生きた解決事例 弁護士&リーガルスタッフ対談

「実態に即した被害の回復」を目指すため
既存のルールにとらわれず、やれることはやり尽くす

激痛で通院しているのに保険会社から治療費を打ち切られて

竹内 依頼者はYさんという女性です。車で丁字路を直進しようとしていたら、左側から右折しようとする車を発見した。
Yさんはその車が通り過ぎるのを待つために、自分の車を道路の左端に寄せて停車させたのですが、向こうの車は右折後、Yさんの車両にほぼ正面衝突してしまった。
事故後、Yさんは病院に行って、頚椎捻挫・腰椎捻挫という診断を受けたが、ただの捻挫とは思えない体中の痛みに襲われるようになった。しかし、治せる医者に出会えず、病院をたらい回しにされてしまった。

藤本 Yさんは事故をきっかけに線維筋痛症という病気を発症したのです。
この病気は、時には衣服がすれるだけでも全身に激痛が走るような病気で、当時(今でさえ)まだ認知度は低く、判例もほとんどありませんでした。
最初は、相手の保険会社から治療費をもらって通院していたのですが、詐病だと疑われ治療費はすぐに打ち切られました。そのため、ご自身が加入していた人身傷害保険を使って治療を続けていたのですが、それもやがて打ち切られてしまう。
治療費も、休業損害も、通院のための交通費ももらえずに、ご主人と子供二人で4人生活だったYさんの生活はあっという間に困窮していきました。

竹内 それでサリュに相談にいらっしゃった。事故から3年ほどが経っていました。

藤本 相談に来られた時は、杖をつきながら何とかやってきた、という感じで、法律相談の間もずっと辛そうでした。
痛みのせいで一日中寝ているしかないような日々が続いて、家事もできず、中学生と小学生の息子たちに世話をしてもらう毎日で、罪悪感にも苛まれていらっしゃいました。
「自分の保険会社からも見捨てられてしまった」と悔しさをにじませていたのを覚えています。
治るまで通院できるようにしてほしい、きちんと症状に見合った適切な賠償をしてほしい、というのがYさんのご希望でした。

後遺障害14級では到底救われない。7級認定を求めて裁判へ

竹内 後遺障害の認定をまだ受けていなかったので、自賠責へ後遺障害の申請をしました。自賠責は一番低い等級の14級という認定でした。

藤本 私たちは、もともと保険会社が線維筋痛症による症状を認めないのに、自賠責がまともに認めるわけはないと初めから想定していましたよね。ですから、竹内先生も私も、Yさんの本当の被害回復のためには裁判しかないと考えて訴訟を提起しました。Yさんの症状は、14級なんて軽いものじゃないですよ、7級相当の重い障害が残っていますよと。
相手方(保険会社)は、Yさんの症状は精神的なもので、事故との因果関係はなく、14級以上の賠償責任は負わないという主張でした。

竹内 裁判では、まず事故の過失割合を争ったのですが、調べていくと、事故の実況見分調書の数字が間違っていたことがわかった。ある数字とある数字が逆になっていて、それによってどちらに過失があるかがガラリと変わってしまうような間違いだった。
警察の単純ミスだったと思いますが、私は、この実況見分調書の誤りを認めてもらうべく、警察署に電話をかけて、当時の警察官を突き止め、警察署長が責任をもって回答するよう働きかけました。ついには警察署から実況見分調書記載の数字は誤りであるという回答を得て、Yさんに過失がないということを立証しました。
もっとも、裁判の一番の争点は、Yさんの症状が線維筋痛症によるものなのか、そうだとしても、現実にどの程度の障害なのか、ということでした。
線維筋痛症が医学的にまだ完全には解明されていないことや、過去の数少ない判例からして、最初の裁判官の心証は14級プラスアルファ程度だったと思います。

藤本 でも、Yさんの症状が14級程度のわけがない。
とはいえ、判例もほとんどないし、線維筋痛症は、医学的にもまだ十分に解明されていない病気なので、医学的見地からの立証も難しい。
竹内先生と私は何度も頭を悩ませましたが、私は、判例もなく、純粋に医学的な立証が難しいんだったら、そこに拘るのではなく、Yさんの実際の症状・障害を、裁判官が認定しやすいように客観的資料を集めるしかないと思いました。
そこで、思いついたのが、サリュで扱ってきた多くの後遺障害事例との比較をすることでした。また、その症状を客観的に立証するために、既存の検査表など流用できるものを流用し、医師にも作成の協力をお願いしました。

竹内 この時の藤本さんのアイデアは、本当に良かったですね。以後、他のケースでもノウハウとして利用しています。

藤本 実際、そんな奇抜なアイデアでも何でもないと思います。ですが、私たちのように専門でやっていると、逆にそれまでの事例や実務の枠内でしか、いつの間にか考えなくなったりしてしまい、むしろそれが専門性だというような勘違いが生じやすいと思う。そこを、諦めずに、フラットに物事を見直して、別の方法が本当にないのかと考えるかどうかがやっぱり重要なんだと思います。
竹内先生は、毎回、裁判期日の後に、その日の裁判官とのやりとりや心証、相手方の雰囲気まで全部共有してくれていたので、私としては本当に「チーム」で事件に取り組んでいるという実感がありました。Yさんのために何をすべきなのか、いつも一緒に考えていたという感じです。

