債権回収は、ビジネスや個人の財務管理において避けて通れない重要な課題です。
未回収の債権が増えると、キャッシュフローに悪影響を及ぼし、最悪の場合、経営破綻の原因にもなりかねません。しかし、適切な知識と戦略を持つことで、債権回収はより効果的かつ迅速に行うことができます。
本記事では、債権回収の基本から具体的な方法、そして法的手段までを徹底解説します。これから紹介する情報を活用し、確実な債権回収を目指しましょう。
この記事の監修者
弁護士 山田 洋斗
弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士
千葉県弁護士会所属
目次
債権回収とは、商品やサービスを提供した際に発生する未払いの代金や貸付金などを回収する行為を指します。企業間取引だけでなく、個人間の貸し借りでも債権回収は生じます。債権者としては、合法的かつ効果的な方法で債権を回収することが求められます。
債権回収の基本的な流れは、まず、支払い期限が到来していることを前提として、債務者に対して支払いを促し、それでも支払いがない場合は法的手段を検討するというものです。
しかし、企業間取引の場合には、あくまで取引先であることを念頭に置いて、法的手段に訴える前に、可能な限り友好的な解決策を模索することが重要です。
債権を回収しないままでいるとどのようなデメリットがあるのでしょうか。未回収の債権が増加すると、以下のような問題が生じます。
これらの問題を未然に防ぐためにも、早期に、かつ、効果的な債権回収が不可欠です。
債権回収において、事前の準備と対策が重要な役割を果たします。
例えば、①与信管理の徹底をすることは、その一つです。取引を開始する前に、相手先の信用状況を確認することは基本です。
信用調査を行い、支払い能力があるかを評価します。これにより、将来的な未払いリスクを軽減できます。また、少しでも怪しいと思った場合には、取引先の会社名義の資産の存在、取引先銀行の確認など、取引に入る前に可能な限り確認することも有益でしょう。
②また、契約書をしっかり作成することも重要です。内容の明確な契約書を作成し、支払い条件や納期、遅延時の対応などを詳細に記載します。書面での取り決めは、後々のトラブル防止に大いに役立ちます。
事前対策を講じても、債権が未回収となる場合があります。
その際の具体的な回収方法を見ていきましょう。
最初のステップとして、電話や面談で直接債務者に支払いを促します。単に支払いを失念しているだけの場合もありますし、今後も取引が継続する可能性があるため、友好的な姿勢で接し、支払い意思を確認することが重要です。
口頭での催促で効果がない場合、正式な書面で支払いを求めます。催告状の書式に決まりはありませんが、未払い額や支払い期限、遅延損害金の発生、未払いが続く場合の対応方法について明記します。
通常の郵便でも支払われない場合は、内容証明郵便を利用することを検討しましょう。内容証明郵便は、通常の郵便とは異なり、請求の意思と時期、内容を公的に証明できるため、法的手続きの前段階として有効です。通常の文書とは体裁や紙質が異なるため、文書を受け取った債務者に対して、危機感を持ってもらうことができます。
なお、内容証明郵便は、一般の方でも作成可能ですが、弁護士名義で送付することで、より強い効果を得られる場合があります。
上記の方法でも解決しない場合、いよいよ裁判所等を利用した法的手段を検討しましょう。
簡易裁判所に支払督促を申し立てる方法です。費用と時間を抑えつつ、強制力のある手続きを進められます。ただし、債務者が異議を申し立てた場合、通常の訴訟に移行しますので、債権の内容に争いが生じそうな場合は、当初から訴訟手続きを利用することも検討しましょう。
60万円以下の金銭トラブルの場合、少額訴訟制度を利用できます。原則として1回の審理で紛争解決を図る手続であり、短期間で判決が出るため、迅速な解決が期待できます。
高額な債権回収や支払い義務の内容に複雑な争いが生じそうなの場合、通常の訴訟手続きをとることがいいでしょう。お互いの主張を証拠をもってぶつけ合うことで、裁判所の公正な判断を仰ぐことになります。
