弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
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遺産分割調停でも合意を得られなかった場合に行う「遺産分割審判」。
しかしながら、
「遺産分割審判って、いったいどのような流れで進むんだろう?」
「審判なんて初めてだから不安で押しつぶされそう」
「遺産分割審判がどのように進むか知っておいて、少しでも安心したい」
という方が多いのではないでしょうか。
遺産分割審判とは、遺産の分け方について、調停でも合意を得られなかった場合に行う裁判手続きのことをいいます。
調停が不成立になった場合(合意が得られなかった場合)に移行し、裁判所により判断が下されるのが「遺産分割審判」です。審判の内容は法的拘束力もあり、審判が確定したにもかかわらず、従わない場合には強制執行も可能となります。
この記事では、遺産分割審判の流れ(5ステップ)を、ステップごとに詳しく解説していきます。
「どのように進むのか不安」「審判はどのように下されるんだろう」など審判についての疑問がある方は、ぜひ最後までお読みいただき参考にしてくださいね。
なお、今すぐ具体的な流れを確認したいという方は、「【ステップ1】遺産分割調停が不成立で自動的に審判に移行」から読み進めてください。
遺産分割審判の流れは、概要がわからないと完全に理解するのは難しいかもしれません。したがって、まずは基本的な部分に焦点を当てて解説します。
遺産分割協議でも調停でも折り合いがつかなかった場合に、裁判官が判断を下すのが「遺産分割審判」です。
遺産分割審判で確定した内容には法的拘束力があり、確定した審判の内容に従わない場合には強制執行も可能です。
そのため、遺産分割審判は、遺産分割の仕方について最終的な決着を付ける手続きとなります。
【遺産分割審判で争えること・争えないこと】
遺産分割審判で争えること |
遺産分割審判で争えないこと |
・遺産分割方法(誰がどの遺産を取得するのかなど) ・寄与分を認めるかどうか ・特別受益を認めるかどうか ・不動産の価値をいくらとするのか |
・遺言書の有効性(遺言書自体が無効か有効か) ・遺産分割協議の有効性(協議自体を無効にするかどうか) ・相続人の範囲(相続人に含まれるか含まれないか) ・相続財産の範囲(特定の遺産が含まれるかどうか) |
遺産分割審判にまで審理がもつれ込むケースとしては、以下のようなケースが考えられます。
・相続した不動産の価値について、相続人間で相違がある場合
・誰がどの相続財産を取得するか揉めている場合
・寄与分を主張する相続人と、それを否定する相続人がいる場合
・特別受益を主張する相続人と、それを否定する相続人がいる場合
なお、遺産分割審判の最後に裁判所が下す結論は、「法定相続分に従った分割」が基本となります。
※法定相続分とは、民法で定められている遺産の取り分の割合です。例えば、被相続人(亡くなった方)の配偶者と子どもが相続人の場合、配偶者が2分の1、子どもが2分の1となります。 |
遺産分割審判は、以下のような流れで行われます。
STEP1:調停が不成立⇢自動的に審判に移行 STEP2:家庭裁判所から当事者に呼出状が届く STEP3:遺産分割審判が開始(第1回審判期日) STEP4:複数回の審理がおこなわれる(通常5回以内/揉める場合は21回以上となるケースも) STEP5:審判の終結・裁判官による審判の確定 |
それぞれ、詳しく解説していきましょう。
遺産分割審判は、遺産分割調停の不成立から始まります。
遺産分割調停をおこなっても合意を得られず調停が不成立になった場合、遺産分割審判に自動的に移行となります。そのため、「遺産分割審判」の申し立てを別途行う必要はありません。
関連記事:遺産分割調停が不成立になる状況とは?不成立後の流れと対策を解説
調停の前に遺産分割審判を申し立てることも手続き上は可能 遺産分割は「調停前置主義」(審判の前に調停を行わなければならないこと)の適用がありません。そのため手続き上は、遺産分割調停をスキップして、最初から遺産分割審判を申し立てることが可能です。 しかしながら、裁判所は「遺産分割についてもできるだけ当事者同士の話し合いによって解決すべき」と考えています。そのため、調停を行う前に遺産分割審判を申し立てた場合も、調停から始まる扱いがされています。 |
