弁護士 西村 学
弁護士法人サリュ代表弁護士
大阪弁護士会所属
関西学院大学法学部卒業
同志社大学法科大学院客員教授
弁護士法人サリュは、全国に事務所を設置している法律事務所です。業界でいち早く無料法律相談を開始し、弁護士を身近な存在として感じていただくために様々なサービスを展開してきました。サリュは、遺産相続トラブルの交渉業務、調停・訴訟業務などの民事・家事分野に注力しています。遺産相続トラブルにお困りでしたら、当事務所の無料相談をご利用ください。
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同志社大学法科大学院客員教授
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「遺産相続のトラブルはどんな家だと起こりやすい?」
「遺産相続でトラブルになりやすいのはどんなケース?」
遺産相続は「争族」と言われるほど、トラブルに発展しやすい問題です。
自分の家族には無縁だと思っている人も多いでしょう。
しかし、どれだけ仲の良い家族・親族であっても、遺産相続をきっかけに関係性が悪くなってしまうケースも少なくありません。
実際に遺産相続トラブルに発展しやすいのが、以下の15のケースです。
以上のように遺産相続トラブルは、さまざまな要因でトラブルに発展しやすく、予想もつかないところから問題が起こってしまうこともあります。
トラブルが複雑化してしまうと、遺産相続の手続きを進めることができなくなり、時間と労力を費やす事となり得ます。それだけでなく、家族関係が修復できなくなってしまうなど、取り返しのつかない事態になることも考えられます。
トラブルをできるだけ回避するためには、自分に起こり得そうなトラブル事例を把握し、できるだけ早い段階から対処をしておくことが非常に重要です。
そこでこの記事では、遺産相続トラブルに発展しやすい事例を紹介し、それぞれの対処方法について詳しく解説をします。
今後、遺産相続を行う予定がある方は、この記事を参考に無用なトラブルを避け、スムーズに遺産分割を行えるように進めていきましょう。
冒頭でお伝えしたとおり、遺産相続トラブルはどんな家でも起こってしまう問題です。
相続トラブルに発展しやすいのは、以下の15のケースです。
ケースごとによくあるトラブル事例を具体的に上げて一覧をご紹介します。
遺産相続トラブルに発展しやすいケース・事例 |
ケース①相続人に関するトラブル事例 事例①相続人調査により知らない異母・異父兄弟が見つかったケース 事例②被相続人が知らない間に養子縁組をしていたケース 事例③感情的な問題から相続人と連絡が取れなくなったケース 事例④相続人が多すぎて収拾がつかなくなるケース 事例⑤認知症の相続人がいるケース 事例⑥預貯金の使い込みが疑われるケース |
ケース②不動産の相続に関するトラブル事例 事例①遺産分割の不動産の評価額で揉めるケース 事例②不動産を取得する側が代償金を用意できないケース 事例③換価分割に応じない相続人がいるケース |
ケース③具体的相続分に関するトラブル事例 事例①多額の贈与を受けた相続人がいるケース 事例②生前に介護をして寄与分を主張する相続人がいるケース |
ケース④遺言に関するトラブル事例 事例①遺言書の有効性が問題となるケース 事例②一人の相続人にすべての財産を相続させる遺言書が遺されたケース |
ケース⑤遺産分割協議後のトラブル事例 事例①騙されて遺産分割協議書を作成してしまったケース 事例②遺産分割協議後に相続人が新たに発見されたケース |
「自分の家ではあり得ない」と思っていても、起こってしまうのが遺産相続トラブルです。
「遺産相続で揉めるのは、お金持ちの家だけ」と思っている人も多いですが、相続トラブルは相続財産が多い家ばかりとは限りません。
令和4年司法統計年報によると、家庭裁判所に遺産分割の事案で持ち込まれた件数6,857件に対して、遺産総額1,000万円以下は2,296件と事案の1/3を占めていることが分かります。
参考:令和4年司法統計年報
つまり、遺産相続でトラブルとなる原因は、相続分の金額の多さばかりではないということです。
少ない財産であっても、誰がどれくらい相続するかということに敏感になるということもあるでしょう。また、被相続人への想いや思い出などが原因でトラブルに発展することもあります。
例えば、被相続人と一緒に暮らした思い出の家を売りたくないという相続人と、売って換金しようとする相続人が対立するケースです。
その他にも、被相続人の介護を長年やっていたにも関わらず、何もしていない相続人と同等の相続であれば、不満に思い対立することもあります。
また、遺産相続トラブルになる原因は、1つとは限りません。さまざまな原因となる事象が複雑に絡み合い、解決が難しくなるケースが多くあります。
トラブルを事前に回避するためにも、それぞれのトラブル事例と事前の対策方法を確認し、万全に準備を進めていきましょう。
以降では、5つのケースごとで具体的なトラブル事例を紹介します。
まずは、相続人に関するトラブル事例を6つご紹介します。
相続人とは、被相続人(亡くなった人)が遺した財産を引き継ぐ人のことを言います。
【相続人に関するトラブル事例】
①相続人調査により知らない異母・異父兄弟が見つかったケース
②被相続人が知らない間に養子縁組をしていたケース
③感情的な問題から相続人と連絡が取れなくなったケース
④相続人が多すぎて収拾がつかなくなるケース
⑤認知症の相続人がいるケース
⑥預貯金の使い込みが疑われるケース
遺産相続で遺言書がない場合は、必ず相続人全員で遺産分割について話し合いを行い、全員が同意した内容でないと相続手続きを行うことはできません。
そのため、相続人に関するトラブルが起こってしまうと、結果的に遺産分割手続きが進みません。
そうなると、不動産の名義変更や預貯金の解約ができないだけでなく、相続税の申告期限(10ヶ月)に間に合わず延滞税が発生してしまいます。
このようなことが起こらない為に、事例を確認し、自分にも起こりうる場合はトラブル防止・対策に向けて取り組んでいきましょう。
相続人調査とは、誰が相続人となるのかを、被相続人の戸籍をたどって確認をすることです。
相続人調査を行うことで、被相続人には家族の誰も知らない前妻と前妻の間に子どもがいたということは少なくありません。
前妻には相続権はありませんが、前妻との間の子ども(異母兄弟)は、相続権を有します。
異父兄弟の場合も同様です。母親に前夫がおり、その間に子ども(異父兄弟)がいた場合も異父兄弟は相続権を有します。