訴訟手続きは専門的な弁護士に相談し、適切な戦略を立てることが重要です。
債権回収は、最終的に金銭を回収してこそ意味があります。しかし、債権回収手続きは、法律上は、債権の有無や内容を法的に確定する手続きと、実際に強制的に金銭を回収する手続きとで、2段階の手続きをとる必要があります。上記「5. 法的手段による債権回収」は、あくまで前者の手続きを説明したものであり、実際に金銭を回収するためには強制執行と呼ばれる手続きをとる必要があります。
以下では、債権回収のための強制執行の方法を解説します。
動産執行は、債務者が所有する動産(自動車、貴金属、家電製品など)を差し押さえる方法です。比較的迅速に執行できる反面、動産の市場価値や所在を特定することが難しく、また、執行費用との兼ね合いで費用倒れになるリスクもあります。
不動産執行は、債務者の土地や建物を対象とします。不動産は高額な資産であるため、回収額が大きくなる可能性がありますが、手続きが複雑で、競売手続きなどを経ると、時間がかかる傾向にあります。
債権執行は、債務者が第三者に対して持つ債権(給料、預金、売掛金など)を差し押さえる方法です。
もっとも回収可能性が高く、迅速にできるのは預金債権(債務者が銀行に対して有している預金の払い戻し請求権)です。
債権の確実な回収のためには、債務者の財産が存在することが前提となります。つまり、資力がないところからは、いくら債権があっても金銭として回収することはできません。
そのため、債権回収の法的手続きを具体的にとっていく前に、可能な限り、債務者の財産を調査しましょう。また、もし債務者が強制執行を免れるために、財産隠しなどをする可能性がある場合は、弁護士などの専門家に相談したうえで、保全手続き(仮差押え手続き等)をとることも検討しましょう。
債権回収は専門的な知識が求められる場面が多く、専門家の力を借りることで成功率が高まります。
また、煩雑な手続きから開放されることで、本来の事業に集中することができます。
法的手段を取る際、弁護士は強力な味方となってくれます。
前記のとおり、債権回収の方法には複数あるため、メリットやデメリットを踏まえ、会社の状況に応じて適切な法的手段を選択することが可能です。また、通常の訴訟手続きをする場合、訴訟の見通しや有効な立証などをサポートすることが可能です。
簡易裁判所での手続きや公正証書の作成など、司法書士も債権回収において重要な役割を果たします。
費用を抑えつつ手続きを進めたい場合や、債権の内容に争いが生じないと見込まれる場合には有効です。
すべての債権回収が簡単に成功できるとは限りません。以下では、債権回収を成功させるポイントを解説します。
未払いが発生したら、すぐに対応を開始することが重要です。
債権時間が経つほど回収の難易度が上がります。
なお、債権には以下のとおり、消滅時効が定められており、一定期間経過により請求する権利自体消滅してしまう可能性があるので注意が必要です。
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
仮に時効で消滅しないとしても、時間が経つにつれて、債務者の支払い意思が減退したり、証拠が散逸する可能性があるため、早期に対応することが重要です。
債務者が破産などしてしまうと、回収が困難となってしまう場合もあります。
取引内容や連絡の履歴を詳細に記録しておくことで、トラブル時に有効に使用することができます。
メールや書面などの証拠を保存しておきましょう。
債務者の事情を考慮し、分割払いの提案や支払い期限の延長など、柔軟な対応を取ることで、結果的に回収に繋がるケースもあります。
高圧的な回収手段をとると、債務者が支払いから逃れようとして、回収がさらに困難になる場合もあります。
債権回収は複雑で繊細なプロセスですが、適切な知識と対策を持つことで、成功率を高めることができます。事前の与信管理や契約書の整備、迅速な対応、そして必要に応じて専門家の力を借りることが鍵となります。本記事で紹介した方法やポイントを参考に、確実な債権回収を実現しましょう。