通常、遺産分割調停をおこなわず、いきなり遺産分割審判から始まるということはありません。
遺産分割調停について詳しく知りたい方は、「遺産分割調停とは|流れや注意点&データで分かる調停の実態」の記事をぜひ参考にしてください。
遺産分割調停が審判に移行されると、当事者あてに家庭裁判所から「呼出状」という書面が届きます。
(ただし、調停期日内で審判期日が指定される場合もあります。)
呼出状には、遺産分割調停から審判に移行した旨が記され、遺産分割審判の最初の期日(審判が行われる日)、どの家庭裁判所で審判が行われるかなどが記載されます。
遺産分割審判が行われる場所は、相続開始地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が合意で定めた家庭裁判所となります。
一般的には、遺産分割調停が行われた場所と同じ裁判所で引き続き審判も行われることが多いでしょう。
しかしながら、以下のように、調停が行われる管轄裁判所と、審判が行われる管轄裁判所の定義が一部異なるため、双方の合意が得られない場合は、裁判所の場所が変わることもあるので注意しましょう。
遺産分割調停(調停委員を介した話し合い)の管轄裁判所 ・相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または ・当事者で話し合って決めた家庭裁判所、または ・相手方の一人の住所地の管轄する家庭裁判所(相手方が複数の場合) |
遺産分割審判(裁判官が決着を付ける裁判)の管轄裁判所 ・相続開始地を管轄する家庭裁判所、または ・当事者が合意で定めた家庭裁判所 |
家庭裁判所から指定された第1回審判期日に、申立をおこなった人と相手方が両者ともに出頭して、遺産分割審判が始まります。
審判の前の遺産分割調停では、当事者はそれぞれ別の待合室で待機して、調停委員が別々に双方の主張を聞き取って進められます。そのため、調停段階では、相続人同士がお互いに顔を合わせることはありません。
しかしながら、遺産分割審判では、裁判官と当事者の全員が1つの部屋に集まって、審理が進められます。
遺産分割審判は、これまでに進めてきた遺産分割協議の内容や、提出した主張書面・証拠の確認をしながら進められます。補足説明や意見を求められることもあります。
遺産分割審判は、通常は1回では終わりません。第1回審判期日が終わると、第2回、第3回と、順次期日が設定されて、審理が進められます。
遺産分割審判の期日の回数には制限はなく、この日までに終わらせなければならないという期間もありません。争点が整理できるまで何度も繰り返されます。
遺産分割審判は、1カ月~1カ月半に1回のペースでおこなわれます。5回程度で終わるケースが多いため、半年~1年程度で審判が下されるケースが多いといえます。
しかしながら、当事者の対立が激しい場合や争点が多い場合などは、2年や3年かかることもあります。
参考までに、令和4年度の司法統計年報(家事編)の資料から、遺産分割事件の審理回数と審理期間をまとめたデータを以下に掲載します。
これは、遺産分割調停と遺産分割審判を合わせた回数および期間です。
回数は5回までで終わるケースが多い一方、6回以上続く場合、ケースによっては21回以上も審理が繰り返される事例もあります。審理の期間は、回数に比例して長くなっています。
争点の整理を行いながら、追加で必要な調査があれば家裁調査官が調査を行い、裁判官から当事者への審問などが全て終わったら、審判の終結となります。
遺産分割審判が始まった後で「調停」に戻ることもある 遺産分割審判は「審判(裁判官による命令)」によって終わりますが、遺産分割審判が始まった後でも「遺産分割調停」に戻って、話し合いで解決することができます。 つまり、「裁判官による命令」による決着ではなく、「相続人全員の合意」の内容で決着するということです。 相続人全員の合意が得られる場合には、その内容で「調停調書」が作成され、決着となります。 |
十分な審理が尽くされた段階で審理が終了となり、審判(つまり裁判官が判断を下すこと)の期日が定められます。
審判期日には、裁判官が、今までの審理の内容を踏まえて、遺産をどのように分割するか結論を示します。
