は、10年を経過したとしても寄与分の主張が可能です。

民法の条文では、以下のように記されています。

(期間経過後の遺産の分割における相続分)
第九百四条の三 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

出典:民法|e-GOV法令検索「第九百四条の三」

やむを得ない事由とは、具体的に以下のような事実があった場合です。

【やむを得ない事由に該当するもの】
・被相続人が遭難して死亡していたが、その事実が確認できず遺産分割請求が出来なかった
・遺言によって一定期間遺産分割することが禁止されている

また、その事由が解決してから6ヶ月以内に家庭裁判所に遺産分割の請求をしなければ、寄与分の主張はできなくなるため、注意しましょう。

ご自身のケースが「やむを得ない事由」に該当するか、判断が難しい場合は弁護士に相談することがおすすめです。

遺産分割協議において相続人全員が合意した場合

遺産分割協議で、相続人全員が寄与分の主張を合意した場合は、時効に関係なく寄与分の請求をすることができます。

そもそも遺産分割は、相続人全員の合意があれば、どのような分割方法でも相続手続きを進めることができます。

そのため、寄与分の請求についても、相続人全員が同意すれば寄与分を考慮した分割方法で相続手続きを進めることができるのです。

ただし、ひとりでも反対する相続人がいれば、時効後に寄与分を主張することはできませんので注意しましょう。

時効内だったとしても「遺産分割の合意成立後」は寄与分の主張はできないことに注意

寄与分の時効を考えている方の中には勘違いをしている方もいますが、大前提として寄与分は「遺産分割の合意成立前」でないと主張をすることはできません。

寄与分の主張は、遺産分割協議の中で行う必要があります。

遺産分割の合意が成立しているということは、相続人全員が遺産分割の内容に納得しているということです。あなた自身も遺産分割協議の内容に納得した上で、遺産分割協議書にサイン捺印を行っていることでしょう。

そのため、遺産分割の合意成立した後は、時効の前だからといっても寄与分の主張をすることは出来ないのです。

この記事をご覧いただいているあなたが、遺産分割協議書へのサインをまだしていないのであれば、サインをする前に寄与分の主張をするようにしましょう。

寄与分の主張は、他の相続人に認めてもらうことが非常に難しいため、確実に寄与分を獲得したいなら弁護士に相談することが賢明です。

寄与分を主張したい場合は早めに弁護士へ相談しよう

ここまで、寄与分の時効について詳しく解説をしてきましたが、寄与分の主張をしたい場合は弁護士に相談することがおすすめです。

弁護士に相談がおすすめな理由は、以下のとおりです。

【寄与分を主張したい場合に弁護士への相談がおすすめな理由】

・他の相続人に寄与分を認めてもらうことが難しいから
・調停や審判で主張する場合は根拠となる証拠や主張が必要だから
・やむを得ない理由を主張する場合の立証は法的根拠と証拠が必要だから

そもそも他の相続人にとって、寄与分を主張されるということは、自分の遺産相続分が減るということを意味します。

そのため、相続分が減ることが嫌な相続人は、「寄与分を認めたくない」と反論して認めてもらえず、遺産分割協議がなかなか進まないケースが多くあります。

そうなった場合は、遺産分割調停や審判で寄与分の主張をすることとなりますが、その場合は寄与分を認めてもらうための根拠となる証拠や主張が必要です。

裁判所としても寄与分を認めることが公平なのか不公平なのか、慎重に判断しますので主張と立証は丁寧に行わなければなりません。

その点、弁護士に相談をすれば、寄与分を認めてもらうための周到な準備はもちろんのこと、代理人として他の相続人を納得させるために尽力することも出来ます。

弁護士は、法律と証拠に基づいた適切な権利を主張するので、当事者同士が話すよりも揉め事に発展することが少なく、比較的にスムーズに解決できる傾向があるのです。

そのため、寄与分の主張を検討する場合は早めに弁護士へ相談をするようにしましょう。

なお、当事務所サリュは無料で相談を受け付けております。ご依頼を強制することはありませんので、お気軽にお申し込みください。

寄与分を認めてもらうためにどうしたら良いか、詳しく知りたい場合は以下の記事をご覧ください。

寄与分を認めてもらうための証拠と集め方については、こちらの記事で詳しく解説しています。

まとめ

この記事では、寄与分の時効について詳しく解説してきました。最後におさらいしましょう。

寄与分の時効は、被相続人が亡くなってから10年以内です。【2023年4月1日民法改正により】

民法改正前に被相続人が亡くなった場合は、相続発生から10年経過時または施行から5年経過時のいずれか遅い方が時効となります。

例外として10年を過ぎたとしても寄与分を主張できる場合があります。

【10年を過ぎても寄与分の主張ができる3つのケース】

①10年経過前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求を申し立てていた場合
②時効満了前6ヶ月以内に遺産分割請求ができないやむを得ない事情があった場合
③遺産分割協議において相続人全員が合意した場合

ただし、大前提として「遺産分割の合意成立前」でないと寄与分の主張はできません。

また、寄与分の主張を検討する場合は、早めに弁護士に相談することがおすすめです。

【寄与分を主張したい場合に弁護士への相談がおすすめな理由】

・他の相続人に寄与分を認めてもらうことが難しいから
・調停や審判で主張する場合は根拠となる証拠や主張が必要だから
・やむを得ない理由を主張する場合の立証は法的根拠と証拠が必要だから

弁護士に相談をすることで、寄与分を認めてもらうための準備を進めてくれることはもちろん、当事者同士が話すよりも揉め事に発展することが少なく、比較的にスムーズに解決できる傾向があります

この記事が寄与分の主張を検討している人にとって、参考となれば幸いです。

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