弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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「兄が遺言書の存在を隠していた!これって相続欠格じゃないの?」
「遺言を無理やり書かせた可能性がある愛人は相続欠格にできる?」
特定の相続人や受遺者(遺贈を受けた人)が不正行為を働いていたことが分かった場合、誰でも「そんな人に遺産を受け取ってほしくない!」と思ってしまいますよね。
このような重大な不正行為があった場合には、「相続欠格」として相続権が剥奪される制度がきちんと用意されています。
上記の相続欠格事由に該当した相続人は、その時点でただちに相続権を失い、相続や遺贈を受ける権利が剥奪されます。
遺言書で指定されていたとしても遺贈されませんし、遺留分もなくなります。
原則として相続欠格を確定させるような手続は必要ありませんが、相続欠格者が反論する場合や相続登記する場合には、裁判や所定の手続きが必要となるため注意が必要です。
この記事では、相続欠格について押さえておきたいポイントや相続廃除との違いなどを詳しく解説していきます。
相続の欠格事由を正しく理解する必要がある方や、相続欠格の具体的な手続方法を知りたい方は、ぜひ最後まで目を通してください。
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まずは相続欠格とは何か、言葉の意味を解説していきます。相続欠格と似ている制度「相続廃除」との違いも交えながら、しっかり理解しましょう。
相続欠格(そうぞくけっかく)とは、特定の相続人が民法で定められた「相続欠格事由」に当てはまる場合に、相続権が自動的に失われる制度のことをいいます。
相続欠格事由は、以下のとおり、民法第891条に定められています。
(相続人の欠格事由)
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
民法第891条
例えば、被相続人や他の相続人を殺そうとした場合や、遺言書を偽造したり破棄したりした場合に適用されます。「殺人などの犯罪を犯した場合や、自分の遺産を増やすために悪いことをした場合に適用される」というイメージで理解すると良いでしょう。
相続欠格事由に当てはまる場合にはただちに相続権が失われるため、確定するための手続きや証明は原則必要ありません。
相続欠格と似ている制度に「相続廃除」があります。
相続廃除とは、被相続人となる人(財産を遺す人)が推定相続人の相続権を失わせるべく家庭裁判所に申立を行い、認められれば相続から廃除できる制度です。
相続欠格と相続廃除は似ている部分もあれば違う部分もあるため、以下の比較表を参考にして混同しないようにしましょう。
【相続欠格と相続廃除の違いをまとめた比較表】
相続欠格 | 相続廃除 | |
相続権が失われる条件 | 欠格事由に当てはまれば自動的に相続権が剥奪される | 廃除事由に該当し、被相続人の申立が家庭裁判所で認められた場合 |
手続の要否 | 不要 | 必要(家庭裁判所に申立) |
被相続人の「相続させたくない」という意思の要否 | 不要 | 必要(被相続人以外の意思による廃除はできない) |
取り消し | 原則できないが宥恕の余地あり | 可能 |
遺留分 | なし | なし |
遺贈(遺言の指定)があった場合 | 受け取れない | 受け取れる |
代襲相続(子どもが代わりに受け取る権利) | あり | あり |
戸籍謄本への記載 | なし | あり |
相続欠格と相続廃除の大きな違いは「手続が必要か」「被相続人の意思が必要か」の2点です。
相続欠格は、法を犯すような重大な非行があった場合には当然に相続権が奪われるため、手続きは必要ありません。またその際に、被相続人の「相続させたくない」という意思は必要ありません。
その他、相続欠格についての詳細はこの後に詳しく解説していきます。また、相続廃除については別記事「相続廃除」もぜひ参考にしてください。
相続欠格になるのは、民法第891条で規定されている相続欠格事由に該当する場合です。
具体的には、以下のような行為があった場合に、相続欠格となります。
相続欠格になる5つのケース(相続欠格事由) |