遺産分割については訴訟を起こすことはできないため、遺産分割審判で確定した結論が「最終的な結論」となります。
遺産分割審判では法定相続分に従って分割される 遺産分割協議や遺産分割調停では、相続人全員が納得すれば法定相続分ではない割合で遺産を分けることができます。 しかしながら、遺産分割審判では、遺産は法定相続分どおりに分割する結論が出されます。法定相続分以外の分け方を命じられることはないと心得ておきましょう。 |
審判が出された後は、家庭裁判所により「審判書」という書類が作成され、当事者の自宅に送付されます。
審判に不服がある場合は即時抗告(不服申し立て)をする 遺産分割審判で下された内容に不満がある場合には、上級の裁判所である高等裁判所に申し立てを行うことができます。これを「即時抗告」といいます。 即時抗告では、遺産分割審判をおこなった家庭裁判所の裁判官ではなく、高等裁判所の裁判官によって再度審理が行われます。そのため、抗告に理由がある場合には、審判では認められなかった内容が認められる可能性があります。 即時抗告は、審判書を受領してから2週間以内が期限となります。 |
遺産分割審判が確定すると、相続人は審判で下された内容の通りに遺産を分割しなければなりません。
例えば、審判にて「長男が不動産を相続し、次男は法定相続分に相当する現金を代わりに受け取る」という内容が確定したならば、その通りに手続きを進める必要があります。
審判によって競売などが命じられたならば、その内容に従って手続きを進めます。
審判が確定した後に送付される「審判書」には遺産の分割方法が記載されており、これをもって、単独で預貯金の払い戻しや相続登記手続きをおこなうことができるようになります。
※通常の相続手続きでは、相続人全員の印鑑証明書などを集める必要があります。しかしながら、遺産分割審判で確定した内容の記載がある「審判書」があれば、自分だけで手続きを進めることができます。 |
預貯金の払い戻しを行う場合は、金融機関に「審判書」の謄本(写し)と、相続する人の印鑑証明書を持参しましょう。
また、相続登記をおこなう場合には、審判書(正本または謄本)や住民票、相続する不動産の固定資産評価証明書、登記に必要な印紙代などを持参して、管轄の登記所で手続きを行ってください。
相続登記の流れを知りたい方は、「相続登記はいつまで?2024年4月からの義務化の期限を優しく解説」の記事の5章をぜひ参考にしてください。
遺産分割審判が確定した場合、当事者全員はその内容に従う義務が生まれます。そのため、確定した審判内容に従わない場合には、強制執行が可能となります。
強制執行の例 遺産分割審判の内容として金銭の支払いを命じられていた相続人が、なかなか金銭を支払ってくれない →強制執行を申し立てることで、預貯金・土地・給与などの差し押さえを行い、回収することができる |
なお、相続財産の大半が不動産という状況で金銭の支払いが難しい場合には、遺産分割審判で不動産の換価を命じられることがあります。
不動産の換価とは、不動産を売却するか競売により現金化することをいいます。
最後に、遺産分割審判の流れについてのよくある質問と回答を紹介します。多くの方が疑問に思うポイントなので、ぜひ目を通しておくことをおすすめします。
遺産分割審判を欠席しても審理はそのまま進むため、欠席することは可能です。
しかしながら、欠席した相続人は主張の機会を失うことになるため、欠席することで十分に主張できず、不利になることが考えられます。
遺産分割審判の決断は、法定相続分通りでの分割となることがほとんどです。そのため、「法定相続分通りに分割してもらえれば良い」と考えている場合には特段不利になることはないでしょう。
しかしながら、相手の特別受益を主張したい場合や、自分が親の介護などでの寄与分を主張したい場合などのケースでは、欠席せずにしっかり主張することが有利に働くでしょう。
やむを得ず欠席する場合には、弁護士に代理人として遺産分割審判に出席してもらうなどの対策を取りましょう。
遺産分割審判の期日は、相手方との調整も必要なため簡単には変更できません。
しかしながら、事情を説明して審判期日の変更をお願いすることは可能です。事前に家庭裁判所に連絡した上で、期日変更申請書に記入して提出しましょう。
ただし、期日変更申請書を提出しても、期日が変更されないこともあります。
