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介護老人施設
2022.09.27

介護施設が外部医や行政と連携することをお勧めする理由(裁判例解説)

【事案】

 東京地方裁判所判決 令和2年(ワ)第24487号

 本件は,被告が運営する特別養護老人ホームA(以下「被告施設」という。)に,ショートステイ(短期入所生活介護)で入所していた死亡当時89歳の亡B(以下「亡B」という。)の相続人(妹)である原告が,被告には,亡Bについて,廃用予防のためリハビリテーションを遅くとも令和元年5月27日までに実施すべきであるのに,これを怠った安全配慮義務違反があり,その結果,亡Bが廃用症候群を発症した後,敗血症で死亡するに至ったと主張して,被告に対し,入所契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求として損害金2852万8465円及びこれに対する催告後の日である令和2年10月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案。

【事実経過】

 令和元年5月16日ころ 亡Bは咳、嗄声(声がれ)発熱

 令和元年5月27日   かかりつけ医であるCクリニックD医師の紹介によりE病院を受診、

             同日気管支炎と診断される。

 令和元年5月30日   廃用症候群と診断される。

 令和元年9月30日   E病院からF病院に転医

 令和元年10月12日  尿路感染症を原因とする敗血症を直接死因として死亡。

【裁判所の判断】

 1 原告の請求を棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

【解説】

 本件は、令和元年5月16日に体調不良になった亡Bの相続人が、特別養護老人ホームに対し、令和元年5月16日の体調不良後、遅くとも令和元年5月27日までに廃用予防のためのリハビリテーションを実施すべきであったにもかかわらず、それを怠ったため、亡Bが泌尿器系の廃用症候群である尿路感染症を原因とする敗血症で亡くなったとして損害賠償請求訴訟を提起した事案です。

 裁判では、亡Bの既往症、令和元年5月16日から同月27日までの施設での過ごし方を細かく確認し、特別養護老人ホームにリハビリテーションを行う義務はなかったと判断されています。

 この裁判例の中で気になる点が一つあります。

 それは、「被告施設は介護施設であり,原告の主張するリハビリテーションの実施を独自に計画することはそもそも不可能である上,亡Bには,5月16日以降嗄声,咳嗽,発熱等の症状が出ており,身体に負荷の掛かるリハビリテーションを実施すべき状態になかった。」という特別養護老人ホームの主張です。

 本件では、特別養護老人ホームの主張のうち、「亡Bには,5月16日以降嗄声,咳嗽,発熱等の症状が出ており,身体に負荷の掛かるリハビリテーションを実施すべき状態になかった。」という主張の部分が認められ、結果的に特別養護老人ホームにリハビリテーションを実施すべき注意義務はなかったという判断がなされています。

 しかし、裁判所は、「被告施設は介護施設であり,原告の主張するリハビリテーションの実施を独自に計画することはそもそも不可能である」という点についてはなんら判断をしておりません。

 利用者相続人からは、東京都福祉保健局のホームページに掲載されている廃用症候群に関するテキストが証拠として提示されています。

 実際、平成23年には社団法人全国国民健康保険診療施設協議会から「特別養護老人ホームにおけるリハビリテーションの手引き」というものが発行されており、その中でも「廃用症候群の予防が大切な課題」として、利用者の状態に合わせたリハビリテーションが紹介されています。

 したがって、訴訟リスクを低減させるために、「独自に計画する」ことが不可能だとしても、かかりつけ医や行政と協力することで、リハビリテーションを実施すること自体は必要となると考えられます。

 今後、個別的な対応について気になる点がございましたら、お気軽にご相談ください。