❶被相続人や同順位以上の相続人を故意に死亡させた(死亡させようとして刑に処せられた) ❷被相続人が殺害されたことを知って告発や告訴を行わなかった ❸詐欺・脅迫によって被相続人の遺言を妨げた ❹詐欺・脅迫によって被相続人に遺言をさせたり撤回・取り消し・変更させたりした ❺被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠蔽した |
相続欠格事由の5つのうち、実務上問題になることが多いのは、5番目の「遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿」のケースです。
相続欠格事由の1番目は、被相続人や同順位以上の相続人を死亡させるような行為を行った場合です。
殺害や殺人未遂などで刑に処せられた場合にはこの事由に該当します。
故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者 (民法891条1号) |
「故意に」とあるので、過失致死は該当しません。また、正当防衛などで刑に処されなかった場合には欠格事由に該当しないと考えられます。
被相続人を殺した(殺そうとした)場合以外に、同順位または自分よりも順位が上の人を殺した(殺そうとした場合)も該当します。
例えば、相続順位が第3順位の兄弟姉妹が、被相続人の配偶者や子ども、親、他の兄弟姉妹を殺した(殺そうとした)場合が該当します。
被相続人が殺害された時に、殺害された犯人を知っているのに犯人を告訴・告発しなかった場合は相続欠格に該当します。
ただし、犯人が自分の配偶者や直系血族であった場合には該当しません。
被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。(民法891条2号) |
なお、犯罪が発覚して捜査機関が動き出した後は、告発や告訴の必要がなくなるため、この欠格事由には当たらなくなります。
被相続人が相続に関する遺言をすることを妨害した相続人は、相続欠格となります。
詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者(民法891条3号) |
例えば、被相続人を騙して、被相続人が遺言書を書くことを妨害したり、被相続人が撤回・取り消し・変更を行うのを妨害したりした場合が該当します。
詐欺や脅迫によって被相続人に遺言をさせたり撤回させたり取り消させたり変更させたりした相続人は、相続欠格となります。
詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者(民法891条4号) |
被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した相続人は、相続欠格となります。
相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者(民法891条5号) |
例えば、自分の都合の良い内容の遺言書を偽造した場合や、自分に不利な遺言書を発見したので破棄したという場合、遺言書を預かっていたのに隠して開示しなかった場合などが該当します。
ここからは、特定の相続人が相続欠格事由に該当するとどうなるのかを、分かりやすく解説します。
相続欠格の3つの効果について、詳しく説明します。
相続人の行為が相続欠格事由に該当する場合、ただちに相続権を失い、相続したり遺贈を受けたりする権利が剥奪されます。つまり、「当然に相続権を失う」ことになります。
「当然に」とは、何らの手続きをとる必要もなく、また、被相続人が望んでも望まなくても、ということです。ただ相続欠格事由に該当そればそれだけで、その瞬間に、自動的に相続権が失われるというイメージです。
相続欠格の効果が発生するタイミングは、相続欠格事由に該当した時点です。ただし、相続開始後に相続欠格事由に該当した場合には、相続発生時にさかのぼって相続権が無くなります。
既に遺産分割協議が済んでいた場合は、他の相続人は「相続回復請求」をして遺産を取り戻すことができます。