期日変更ができなかった場合は、やむをえず審判を欠席するか、代理人に出席してもらう方法を取りましょう。
遺産の分け方について争う場合には、訴訟を起こすことはできません。
離婚事件では調停が不成立になった場合に、訴訟を起こすことができますが、離婚事件とは異なるため注意しましょう。
遺産分割は、遺産分割協議(当事者同士での話し合い)⇢遺産分割調停(調停委員を交えた話し合い)⇢遺産分割審判という流れで進み、最終的に審判で結論を出します。
ただし、遺産分割の前提となる事実で争う場合(例えば、遺言の効力、遺産の範囲、相続人の範囲など)には訴訟で解決します。
相続における訴訟について詳しく知りたい方は、「相続争いを裁判(調停・審判・訴訟)で解決|7つのケース別進め方」の記事も参考にしてください。
遺産分割審判の流れについて詳しく解説してきましたが、ここからは「遺産分割審判に進む場合、弁護士に依頼したほうが良いか?」について説明していきます。
結論からいうと、遺産分割審判を有利に進めたいならば、弁護士によるサポートを受けるのがおすすめです。
遺産分割協議は「弁護士なし」でも対応できますが、遺産分割審判は難しいと言わざるを得ません。
なぜならば、遺産分割審判では、審理を進める上で法律的な主張と立証が不可欠となるからです。法律を正しく解釈した上で、主張書面や資料の提出、口頭での陳述を行う必要があります。
また、相手方も弁護士に依頼するケースが多いため、弁護士に依頼せず自分で対応する場合にはどうしても不利になってしまいます。
遺産分割審判に慣れている弁護士に依頼すれば、審理がいまどのような方向に進んでいるか判断し、どのような主張をすべきかなど、状況に合った対応が可能です。
⇢遺産相続は弁護士に依頼すべき?メリット・デメリットと判断ポイント
相続分野に強い弁護士に依頼して、遺産分割審判を有利に進めましょう。どの弁護士に依頼したら良いか迷う場合には、ぜひ当事務所(弁護士法人サリュ)にご相談ください。
本記事では、遺産分割審判の流れについて詳しく解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめます。
▼遺産分割審判の流れの全体像(5ステップ)
STEP1:調停が不成立⇢自動的に審判に移行 STEP2:家庭裁判所から当事者に呼出状が届く STEP3:遺産分割審判が開始(第1回審判期日) STEP4:複数回の審理がおこなわれる(通常5回以内/揉める場合は21回以上) STEP5:審判の終結・裁判官による審判の確定 |
【ステップ1】遺産分割調停が不成立で自動的に審判に移行
・自動的に移行するため、審判の申し立てを別途行う必要はない |
【ステップ2】家庭裁判所から当事者に呼出状が届く
・遺産分割審判が行われる場所は、相続開始地を管轄する家庭裁判所、または、当事者が合意で定めた家庭裁判所 ・調停と同じ裁判所が多いが、変わることもあるので注意 |
【ステップ3】遺産分割審判が開始される(第1回審判期日)
・順番に呼ばれる調停と違い、遺産分割審判では、当事者全員が一堂に会した状態で審理が進む ・通常は1回では終わらず、順次期日が設定されて審理が進む |
【ステップ4】1~1.5カ月ごとに複数回審理がおこなわれる
・期日の回数や期間に制限はない ・1カ月~1カ月半に1回のペースで、5回程度で終わるケースが多い(半年~1年程度) ・5回以内で終わることが多いが、ケースによっては21回以上審理が続くこともある |
【ステップ5】審判の終結・裁判官による審判が確定する
・十分な審理が尽くされた段階で審理が終了 ・今までの審理の内容を踏まえて、裁判官が、遺産をどのように分割するか結論を示す ・遺産分割審判では、原則として、法定相続分に従って分割される |
遺産分割審判が確定した後の相続手続きの進め方
・遺産分割審判が確定すると、相続人は審判で下された内容の通りに遺産を分割しなければならない ・審判書により預貯金の払い戻し・相続登記が可能になる ・確定した審判に従わなければ強制執行が可能 |
遺産分割審判では、審理を進める上で法律的な主張と立証が不可欠となります。法律を正しく解釈した上で、主張書面や資料の提出、口頭での陳述を行うためには、弁護士のサポートが欠かせません。
できれば相続分野に強い弁護士に相談し、遺産分割審判を有利に進めていきましょう。