そのため、異母兄弟も遺産分割協議を行う必要があり、遺産分割協議書には異母兄弟も含めた相続人全員分の署名・押印がなければ相続手続きを進めることはできずトラブルとなる事例が多くあります。
実際に起きたトラブル事例は以下のとおりです。
【異母・異父兄弟が見つかりトラブルとなった事例】
相続人調査により知らない異母兄弟が見つかり、被相続人と関係性の深かった相続人が一方的に相続したいと主張。
異母兄弟は、その主張には納得できず遺産分割トラブルに発展した。
このように、家族は自分たちだけと思っていたところに、異母兄弟が見つかり相続権があると聞かされると、「知らない人に財産を渡したくない」と思う人も多いでしょう。
しかし、法律では戸籍上の子どもは相続人となるため、「一方的に相続をしたい」という主張をとおすことは難しいです。
異母・異父兄弟が発覚した場合、トラブルを避けるために踏まえておくべき対策と対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・連絡は手紙を出すのが良い
・相手を尊重し冷静に話し合いを心がける
異母・異父兄弟に相続が発生したことを伝える一番はじめの連絡手段は、手紙が良いとされています。
突然、訪問したり、電話をかけたりすると、相手も不信感をいだき警戒してしまううえ、良い感情も持たないため、トラブルの原因ともなり得ます。
相手に必要のない不信感を持たせることなく、円滑に遺産分割協議を進めるための、最初の連絡手段として手紙が最適です。
また、お互いに感情的になり対立に発展するリスクも高いため、お互いを尊重し冷静に話し合いを心がけましょう。
「突然現れた異母・異父兄弟に遺産を渡したくない」という感情が生まれることも否定できませんが、理不尽な態度を取ったり、相手の立場をないがしろにしたりするような言動はトラブルの元です。
異母・異父兄弟はあくまでも法定相続人であり、その権利を侵害することは誰にもできないという大前提を踏まえ、冷静に話し合いを進めることが大切です。
相続人に異母兄弟がいる場合の注意点や相続させない方法について、詳しくは下記に記事をご覧ください。
被相続人が知らない間に養子縁組をしていて、遺産相続がはじまった時に家族がその事実を知るケースもあります。
養子縁組をしている養子は、実子と同等の相続権を有することが法律で定められています。
そのため、新たな相続人が出現したことによりトラブルへと発展することもあるのです。
実際におきたトラブル事例は以下のとおりです。
【知らない間に養子縁組をしていたトラブル事例】
被相続人が知らない間に養子縁組をしていたことで法定相続人が増え、相続分の減る実子が不満を持ち、トラブルに発展。
例えば、死亡した被相続人に配偶者と実子が2人いる場合、法定相続の割合は、配偶者が2分の1、実子が残りの2分の1を2人で分ける形になります。
そのため、実子1人あたりの取り分は資産全体の4分の1になります。
しかし、養子が1人増えることで実子の相続財産は残りを3人で分割することになるため、4分の1から6分の1に減額されることになるのです。
実子からしてみれば、本来は相続するはずのない養子が家の財産を奪っていくように思えて、自分の相続財産が減る事に納得いかず、被相続人の死後に遺産分割協議などでトラブルとなるケースがあります。
被相続人が知らない間に養子縁組をしている場合、突然相続人が現れることに驚くとともに、財産を渡したくないと思うものです。しかし、養子も実子と同じ相続人であり、相続する権利があります。
これに納得できず「相続させたくない」と思ってしまうと、トラブルを防ぐことは難しいでしょう。
しかし、トラブルを最小限に抑えることはできます。その対策・対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・相手の立場に立って冷静に話し合う
知らない間に養子縁組をしていて、相続財産を横取りされてしまう気持ちになる人も多いでしょう。
感情的になり遺産相続の話し合いをしても、相手も感情的になってしまい冷静な話し合いは進みません。
まずは、相手の立場に立ち冷静に話し合いを行うことを心がけましょう。
法律上は、相手も同じ被相続人の子どもとして相続権を有しています。この権利は、誰も奪い取ることはできません。
それを念頭において、相続人全員で遺産分割の妥協点を探していくことが、トラブルを避けるために大切なことと言えます。
被相続人が養子縁組をしていることで起こり得るその他のトラブルや生前にできる対処法や注意点については、下記の記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
遺産相続の話し合いを進める中で、相続人同士で話し合いの折り合いがつかず、感情的になってしまうケースは多くあります。
その中でも、相続人の中の1人が話し合いがまとまる前に、連絡が取れなくなってしまい、相続手続きが進められなくなってしまいトラブルに発展してしまいます。
このケースのように、相続人の中に連絡が取れない人がいる場合は、相続手続きを進めることはできません。
遺産分割協議書は必ず相続人全員で行う必要があり、一人でも欠けているとその遺産分割協議は無効となるのです。
実際におきたトラブル事例は、以下のとおりです。
【相続人と連絡が取れなくなりトラブルとなった事例】
相続人となった兄弟3人で遺産相続について話し合いを進めるが、長男が勝手に相続分配を決めようとしていることに、次男が大激怒。
お互い感情的となり話し合いが全くまとまらず、次男と突然連絡が取れなくなった。
どんなに連絡をしても無視をされてしまい、相続手続きを全く進めることができなくなってしまった。
このまま連絡が取れず、遺産分割協議の話し合いが進まなければ、相続手続きを進めることはできません。
相続手続きが進められないと、相続税申告がある場合は延滞税が加算されたり、不動産がある場合は固定資産税がかかったり、評価額が下がるリスクがあります。
どんなに頑張っても無視されてしまう場合は、遺産分割調停を申立てる必要が出てきます。
感情的な問題から相続人と連絡が取れなくなくなるトラブルを避けるための対策と対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・冷静になって話し合いをする
・法定相続分どおりに相続をする
感情的な話し合いで解決する問題は、ひとつもありません。まずは、感情的にならず冷静に話し合いをすることを心がけましょう。
