生きた解決事例 弁護士&リーガルスタッフ対談

高級外車との追突事故で、
多額の修理費を請求されて

齋藤 この案件は、小倉さんが電話を取ったんですよね。

小倉 トラックに乗っていた依頼者の方が、高級外車に追突してしまったという相談で、相手方から多額の修理費を請求されていた。つまり、加害者側でした。

齋藤 サリュは被害者からの依頼専門です。小倉さんから相談カードを受け取ったとき、僕も「法人としてこの件を受けられるのか」と悩んだ記憶があります。

小倉 ところが、お会いしたら、もう見るからにいい人そうな方だったんですよね。60代後半ぐらいで、屋根の修理などをされていらっしゃった。真っ黒に日焼けした、いかにも職人さんという方。お話を聞いていたら、その方が一方的に追突したわけではなく、相手の高級車が強引な割り込みをしてきたようだった。急に目の前で強引な割り込みをされて、車もへこんで、さらに高額なお金まで請求されている。これは、むしろ被害者です。この人がウソをついたりなんてしない、何の根拠もないですが、そう思いました。

証拠はない、保険もない、ないないづくしの「負け筋」の案件だった

齋藤 二人とも直感でしたよね。こういう話は水掛け論で、プロとしては相談者を信じつつも話半分に聞かなければいけないところもあるのですが、今回は違った。相手方は1500万円を軽く超えるような高級外車、依頼者の方は走行距離22万㎞超のボロボロのトラック。依頼者の方自身もお世辞にもお金を持っているわけではありませんでしたし、どこの事務所も受けなければ、この人は70歳手前で数百万円の債務を負ってしまう。これは受けてあげないとかわいそうだと思ったのです。2人とも報酬がどうなるとか、その後のことは何も考えていなかった。
とはいえ、追突か割り込みかの争いは、ドライブレコーダーがないかぎり、証明が難しい。だから、最初にやったことは、そもそも相手が要求してきている修理費自体が妥当なのか。ただ、依頼者の方が自動車損害賠償責任保険(自賠責)にしか加入していなかった。基本的に自賠責は人身損害しか補償しませんから、物損については無保険状態でした。

小倉 保険会社には物損の専門家であるアジャスターという人がいます。額が妥当かどうかと鑑定して出してくれる。依頼者の方をサポートしてくれる保険会社はなく、アジャスターもいない。つまり、相手方から請求されている修理費の見積もりが正しいかどうかもわからないのです。まず、協力してくれるアジャスターを独自に探すところから始まりました。

齋藤 最初が一番キツかったですね。相談にのってくれる保険会社の専門家もいない、外国車だから未知数の部分も多い。こんな“負け筋”の案件を、普通の事務所のように弁護士一人で抱えていたら潰れてしまいます。リーガルスタッフである小倉さんと相談しながら進めることができたので、戦えたんだと思います。

小倉 なんとか協力してくれるアジャスターを見つけて、相手方から出てきた修理見積りを見てもらったんですよね。相手は590万円の修理費に加えて、代車料も請求してきた。それで計740万円。代車も高級車でないとダメだと。
確かに高級車だったので、修理費に妥当な部分はあったのですが、それにしても高すぎる。修理費は最小限度に抑えようと思えば250万円程度に抑えられる、また同じ車両の時価額が480万円だということがわかったので、ウチとしてはそんな高い請求には応じられないという書面を出した。そうしたら、相手はすぐに訴訟提起してきたのです。なので、こちらは被告になりました。

齋藤 相手方の請求額は約740万円。ベンツとかポルシェとかと違ってレアな車でしたから、アジャスターですら頭を悩ませるようなケースでした。なのでこちらの主張する修理費は、ダメ元な部分もありました。
通常の国産車レベルの工賃で計算してようやく250万円ですからね。こちらの主張した時価額に対しては、限定仕様の車だからもっと高いという主張をしてきていました。それもまた、事実。とにかく筋悪です。もっとも、小倉さんが普段から依頼者の方と頻繁に連絡を取り合っていたので、信頼関係を構築しながら進めることができましたよね。

