コラム一覧

法律コラム

労務・人事
2025.01.03

従業員を円満に辞めさせたい場合の適切な方法とは

昨今、多くの企業が人材マネジメントに悩んでいます。特に、従業員を辞めさせたいと考える場面は、経営者や管理職にとって難しい問題です。この記事では、従業員を辞めさせたいときに、法的リスクを避けつつ、円満に問題を解決するための方法を詳しく解説します。

この記事の監修者
弁護士 山田 洋斗

弁護士法人サリュ千葉事務所所長弁護士
千葉県弁護士会所属

目次

  1. 従業員を辞めさせたいと感じる場面とは
  2. 従業員を無理矢理辞めさせる法的リスクと注意点
  3. 退職勧奨の適切な進め方
  4. 解雇の正当な理由と手続き
  5. 従業員を辞めさせたいときに弁護士・社会保険労務士に相談するメリット
  6. まとめ:円満な退職を目指して

従業員を辞めさせたいと感じる場面とは

「きっと力になってくれるだろう」、そう思って採用したものの、思わぬトラブル等により経営者がその従業員に対して「辞めてもらいたい」と思うようになってしまうことは往々にしてあります。

例えば、業績不振や能力不足遅刻や無断欠勤などの勤務態度の問題健康上の問題経費削減の必要性など、経営者が従業員を辞めさせたいと考える理由は多岐にわたります。

しかし、日本の労働法制の下では、一度、雇用契約(期間の定めのない雇用契約を前提とします。以下同じ。)を締結すると、そう簡単に従業員を辞めさせることはできません。感情的な判断で即座に辞めさせるのではなく、適切な手続きを踏むことが重要です。

従業員を無理矢理辞めさせる法的リスクと注意点

従業員を辞めさせる際には、労働法に基づく正当な手続きを踏まなければなりません。無理矢理辞めさせてしまうと不当解雇として訴えられるリスクがあり、場合によっては企業側が多額の賠償金や、継続的に雇用されていれば本来支払うべき給料等を支払うことになる可能性もあります。

不当解雇のリスク

日本の労働法では、解雇は解雇せざるを得ない客観的に合理的な理由が必要とされています。労働契約法16条では、以下のように規定されています。

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

具体的には、以下のような点に注意が必要です。

  • 解雇理由の明確化:曖昧な理由での解雇は不当とされる可能性が高い。
  • 手続きの適正化:就業規則等に則った手続きを行っているか。
  • 解雇回避努力:解雇を最終手段として位置づけ、改善のためにあらゆる手段を講じているか
  • 社会通念上の妥当性:社会的に見て妥当な解雇理由であるか。

訴訟リスクを避けるために

従業員とのトラブルを最小限に抑えるためには、以下の点を徹底することが重要です。これは、後々訴訟等に至った場合に、解雇に客観的合理的理由があり、社会通念上相当な方法で行われたか否かが争点となることが多いからです。

  • 記録の保存:業務指導や注意喚起の記録を残す。
  • 第三者の立ち会い:面談などの際には、第三者を同席させる。
  • 専門家への相談:事前に労働法に詳しい専門家にアドバイスを求める。

退職勧奨の適切な進め方

退職勧奨とは、企業側から従業員に対して退職を促す行為です。解雇ではなく、あくまで従業員からの任意の退職の意思表示を目標とするものです。強制的な退職勧奨は違法となるため、適切な方法で進める必要があります。

退職勧奨のポイント

  • 任意性の尊重:従業員自身の意思で退職を選択できるように配慮する。
  • 丁寧なコミュニケーション:相手の感情を尊重し、冷静かつ誠実に話し合う。
  • 条件提示の明確化:退職金や再就職支援など、提示する条件を明確に伝える。

これらを徹底し、退職勧奨の方法については、逐一記録(録音やメモ)を残しておくことが有益です。

NGな退職勧奨の例

以下のような退職勧奨の方法は、違法と評価され、損害賠償の対象になったり、退職の意思表示が無効となる場合があるので注意が必要です。

  • 脅迫的な言動:退職しなければ解雇すると脅す。
  • 長時間の拘束:退職を承諾するまで帰さないなどの行為。
  • プライバシーの侵害:個人情報を晒すなどの行為。