こちら側が冷静に話し合いをしたくても、相手が感情的だと難しいと考えると思いますが、一方が冷静でいることで相手も冷静になれることもよくあります。
また、遺産分割において誰かが多く相続しようと働きかけたり、不公平な相続を進めようとしたりすることで意見が対立し、感情的になってしまいます。
そのようなことが起こらないためにも、まずは法定相続分どおりに相続することを提案してみることもトラブルを避けるためには有効です。
実際に相続人と連絡が取れなくなってしまった、無視されてしまった場合の対処法や注意点については、下記の記事で詳しく解説しています。お困りの場合は、合わせてご覧ください。
法定相続人は、基本的に被相続人の配偶者や実子、兄弟姉妹がなることが多いです。
しかし、そこに加えて前妻(夫)との子や養子、親の死後に現れた隠し子などの存在が発覚することもあります。
そうなると、相続人がどんどん多くなり、遺産分割の話し合いがまとまらず収集がつかなくなりトラブルに発展するケースがあります。
実際にトラブルとなった事例は、以下のとおりです。
【相続人が多すぎて収拾がつかずトラブルとなった事例】
相続人は、母と兄弟6人の7人。遺産分割の話し合いを進めるが、それぞれの主張があり話が全くまとまらず、相続手続きを進めることができない。
相続人が多ければ、その分それぞれの主張が増えることになりますし、全員の遺産分割協議を行わなければなりません。
そのため、トラブルになるリスクは相続人の人数に比例して高くなると言えます。
相続人が配偶者と子どもという場合ではなく、代襲相続や非嫡出子、隠し子がいる場合は、さらに問題は深刻化するでしょう。
相続人が多すぎて収拾がつかないトラブルを避けるための対策と対処法は、以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・各相続人の主張をよく聞く
・法定相続分を元に分割方法を検討する
トラブルを避けるためには、各相続人が遺産の中で何をどれくらい相続したいと言っているのか、冷静に主張を聞くことが大切です。
例えば、「単純に平等に分けてほしい」と言っている場合や、「介護をしていたから多く相続をしたい」「生前贈与を受けた人は少なくするべき」など、主張をよく聞くことでどう分割することが良いのか見えてくるケースも多くあります。
各相続人の主張を聞けたら、それらを整理し、法定相続分を元に各相続人が納得するような遺産分割案を提案していきましょう。
相続人の中に認知症の人がいる場合、通常通りの相続は進められません。
具体的には、認知症になってしまうと、注意力や記憶力がない状態となり、「意思能力がない」と判断されます。これにより、遺産分割の合意などの法律行為を行うことができず、相続手続きを進めることができない場合があります。
相続人の誰かが認知症を発症している場合は、事前に対策を講じないとトラブルに発展するケースが多くあります。
実際にあったトラブル事例を紹介します。
【認知症の相続人がいることでトラブルとなった事例】
母と兄弟2人の相続人だが、母は認知症と診断を受けたばかり。
母が認知症を発症する前から、「財産は事業を承継する長男に」と話し合っていた。
しかし、遺言書がある訳ではなく、母が認知症であることでその実現が難しくなり、トラブルに発展した。
前提として、遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。そのため、認知症により意思能力がない相続人がいる場合は、法律行為を行うことができず、遺産分割協議を行うことができません。
仮に、重度の認知症の相続人がいる状況で遺産分割協議を締結しても、有効な合意ができるような意思能力がないと判断され、無効となる可能性が高くなります。
また、認知症の相続人に代わり代筆したり、押印したりすることは、遺産分割協議書の偽造行為となり刑事罰が科せられる可能性があります。
認知症の相続人がいる場合、トラブルを避けるための対策と対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・成年後見人制度を利用する
成年後見人制度とは、認知症や知的障害などにより、財産管理や契約締結などの法律行為を自身で執り行うことが難しい人を保護するために、成年後見人が本人に代わって法律行為を行う制度のことをいいます。
相続が発生した際、認知症の相続人がいる場合は遺産分割協議などの合意ができませんが、成年後見人を立てることで、相続人全員で遺産分割協議を合意することが可能になります。
ただし、遺産分割協議が可能とは言っても、成年後見人は本人の利益を守る責任があるため、認知症となってしまった相続人に財産を承継せず、他の相続人に承継させるなどといった柔軟な形での合意は難しいという限界があります。
認知症の相続人がいる場合の相続についての注意点や対処法は、以下の記事で詳しく解説しています。
生前に被相続人の預貯金の管理をしていた場合、他の相続人から預貯金を勝手に使い込んだと疑わるケースがあります。
預貯金の使い込みを疑われると、「相続する権利はない」「使い込んだ分を返せ」などと言われ、思ったように遺産相続を進めることが難しくなるでしょう。
結果、遺産分割について揉めて、話し合いがまとまらず、相続手続きを進めることができなくなってしまいトラブルと発展します。
実際のトラブル事例を紹介します。
【預貯金の使い込みが疑われたトラブル事例】
遺産相続がはじまり、遺産の預金残高が想定していた額より少ない事に疑問を持った相続人の一人から、預貯金の使い込みを疑われた。
あらぬ疑いをかけられた上、「相続放棄しろ」と言われトラブルに発展した。
被相続人の財産の使い込みとなるのは、被相続人の預貯金を無断で引き出し、自己の利益のために使った場合です。
例えば、認知症の親と同居している子どもが、親の預貯金を勝手に引き出し自分の車の頭金にした場合は、預貯金の使い込みに該当します。
万が一、そのような事実があれば、自己の法定相続分に従って、使い込んだお金を返すように請求することは可能です。
しかし、そのような請求も根拠が無ければ、訴えは認められません。
預貯金の使い込みを疑われないための対策と対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・領収書やメモなどの使途となる証拠を集めておく
預貯金の使い込みを疑われないためには、被相続人の預貯金の引き出した用途をメモで残したり、領収書を集めたりしておくと良いでしょう。