小倉 毎回、電話で30分ぐらいお話ししていましたが、半分以上は事件以外のことでした(笑)。「今日はどこの現場に行った」とか「今日は現場でこんなことがあった」という話から聞いていたので、どうしても時間が長くなっちゃっていました。
ただ、そういうことが大事だったのかなと思います。3人でカメラを持って現場に行って、報告書も作りましたしね。『ガスト』で3人でお昼ご飯を食べて、依頼者の方がこれまで職人としてどんな思いで仕事をしてきたか、ご家族はどんな方たちなのかなんていう話もじっくり聞いた。そんなやりとりを通じて、依頼者の方と信頼関係を築けたんだと思います。
ある日、いつものように雑談を交えて話していたら、依頼者の方がポロッとこんなことをおっしゃったんです。「(相手から)家に貼り紙を貼られた」と。

齋藤 本当に何気なくおっしゃったんですよね。

スタッフと依頼者の信頼関係があったから拾えた、相手方に不利な情報

小倉 そうなんです。「貼り紙ってなんですか?」と聞いたら、脅迫めいたことが書いてあるという。まだ貼り紙は手元にあるということだったので、電話を切ってすぐに齋藤先生にその話をした。ただ、依頼者ご本人はあんまりピンときていませんでした。

齋藤 当事者だから当然のことですが、依頼者の方は裁判においてどの情報が重要なのか認識されてないことも多いですからね。とにかく負け筋の裁判でしたから、裁判官の心証を変えられるものがあると、非常に大きい。
普通の弁護士と依頼者の方の関係だったら、依頼者の方が「これは別に話してもしょうがないかな」「そんな話は必要ないとか言われちゃうかな」などと思って話されないことがたくさんあると思います。そうして埋もれていく重要な証言や物証が多くある。
この貼り紙もそうなっていた可能性は大きいです。ウチはそういうものを小倉さんのようなリーガルスタッフがひとつひとつ拾いあげて、すべて僕たち弁護士に伝えてくれるのです。

小倉 実際に依頼者の方とのお話が、直接事件に反映するのは、1~2割ぐらいです。しかし、反映されない8割、9割があるからこそ、残りの部分が意味を持ちます。それに、最初お話を伺っている段階では何が事件についての重要なお話かわかりませんから。

齋藤 この貼り紙も依頼者の方は「見たくないから捨てようと思っていた」とおっしゃっていたわけですしね。この貼り紙が裁判官の心証を大きくこちらに引き寄せたと思います。第一回の口頭弁論のときの裁判官の第一声が「これが、その貼り紙ですか」でしたから。答弁書で貼り紙について指摘すると、相手も貼ったことを認めた。ただ、その理由はなんとも不合理なものでした。

小倉 それに、事故が起きた際、急な車線変更をしたのではないかというこちらの指摘に「自分はいつもあの地点でUターンしている。あのときも100m前からウインカーを出していた」と主張してきた。「いつもUターン」する地点があるなんてありえない話じゃないですか。100m手前でウインカーを出すというのもどう考えてもおかしい。

齋藤 そこで、こちらの車の修理代や貼り紙による脅迫行為に対する慰謝料などを求めて、こちらから反訴提起しました。この頃になると、もちろん明らかに負け筋の案件であることは間違いないのですが、もしもっと相手のボロを出すことができれば、ひょっとしたら勝訴できる可能性もあるのではないかと思えるようになりました。
ところが、相手方も「今回の事故で首を痛めた」と治療費と慰謝料の要求を追加、請求の総額は840万円になりました。

小倉 まさに泥沼状態でしたね。裁判の尋問はなかなか厳しかった。相手はまったくボロを出さなかったですし、反対にこちらの依頼者の方は元々そういったことが得意な方でありません。緊張されてしまって、なかなか上手く伝えられなかったですね。

840万円から250万円に減額、それでも悔しいけれど、感謝の言葉をもらった

齋藤 尋問後、裁判官から「相手の言っていることの疑わしい部分はあるけれど、そちらの主張では判決は書けない」という心証を伝えられました。非常に悔しくて、身体が熱くなったことを覚えています。
結局、250万円で和解になりました。和解の話はなかなかまとまらず、何度も何度も交代で和解室に入ったのを覚えています。粘り強くやったのでへとへとになりました。840万円という請求から考えると、悪くない結果ではあります。
ただ、一時は勝訴の可能性もありましたし、依頼者の方は余裕がある生活をされているわけではありません。完全に負け筋であることを考えれば、いい結果と言えるのかもしれませんが、勝ったのか負けたのかわからない、非常に悩ましい結果でした。

小倉 粘り強く色々な方法を試し、あきらめなかったからこそ、賠償額を減らせたと思いますが、悔しかったですね。依頼者の方から「自分だけではここまでできなかった」と、感謝していただけたのが救いでした。いろいろな意味で印象に残っている案件ですね。