竹内 裁判官は、線維筋痛症かということより、実質的な労働能力喪失の程度がどれくらいなのか、といったことを気にしていた。線維筋痛症だといくら主張しても、そこにキャッチャーミットはないんだと思った。
Yさんがどれぐらい日常生活の動作が不便なのか、それが何級の労働能力喪失に相当するのか、その道を作らないと裁判官は乗ってこないと考えました。
ただ、普通は、線維筋痛症だと負け筋だと思ってしまう弁護士も多いと思う。それだけ難しい案件だったと思います。
でも、藤本さんは全然納得していなかったですもんね。私が「こういうことを立証したい」と言うと「じゃあ、こういうやり方はどうか」と提案してくれる。
まさにそれが実際に裁判でこちらに有利な証拠となった典型例だと思います。

日常生活をビデオに撮ってみせるというやり方

藤本 このケースではこの程度が実務の通例だから、と妥協するのは簡単だけど、私はやっぱりそれでは納得できなかったですね。
ビデオもそうでした。線維筋痛症の第一人者の先生に相談して、現時点でのありうる医学的資料を準備はしましたが、その先生ですら「現時点で医学的に立証することは難しい。ビデオでも撮って見せたらどうですか」と言われた。それで、Yさんが家から病院に行くまでの様子をすべて撮影することにしたのです。
Yさんは一人では病院に行けませんでしたから、中学生の息子さんに付き添われて通院していました。今思い出してもその光景は切ないです。
お金もないので、バスや電車を乗りついで1時間以上かけて行きました。
Yさんは、病院に着くなりぐったりして待合室のソファに横たわりました。私はそこまでをすべて撮影しました。
竹内先生に聞いたら、裁判の証拠としてビデオを出すことはあまりないという話だったけれど、実際に見てもらわないと分からないんだから、こうして撮ったものを見てもらうしかないし、裁判官絶対これ見るべき!ぐらいの気持ちでした(笑)。

竹内 裁判をしている間、Yさんもご家族も大変でしたね。経済的に困窮されて、途中からは生活保護を受給されるようになった。

藤本 途中、Yさんの旦那さんも事故に遭うといったトラブルもあって、経済的にも苦しく、夫婦関係も崩壊しそうになったことも何度かあったそうです。それでも、2人のお子さんたちが、通院の手助けや家事など献身的にサポートしてくれた。それで、乗り越えられた部分はあったと思います。

竹内 そんなYさんが日常生活でどれだけ不自由を被っているのかを裁判官に見せたかった。裁判では、陳述書というものを提出しますが、この時はそれに代わり、Yさんの通院の様子や、事故に遭ってからの心情を語るところをビデオに撮ってそのまま提出したのです。もちろん、ビデオの内容を説明する書面や、陳述書も出しましたが、できるだけありのままを伝えるべきだと思ったのです。

藤本 ただ、そもそも陳述書の代わりにビデオを出す慣習がないというのもおかしいと思いますね。慣習がないから出さないというのも違うと思いますが。日本の裁判って堅いですよ。
それから、大きかったのは、相手が証拠として提出してきた海外の文献。一緒につけてきた日本語訳と原文の意味が違っていたのです。多分、原文はろくにチェックしていなかったのでしょう。そこに竹内先生が気付いて指摘した。

竹内 あれはラッキーでした。それによって、裁判官の心証も大きくこちらに引き寄せられたと思います。結局、尋問前に相手から和解の申し出がありました。賠償金は2400万円。後遺障害を7級程度に評価した内容でした。
事故からは8年弱が経っていました。

妥協せずに、あらゆる方法を尽くしたから結果が出た

藤本 8年という年月は取り戻せないけど・・・最後は良い解決に着地できて本当に良かった。

竹内 Yさんが「これできれいさっぱりゼロからスタートできます」と喜んでくださったこと、サリュの対応に感謝してくださったことがとても嬉しかったですね。

藤本 結局、どこまで戦うかということですよね。過去の判例や実務を踏襲して「この辺かな」とする弁護士事務所も多いと思います。
そういった妥協をせず、「実態に即した」被害者の本当の損害を回復するために、諦めずに想像力を駆使して行動する、それがこの結果につながったんだと思います。
弁護士とリーガルスタッフのチームで一緒に依頼者のために解決に取り組む、というサリュのやり方はやっぱり強いと思います。一人より二人だし、弁護士二人より、弁護士と専門性高いリーガルスタッフのコンビの方が、私は依頼者に対するきめ細やかな対応や共感ができて、依頼者の満足にも寄与しているのではないかと思っています。
サリュを退職して、他のいろんな事務所を見てきましたけど、この「サリュ式」がサリュのサービスの質を高めていることは間違いないと思います。

藤本薫里(元リーガルスタッフ)…サリュに10年勤務後、ウェブ関連の企業に転職し、弁護士事務所のマーケティング支援に携わる。現在は独立し、リーガルスタッフの育成や業務効率化、HP制作など、各地で弁護士事務所の運営をサポートしている。