例えば、高額の引き出しがあったとしても、被相続人の病院や入院費など明確な理由があれば、疑う余地もありません。
遺産の使い込みをした可能性のある相続人がいる場合の対処法は、以下の記事で詳しく解説しています。
遺産相続でトラブルとなるケースの中には、不動産の相続に関するトラブル事例も多くあります。
実際のトラブル事例を3つ紹介します。
【不動産の相続に関するトラブル事例】
①遺産分割の不動産の評価額で揉めるケース
②不動産を取得する側が代償金を用意できないケース
③換価分割に応じない相続人がいるケース
遺産相続でトラブルになる原因の多くは、不公平な相続が行われた時です。
遺産相続に不動産が含まれている場合は、平等に分割をすることが難しく、分割方法によっては不公平だと感じた相続人がでてきます。
そうなると、話し合いがまとまらず相続手続きを進めることができなくなってしまいます。
実際にどのようなトラブル事例があるのか確認し、トラブルを対処できるようにしていきましょう。
不動産は簡単に換金できるようなものではないため、遺産分割のときにその評価額の算定方法で揉めるケースがあります。
遺産分割をするために不動産の評価額を知りたい場合、どの評価方法を使うべきかという法律やルールはありません。
評価方法は主に以下の4つがあり、この中のいずれかを相続人たちで選ぶのが一般的です。
【不動産評価方法】
・実勢価格(取引価格) ・路線価 ・時価公示価格 ・固定資産税評価額 |
不動産の評価価格は、評価方法によって若干異なります。それにより、相続人同士で揉めてトラブルに発展するケースがあります。
実際のトラブル事例を紹介します。
【遺産分割の不動産評価額でトラブルとなった事例】
遺産は不動産のみで兄が不動産を相続し、弟は法定相続分を代償金として兄からもらうことで話し合いがまとまった。
兄は、相続税計算で使用した路線価方式で不動産の評価額を5,000万円と算定し、その半分の2,500万円を弟に代償金として渡したいと相談。
しかし、弟は不動産業者に算定を依頼して6,000万円と見積もってもらった(実勢価格)ので、半分の3,000万円を渡すように要求。
どちらの評価方法を用いるのかで揉めてしまい、遺産分割協議が決裂した。
このように、不動産を受け継ぐ相続人は評価額が低い方が支払う代償金は少なく済み、不動産を受け継がない相続人は評価額が高い方が貰う代償金は多くなるので、利益が相反します。
それゆえに遺産分割ではどの評価方法を用いるか、相続人同士で揉めやすくなってしまうのです。
評価方法によって評価額は大きく変動し、不動産によっては数百万円、中には一千万円以上変わってくることもあるので、どの評価方法を用いるかは非常に重要な問題なのです。
遺産分割で不動産評価によるトラブルを避けるための対策と対処法は、以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・実勢価格を用いるよう提案する
・平均値で着地する
遺産分割において、不動産評価方法に決まりはありません。しかし、遺産分割調停や審判になると実勢価格を用いるように提案または審判が言い渡されることが一般的です。
そのため、評価方法で揉めそうな場合は、実勢価格を用いるように提案することがおすすめです。
万が一、評価方法の意見がわれて評価額に開きが出る場合は、平均値で着地することも念頭に置いておくことも良いでしょう。
相続不動産の評価額の計算方法については、下記の記事でわかりやすく解説しています。
不動産を代償分割で遺産分割した場合、代償金が支払われなくなるというトラブルは少なくありません。
代償分割とは、不動産など分けにくい遺産を相続する際に、平等に分割するための方法の1つです。
不動産など1人の相続人が現物のまま引継ぎ、他の相続人に対して代償金を支払うことで平等に遺産を分割することができます。
しかし、不動産を取得する側が代償金を用意できず、トラブルに発展するケースもあります。
実際に起きたトラブル事例を紹介します。
【不動産を取得する側が代償金を用意できずトラブルとなった事例】
父が所有していた自宅(評価額3,000万円)を相続し、次女は現金1,000万円の相続と、長女が次女に代償金として1,000万円支払うことに合意した。
遺産分割協議書にもその旨を記載し、遺産分割協議をスムーズに終わった。 しかし、支払い方法や支払期日までは取り決めていなかったため、いつまで経っても代償金が支払われず、長女に催促をしても「もう少し待って」と交わされ続けていた。
しばらくすると、長女が家を第三者に売却していることが発覚。長女に連絡を取ろうとしても、電話番号など全て変更されていて、連絡が取れなくなっていた。
このように、不動産を代償分割で相続することで遺産分割協議が成立したものの、代償金の支払いが滞ることがあります。
話し合いのときに、代償分割を安易に選んでしまうと、このようなトラブルが起きてしまう可能性があるのです。
現に調停や審判では、預金通帳のコピーなどを確認して、十分な資金力があると判断した場合のみ、代償分割を選びます。
なお、代償金が支払われなかったからといって、遺産分割協議書をやり直すことはできません。
トラブルを避けるためには、以下の対策と対処法を行いましょう。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・不動産を取得する人の資金力がない場合は代償分割を選ばない
・遺産分割協議書に支払いについて条項を入れておく
まずは、不動産を取得する人の資金力があるかどうか、預貯金通帳の残高などを見て確認をして、資金力があると判断した場合のみ代償分割を選ぶようにしましょう。
また、遺産分割協議書には、「支払い方法と支払期日」「支払いが滞った場合の対処法」を記載しておくようにしましょう。
不動産の代償分割については、下記の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
換価分割とは、遺産として遺された不動産を、相続人が売却し現金に変えた上で分割して相続することを言います。
換価分割は、遺産を現金で受け取るために、相続人の間で公平に遺産分割ができて、相続で親族間のトラブルが起きにくい分割方法です。
しかし、換価分割に応じない相続人がいる場合は、トラブルに発展してしまいます。
実際に起きたトラブル事例は、以下のとおりです。
【換価分割に応じない相続人がいて起きたトラブル事例】
母が亡くなり、預金は葬儀代で消えてしまい、遺産は不動産(実家)だけ。