相続欠格者に子どもがいる場合は代襲相続が起こる 相続欠格事由に該当する相続人がいた場合、その相続人はただちに相続権を失います。 ただし、その相続人に子どもがいる場合は代襲相続が起こり、その相続人の子どもが代わりに財産を受け取ることになります。また、相続欠格者が被相続人よりも先に亡くなっていた場合も、代襲相続により、相続欠格者の子どもが相続人となります。 「相続欠格者が悪いことをしたのに代襲相続は可能なの?」と不思議に思うかもしれませんが、相続欠格者が悪事を働いたとしても、その子どもには罪はないので代襲相続が認められています。 |
さきほど説明したとおり、相続欠格者は相続も遺贈も受け取ることはできません。たとえ遺言書で指定されていた場合も同様です。
相続においては遺言書の内容が尊重されます。そのため、「遺言書で相続人に財産を取得させる内容が指定されていたら、もしかしたら遺言が優先されてしまうのでは?」と考える人も多いようです。
しかしながら、相続欠格は相続権を剥奪する制度なので、たとえ遺言で指定されていたとしても、相続欠格が優先されます。
「A(相続欠格者)に財産を相続させる」という遺言があったとしても、相続欠格者は相続できません。
相続欠格になると、相続権を失うだけでなく遺留分もなくなるため、遺留分侵害額請求をする権利もなくなります。
※遺留分とは、一定の相続人(兄弟姉妹以外)に認められた権利で、最低限受け取れる遺産の取り分をいいます。法律で定められた権利であり、遺言よりも遺留分が優先されます。 遺留分については、別記事「遺留分とは?言葉の意味や請求方法をどこよりも分かりやすく解説」の記事をご覧ください。 |
例えば、相続人が子どもだけ(配偶者なし)の場合、子どもには遺産の2分の1は最低限受け取る権利があります。遺言で「内縁の妻に全額遺贈する」という指定があった場合には、子どもは遺留分侵害額請求を行うことで遺留分を取り戻すことができます。
しかし、このケースで、子どもが相続欠格になった場合には遺留分もなくなるため、遺留分侵害額を内縁の妻に請求することができません。
特定の相続人が相続欠格事由に該当した場合の流れについて、改めて詳しく解説していきます。
前述したとおり、相続欠格はその該当事由が重大であるため、裁判などの手続は必要ありません。
民法891条の相続欠格事由に該当する事実があれば、その時点でただちに相続権が剥奪されます。
よって、相続欠格の確定方法というものは厳密には存在せず、欠格事由に該当すれば、即座に自動的に相続欠格となります。
遺産分割協議を行う場合には、当然に相続欠格者は除いて協議を進めることになります。
ただし、法的な手続きが必要となる場合はあるため、次から説明していきます。
相続欠格者が「自分の行為が相続欠格事由には当たらない」と反論する場合には、相続欠格を不当だとする本人が「相続権確認請求訴訟」を起こすなどして、裁判で争うことになります。
例えば、相続欠格ではないと判断されたケースのなかは、相続欠格事由5号(遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿)において、「不当な利益を得る目的ではなかった」と判断されたケースがあります。
相続欠格事由に当たらないとした裁判例 被相続人から遺言書を受領して金庫内に保管していた相続人が、被相続人の死後約10年に渡り検認手続きをしなかった。しかし、その行動が相続上不当な利益を得る目的だったとはいえないため、相続欠格に該当しないと判断された。(大阪高裁平成13年2月27日判決) 【ポイント】 遺言書の存在を故意に明かさなかった場合も相続上不当な利益を得ることが目的でない場合は相続欠格に当たらないと判断された |
相続欠格に特別な手続きは必要ありませんが、相続登記(相続した不動産の名義変更)を行う時には、「相続欠格証明書」(相続欠格により相続人資格が欠けていることの証明書)や相続欠格者であることを認定する内容の確定判決謄本などを提出する必要があります。
なぜならば、相続欠格であることは戸籍などに記載されるわけではないため、別の証拠が必要になるからです。これを提出しないと法務局が登記を受け付けてくれないので注意しましょう。
【相続欠格証明書の記載例】
相続欠格証明書 私、佐藤一郎は、被相続人佐藤太郎(令和〇年〇月〇日死亡)の相続に関し、民法891条第〇号に規定する欠格者に該当する。 以上の通りに相違ないことを証明します。 令和〇年〇月〇日 東京都〇〇区〇〇〇丁目〇番〇号 佐藤一郎 実印 |