解雇の正当な理由と手続き

どうしても解雇が避けられない場合、法律に則った手続きを踏むことが不可欠です。正当な理由なしに解雇すると、不当解雇として無効となる可能性があります。不当解雇にならないためには、解雇回避努力を含め、以下の点に注意することが重要です。


解雇回避努力の有無、内容

  • 配置転換や職種変更の検討
    解雇を避けるために、労働者を他の部署や職種に配置転換することを検討します。
  • 出向や転籍の提案
    関連会社や他の企業への出向・転籍を提案し、雇用を継続できる道を模索します。
  • 希望退職者の募集
    希望退職者を募り、自発的な退職による人員整理を図ります。
  • 労働時間や賃金の削減
    全従業員の労働時間短縮や賃金調整を行い、人件費削減と雇用維持の両立を目指します。
  • 教育訓練の提供
    労働者の能力不足が原因の場合、必要な教育訓練を提供し、改善の機会を与えます。

手続きの適正化

  • 就業規則の整備と遵守
    解雇事由や手続きについて就業規則に明記し、その規定に従って適正に手続きを進めます。
  • 事前の注意・指導
    問題行動がある場合、口頭や書面での注意・指導を行い、改善の機会を十分に与えます。
  • 解雇対象者の選定における正当性
    性別、年齢、国籍、信条、社会的身分、労働組合活動などを理由とする解雇はできません。なぜその人が解雇の対象となったのか、その選定理由、選定方法が相当である必要があります。

労働組合との協議

  • 誠実な話し合い
    労働組合が存在する場合、解雇の必要性や回避策について誠実に協議し、合意形成を図ります。

解雇予告手続きの遵守

  • 30日前の解雇予告
    労働基準法に基づき、解雇の少なくとも30日前に労働者へ予告を行います。
  • 解雇予告手当の支払い
    即時解雇を行う場合、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払います。

合理的な説明の提供

  • 解雇理由の明示
    解雇の理由を労働者に対して具体的かつ合理的に説明します。
  • 解雇理由証明書の発行
    労働者から請求があった場合、速やかに解雇理由証明書を発行します。

記録の保管

  • 客観的な記録の保持
    解雇に至るまでの経緯や労働者の業務成績、指導内容などを詳細に記録し、証拠として保管します。

従業員を辞めさせたいときに弁護士・社会保険労務士に相談するメリット

労務問題は専門的な知識が求められる分野です。弁護士や社会保険労務士といった専門家の助言を得ることで、法的リスクを最小限に抑えることができます。

弁護士への相談

労働問題に詳しい弁護士は、具体的なケースに応じたアドバイスを提供してくれます。解雇や退職勧奨の際の手続きや、トラブル発生時の対応策など、実践的なサポートが得られます。
特に、弁護士は有効な解雇か、無効な解雇かの分水嶺を裁判例などを通じて理解していますので、トラブルを未然に防ぐことができます。

社会保険労務士の活用

就業規則の作成・見直しや、労務管理に関する助言を提供してくれます。日常的な労務管理において、適切なアドバイスを受けることで、問題の発生を未然に防ぐことができます。

まとめ:円満な退職を目指して

従業員を辞めさせたいと感じる状況は、企業にとっても従業員にとっても辛いものです。しかし、適切な手続きを踏み、双方の意思を尊重することで、円満な退職を実現することが可能です。

最後に重要なのは、問題の根本的な解決を図る姿勢です。従業員一人ひとりが力を発揮できる環境を整えることで、組織全体の成長につなげることができます。

この記事が従業員を辞めさせたいと感じている企業様にとって有益なものになれば幸いです。
もし、これを機会に顧問弁護士への依頼をご検討される場合は当事務所の無料の顧問相談をご利用ください。