実家に住んでいる長男に対して次男が「実家を売却して売却代金を折半しよう」と提案したが、実家に暮らす長男は「すぐに引っ越しできないから、とりあえず名義を長男に変えて、2年後に売却する。」と言ってきた。
長男と次男の仲も良好で、長男の意見に納得できる部分が大きかったため、深く考えず長男の用意した遺産分割協議書に署名・押印。長男が相続登記を完了させた。
しかし、それから2年以上たっても実家の売却をしてもらえず、引っ越しをする気配がない。長男にかけあっても「そんな話はしていない」と言い、応じようとしない。
この事例では、残念ながら実家の名義を取られてしまった次男は、長男から換価分割分を取り戻すことは難しくなります。
兄弟だから大丈夫と思って、長男の言われるままに遺産分割協議書に署名・押印をしてしまえば、それが証拠となり、裁判をしても取り戻せる可能性は少ないでしょう。
口約束に過ぎない場合は、有効な証拠とならないことが多いため、注意が必要です。
トラブルを避けるための対策と対処法は以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・時間を空けずに売却する
換価分割をする場合は、時間を空けずに売却することが鉄則です。時間が経てば気持ちが変わって売却をしなくなったり、不動産の情勢などで価値が下がったりしてしまう恐れがあります。
相続した不動産に暮らす相続人がいたとしても、引っ越しまで時間がかかる要望は安易に了解しないことがおすすめです。
換価分割については、下記の記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
遺産相続では、具体的相続分に対して、意見が対立しトラブルに発展するケースも多くあります。
具体的相続分とは、法定相続分を前提に、個々の具体的な調整要素を修正した後の相続分のことを言います。
調整要素は、被相続人の生前に贈与や遺贈を受けた者、療養看護など特別の寄与をした者などに対して、行われます。
実際にどのようなトラブルが起きるのか、事例を2つ紹介します。
【具体的相続分に関するトラブル事例】
①多額の贈与を受けた相続人がいるケース
②生前に介護をして寄与分を主張する相続人がいるケース
調整要素があることで、本来もらえる予定の相続分が減ってしまうと感じて、調整要素を認めようとしない相続人がいると、遺産分割で揉めてしまいます。
他の相続人に生前贈与や遺贈がありそうな場合や、自身が寄与分を主張できる立場であるならば、不利な相続とならないように遺産相続を進めていくべきです。
ただし、トラブルとなりやすいため、慎重に話し合いを進めていく必要があるでしょう。
実際に起きた事例を確認し、トラブルに対処できるようにしてください。
相続人の中に、被相続人より生前に多額の贈与を受けた相続人がいる場合は、トラブルに発展しやすいです。
被相続人が亡くなり、いざ遺産相続をしようとした時、生前に贈与を受けていた相続人と平等に分割するのは不公平と感じる人は多いでしょう。
そのような場合には、「特別受益の持ち戻し」として、生前贈与を遺産に含めて遺産分割で調整することができます。
(特別受益者の相続分) 第903条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。 |
しかし、贈与を受けていた相続人が「贈与を受けていない」「証拠がない」などと言い、特別受益の持ち戻しに応じないケースもあり、相続人間でトラブルとなることがあるのです。
【特別受益とは】 一部の相続人だけが受けている特別な利益のこと。(生前贈与・遺贈・死因贈与など) |
実際に起きたトラブル事例を紹介します。
【多額の贈与を受けた相続人がいてトラブルとなった事例】
生前、父は長女に自宅購入資金として1,000万円の贈与をしていた。
父が亡くなったときに、次女はそのことを指摘して、特別受益を持ち戻すように求めたが、長女は「贈与は受けていない」と言いはり、法定相続分を取得すると主張し、揉めて相続手続きが進められずにいる。
このように、生前に多額の贈与を受けている相続人が居ながらも、本人がそれを認めず話し合いがもつれるケースは多くあります。
生前贈与を取得していることを主張しても、本人が認めない場合は、主張を裏付ける証拠を提示し説得を進めます。
それでも認めない場合は、特別受益の有無を調停や審判で争うことになります。
このようなトラブルにならないための対策と対処法は、以下のとおりです。
【トラブルを回避するための対策・対処法】
・事前に証拠を集めておく
生前贈与(特別受益)の取得を認めさせるためには、証拠を準備することが絶対的です。
証拠は、被相続人がいつ、誰に、何を、いくら贈与したのかを裏付ける資料を揃える必要があります。
【特別受益の証拠となる資料】
贈与の合意に 関する資料 | ・契約書や誓約書 ・被相続人のメモ、日記、メール履歴 ・被相続人と遺贈者のメールなどのやり取り履歴 ・預金口座の取引明細、通帳、振込用紙の控え |
生計の資本としての 贈与に関する資料 | ・被相続人の収入証明や財産証明など、資力を証明するもの ・預金口座の取引明細、振込用紙の控え |
特別受益の価格を 証明する資料 | ・不動産の固定資産評価証明書や査定書 ・売買契約書や領収書 |
上記の証拠の中で、できるだけ多く取得するようにしましょう。
贈与があった事実を証明するためには、被相続人の財産の動きや受け取ったことを裏付ける証拠などを揃えなくてはなりません。
証拠を事前に準備し、相手方に冷静に話し合いをすることで、特別受益を認め持ち戻しに応じてもらえる可能性が高くなり、トラブル回避ができます。
特別受益の証拠の揃え方や特別受益を認めさせる方法については、下記の記事で詳しく解説しています。
生前に被相続人の介護をしていた相続人がいる場合、遺産分割協議でその分の評価を求め寄与分を主張ができます。
寄与分とは、被相続人の財産維持・増加に貢献した相続人が、通常もらえる相続分に加えて受け取れる遺産のことです。
これにより、介護をしていた相続人と他の相続人の間で、寄与分を「認める・認めない」のトラブルが起こりやすいです。
実際に起きたトラブル事例を紹介します。
【生前に介護をして寄与分を主張する相続人がいるトラブル事例】
このように、寄与分を主張された側としては、本来もらえるはずの相続が減ってしまうため、寄与分を認めない相続人は少なくありません。
他の相続人が寄与分を認めない場合は、遺産分割調停・審判で寄与分の有無を争うこととなります。
ただし、調停・審判では厳密な証拠や資料を提出する必要があり、認めてもらうためにはハードルが上がります。