「相続欠格証明書」は、相続欠格者本人に書いてもらい、印鑑登録証明書と共に提出します。
もし相続欠格者が証明書の記入を拒否して相続権を主張する場合には、他の相続人が「相続権不存在確認訴訟」を起こし、確定判決を取得する必要があります。
一度相続欠格になってしまったら、原則として相続人資格を回復させることはできません。
しかしながら、被相続人から「宥恕(ゆうじょ:罪や過ちを許すこと)」してもらうことで再度相続人に認められた裁判例があります(広島家裁呉支部平成22年10月5日審判)。
そのため、被相続人から宥恕してもらえれば相続欠格が取り消せる可能性はゼロではありません。ただし専門家でも意見が分かれているので注意が必要です。
「被相続人から宥恕された=相続人資格を回復できる」ということではないので注意してください。もし相続人資格の回復を考えているならば、弁護士に相談することをおすすめします。
最後に、相続欠格についてのよくある質問をまとめました。補足的な情報も含むので、ぜひ目を通してみてください。
【答え】記載されません。
相続廃除の場合には「相続廃除されている」旨が戸籍謄本に記載されますが、相続欠格の場合には記載されません。
戸籍上で相続欠格者であることを確認する方法がないため、相続登記の際には「相続欠格証明書」を提出する必要があるのです。
【答え】相続欠格証明書または欠格事由を認める確定判決の謄本があります。
上で解説したとおり、戸籍では相続欠格者であることを確認できないため、別の方法で確認する必要があります。
具体的には、以下の2つの書類が、相続欠格者であることを確認できるものとなります。
【状況別の相続欠格者であることを確認する書類】
状 況 | 相続欠格者であることを確認する書類 |
相続欠格者が自身の欠格事由を認めている場合 | 相続欠格者が作成した「相続欠格証明書」 (詳しくは、「相続登記する場合には相続欠格の証明が必要になる」 |
相続欠格者が欠格事由を認めていない(反論する)場合 | 「相続権不存在確認訴訟」を起こして入手した確定判決の謄本 |
【答え】いいえ。相続欠格はあくまで特定の被相続人のみとの間に起きるもので、他の相続にまで影響しません。
相続欠格は、特定の被相続人のみとの間で生じるものです。そのため、他の親族の相続では相続欠格になりません。
例えば、父親の相続の時に、遺言書を自分の利益のために偽造してしまい相続欠格になったとします。それが理由で、母親の相続の時にも相続欠格になる、ということはありません。
ただし、父親の相続の時に、自分の兄(自分と同じ相続順位の相続人)を故意に死亡させようとさせた場合には、母親の相続のケースでも相続欠格事由に該当するため、こちらでも相続欠格となります。
本記事では「相続欠格」について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。
相続欠格とは
・欠格事由に該当する相続人の相続権が失われる制度のこと ・似ている制度「相続廃除」と混同しないよう注意が必要 |
相続欠格になる5つのケース(相続欠格事由)
・被相続人や同順位以上の相続人を故意に死亡させた(死亡させようとして刑に処せられた) ・被相続人が殺害されたことを知って告発や告訴を行わなかった ・詐欺・脅迫によって被相続人の遺言を妨げた ・詐欺・脅迫によって被相続人の遺言をさせたり撤回させたりした ・被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した |
相続欠格になるとどうなるか
・ただちに相続権を失い相続・遺贈を受け取れなくなる ・遺言書で指定されていても財産を受け取ることはできない ・遺留分もなくなるため遺留分侵害額を請求できなくなる |
相続欠格の確定方法はあるか
・【原則】相続欠格には特別な手続きは必要ない ただし、 ・相続欠格者が反論する場合は裁判で争う ・相続登記する場合には相続欠格の証明が必要になる |
相続資格の回復
・原則はできないが、宥恕を肯定し相続資格の回復を認めた裁判例が存在するため、回復の余地はある |
相続廃除との違いも意識して、相続欠格についてしっかり理解しましょう。