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介護老人施設
2022.09.08

介護保険負担限度額認定制度の説明義務

1 介護保険負担限度額認定制度の説明をしないと損害賠償請求をされる?

東京高裁令3・10・27判決

介護老人保健施設の介護支援専門員等が、入所者から利用料金の負担軽減の相談を何度も受けていたのに、食費及び居住費の支払を自己負担額に限定できる介護保険負担限度額認定制度の説明を怠ったとして説明義務違反による過失を認め、不法行為に基づく損害賠償金(過失相殺3割)の支払を使用者である施設運営者に命じた事例

 この事件は、介護保険負担減訴額認定制度(以下、「本件制度」といいます。)の説明を受けられなかったため、本件制度の申請をして軽減できた自己負担額を超える施設利用料金を損害として裁判をした事例です。

 実はこの裁判第一審の東京地方裁判所(東京地裁令3・3・12判決)では、利用者らへの「説明をする義務」はないとして施設側が勝訴しています。

 これに対して、今回の東京高裁令3・10・27判決では、「説明をする義務」があるとして、施設運営者は損害賠償金の支払いを命じられています。

 この事件の分かれ目は説明する義務の有無です。

今回の事件では「説明する義務」の有無は、ざっくりと解説すると、「あなたの立場なら、この人には説明しなきゃダメだってわかるじゃん、ということが法律から読み取れるか」という点です。

 説明する義務の有無

(1)東京地裁令3・3・12判決

①介護保険法は、介護老人保健施設の設備、運営等について定めたもの。

②介護保険法が定める介護支援専門員についての各規程に照らしても、介護支援専門員において利用者に対して本件制度の説明を行う義務を導くことはできないものといわざるを得ない。

として、説明する義務がないとしています。

(2)東京高裁令3・10・27判決

 ①引用する条文を要介護認定を受け、介護老人保健施設において施設サービスを受けている者に関連するものに限定する。

 ②条文の規定、介護支援専門員の役割から、被保険者の置かれている当該被保険者の所得などの経済的な環境を含む環境等に応じた介護サービスが提供されることを確保することが必要。

 ③本件制度に係る情報は、低所得者の被保険者にとっては、極めて重要な事項であるというべきである。

 ④介護支援専門員等の地位及び役割に加え、双方の情報量の格差があることを考慮すれば、本件制度に係る情報を的確に被保険者に教示すべき立場にある。

  として、説明する義務があると判断しました。

3 裁判例を踏まえて

 今回紹介した裁判例を見た時、施設運営者の方はどうすればいいのでしょうか?

  介護支援専門員の方にすべての利用者等に、きちんと説明するように伝えればいいのでしょうか?

  それでは対応が出来ていません。

  今回の事例は利用者の方が要介護認定を受けており、長女で代理人の方が90歳とご高齢でした。

  説明義務を果たしたと言えるために必要な対応をきちんととることが必要となります。

  今回のようなケースでは読み聞かせをさせるべきだった可能性が高いです。

  介護サービスの費用負担の軽減する公的な制度の有無や内容について相談を受けた場合には、その受給の機会を奪わないためにもわかりやすい手続きの説明をすることが求められます。

  説明義務を果たすためには、要介護認定を受けていない方や代理をされる方が若いような場合でも読み聞かせをしていく方がいいと思います。

  具体的な状況に応じ、きちんと説明義務を果たせるようにアドバイスをすることも可能ですので、お気軽にご相談ください。