実家の近くに住んでいる長女は、母が病気を患ってから10年以上にわたり介護をしていた。
長男と次女は、遠方に住んでいることもあり母のことは長女に任せきりで、年に1度会いにくる程度だった。
母が亡くなり、遺産相続の話し合いとなり、長男が「平等に分割しよう」と言い出したことに腹が立ち、「介護をしていたから多めに相続する」と主張。しかし、長男は「たいした介護もしていないのに財産を多く取るなんて認めない」と、認めようとせず、トラブルとなった。
このようなトラブルを避けるためには、以下の対策と対処法を実践しましょう。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・事前に介護の状況などの情報を共有する
・介護記録などの証拠を残しておく
寄与分は、相続人同士での話し合いで認めてもらうことが重要です。
そのためには、普段から介護の状況や容態などの情報を家族間で共有し、介護をしていることの事実と貢献度を把握してもらうことです。
介護の大変さは介護をした人にしか分かりません。そのため、介護をしていることの実態を把握してもらえれば、遺産分割でねぎらいの気持ちで寄与分を認めてくれることもあるでしょう。
それだけでは、認めてもらえなさそうな場合は、介護記録などの介護を行っていることの事実を証拠として準備しておくことで、納得してくれる可能性もあります。
被相続人が遺した遺言が原因で相続人の間でトラブルとなるケースも多くあります。
具体的な事例を2つ紹介します。
【遺言に関するトラブル事例】
①遺言書の有効性が問題となるケース
②一人の相続人にすべての財産を相続させる遺言書が遺されたケース
被相続人が遺した遺言書の内容が、ある相続人が優位となるような内容だったり、自分に遺される財産に納得できなかった場合、「不公平な遺言書は認めない」「遺言書を無効にしたい」と言う相続人が出て来るでしょう。
原則として、遺言書が遺されている場合は、亡くなった人の意思を表すものとして最大限尊重する必要があります。
しかし、相続人全員が合意すれば、遺言書で指定されている内容とは異なる方法で遺産相続を行うことが可能です。
そのため、遺言書を尊重したい相続人と遺言書を無効にしたい相続人がいる場合は、遺産相続で揉めてトラブルに発展してしまいます。
ここでは、遺言に関するトラブル事例とトラブルを回避する為の対処法を紹介します。トラブルを未然に防ぐために、しっかり確認していきましょう。
遺言書が遺されていたら、どんなものでも有効であるかというとそうではありません。
民法では、「15歳に達したものは遺言をすることができる」とあります。
(遺言能力) 第961条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。 |
では、15歳以上であれば誰でも遺言ができるのかというと、そうではありません。
遺言書作成に必要な能力について、「遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識し得るに足る意思能力が必要」と言われています。
例えば、被相続人が生前に認知症の診断を受けている場合は、遺された遺言書が有効かどうかの判断がトラブルの原因となることがあります。
実際に起きたトラブル事例を紹介します。
【遺言書の有効性が問題となりトラブルとなった事例】
母が亡くなり、全部の遺産を長男に相続させるという内容の自筆証書遺言と、同内容の公正証書遺言書が各1通ずつ見つかった。
しかし、相続人である長女と次女は、遺言書作成当時の母親は重い認知症であり、遺言能力が無く、これら2通の遺言が無効であると主張をした。
長男は、遺言書の内容どおり相続を進めたいと考えていたため、長女と次女と対立しトラブルに発展した。
被相続人が遺言書を作成した時に認知症がかなり進行していた場合、遺言が無効となる可能性があります。
しかし、認知症を発症していたら絶対に無効になるかというと、そうではありません。
相続人同士で、有効・無効の話し合いがまとまらない場合は、遺言無効確認訴訟の中で判断が下されることとなります。
裁判所では、被相続人が遺言を作成した当時の遺言能力(遺言の内容とこれによって生じる効果を理解することができたのか)が争点となります。
具体的な遺言能力の判断基準は、医師による診断の他に以下の内容を踏まえた総合的に考慮して判断がされます。
【遺言能力の判断基準】
①遺言者の年齢 ②心身の状況及び健康状態とその推移 ③発病時と遺言時の時間的関係 ④遺言時及びその前後の言動 ⑤日頃の遺言についての意向 ⑥遺言者と受贈者との関係、遺言の動機 ⑦遺言内容の複雑性 |
裁判官は、上記の内容を考慮した上で判断を下しますが、この事実があるからと言って無効となる訳ではありません。
あくまでも、事実を総合的に考慮して判断を下します。
遺言書の有効性によるトラブルを避けるためには、下記の対策と対処法を行いましょう。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・遺言書の効力について把握しておく
遺言書が有効か無効かについては、法律の専門的な知識が必要となるため、不慣れな方が判断することは難しいでしょう。
そのため、最終的には遺言無効確認訴訟において裁判官に判断してもらうことになります。
しかし、遺言書の効力について理解をして、根拠を元に他の相続人へ説得をすることができれば、状況が変わる可能性があります。
遺言書の効力については、下記の記事で詳しく解説していますので、合わせてご確認ください。
遺言書が無効になる例や、無効にしたくない場合の対処法は、下記の記事をご覧ください。
遺言書に「財産は全て長男に相続させる」と書かれていたら、その他の相続人は納得いくわけありません。
このような場合でも、他の相続人は最低限の遺産をもらい受ける権利(遺留分侵害額請求)があります。
そのため、遺留分侵害額請求を行うことで、全財産を一人の相続人に渡さなければいけないという事はなく、最低限の遺産を受け取ることができます。
しかし、相続する遺産の内容によっては、遺留分侵害額請求がトラブルの元となる可能性があります。
実際に起きたトラブル事例は、以下のとおりです。
【一人の相続人にすべての財産を相続させる遺言書がありトラブルとなった事例】
父が亡くなり、公正証書遺言が見つかった。相続人は、長男、長女の2人で、遺言には「遺産は全て長男に相続させる」と書かれていた。
父の遺産は、父名義の長男が住んでいる家(評価額2,000万円)と、預貯金100万円だけ。
長男が全て相続するのは不公平と思い、長女は平等に分割するように主張。しかし、家を売るつもりがないため、預貯金100万円を相続して納得してほしいと話すが、納得しない。
そんな中、長女が遺留分侵害額請求を行うと言い出し、預貯金もなく遺留分を支払うことができなさそうでトラブルに発展した。
遺留分とは、相続人に対して、遺言によっても奪うことができない「最低限もらえる遺産の取り分」のことです。
遺言書に「遺産を全て長男に相続させる」と書かれていても、遺留分が優先されます。
この事例では、長女は遺留分として遺産総額の1/4を請求することが可能です。
しかし、遺留分侵害額請求をされたら、現金で支払うことが原則です。遺産に不動産が含まれている場合でも、侵害額に相当する現金を支払わなければなりません。
そのため、遺留分を請求された長男は、遺留分525万円を現金で支払わなければなりません。
このように、遺留分を請求された側が、現金での支払いができない場合は、トラブルとなってしまうのです。
遺留分侵害額請求によるトラブルを避けるための対策と対処法は、以下のとおりです。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・遺留分侵害額請求の期限が過ぎていないか確認する
・話し合いで解決する方法を検討する
遺留分侵害額請求には期限があります。
遺留分侵害額請求の消滅時効は、請求相手が「相続の開始」「自分の遺留分が侵害されていること」の両方を知ってから1年以上経過している場合です。
期限を過ぎている場合は、遺留分を支払う義務は発生しません。
期限を過ぎていない場合は、請求をした相続人と話し合いで解決できないか方法を考えて行きましょう。
例えば、遺留分の支払い金額を減額してもらう相談や、現金ではなく不動産を共同名義にするなど、提案してみることも有効です。
話し合いで和解ができない場合は、遺留分侵害額請求調停や遺産に関する紛争調整調停で減額の相談や、支払期日の延長を訴えることとなります。
遺留分を支払う現金がない場合の対処法と取るべき行動は、下記記事で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
遺産相続のトラブルは、遺産分割協議が終わった後にも起こることがあります。
具体的なトラブル事例は、以下の2つです。
【遺産分割協議後のトラブル事例】
①騙されて遺産分割協議書を作成してしまったケース
②遺産分割協議後に相続人が新たに発見されたケース
遺産分割協議書は、相続人全員が遺産分割について合意したことを示す、法的効力のある文書です。
原則、遺産分割協議書を作成した後は内容を変更できませんが、内容に間違いがあった場合や、他の相続人などに騙されたことが発覚した場合は、取り消せる可能性があります。
遺産分割協議を慎重に行っていた場合でも、トラブルは起きてしまうものです。
トラブルが起きれば、精神的なダメージだけではなく、正当な遺産を受け取ることができなくなる可能性もあるので、慎重に対応していきましょう。
遺産分割協議書は、相続人全員の同意により成立します。
しかし、遺産分割協議書に同意の上、署名・押印をしたものの後日になって、一部の相続人が財産隠しを行っていたり、相続財産を偽ったりして他の相続人を騙していたことが発覚するトラブルが多々あります。
このようなトラブルが発覚した場合は、遺産分割協議の取り消しを行い、遺産分割協議のやり直しができる可能性があります。
ただし、遺産分割協議を取り消すことができるのは、あくまでも例外的なケースに限られており、取り消しの手続きは簡単ではないため、多大な労力を使うこととなります。
実際に起こったトラブル事例を紹介します。
【騙されて遺産分割協議書を作成しトラブルとなった事例】
母が亡くなり、不動産(実家)と預貯金1000万円を長女と次女の2人で相続することになった。
話し合いの結果、実家は長女家族が住んでいるのでそのまま相続してもらい、預貯金1,000万円を次女が相続することで話し合いがまとまり、その内容の遺産分割協議書に署名・押印をして相続手続きを進めることとした。
しかし、父の相続の時に、母が有価証券と土地の相続をしていたことを思い出し、長女に聞いたところ、「母が生前に売却した」と言われた。
不審に思い、調べて見るとたしかに母が亡くなる2年前に売却はしているが、売却費用は総額7,000万円近くだったことが分かった。
その7,000万円がどうなっているのか、長女に問いただしても「知らない」の一点張り。長女が内緒で自分のものにしている可能性が高いと思っているが、話を聞く耳を持たず取り合ってもらえない。
遺産分割協議は、原則として撤回する事ができませんが、詐欺によって遺産分割協議が成立した場合は、取り消しによってやり直しをすることが可能です。
今回の事例では、長女が7,000万円近くある相続財産を隠し、1,000万円しかないと騙して遺産分割協議を行った可能性が高いです。
実際に相続財産を隠していることが発覚した場合は、詐欺による意思表示にあたるため、遺産分割協議を取り消すことができます。
遺産分割協議のやり直しの手順や注意点については、下記の記事にて詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
遺産分割協議書を騙されて署名・押印をしないためには、以下の対策と対処法を行ってください。
【トラブルを避ける対策・対処法】
・相続財産調査を他の相続人まかせにしない
遺産分割協議では、被相続人の相続財産に何が遺されているのかを正確に知ることが重要です。
家族だからと安心して、他の相続人に任せきりにしてしまうと、財産を隠されて遺産分割協議を行ってしまう可能性があります。
そのため、相続財産調査は他の相続人まかせにせず、積極的に行うようにしましょう。
相続財産が多くある場合や、正確に行える自信が無い場合は、専門家に依頼することがおすすめです。
相続財産調査の方法や進め方については、下記記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
遺産分割協議には、相続人が全員参加しなければならないので、遺産分割協議を始める前にはしっかり相続人調査を行う必要があります。
ところが相続人調査に不備があり、以前に行われていた養子縁組や認知などを見逃して遺産分割協議を行った後に、新たに相続人が現れて権利主張をされ、トラブルになることがあります。
その場合は、遺産分割協議は無効になり、はじめからやり直しが必要です。
実際に起こったトラブル事例を紹介します。
【遺産分割協議後に相続人が新たに発見されトラブルとなった事例】
母が亡くなり、長男と長女の2人で、実家の売却費用と預貯金500万円を均等に分割して、相続することで話し合いが付き、そのように遺産分割協議書を作成した。
しかし、相続手続きを進める中で、母の出生からの戸籍をしっかり確認すると、父と結婚する前に結婚をしていて、子どもが1人いたことが発覚した。
長男が相続放棄するように手紙を出したところ、遺産分割協議に参加したい旨の返信が返ってきた。 長男は、財産は一切渡したくないと言い張り、トラブルとなった。
このように、遺産分割協議後に新たな相続人が発見される事例は、少なくありません。
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければなりません。そのため、新たに相続人が発見された場合は、遺産分割協議をやり直す必要があります。
家族の中で遺産相続を分割したところに、新たな相続人が発見されると、本当はもらえるはずの財産を他の人に取られたくないと思う気持ちは必ずあるでしょう。
ましてや、今まで知らなかった存在の人であったり、疎遠の人であったりすれば尚更です。そのため、遺産分割協議後に相続人が新たに発見された場合は、トラブルとなってしまうのです。
それだけでなく、今まで会ったことの無い相続人を探し、連絡を取るのは、簡単なことではありません。連絡が取れないからと言って、相続を勝手に進めることもできません。
そのため、多大な時間と労力が必要となってしまいます。
相続人と連絡が取れない場合の対処法や注意点は、下記の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
遺産分割協議後に新たな相続人が発見されてトラブルとならないためには、下記のとおり対策と対処法を実行してください。
【トラブルを避けるための対策・対処法】
・遺産分割協議前に相続人調査を行う
一般的に相続人は家族であるため、相続人を調べる必要はないと思っている人も多いでしょう。
しかし、相続手続きを進めるためには、第三者に相続人が誰であるか客観的に証明する必要があります。
そのため、預貯金や不動産の名義変更では、遺産分割協議書と合わせて被相続人の戸籍謄本が必要なのです。
例えば、銀行で預貯金の名義変更手続きに行ったら、「相続人が欠けている」と指摘をされて、相続人が別にいることが発覚することもあります。
このように、遺産分割協議後に新たな相続人が見つかると、遺産分割協議のやり直しをしなくてはならず、2度手間となります。
そのようなことにならないために、遺産分割協議を始める前に必ず相続人調査をしっかり行うことが、トラブルを未然に防ぐために大切なことなのです。
相続人調査の進め方については、下記の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
ここまで、遺産相続のトラブルについて事例と共に解説をしてきました。
実際に起きたトラブル事例をご覧いただいて、「遺産相続トラブルが起きそう」と思われた場合は、なるべく早く弁護士に相談をすべきです。
事例ごとにご紹介をした対策や対処法を行うことで、トラブルを避けることはできることもありますが、正直どんな場合でもトラブル避けることができるとは、言い難いです。
冒頭でお伝えした通り、遺産相続トラブルはさまざまな要因が重なり起きることが多く、危険因子を1つ対処したからといっても、確実にトラブルの芽を摘むことはできません。
トラブルの芽をそのままにしておくと、トラブルがどんどん大きくなり、非常に労力とストレスがかかるものです。トラブルが長引けば長引くほど、貴重な時間は無駄になり、疲労は蓄積していきます。
物事には「時間が経てば解決するもの」はありますが、遺産相続に限っては「時間が経てば経つほど複雑化する」ため、早めに対策をすることが大切です。
もし、トラブルが発生する前から弁護士に相談ができていれば、事前に遺産相続をどう進めるべきかの対応策を練ることでき、トラブルを避ける確率が格段に上がります。
万が一、トラブルに発展したとしてもいち早く弁護士が代理人となり対応を進めてくれるので、安心して任せることができます。
また、相手と遺産分割方法で揉めそうな場合でも、依頼者の最大の利益を産むために尽力をしてくれるので、自分が望む相続ができる可能性が高くなります。
実際にトラブルが発生してしまってからでは、対処が遅れてしまい深刻な紛争に発展してしまうこともあるため、できるだけ早く弁護士に相談をするようにしましょう。
本記事では、遺産相続トラブルの事例について解説してきました。
遺産相続トラブルは、どんな家庭でも起こり得ます。自分の家は関係ないと思っていても起きてしまうのが遺産相続トラブルです。
遺産相続トラブルに発展しやすいケースと事例は以下のとおりです。
遺産相続トラブルに発展しやすいケース・事例 |
ケース①相続人に関するトラブル事例 事例①相続人調査により知らない異母・異父兄弟が見つかったケース 事例②被相続人が知らない間に養子縁組をしていたケース 事例③感情的な問題から相続人と連絡が取れなくなったケース 事例④相続人が多すぎて収拾がつかなくなるケース 事例⑤認知症の相続人がいるケース 事例⑥預貯金の使い込みが疑われるケース |
ケース②不動産の相続に関するトラブル事例 事例①遺産分割の不動産の評価額で揉めるケース 事例②不動産を取得する側が代償金を用意できないケース 事例③換価分割に応じない相続人がいるケース |
ケース③具体的相続分に関するトラブル事例 事例①多額の贈与を受けた相続人がいるケース 事例②生前に介護をして寄与分を主張する相続人がいるケース |
ケース④遺言に関するトラブル事例 事例①遺言書の有効性が問題となるケース 事例②一人の相続人にすべての財産を相続させる遺言書が遺されたケース |
ケース⑤遺産分割協議後のトラブル事例 事例①騙されて遺産分割協議書を作成してしまったケース 事例②遺産分割協議後に相続人が新たに発見されたケース |
遺産相続トラブルの原因は、1つとは限らずさまざまな原因となる事象が複雑に絡み合い解決が難しくなるケースが多くあります。
トラブルが大きくなってしまってからでは収拾がつかなくなる例も多いため、トラブルが予想される場合はいち早く弁護士に相談するようにしましょう。
この記事を通して、遺産相続トラブルのリスクについて心構えをしていただき、事前の対処に繋がれば幸いです。